CSNEOの仕掛け人の一人である土屋氏は,もとは大型のテーマパークやアトラクションの企画をしていた,施設作り出身の人物。コモドール64で「インベーダー」,MSXで「ポートピア連続殺人事件」,98で「オホーツクに消ゆ」や「ロードランナー」を遊んだ世代なんです,と語る土屋氏は,いわば現在のゲーム業界の中核を成す世代である。
そんな土屋氏に話を聞いてみると,非常にユニークな答えが返ってきた。なんでもCounter-Strikeをビデオゲーム的な視点では捉えておらず,レッドゾーンの企画の原点もあくまで"アトラクション"的な部分だというのだ。
土屋哲夫氏(以下,土屋):
もともとCSNEOの出発点は,こんなに面白いゲーム(Counter-Strike)があるのになんで日本ではやらないんだろう? というところなんです。
forGamer(以下,4G):
確かに,日本でネットワークゲームがいまいちブレイクしない(MMORPGなどで一部盛り上がりがあるとはいえ)のは,面白いコンテンツがない,とかそういう理由ではないですよね。
土屋:
ええ,そこで私達は,日本でネットゲームがはやらない理由,逆にネットゲームが流行るために必要な要素とは何か? を考え,一つの"仮定"を導き出しました。
4G:
と言いますと?
土屋:
例えば,ネットゲームがはやっている国……そう韓国や台湾などには"PC房"というものがあり,アメリカには"LANパーティ"という文化がありますよね。つまり,ネットゲームが盛んなところには"みんなで集まって騒げる"環境があると思うんですよ。
ネットゲームが流行にするには"集まって騒げる場所"が必要で,日本でネットゲームが流行らないのは,そういう"場所"が無いからなのではないか? もしそのような"場所"があれば,日本でもネットゲームがはやっていくのではないか? と私達は考えたんです。
レッドゾーンは,その仮定を実証するために作った,文字通りの実験店舗なんですよ。
4G:
なるほど。確かに店舗内の雰囲気も,ネットカフェというよりはゲームセンターに近い感覚ですね。
土屋:
ネットカフェは,お客さん一人一人が勝手に遊ぶ形式ですよね。ゲームをするとしても,ヘッドフォンなどを使って"静か"に遊ばなければならない。レッドゾーンでは,みんなで話せる/騒げる,というコンセプトを軸に考えていて,例えば,ヘッドフォンなどは使用できないようになっています。
確かにCSNEOのゲームの特性上,音や会話によって作戦がバレてしまったりというような弊害はありますが,少なくとも現在いろいろな層のテストユーザーに遊んでもらった限りでは,そのような部分も含めて楽しんでもらえていると実感していますね。
4G:
バーコード状のチケットを自動販売機で買って遊ぶ,という手軽さを重視したシステムも,やはりネットゲームを知らない,いろいろな層のユーザーの獲得を目指しての要素なんですか?
土屋:
もちろん,ネットゲーム(PCゲーム)の楽しさを知らないユーザーさん達に面白さを伝えていくというのが,レッドゾーンの目的だと考えています。ネットカフェのように会員になる必要はないですし,ゲームセンターのような感覚で気軽に店内に入ることができます。
また,基本的な操作方法を学ぶためのチュートリアルモードを用意することで,Counter-Strikeを遊んだことのない人にも対応できるようにと心がけています。
4G:
より多くの人にネットゲームの面白さを知ってもらってユーザーの裾野を広げる,という方向性は非常に素晴らしいですね。しかし,一つ引っかかるのは,一人か二人くらいでふらっと入ってきた(PCゲームを知らない)客を,どうサポートしていくのかという部分です。
例えば従来のネットカフェだと,元々PCゲームの遊び方を知っていないとゲームを楽しめない,という問題があったと思うんです。本当に初心者の人は,PCの前には座るけれど,結局どうやって遊んでいいか分からずに帰ってしまう,みたいな。そのようなユーザーさんを取り込んでいけないと,ユーザーの裾野を広げるというのは難しいのではないでしょうか?
土屋:
そのような問題点も,当然ながら考慮済みですよ。
もともとPCゲームって,面白い作品はたくさんありますけど,とにかく"遊びにくい"ですよね。ネットゲームだとそれがさらに顕著で,Counter-Strikeでも,やっとの思いで設定をしてサーバーに入ってみても,強い人に瞬殺されて何もできずに終わってしまったり,酷いときには,チーターに嫌がらせをされてツマラナイ思いをしたりします。
レッドゾーンでは,店舗を持つ意義の一つとして,そのような"難しさ"を極力排除しようという考えがあるんです。LANで構築されたローカルネット対戦を主軸に考えているのもそうですし,お客さん一人一人に対して,的確な誘導をスタッフが行っていくんです。
4G:
初めて来た客には,まずチュートリアルを勧めるとかでしょうか?
土屋:
そうです。また対戦の仲介や,対戦時のチーム分けなども,スタッフが積極的にサポートしていきます。一方のチームが明らかに強い場合などは,チームを組み直したり,強いチームが不利になるようなマップに変更したり。
ただ一口にサポートといっても,例えば,チーム分けも単純に強い/弱いだけで判断してしまうと,友達同士が分かれてしまったりするでしょうし,どういった形でサポートを行っていくのかなどは,今後研究していく部分だと考えています。
4G:
基本的には「とにかく対戦させる」といった感じでしょうか?
個人的には,少数の人数でも遊べる"協力型マルチプレイミッション"なんかを用意してもよかったのではと思ったのですが。
土屋:
CSNEOの面白さの本質は,やっぱり対戦にこそあると考えていますから,そこに注力してお客さんが分散しないようにと努めていますね。レッドゾーンでゲームをCSNEO一つしか用意していないのも,とにかく対戦させるための配慮(お客さんを分散させない)の一つなんです。
例えば,今のゲームセンターにみんなで遊びにいっても「オレは格闘ゲームで遊んでるから」とか,「じゃあこっちはシューティングで遊んでるよ」といった感じで,結局"ばらばら"に遊んでしまっていると思うんですよね。
私達がやりたいのはそういうものじゃなくて,「みんなで行って,みんなで遊べるアトラクション/空間」なんですよ。それが,レッドゾーンの目指す方向性なんです。
ゲームセンターの中にも,レーシングゲームとか8人で遊ぶゲームがあって,みんなでワイワイ遊んだりしてたじゃないですか。
でも,これは営業的な問題なんですが,オペレータ(ゲームセンターの)的にユーザーの誘導が難しくて8人同時に遊ばせられなかったりして,結局筐体も「じゃあ2台ワンセットでいいや」といったふうになってしまった。
みんなで楽しむという部分の需要はあったハズなのに,システム的にそれをうまくユーザーに提示できなかったという思いがあるんですよね。
4G:
その視点からCounter-Strikeを持ってきたワケですか。目の付けどころが凄いというか,突飛といいますか……。いや,こう提示されてみると違和感はないですけど。
土屋:
Counter-Strikeは,長い間練り上げられてきた作品で,コンテンツとして非常に高い完成度を誇るタイトルです。そのタイトルをベースに持ってくることで,コンテンツを遊ばせるシステム部分の検証,充実を図りたかった。コンテンツが面白いのは実証済み。じゃあ,それをどうすればみんなが遊んでくれるんだっていうか。
4G:
そこを明確にするための"実験店舗"ということですね。
土屋:
ええ,将来的には,レッドゾーンで得たノウハウとシステムを生かして,いろいろな展開を考えているんですよ。みんなが騒げる場,ということなら,例えば小さい子供が「ポケモン」をみんなで遊んだりする場所だとか(笑)
4G:
ポケモンですか(笑)
ということは,今後ほかのゲームを導入する予定もあるんでしょうか?
土屋:
ありますよ。ただ,ネットカフェのようにいろいろなゲームを導入していくようなことは考えていません。ユーザーが無駄に分散してしまうのは駄目だと考えていますしね。
大抵,流行っているゲームというのは各ジャンルごとに1〜2個ですから,その中から抜粋していく感じになるでしょう。FPSならこれ,RTSならこれ,というように,コンテンツを絞り込んで提示していこうと考えています。
4G:
なるほど。
あと,もう一つ気になる点があって,ユーザー同士のコミュニケーション手段というか,例えば,お店の端と端にいるユーザーが"一緒に遊んだりするキッカケ"みたいなものは用意されているのでしょうか?
知らない人にいきなり声をかけて対戦を申し込んだり,ゲームのコツを教えてもらったりするというのは,正直あまり想像ができないのですが。
土屋:
もちろん,そこは重要な部分だと考えています。CSNEOの対戦システムはそのような部分を考慮していますし,また今はまだ調査中ですが,ICQ(ネット上のコミュニケーションツール)のようなシステムの導入を検討していますよ。もちろん,ゲーム中で使えるような形で,です。CSNEOだと,やられてしまってスペクターモードになっているときに,友達とコンタクトを取るとかですね。
4G:
それは面白いですね。
では最後に,レッドゾーンの特徴を一言で表わすなら,どういったフレーズになるのでしょうか?
土屋:
うーん。やっぱり「LANエンターテインメント実験店」ですかね(笑)
あるいは,「"みんなで楽しめる遊び"を提供するお店」ですね。
4G:
これだけの仕組みを作り上げながら,あくまでも「実験」ですか。凄い。
本日はありがとうございました。
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