P.01

ミューは「事件」となる

 「事件を起こしたいんですよ」
 「News編」でお伝えした新情報についてひと通り聞いたあと,ミューの今後について水を向けると,この言葉が返ってきた。

小島幸博氏プロフィール

株式会社ゲームオン オンラインゲーム事業本部 ミュー担当プロデューサー。通称,PK(Producer Kojima)。ソフトハウスのアトラスでの勤務,ゲーム雑誌「じゅげむ」(リクルート→メディアファクトリー)の副編集長,ゲームサイト「Gpara.com」(ゲームオン)の編集長などを経てミューのプロデューサーになったという,常にゲーム業界に携わり続けてきた根っからの"業界人"である。

 ミューは,韓国では「リネージュ」に次いで人気2位のMMORPG。韓国で2001年にサービスがスタートしたというのに,未だに"同時接続"プレイヤーが増え続けているという,名実共にビッグタイトルだ。それだけに,本作の日本でのサービスには一般ゲーマーのみならず,業界からも大きな期待が寄せられている。韓国産MMORPGを日本で運営しようとしている会社にとって,エースといえるミューには,"成功してもらわないと困る"のである。
 小島氏は続けて「期待されているだけに,"そのまんま"はやりたくない。どうせやるなら,日本らしい事件を起こしたいんです」と語った。

 確かに小島氏の活動はかなり精力的で,ミューが一つの事件になる可能性は十分にある。
 例えば小島氏は,ミューと少しでも関係がありそうなものなら,何にでもタイアップ話を持ちかけに行くという。それがすでにお伝えした某オカルト系雑誌だったり,某ゲーム学校だったりするわけだ(ほかにもたっくさん聞いているのだが,まだ書けないのが残念)。
 また,例のタマちゃんイベントや梅雨イベント,七夕イベントなど,前代未聞の"現実と連動したゲーム"という試みも面白い。ところでこういったアイデアは,どのように思いつくのだろう? あまり会議室で出てくるものとは思えない。
 聞いてみると,梅雨イベントは,スタッフでランチを食べているときに,一人の女性が「雨が降ったらアイテムが出やすくなるってのはどうでしょう?」と話したのがきっかけだという。それが,すぐに採用となったわけだ。
 小島氏は,「一度出たアイデアは,捨てない」のがポリシーだという。どんなアイデアでも捨てずに,ブラッシュアップしたりほかのアイデアと結合したりすることで,ミューに採り入れていく。
 「アンテナは,ゲームの中だけに張っていてはダメなんです。例えば今,どこかで花博が開催されているとしたら,ミューの中でも花博を開催するんですよ。実物の花博に行った人は,ミューの花博も見て比べてみるだろうし,実物の花博に行けない人は,代わりにミューの花博で楽しむ。それに,なんでもいいから花博について考えたとき,一緒にミューのことも思い出すでしょ」。確かにタマちゃんや梅雨の話が出るたびにミューのことを思い出してしまうし,きっと七夕の夜にも思い出すだろう。それらが一体となって,ミューが人々の脳みその奥のほうにまで浸透していくわけだ。
 「パッケージゲームは,基本的に一度出せば終わりじゃないですか。でもオンラインゲームは,生きているんですよ。旬のネタを,旬のうちにゲームに盛り込める。だから,何かしないともったいないでしょう」。

 まだ書けないことの中には,ゲームとはかけ離れたジャンルのものと連動する策略がある。この小島氏の精力的な活動の,ほんのいくつかでも"当たれば",ミューは,事件になるかもしれない。

 

ゲーム性は,日本で進化する

 ここまで読んで,小島氏の立場について不思議に思っている人がいるかもしれない。とくに,ゲーム業界の人は。"韓国産ゲームだというのに,なぜここまで小島氏が自由にできるのか",と。
 まさにアイデアマンといえる小島氏にとって幸運だったのは,ミューの開発を担当するWebzen社に,小島氏のアイデアをすべて受け入れる懐の深さがあったことだろう。

 Webzen社には,技術力がある。この2年間,彼らがひたすら向上させてきたというミューのグラフィックスは,かなりのレベルだ。しかし,である。なんと同社には,ミュー全体のプロデュースを行う人物があまりいないという。小島氏が考えているようなことを,考えている人が少ないのだ。
 もしWebzen社に,確固としたポリシーをもつプロデューサーがいれば,小島氏と衝突することもあったかもしれない。しかしWebzen社は,むしろ小島氏の知恵を借りようとしている。Webzen社のスタッフ達は,韓国の技術力の高さを十分に認識しつつも,ことゲーム性となると,日本に一日の長があると考えているからだ。
 そのため,小島氏が考え出したアイデア,システムは,日本のみならず,韓国版にフィードバックされ,中国版,台湾版にも導入されていくことになりそうである
 Webzen社は,もっと先をも見ている。日本でゲーム性を高めたあとは……アメリカへの進出である。

 ともあれ,小島氏の話に戻そう。
 小島氏は筆者に対し,すでにミューの完成系が見えていると語った。もちろんそれについては「ナイショ」ということだが,なんでも一昨日(!)に気づいたという。
 MMORPGが乱立する中で成功するには,何か一つでも,「ミューならでは」というものがなければならない。その何かを,「見つけたんですよ」。
 それは,「アクション性」(後述)に関する何からしい。そしてそれは,今後半年から1年ほどでミューに実装するという。もちろん日本だけの話ではなく,ワールドワイドで実装するそうだ。いったい小島氏は,何に気づいたのだろうか?
 この"何か"に関してはこれ以上追求しても教えてくれそうになかったので,次に,もっと大きく,今後のミューの方向性を伺ってみた。

次のページへ