Text&Photo by 奥谷海人

 一度はPC用に開発されながらも,Xbox専用としてリリースされた「Halo:Combat Evolved」が,オンライン対戦モードを搭載してPC市場に投入されることになった。
 Xboxでは人気ソフトとして知られる本作のプレイ感を損なわないよう,シングルプレイヤーモードが完全移植されてはいるが,オンラインサポートのほかにもDirectX 9.0に対応させた美しいグラフィックスが"まったく新しい"ゲームになったことを感じさせる。Xboxでプレイしていない人,そして対戦を楽しみたい人には,うってつけのFPSになるはずだ。

■古きゲームの印象を跳ね返す,2003年版Haloの威力


 今でこそ,FPSの開発はヨーロッパでも盛んに行われるようになり,もはや一過性ではない一つのジャンルとして定着した感があるが,'90年代は「DOOM」のid Software社や「Duke Nukem 3D」の3D Realms社に代表されるテキサス州ダラス近郊が開発のメッカだった。
 アメリカ中南部におけるエネルギー産業や運搬業の拠点として,200万人の人口を抱えるダラスに,どうして突然ゲーム業界の行き先をも左右する多くの才能が登場してきたのかは,誰もが不思議に思うところ。
 以前,DOOMや「Quake」のデザイナーとして名高いジョン・ロメロ氏が,その答えとして「ダラスは広いだけで何もないし,夏は暑すぎて何もする気になれないから(コンピュータをいじるしかない)」と話してくれたのを思い出したのは,今回ダラスを訪問した8月中旬,うだるような蒸し暑い日々が続いていたからだ。ここで,開発終盤に差し掛かった「Halo:Combat Evolved」(以下,Halo)の進行具合と,制作を担当しているGearbox Software社の近状を探ってきた。

 Gearbox Software社といえば,「Half-Life:Blue Shift」などのHalf-Lifeの拡張パックで頭角を現し,その後も「James Bond 007:Nightfire」や「Tony Hawk's Pro Skater 3」など,プラットフォームを越えた移殖屋として知られる開発チームだ。
 30人ほどのメンバーで構成されており,Haloにはその半分ばかりの人数と,シアトルから派遣されたプロジェクトリーダーのピート・ピアソン(Peat Pearson)氏やハミルトン・チュウ(Hamilton Chu)氏ら4人のBungie Software社の開発者達も加勢している。
 Gearbox Software社をまとめるのは,元々3D Realmsに在籍していたランディ・ピッチフォード(Randy Pitchford)氏とあり,PC用Haloを開発するにあたって,これ以上のチームはないだろう。

 Haloは,Xboxの初期のキラータイトルとして2001年の11月以来,300万本を売りさばいている大人気ソフトである。そもそもPC用として開発されていたものが,開発元のBungie Software社がMicrosoft社に買収されたことにより,さらに2年ほど遅れて陽の目を見たという経緯がある。
 ゲームパッドでもプレイしやすいよう,Microsoftが誇るユーザビリティのテストラボで思考錯誤が繰り返されたHaloの操作性は,その後リリースされたコンシューマ用FPSではスタンダードになっているほど。さらに,乗り物を駆使して戦う面白さや,精巧な思考ルーチンによる敵との駆け引きなどで評価が高く,XboxだけではなくFPSソフト全体の中でも金字塔といえるのは疑いのない事実だ。

 今回,PC用として開発が進められているHaloは,Xbox版のリリースからさらに2年ほど経っているわけで,やはり気になるのは「そんなに古いゲームを,いまさらPCでプレイする価値があるのか」ということではないだろうか。
 結論から書いてしまうと,そんな心配はまったくご無用だ。
 オリジナル版で好評だったキャンペーンは忠実に再現されており,さらにはキーボードとマウスでのプレイを完全にサポート。 DirectX 9.0bに完全対応させた美しいグラフィックスは,Pixel Shader 2.0を生かしたテクスチャや煙,照明効果でボリュームアップされている。
 そして16人までが対戦できるオンラインモードが開発され,Xbox版を散々遊び尽くしたプレイヤーでさえ,この最新版で存分な対戦が楽しめるように,Gearbox Software社によって制作が進められているのである。マルチプレイヤーモードを新しいコンテンツとして捉えれば,単なる移殖ではなく,豪華な拡張パック付きともいえるだろう。

■世界で300万本を売ったHaloとは


 実は今回の取材は,ヨーロッパやオーストラリアのメディアを交えた合同取材であり,取材者による5人のLAN対戦ができるようになっていた。
 このマルチプレイヤーモードを実体験した感想の前に,まずHaloをプレイしたことがない読者のために,このゲームのあらましを記述しておこう。
 Haloは,カタカナで書くと"ヘイロー"であり,「ハロー・キティ」の"Hallo"とは異なる"後光"とか"光輪"の意味を持つ。宗教画の人物や天使の後ろに描かれた円状のものだったり,日食のときに太陽の周囲に浮かび上がる光の輪だったりするが,このゲームのヘイローは,後者の意味に属する。ただし光の輪ではなく,人類の植民地となっていた惑星の周囲を取り巻く,謎の人工浮遊大陸のことである。

 主人公としてプレイヤーが操作するのは,ゲームでは"マスター・チーフ"とだけ呼ばれるサイボーグのコマンド兵である。序盤においては,プレイヤーにはマスター・チーフが何者なのかという情報はないが,NPC達が「お待ちしていましたよ」とか「思ったよりも背が高いな」などと語ることから,彼が多くの人達に待望されていた存在であるというのは分かるようになっている。
 舞台は,人類がすでに銀河の彼方にまで進出している遠い未来で,やがて"コベナント"(宗教用語で契約者)というエイリアンの一団と衝突し合うようになるのだ。プレイヤーは,このコベナントが地球に到達する前に,植民星を前線基地として食い止めようという作戦を担うことになるのだが,その植民星というのが,ヘイローのある最果ての惑星なのである。
 Haloで良く出来ていたのが敵や味方のマリーン達の思考ルーチンで,与えられたシチュエーションに,見事に対応してくるのが非常に印象的だ。自分のヘルスが低くなったと感じると,後方に回って援護射撃したり,物陰に隠れたりするのはもちろん,プレイヤーの背後に回り込んで急襲しようともする。コベナントは,乗り物や砲台を見つけるとすかさず乗り込むし,マリーンもプレイヤーの操作するジープの後部座席へも飛び乗ってくる。敵や味方がソコにいるだけでなく,実際にプレイヤーと一緒に戦っていたり,プレイヤーを倒そうと協力している様子は,シングルプレイヤーゲーム以上の臨場感を生みだし,まるでキャンペーンとMODゲームが組み合わされたようなゲームになっているのだ。
 また,NPCの反応やイベントの発生の影響によっても,毎回戦場の様子が変わることから,リプレイの価値も高い。さらには,バンシージープ,スコーピオン・タンク,バンシー・エアクラフトなどの使い道や戦法がまったく異なるのも,同じマップでも新鮮な体験が得られる要因の一つである。
 PC版でもそうだが,Haloでは一度に二つまでの武器しか所持できないため,周囲の状況に合わせて異なる武器を持つという戦略的な幅も出ている。

■ローディングタイムがほとんどない!?


 さて,ではPC版では,どこがどのように変化しているのだろうか?
 まずPC用のHaloは,全プログラムが1枚のCD-ROMに収録されるということだ。Xbox用ではDVD-ROMの3.8GBがフルに使用されていたのだが,この無駄な部分を削ったり,圧縮技術を採り入れることで,600MB程度にまで押さえるのに成功している。
 マルチプレイヤーモードを搭載し,高解像度テクスチャをサポートしていながら,シングルプレイヤーモードのコンテンツをいじることなく軽量化したのだから,凄まじい努力が費やされたのだろう。これには,id Software社時代にレンダリングエンジニアとして活躍したショーン・グリーン(Sean Green)氏が大きく貢献しているという。
 グラフィックパイプラインは,Xbox用に作れていたDirectX 8.0用のほかにも,DirectX 9.0,DirectX 7.0,そしてソフトウェアモードの4種類が用意されている。
 DirectX 9.0に対応したビデオカードを持っていれば,Pixel Shader 2.0機能を使って描かれた壁のバンプ・マッピングなどを享受できるようになっている。とくに,フラッシュライトで夜の地面を照らしたときのゴツゴツ感が見物だ。
 サウンド部分では,ある種のステップダウンが行われており,オリジナル版ではXboxのサウンド機能をフルに生かした128chで音響が表現されていたものの,PCでは広いスペックに対応するために,8chまでに落とされている。しかしオリジナルほどではないにせよ,5.1スピーカーをサポートしたオーケストラのような重厚なサウンドが,PCでも可能な限り再現されているという。


 実際にHaloを目の前にしてみると,まずPC上でキーボードとマウスを使って操作できることに感激。マウスルックによって,より精密に照準を当てられることから,オートエイム機能は取り外されていた。カーソルの移動具合も合格点で,いかにもコンシューマから移殖されてきたような不自然さは感じられない。
 もちろん,ゲームパッドもサポートされているだけでなく,ホバークラフトなどの操作に専念したいプレイヤーのために,ジョイスティックやホイールまでも使用できるようになる予定とのことだ。
 おそらく,ゲームを立ち上げるときに一番驚かされるのが,ローディングの素早さである。Xboxでは少なくても30秒はかかっていたローディングタイムが,PCでは劇的に向上しており,おそらく1秒程度でゲームが開始できるのだ。
 ローディングは,ゲームを表示するのに必要なデータを,CD-ROMやハードディスクに点在している部分をバラバラに探し出していくため,ハードウェアのスペックによっては非常に時間のかかる作業となる。Xbox版のHaloも,不必要なデータまで毎回ロードするなど,無駄な部分も多かった。
 ところがGearbox Software社では,Half-Lifeをハードディスクのないプレイステーション2用に移殖したときのノウハウと,前述したグリーン氏の圧縮技術を組み合わせることで,必要データだけを順序良くキャッシュファイルに解凍してしまうことに成功したのだ。その結果,FPSのようなマップベースのゲームでは前代未聞となる,ローディングの瞬時完了が実現したのである。

■Haloは,やはりマルチプレイヤーモードに注目


 PC用Haloは,マルチプレイヤーモードを搭載しており,移殖版としての大きな目玉となっている。Xboxで装備されている26種類に及ぶモードを"クラシック・バリアンス"と名付け,さらには13種類のPC専用に用意された"スタンダード・バリアンス"を用意することで,合計39種類のマルチプレイヤーモードが楽しめるようになった。
 このバリアンスというのは,Haloのマルチプレイヤーモードを示すのに適した呼び名で,プレイヤーはデスマッチ,チームデスマッチ,キャプチャー・ザ・フラッグ,キング・オブ・ザ・ヒルなど,個々のゲームモードを指定するのではなく,ルールを指定することで特定のゲームモードにしていくものである。このルールは,例えば「無限の復帰ではなく,2回キルした時点でアウト」などという細かい数字の調整もできるようになっている。
 マイクロソフトは,世界的なゲーム大会CPL(Cyberathlete Professional League)とも提携しており,Haloが発売されたのちに,CPL Winter 2003に向けた"CPLバリアンス"も公開する予定だ。競技用のスタンダードとなるゲームモードがHalo用にリリースされることになり,全世界のプレイヤーが,そのゲームモードを利用して同じ土俵でのプレイを楽しめるのである。まだ,最終的な判断は下されていないが,5対5のチーム戦モードになるとのことだ。

 Haloのマルチプレイヤー専用マップは新しく6種類が収録される予定で,"Timberland" "Gephyrophobia" "Ice Field" "Danger Canyon" "Death Island",そして"Infinity"という名称が付けられている。このうち今回プレイできたのは,TimberlandとGephyrophobiaの二つだ。
 Timberlandは,楕円形にくぼんだスタジアムのような形状のマップで,奇妙なことにスポーンポイントのある基地が双方から確認できるようになっている。基地の前に立てば,敵の基地とそこから移動するプレイヤーの様子が完全に見えるようになっているのだ。
 ただし,底部分には左右対象に盛り上げられた大地があり,さらにはマップの名称通り大きな杉の木が何本も生えていて,隠れるのは絶好の場所を提供している。キング・オブ・ザ・ヒルに適したマップとなりそうで,βテスター達には一番人気となっているらしい。
 Gephyrophobiaは,小さな場所の中央に橋が掛かっていて,スナイパー合戦で楽しむことができるだろう。また塔や橋など空中に広がるオブジェクトが多いため,空中でのドッグファイトのような遊び方もできそうだ。PC版では,最大で8機の乗り物をマップに点在させることが可能なのである。
 マルチプレイヤーモード用の特別武器として,キャンペーンモードでコベナントが使用していたフューエル・ロッド・ガン(Fuel Rod Gun:エネルギー球を発射)と,フレームスロウワー(火炎放射器)が用意されている。
 火炎放射器は,近距離では搭乗型兵器にも有効な武器で,使用した感覚では,かなり強力だ。一度に二つの武器しか持てないため,使いどころが難しそうではあるが,対戦車や狭いマップで威力を発揮することだろう。

 全体的に,Haloのマルチプレイヤーモードは非常に軽快で遊びやすく,「Battlefield 1942」を連想させるお手軽さがある。製品リリース後には,公認版対戦マップも次々と公開していくらしく,オンラインゲーマーの遊び心を十分に刺激してくれそうな気配だ。


>>Halo開発者インタビュー その1へ

>>Halo開発者インタビュー その2へ

※記事中のScreenshotsは,すべて開発中のものです。ご了承ください。