[SIGGRAPH 2002#15]Wrap Up:SIGGRAPHで感じた未来のゲーム -07/30
 「Games:the Dominant Medium of the Future」の講義の様子。
  ちなみに,モデレータだったニューヨーク大学所属のケン・パーリン(Ken Perlin)氏(画面左)は,1997年に開発した「Procedural Texture」でアカデミー技術賞を受賞。 Procedural Textureは,イメージを歪ませることなくテクスチャにプロジェクトさせる技法で,現在でも映画やゲームに広く利用されている

 コンピュータグラフィックスの最前線に立つ人々が集まり行われるSIGGRAPHだけあり,これまでに見たことのない技術やアイデアが満載で,ゲームという一面から見ても,非常に興味深い話が多かった。ソフトウェアやハードウェアの進化に伴い,今後ゲームはどのように変化していくのか? まだ四半世紀ほどしか歴史のない新しい分野だけに,まだまだ吸収できることは多いはずだ。
 これまでお伝えしたNewsは,なかには少々ゲームから外れる話題もあったかもしれないが,そういう観点でもみなさんに楽しんでいただけたのではないだろうか。

 さて,今回行われたSIGGRAPH 2002が,以前にないほどゲーム寄りだったことはすでに述べている。なかでも,7月26日に行われた二つのディスカッションは,CG技術とは離れた観点でゲームについてパネラーが語るというもので,最終日にも関わらず傍聴席が非常に混み合っていた。

 一つめのパネルディスカッションは,「Interactive Story:Real Systems, Three Solutions」(インタラクティブ・ストーリー:現在使用されている三つのソリューション)というもの。ゲームがほかのメディアと大きく異なるのは,ゲームと人間が相互に影響を与え合う,インタラクティブ性の存在である。ゲームには,プレイヤーの意思がコントローラを介してダイレクトに反映されるというユニークな特徴があるが,その過程が一本道のストーリーではなく,プレイヤーに合わせてリアルタイムに変わっていく"インタラクティブ・ストーリー"も,最近は大きくスポットライトが当てられているのだ。
 このディスカッションには,「Black & White」を制作したLionhead Studios社のジェームス・リーチ(James Leach)氏と,「シムピープル」でお馴染みのウィル・ライト(Will Wright)氏,そしてインタラクティブAIシステムの「プロジェクト・ファサード」を開発しているカーネギーメロン大学の研究者マイケル・マンティース(Michael Manteas)氏とアンドリュー・スターン(Andrew Stern)氏の計4人が参加した。

 Black & Whiteは,ゲーム中に多くのストーリー分岐が用意されており,またプレイヤーのちょっとした行動によっても内容が変化するなど,さまざまなアプローチを組み合わせたのがユニークだった。リーチ氏は本作について,「現在のところ,完全にインタラクティブにしたらゲームの面白さがなくなってしまう」という見解を述べていた。
 ライト氏のシムピープルは,ゲーム自体にストーリーが存在せず,プレイヤーが画面から自由にストーリーを読み取るのが面白い,かなり異色の作品であるといえよう。プレイヤーがストーリーをコントロールできるという点でプレイヤーとゲームのインタラクティビティが高く,結果5万ものショートストーリーがネットに氾濫することになった

 「プロジェクト・ファサード」は,プレイヤーの反応を待つことなくキャラクター同士で勝手に会話を進めていく。ゲームとは言い難いが,人口知能の発展には欠かせない技術改良だ

A Courtesy of Michael Manteas and Andrew Stern

 プロジェクト・ファサードは,ある意味正統派のインタラクティブ・ストーリーを実現しようとしており,AIが長期の記憶と短期の記憶,会話によるムードの変化,そして何よりプレイヤーがタイプした文字に対する認識力を高めて,プレイヤーとキャラクターのやり取りの精度を高めている。ゲームのストーリーは,プレイヤーがPCの前から離れることなどによって流れが途切れたりペースが崩れたりするため,今後もさまざまな手法で改良されていくのだろう。

 ところで,この前日に行われた「Humans and Animals」というペーパー(開発した新手法に関する論文を発表するセッション)では,ペンシルベニア大学で"会話と目の動き"を研究しているチームが発表しており,目の微動が会話にとっていかに重要な要素であるかを教えてくれた。彼らは相当なサンプルを観察しているようで,なかでも,人間は自分がしゃべっているときよりも人の話を聞いているときのほうが,視線を相手に向けているという話が興味深かった。実際にデモでは,キャラクターがしゃべっているときにチラチラと周囲を見る様子が,非常にリアルに感じられた(詳細は「ここ」で)。

 もう一つの「Games:the Dominant Medium of the Future」(ゲーム:未来を制覇するメディア)というパネルディスカッションでは,またしてもウィル・ライト氏が参加し,加えてElectronic Arts社幹部やゲーム批評家などが登場。このセッションはすべて来場者からの質問によって構成されていたので,文章にまとめるのは難しい。あえて説明するならば,ゲームが市場や文化に与えるインパクト,暴力描写や規制に関する問題から,彼らが考えるゲームの今後などが広く話し合われていた
 その中で筆者の印象に強く残っているのは,参加者の一人による「今,ゲーム業界に向けられている目は,1950年代にロックンロールが受けた迫害に似ている」というコメント。また,全員が「(そういう自立的,社会的な規制を受けて)50年後のゲームは今のゲームとまったく違うものになっているはずだ」という意見で一致していた。

 画面に映るキャラクター自体は精巧でもないのに,目の玉が動くだけでも強烈なインパクトを与えることを照明したペンシルベニア大学のデモ

Sooha Park Lee, Jeremy B. Badler, and Norman I. Badler at Smith-Ketwell Eye Research Institute, University of Pennsylvania.

Text by 奥谷海人