Battlefield:Vietnam

Battlefield:Vietnam

Text by 奥谷海人

 シリーズ最新作「Battlefield:Vietnam」(邦題「バトルフィールド ベトナム」)の発売が近づいてきた。
 タイトル通り,ジャングルで行われたベトナム戦争を主題にした本作は,前作で見せた軽快なテンポやゲーム性はそのままに,ヘリコプターやナパーム弾,トラップなどの新要素を多く盛り込んでいる。クラスシステムによって,さらにチーム内での仕事が細分化され,メンバー一人一人の行動が戦況を変化させることになる。
 ワグナーの「ワルキューレの騎行」を口ずさみながら,PCの前に座る毎日が続くことになりそうだ。


ジャングルを舞台にして新境地を開いたBattlefield最新作

 ネットワークゲームの世界で,今非常に好評なゲームの一つが,「Battlefield 1942」(バトルフィールド1942)であるのは間違いない。その人気の秘密は,本格的に第二次世界大戦をテーマにした"男臭い"ゲームが割拠する中,本作はシミュレーション性を二の次にしてアーケードライクなゲーム性を追及していて,お手軽に遊べることだ。

 登場する陸海空の兵器には,ジャンケンのような三つ巴の公式が当てはめられており,目的やルールの分かりやすさが追求されている。また,「The Road to Rome」(ロード・トゥ・ローマ)や「Secret Weapons of WWII」などの拡張パックも,前例がないほどのピッチで矢継ぎ早ににリリースされて,プレイヤーを飽きさせない努力も続けられている。
 さらにはMODコミュニティも育成されており,「Desert Combat」など秀逸な作品が次々と登場しているのも近年のゲームでは突出しているところだ。

 これまでElectronic Arts社は,同社が発売するシューティングゲームで成功したものは非常に少なく,FPSが好きなコアゲーマー層に取り入るチャンスを見つけられずにいた。その状況を救ったのが,Battlefieldシリーズであるのは間違いないだろう。
 もちろん,良い波に乗っているときにサーフボードから降りるサーファーがいないように,同社と開発元のDICE社は新作をぶつけて来ている。それが,2004年3月中旬にも発売される予定の新作「Battlefield:Vietnam」である。

 ベトナム戦争が勃発した'60年代後半,アメリカ本土ではロックンロールやヒッピーに代表される新世代の文化が巻き起こる一方で,多くの若者が南国のジャングルで命を落としていた。その記憶は,やがてフランシスコ・コッポラ監督の映画「地獄の黙示禄」を皮切りに,オリバー・ストーンやスタンリー・キューブリックなど,名だたる監督達によって映画化され,冷戦の犠牲となったベトナムの惨状だけでなく,アメリカ人自身が負った心の傷までもあらわにした。
 ところが不思議なことに,良質な映画が続々と作られたのに比べて,近年までベトナムをテーマにしたゲームがリリースされることはほとんどなかった。しかし最近になって,急に増えてきている。2003年にはAtari社の「Line of Sight:Vietnam」や,Gathering of Developers社の「Vietcong」などが発売されているし,今年は今回紹介するBattlefield:Vietnamを筆頭に,「Men of Valor:Vietnam」(UBI Soft社)や「Conflict:Vietnam」(Sci Games社)などの期待作が控えている。
 「今なぜベトナムなのか」という疑問への答えの一つとして挙げられるのが,グラフィックス技術が飛躍的に向上し,"密林の再現"というテーマが実現可能になったことだ。DirectX 8.0に対応して木々が揺れるデモを発表した「3D Marks 2002」がリリースされたときの印象を,依然として鮮明に記憶している読者も多いだろう。現在では3DシューティングやMMORPGなどで,風にそよぐ樹木を眺めたり,草木を掻き分けたて進んだりすることも珍しくなくなった。
 Battlefield:Vietnamを開発しているDigital Illusion社のカナダ支部でも,ジャングルを表現するということに積極的にチャレンジして,このシリーズの新境地を開拓しようとしている。
 草木のシミュレーションは視覚的に興味深いだけでなく,ステルスやアンブッシュなど,オンライン対戦での遊び方としても十分に活用できる。広々としたマップ上で乗り物を駆使することが大きな要素だった前作とはうってかわって,建物や密林を利用した戦略性も加わったのである。


細部まで表現できる最新のグラフィックス

 Battlefield:Vietnamでは,プレイヤーはアメリカ軍,もしくはNVA(North Vietnamese Army)のどちらかのチームに所属して戦うことになる。
 第二次世界大戦のようにさまざまな国家が参戦していないこともあり,アメリカ軍はUS陸軍のほかにUS海兵隊,US特殊部隊(グリーンベレー),そしてアメリカにバックアップされたベトナム政府の正規軍であるARVN(Army of Republic of VietNam)の計四つ,NVAは,NVAの正規軍とゲリラ化したVC(VietCong)の二つの勢力を選択できる。
 そして,この勢力の違いを明確にするために,キャラクターにはクラス制が導入されている。大別すると,アサルト,レコン(スカウト),ヘビーアーム,エンジニアの四つとなり,それぞれの勢力によって使用できるクラスが異なる。プライマリやセカンダリの武器が勢力やクラスによって変化し,スナイパー銃と双眼鏡を携帯しているレコン,タンクへ直接被害を与えるブロートーチを保有したエンジニアなど,特色が表現されている。グリーンベレーのレコンクラスはヘルスキットを持っているし,NVAのエンジニアはトンネルを掘ってスポーンポイントを移動できる唯一のクラス,といった具合だ。

 現在公開されているBattlefield:Vietnamの画面写真を見ると,その描画能力が実感できるだろう。レンダリングエンジンは前作から一新されており,「FarCry」や「Half-Life 2」でも使用されているノーマル・マッピング(Normal Mapping)技法が利用されているのが特徴的だ。ノーマル・マッピングとは,これまでのようにポリゴン数を増やすことなく,キャラクターなどのテクスチャにピクセル単位でのシェーディングを施してモデリングを緻密に見せる手法である。
 ノーマル・マッピングは,基本的にはバンプ・マッピング(Bump Mapping)と同じ要領ではあるが,バンプ・マッピングがグレイスケールを用いるのに対して,こちらはXYZ軸のノーマルに赤,緑,青の3原色に分かれたRGBチャンネルを使用する。これで,さらに細やかな色彩表現が可能になるばかりか,ポリゴンを多用するのではないためフレームレートへの負担も軽減できるし,曲線のジャギーも押さえられるという利点がある。
 Battlefield:Vietnamでも,革靴の留め金や紐,かばんのバックルや武器の凹凸など,細部に至るまでが丁寧に表現されているのが分かるはずだ。

 すでに述べたように,Battlefield:Vietnamではジャングルの閉塞感を表現するために,さまざまな植物も細かく描かれている。このあたりの風景はFarCryと似ており,何kmもの遠方までを見渡せるようなオープンエリアや小高い丘があるかと思うと,数メートル先さえも見えないような密林地帯も広がっている。
 ひょろっとした樹木や椰子の木にはOvergrowth,伏せると敵の視覚から消えるくらいの草木にはUndergrowthという独自の植物生成プログラムが開発され,さらにヘリコプターの旋回に合わせて渦巻きのように揺れる物理シミュレーションも完備している。
 これらの密林の表現は,スナイパー系には不利になるように思えるが,自分の居場所も特定しづらくなるということで,Battlefield 1942とは違ったプレイが要求される。ジープやタンクなど地上兵器を使った戦闘ができる地域が限られてくるため,プレイヤーが臨戦状態におかれる確率も飛躍的に向上するだろう。また,東南アジア風の小屋などの建物もマップ中に点在しているが,中には切り出された材木を坂道に転がして敵にダメージを与えたり,一時的に侵攻を食い止めたりといった戦略性のあるオブジェクトもある。

 これらを表示するため,PCへの要求スペックがかなり高いのが残念なところ。最低の環境でも,PentiumIII/933MHzと,64MBのメモリを搭載したGeForce 3以上のビデオカードが必要。サポートされるマルチプレイも32人まで(ただし64人までの対戦もできるように設計されている)に限定されているのも,過度なグラフィックス技術が祟っているのかもしれない。このあたり,サクサクと遊べた前作の質が損なわれていないかが心配ではある。


Battlefiledシリーズの要である搭乗兵器にはヘリコプターが追加

 Battlefield:Vietnamでは,搭乗用の兵器が20種類以上用意されている。その中でもとくに第二次世界大戦からの軍事技術の進歩がうかがえるのが,ヘリコプターの追加だろう
 アメリカ軍に用意されているのがACH-47 Chinookと,"ヒューイ"という愛称のほうが有名なUH-1 Iroquoisの二つ。ヒューイは,124mm砲やグレネードランチャーを搭載した戦闘型と,60mmマシンガンという装備ながらも人員運搬が得意な作業用の2種類に分かれる。

 これらのヘリコプターは,タンクをつるして運搬することも可能で,飛行速度が極端に落ちてしまうものの,タンクを密林に閉ざされた遠隔地や島へと運ぶことが可能だ。タンクは,すべての樹木をなぎ倒しながら進めるわけではないのだ。
 もちろん,一本のチェーンでつるされたタンクは,ヘリが旋回するごとに大きく揺れて,場合によってはクルクル回り出すこともある。タンクに乗っているプレイヤーは周囲に砲撃することも可能だが,命中率が皆無に等しく,逆に3D酔いを起こしてしまうかもしれない。狙ってできる芸当ではないが,バンカーに立てこもる敵の頭上にタンクを落として圧死させるということも可能だろう。
 基本的にはVietCongのエンジニアがスポーンポイントを変更できる唯一のクラスなのだが,アメリカ軍もヘリを使ってポイントに見立てた木箱を輸送すれば,スポーンポイントを変更できる。
 Chinookは,ガンシップ以外なら何でもつり上げられるワークホースだ。このほかにも,アメリカ軍にはA7 Corsairのような攻撃機や,ベトナム戦争で頻繁に使用されたナパーム弾を搭載したF4 Phantomのような戦闘機もある。
 タンクは,152mm砲と360度旋回可能なマシンガンを積み込んだSheridanを筆頭に,動く要塞ともいえるM4A83 Pattonや,6人まで同乗できるM113など。面白いところでは,河川を制圧していたアメリカ軍らしく,マシンガンを搭載したPRB"リバーボート"やヘリも着地できるTango ATCというガンシップも用意されている。

 これら,アメリカ軍の最新兵器と比較すると,NVA側はずいぶんと見劣りしてしまうようにも思えるが,実際のベトナム戦争でも,単にAK-47を持って走り回っていただけでない。同様に,ロシア軍から払い下げられた兵器も登場するのがBattlefield:Vietnamの良い部分だ。SheridanやPattonほど強力ではないものの,100mm砲を搭載したT-54,二つの57mm砲で戦闘機やヘリも追撃するZSU 57 2,さらには海中への突入も可能なPT-76などが登場することになる。
 また,MiG-17やMiG-21のような戦闘機や,ヒューイ同様戦闘用と作業用の2系統が用意されたヘリコプターMi8もある。Mi8は,のちに"ハインド"とも呼ばれる旧ソ連製ヘリコプターのプロトタイプである。独特なのがイタリア製のスクーター"べスパ"で,二人乗りすれば荷台の兵士が武器を使って戦闘できるのが興味深い。ベトナムの田園地帯をべスパで疾走する姿も,当時のローテクな兵器らしい雰囲気を醸し出している。
 アメリカ軍にはM72 LAWロケットランチャーのような武器もあるが,NVAはさらにRPG-2,RPG-7V,そしてヒートセンサー内臓のSA-7のような対タンク用の兵器を多く保有している。またVietCongのエンジニアは搭乗兵器などにBooby Trap(仕掛け爆弾)を設置したり,要所に地雷を埋めたりやスパイクの横たわった落とし穴を作ることが可能になっている。
 周囲にオイル缶のようなオブジェクトがあれば,連鎖反応を起こして大爆発することもあり得るので,使い方次第では,アメリカ軍チームに大きな脅威を与えそうだ。


人気のConquestモードを継承し,17曲の'60年代ロックをライセンス

 Battlefield:Vietnamでは,14種類のマップが11レベルに渡って用意されている。「Ho Chi Minh Trail」「Hue」「Quang Tri」と名付けられた地域は,2マップずつ2回登場するとのことだ。
 先ほどから,ベトナムのジャングル地帯ばかりをクローズアップしてきてはいるが,実際には市街地や農村部など開けた場所での戦闘も多い。また,史実でも戦闘機同士の対戦となった「Operation Flaming Dart」や,ガンシップが用いられて河川地区での激戦となった「The Ia-Drang Valley」のように,Battlefield 1942同様,特定の兵器に特化した戦闘を奨励するマップも多い。

 本作のオンラインにおけるゲームモードは,シリーズの特色を損なわないよう配慮されたのか,それほど改良されていない。Battlefield 1942で大人気となった,マップに散らばる拠点を奪い合いながら勢力を拡大していくConquestモードに開発を集中させており,そのほかのCTFやチームデスマッチは見る影もなくなってしまっている。
 このConquestモードには,さらに同じメンバーで複数のマップを戦い合うExpanded Conquest(Evolution)モードが加えられた。ゲーム終了ごとにキル数などが表示されるスコアが,Expanded Conquestモードでは直前にプレイしたゲームの得点分も換算されるのである。ゲーム大会やクラン戦などで,より正確な勝負を楽しむのに良さそうだ。
 Conquestモードをさらに細かく分けると,一般的なAssaultのほかに,特定のミッションを遂行するチームとそれを防止するチームとの戦いを楽しむMissionモードや,拡張パックSecret Weapons of WWIIからの流れを組むものもある。Seigeは,固定された敵陣を完全制圧するのが目的のモードだ。またカスタムゲームも作成可能で,特定の勢力や使用できる武器などを設定できる。つまりは,US陸軍とUS特殊部隊に分かれて戦い合うこともできるようになるのだ。

 Battlefield:Vietnamでは,音楽も重要視されており,ジェファーソン・エアプレインの曲や「クレデンス・クリアウォーター・リバイバル」など17曲をライセンスしている。その中には,ブダペストシンフォニーの演奏によるワグナーの「ワルキューレの騎行」も用意されていて,映画「地獄の黙示録」よろしくヘリコプターやリバーボートで編隊を組んで疾走することも可能だ。ちなみにプレイヤーが流しているBGMは周囲にも聞こえるようになっており,敵の立場であれば,近づくにつれて微かな音楽が爆音に変わっていく様子が表現される。ドップラー効果も表現されるなどの懲りようだ。
 MP3ファイルがPC内にあれば,その曲をストリーミングすることだって可能だ。ただし,その場合は著作権上の問題もあって,プレイヤー個人にしか聞こえないようになっており,デフォルトの17曲以外を共有することはできない。
 もう一つ,サウンドに関して面白い部分を挙げておけば,市街地にはラジオ塔が存在しており,ここを制圧することでラジオをスピーカーで流せることが可能になる。NVAが制圧した場合,アメリカ兵に対して「あなたの政府がメダルを用意してるって? ……死んだあとのことでしょ!」などというプロパガンダを大音響で流し,心理的な揺さぶり(!?)をかけることになる。
 ベトナム人キャラクターは,誰もがベトナム語を話しているようだが,こればかりはほとんどのプレイヤーには理解できないだろう。

 Battlefield:Vietnamがリリースされるころには,MOD制作用ツール「Battlecraft:Vietnam」のβ版が発表される予定。新しいマップを作ったり,既存の武器や兵器などのオブジェクトのデータおよび外観を変更して新しいものに入れ替えたりできる。こうして,本格的なMODゲームを開発できるのである。
 BattlefieldシリーズのMODには,砂漠地帯での現代戦が時流に乗って大人気を博している「Desert Combat」を始め,「Battlefield 1918」や「1914:The Great War」など第一次世界大戦にモディファイしたものから,ほかの映画やゲームの世界観を使ったものも登場している。すでにBattlecraftを使ったコンバートや新作の制作を表明しているアマチュアチームもあり,「Quake」や「Half-Life」以来,久々に盛り上がっているMODコミュニティも,引き続きサポートされていきそうな気配だ。

 F4ファントムのナパーム弾でジャングルを焼き尽くして敵の勢力を弱め,ヒューイの編隊を率いて空中からの掃射を行ったあとに,M118を突撃させて兵士達を送り込む……。Battlefield:Vietnamは,これまで以上にチームでの連携や戦略が重要となり,お互いの長所を生かしながら敵軍と戦っていくことになる。
 すでにゴールド版が完成しており,あとは出荷されるのを待つのみ。アメリカでは2004年3月14日にリリースされる予定になっており,また日本語版も3月18日には発売される予定なので,指折り数えて待っているプレイヤーも多いことだろう。Battlefieldは,オンラインシューティングの定番シリーズとして定着しそうな気配もあり,日本軍こそ登場しないものの手堅い面白さでファンを魅了してくれそうだ。本作も,肩肘を張らずに気軽に楽しめる秀作になるのではないだろうか。


 

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