ゴーストマスター

Text by Iwahama
4th Feb. 2004

 

 日本の"幽霊"は,怖い。ハヤりの"妖怪"にしたって,結構怖い。ところが欧米の"ゴースト"は,まぁ怖いといえば怖いのだが,どこか愛嬌があり,憎めない気もする。
 ちょいと古い例で恐縮だが,映画「モンスターズ・インク」や「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」,もっと古いところでは「ゴースト・バスターズ」などに登場するゴーストたちならば,むしろ"可愛い"という人もいるだろう。
 今回紹介する「ゴーストマスター」も,この愛嬌たっぷりで,ほんのちょっぴり怖いゴーストたちが大勢登場するゲームだ。

 3Dで描かれた建物内で,優秀なAIに基づいて行動する人間たちを,配下のゴーストたちを使って驚かし,おびえさせることで,間接的に数々の目的を達成していく……。
 まあ正直,"シムピープルタイプ"ゲームの一つといえなくはないが,ゲーム性はずいぶんと違う。どこがどう違うのか? 順に説明していこう。



■ゴーストマスターとは,いうなれば,霊界の伝道師である

 比較的普通に生活してきた筆者はよく知らないが,ゴーストの世界にも"委員会"なんてものがあるらしい。本作でプレイヤーが担当するのは,その委員会に所属する新人"ゴーストマスター"である。
 このゴーストマスターというのは,さまざまなゴーストを集めてチームを作り,このチームを操って,ゴースト委員会からの指令を達成していく人(いや,ゴースト)のこと。そう,ゴーストマスター自身も"死者"なのである。

 ちなみにこのゴースト委員会の目的は,愚かな人間たちを始末する……なんて怖いことではない。それどころか,ゴーストたちは,人間の命を奪うことを禁じられているらしい(誰に禁じられているかは不明)。理由は,マニュアルにこう書いてある。「死とはいずれ訪れる不可避なものだから……」。結構フェアである。
 では,委員会の目的は何か? それは,"楽しく人間を脅かすことにより,彼らに死者に対する畏敬の念を抱かせること"だとか。
 新興宗教団体を装った詐欺師グループ並の目標だが,こっちは本物のゴーストたち。いうなれば,タレントの丹波哲郎氏や稲川淳二氏のような,"霊界の伝道師"なんだろう。たぶん。

 ゲームを起動し,メニューから「新しいゲーム」を選択すると,オープニングムービーが始まる。最初に目に入るのは,星々がきらめく宇宙空間を,巨大なカボチャ頭と,頭からシーツをかぶったような"いかにも"なゴーストが走り抜けていくという,見る人すべての度肝を抜く映像だ。
 続いて,やはり"いかにも"な巨大な西洋風の城が映し出される。雷鳴がとどろき,雰囲気はバッチリ。その城の中では,若い男女の一団が,好奇心から降霊会(どっちかというと「狐狗狸さん」かな?)を行っている。……と,その儀式に使っているアルファベットが並べられたプレートに画面がズームしていき,プレイヤーに対して名前を聞いてくる。ここで入力した名前が,新人ゴーストマスターの名前となるわけだ。
 さて名前を入力すると,オープニングムービーの続きに。この城を舞台に,さまざまなゴーストたちが暴れ回る一大アトラクションが展開する。非常によくできたムービーなので,ぜひ多くの人に見て頂きたい。


オープニングムービー。文章じゃこの雰囲気は伝わらないだろう。とにかく必見


■システム:よくある箱庭ゲームの変形版なのに,なぜか個性的

 実際のゲームシステムを紹介していこう。
 先述したように,プレイヤーの目的は,ゴースト委員会から与えられた任務を手下のゴーストたちを使って遂行することだ。
 任務はすべてで14種類あり,ゲームの進行に合わせて,選べるものが増えていく。

 遂行する任務を選ぶと,まずその内容がムービーで表示される。任務によって連れていけるゴーストの数が決められているので,プレイヤーはその任務に合わせて,手下のゴーストたちの中からどいつを連れていくかを決めるのだ。
 とはいえ,プレイヤーは新人のゴーストマスター。その任務にどのゴーストが向いているのか,慣れるまではよく分からないだろう。しかしご安心を。自動的にゴースト委員会お勧めのチーム編成になる「おまかせ」コマンドも用意されている。

 で,ゲームスタート。スタート直後には,クリア条件が表示される。この条件を満たすために,ゴーストたちをうまく操らなければならないわけ。
 ゲームがスタートすると,プレイヤーが何もしていなくても,舞台となる建物の中では,人間たちが自由気ままに活動している。こいつらが,実にいい動きをするのである。ぐうぐう寝ているやつもいるし,異性との会話に盛り上がってるやつもいる。テレビを見ていたと思ったら,食べ物を取りに冷蔵庫に向かったり。
 ちなみに本作は3Dグラフィックスで描かれているため,比較的自由な角度/距離で人間たちを観察できる。残念ながら極端なズームや視点を水平に近い角度にすることは不可能だが,その代わりに,カメラを指定した人間の視点に切り替え可能。ほかの人間たちの行動やゴーストたちの怪異を,自分の目で見たように確認できるのである。
 このほか,特定の人物やゴーストを追いかけるようなカメラ視点も用意されている。こちらは重要人物を常に監視していたいときに便利だ。

 さて,いくら面白いといっても,いつまでも人間たちを眺めていては,任務を達成できない。人間たちに,ゴーストたちの力を見せつけてやるのだ。
 そのためには,まずゴーストたちを何かに"憑依"させなければならない。憑依できる場所はゴーストごとに違って,人間だったり,部屋だったり,電化製品だったりする。まぁゴーストを選択してメニューから「憑依」を選ぶと,そのゴーストが憑依できる場所が緑の枠で囲まれるので,どこに憑依させたらいいか分からない,なんて状況は少ないだろう。
 ゲーム画面の上部には,ゴーストマスターが使用できる"プラズム"が,緑のバーで表示されている。ゴーストを何かに憑依させると,プラズムバーから,そのゴースト分の"プラズム"が分配される(引かれる)のだ。当然プラズムが足りなければ,ゴーストを憑依させられない。またこのプラズムは,ゴーストたちの特殊能力"パワー"を発動するにも必要だ。
 そのため,多くのゴーストに同時に強力なパワーを使わせるためには,プラズムが大量に必要となる。しかし任務開始直後では,さほどプラズム量はない。では,どうするのか? なんと人間たちに恐怖を感じさせることで,プラズムの量が増えるのである。
 つまり,どのような任務であれ,人間たちに怖がらせることが重要になってくる。ゴーストを何かに憑依させる→パワーを使って人間を驚かす→人間が恐怖を感じプラズムが増大→より多くのゴースト/よりレベルの高いパワーを使用可能に→より人間が恐怖を感じて,その分プラズムが増大→……といった感じである。

 しかし,毎回この(人間から見て)"悪循環"を作れるわけではない。うまく怖がらせ続けないと,そのうち人間たちが落ち着きだし,プラズム量が減ってきてしまうのだ。
 プラズム量がどんどん減り,現在憑依させているゴースト/使用しているパワーに分配している量を維持できなくなると,"プラズム警報"が鳴り響く。この警報がなったまま一定時間が経過すると,ゲームオーバーとなる。警報がなったら,何体かのゴーストを待機状態にしたり,パワーのレベルを下げたり,もしくはなんとかして人間たちを怖がらせてしのごう。
 なおこの場合以外でゲームオーバーとなるのは,任務内容に関係する人間が逃亡してしまうなどして,任務が達成不可能になった場合と,ゴーストを撃退する能力をもつ人間によって,ゴーストチームのメンバーが減りすぎてしまった場合である。

 無事に任務を達成すると,達成するまでにかかった時間や,どれだけ人間たちに恐怖を与えたか,そして後述する"安らげぬ魂"を何体解放したかといったことを総合して,スコアが表示される。そしてそのスコアに応じて,"ゴールドプラズム"が得られる。
 このゴールドプラズムは,霊界の現金。これは,任務に就いていないときのゴーストたちのすみかである"お化け屋敷"で,ゴーストに新たなパワーを覚えさせるときに必要となる。
 もし何かの任務であまりゴールドプラズムを稼げなくても,ご安心を。ゴーストは時間をも超越しているため,任務は何度でも"再訪問"できるのだ。そして前回以上のスコアを叩き出せば,その差分のゴールドプラズムが得られる。ゴーストたちを鍛えるために,同じ人間を,何度も何度も怖がらせてやろう。

 ……と,ここまでザッとシステムを見てきたが,ゴーストをアミューズメント施設に,プラズム/ゴールドプラズムをお金に置き換えると,アラ不思議,よくある箱庭タイプのゲームになってしまう。
 にも関わらず,そこから受ける印象は,あまりにも違う。見慣れた分かりやすいシステムを使用しながら,ここまでユニークなゲームに仕立て上げられている点は,非常に評価したい。


何かに憑依させたゴーストの視点にも切り替え可能。ただ画面が紫色に染まり,正直見にくい "おまかせ"コマンドで選ばれるチームは,"安らげぬ魂"を救うためには向いていない場合も

一度クリアした任務も,より良いスコアや,解放できなかった"安らげぬ魂"のために再訪問できる 困ったことに(?),ゴーストを出さずに人間を眺めているだけでも,結構楽しい


■データ:最近のゲームでは珍しくなったセンスのいい"パロディ"満載

 ここでは,具体的なデータ周りを紹介していく。
 まずは,本作の主役,ゴーストたちについて。配下にできるゴーストは,全部で47種類。それらはさらに,わずかなプラズム量で憑依させられる"妖精",ポルターガイスト系など使い勝手の良いゴーストの多い"騒がしき者",自然界の霊である"精霊",人の感情や天候に影響を及ぼす"はかなき者",強力なパワーを持つゴーストが多い"脅かす者",同じく強力なパワーを持つものの,必要とするプラズム量も多い"恐ろしき者"の六つに大別できる。
 どのゴーストもなかなかユニークで,グレムリン系,鏡の中の美女,蜘蛛や犬,頭のない騎士,二本足で歩くウサギ,妖精,スモウレスラー(?),ウェディングドレスを着たゾンビ……とまぁ,とにかく枚挙にいとまがない。
 また1体1体には"墓碑銘"が設定されていて,つまりそのゴーストの紹介文なのだが,これがなかなかユニーク。これは,ここでいくつか書き出すより,下の画面写真を見てもらったほうが早いだろう。

47種類のゴーストすべてに,この"墓碑銘"が用意されている。全部見られるかな?

 ゴーストたちの使うパワーは"魅了" "災難" "念力"など24種類に大別でき,その総数は120以上。こちらもまた,ユニークだ。
 例えばコグジャマーというゴーストのパワーには,「ツチノコ探し」なんてものがある。説明には,"人間の一団をまったく無意味な追跡へと駆り立てる",と書いてある。……こいつの仕業だったのかぁ,と納得(?)。日本の"妖怪枕返し"みたいなものだろうか。

ゴーストは,いるだけじゃ意味がない。強力なパワーを使って,初めて人間を驚かせられるのだ

 "裏の主役"となる人間たちにも触れておこう。人間には,恐怖度,狂気度,信霊度の三つのパラメータがある。恐怖度がいっぱいになれば,その人間はその場から逃げ出すし,狂気度がいっぱいになれば,発狂してしまう。
 信霊度とは,つまり霊の存在を信じる度合い。これが低い人間には,ゴーストのパワーが効きにくいのだ。そのため相手によっては,何かしら不思議な現象を立て続けに起こして信霊度を上げてから,怖がらせなければならない。
 また任務によっては,対象となる人間が逃げ出さないよう恐怖度に注意しつつ,信霊度だけを上げていくといったことも必要になってくる。
 ゴーストの"墓碑銘"と同様に,人間も"情報"コマンドでプロフィールが見られる。その人間についてよく知ることは,効率良く怖がらせることにつながるだろう。

 続いて14種類ある任務について。あらかじめお断りしておくが,人間を驚かせるのは,任務(≒目的)ではない。手段だ。任務は,実にバラエティ豊かである。
 人間に,"ダークリング"と呼ばれる太古の霊魂を召喚させるのが目的の任務,「悪夢のはらわた」。同様に映画制作者に"ダークリング"を召喚する儀式を行わせる「ブレア・ウィスプ・プロジェクト」。グレイブンヴィルの悪徳総合病院を舞台にした「オペ室の怪人」。「スプーキーホロウ」,なんて任務もある。さらには,対ゴースト組織に逮捕(?)されたゴーストを助け出す「ゴーストブレイカーズ」などなど……。
 任務の名前に見覚えがある? だったら,その任務の内容でも笑えるかもしれない。こういったパロディのセンスは,(昔こそよく感じられたが)最近のゲームでは非常に珍しく,実に新鮮である。

任務ごとのイメージイラストも,割ときわどい。ま,パロディってことで。あと画面下のヒントはよく読むべし

 余談だが,欧米のゴースト映画の名作に共通していえることは,音楽もいいこと。「アダムス・ファミリー」のテーマ音楽など,どれも映像と一体になって覚えているものだ。
 そしてそれはゴーストマスターでも同じで,ゲーム中は,常に魅惑的な,それでいて,どこかで聞いたことがあるような音楽が流れている。ここにもパロディのセンスがいかんなく発揮されているのだろう。




■もの凄く贅沢なシステムを搭載した,21世紀のパズルゲーム

 本作は,よく「ダンジョンキーパー」とも比較される。しかしこの比較は,ほんのちょっと,筋違いだと思う。
 比較されるのは,おそらく本作を"ゴーストを操って,人間たちを始末する,もしくは建物から追い出すゲーム"だと勘違いしている人が多いためだろう。これは,正確ではない。
 確かに,一番最初のステージである"怪奇調書101"など,住人を追い出すことが目的のステージもある。しかし,先述したように,それはあくまで一部だ。例えば,豪華客船を舞台に,ギャングのドン・バーソロミューにゴーストの存在を信じさせる,なんてステージもあったりするのだ。

 だから比喩としては,こちらのほうが正しいだろう。

住人に対して直接的に行動を指示できない「シムピープル」

 そんなものが面白いのか? ……まぁときどき思うようにいかずムカつくこともあるが,それだけに,想像通りに人間たちを動かせたときは気持ちいい。
 そう,要はパズルなのである。手持ちのゴーストたちをうまく操って間接的に人間たちを動かし,ステージごとの目的を達成するという,パズルゲームだ。

 システムの項で触れなかったが,それぞれの任務には,メインの目的とは別に,"安らげぬ魂"の解放という目的がある。これは文字通り,そのステージになんらかの理由で囚われているゴーストを解放してあげること。解放したゴーストは,その後自分の手下として使えるのだ。
 で,この解放行為が,ど真ん中のパズルである。以前当サイトに書いた例だと,煙突に詰まった死体を人間に発見させるために,とあるゴーストのパワーで人間に寒さを感じさせることで暖炉に火を付けさせる,というのがある。暖炉に火を付けたところ,部屋に煙が充満し,住人が便利屋を呼び,便利屋が死体を発見……となるわけだ。
 また面白いのは,"解法"が一つではないこと。同じシチュエーションでも,別のゴーストの別のパワーを使ってでも解放できたりする。よりcleverな解法を見つけたときは,なんとも気持ちいい。
 ネタバレになるのでこれ以上の例は挙げないが,とにかくパズルゲームの名作「インクレディブルマシーン」に通じる面白さがあるのは間違いない。
 優秀なAIや3Dエンジンを搭載したパズルゲームとは,なんとも贅沢でいいじゃないか。

 パズルゲームの良さは,短い時間でも十分楽しめること。本作でも同様で,一つの任務にかかる時間は,せいぜい30分程度。もっと短い任務もある。平日忙しいという人も,十分毎日遊べるだろう。
 逆に,じっくり遊び続けるのもいい。同じ任務を,連れていくゴーストを替えながら何度もプレイし,高スコアを狙うのは楽しいし,思わぬ高スコアを叩き出す方法を見つけたときは,快感すら覚えるほどである。
 つまり本作は,軽く遊ぶことも,どっぷり遊ぶこともできるゲームだ。
 一見子供だまし的なゲームに見えるかもしれないが,案外,オトナ向けのゲームだといえるだろう。


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■メーカー:セガ
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