= Blizzardを事実上仕切る男Bill Roperに聞く=
「本音のWarcraftIII」 1/2

聞き手・Kazuhisa@4gamer



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 Blizzardを知らないPCゲーマーはいないだろう。滅多なことでは"開発の中心"を表に出さないBlizzard Entertainmentだが,大作のときに必ず我々プレスの前に姿を表す人物が,このビル・ローパー(Bill Roper)氏だ。"優しいドワーフ"といった風情の氏は,WarcraftIIIのアジアプレスツアーの最初の国としてこの日本を選び(2番めは韓国だ),今回のカプコンの発表会と相成ったわけだ。

 いつもは広報担当にガッチリと制御され,インタビューなどでもグレイで微妙な質問には決して答えない氏だが(インタビュー中によく目で広報に合図を送っている),今回はほぼ単独に近い雰囲気でのインタビュー。これはチャンスとばかり,ちょっと本筋とは関係ない話もちょこちょこ聞いてみたので,ぜひ読んでみてほしい。肝心のWarcraftIIIに関する話はあまりないのだが……。余談だが,氏は恰幅がいいだけでなく縦も長い。会場にいた,妙にデカいオークの着ぐるみと素で同じ身長だった。


forGamer.net(以下,4GN):
−−いまだ正式な発売日があいまいなままですが,現在の開発状況はどんな感じなんでしょう。

Bill Roper(以下,Bill):
 最後の詰めに入ってます,という答えじゃダメですか?(笑)
4GN:
−−いや,もうちょっと具体的に(笑)。先ほど(発表会)は,E3でのデモとまったく同じVersionのものが使われていたようですし,ほぼ完成寸前という印象を受けますが?

Bill:
 うん,そうですね。ほぼ完成状態にあって,全社を挙げて最終テスト中です。今週後半には,正確な発売日のアナウンスができることと思います。

4GN:
−−おぉ,もう間近なんですね。開発といえば一度聞いてみたかったんですけど,Blizzardは1作品につき何人ぐらいの制作スタッフが稼動しているんですか?

Bill:
 開発規模や,開発のどの段階かということによっても異なるんですけど,WarcraftIIIに関して言えば,コアチームで30〜35人といったところでしょうか。そのほかにも,QA(編注:品質チェックチーム)で100人前後,シネマ(編注:ムービー)の制作だけで20人となってます。

4GN:
−−これですでに150人ですね……。

Bill:
 でもWarcraftIIIは完成が目の前なので,先ほどもいったように,ほぼ全社を挙げての開発となってます。文字通り"全社を挙げてのプロジェクト"ですね。

4GN:
−−それほどの人数が費やされているWarcraftIIIは,その開発においてもっとも重点を置いた点はなんですか?

Bill:
 プレイヤーみんなが楽しめるように,シングルプレイヤーのキャンペーン部分の調整を図るといった部分でしょうか。その部分はRPGとRTSの融合というもので構成されており,それはWarcraftIIIのテーマでもあったことですし,ずいぶんと時間を費やしました。

4GN:
−−なるほど。しかし我々メディアから見ると,WarcraftIIIという作品はずいぶんと長い時間をかけて開発されているように思えます。

Bill:
 そうですね。昨年のE3でも見たでしょう?(笑)

4GN:
−−もちろん見ました。でも昨年のE3時点で,ほとんどの骨子は完成していたように思えます。今年のE3では"まったく違うもの"へと変わっていましたが,ここまで時間がかかった理由は,その"融合"の部分だと考えてよいですか?

Bill:
 その通りです。単純にRTSにRPG要素を追加するのでなくて,ちょうどいい具合にRPG要素を付け足して,4種族のバランスを整えるために苦心していたといってもよいでしょう。WarcraftIIIはストラテジーゲームだけど,そこにより完璧な形でRPGの要素を加えたかったんです。バランスが取れていないゲームは,何年も遊ぶには適しませんし,それはBlizzardがよしとするところではありません。

4GN:
−−なるほど,今回の作品を見ていると,初心者へのフォローという要素が目に見えて増えたようなんですが,今後のBlizzard作品自体,そういう方向へシフトしていくと考えてもよいのですか?

Bill:
 それはちょっと違います。このタイトルからそれを目指しているわけではなくて,以前からそうなのです。ただそういった地道な作業も,やればやるほど完成度が上がってきて,今回のWarcraftIIIで,初めて目に見える形で花開いたのかもしれませんね。コアゲーマーを取り込める"ゲームの深み"と同時に,初心者(カジュアルゲーマー)も簡単に気軽に遊べるようなものを作っていきたい。それがBlizzardの方針です。

4GN:
−−確かに今回の作品で見えやすくなっただけかもしれませんね。でもオプションクエストの数なども最初に分かっていたりして,それはそれでプレイヤーの"探る楽しみ"をスポイルしているように思えるのですが?

Bill:
 その件に関しては,確かにカジュアルゲーマーを対象にして組み込んだシステムです。でもクエスト以外にもいろいろと隠し要素もあって,マップ探索中にNPCが危機を救ってくれたり,近づくだけで襲われることもあったり,そういう表に出てこない細かいイベントはたくさんありますよ。コアゲーマーのことも忘れてはいないのでご安心を(笑)。

4GN:
−−それを聞いてちょっと安心しました(笑)。先ほど発表会で"3D"にこだわってみたと語っていましたが,世の中には"単に3Dになっただけ"という作品も多いですよね。WarcraftIIIならではの,3Dを生かした戦略性というものはどのあたりにあるのですか?

Bill:
 もちろん3Dになったことによって加味される要素は多いですよね。一つはすぐに分かるように「高度」です。あと「視野の設定」もできますよね。2Dのときのように単にユニットの周りの一定半径が見えるのではなく,一定の視野の部分しか見えない,と。すると,その視野に入らない部分から忍び寄って攻撃したりとか,そういう戦術が容易に考えられますよね。

4GN:
−−なるほど。高度だけじゃなくて「視野」の要素も入っているんですね。

Bill:
 (突如思い出したように頭を指差して)そうそう! もう一つ言わせてください。World Editorでユニットを編集するときに,肌の色や透明度など,そういった見た目の効果を容易に変更できるのも,一種3Dの魅力だといえるでしょうね。2Dではなかなか難しかった部分ですし。

4GN:
−−初代Warcraftが作り上げたといってもよい「リアルタイムストラテジー」というジャンルですが,いまではMicrosoftなどを筆頭としたライバルの大作も数多いですよね。そんな中,WarcraftIIIならではの魅力というものをひと言で表すとしたら何でしょう?

Bill:
 難しい質問だなぁ(苦笑)……あえてひと言でいうなら「キャラクター」でしょうか。キャラクターの深みと,彼らが生きるワールド,織り成すストーリー……。シングルプレイヤー キャンペーンで,そういう生き生きとした世界が描かれたことは,もちろん他のRTS作品では存在しませんし,いままでのBlizzardのゲームにもありません。

4GN:
−−ユニットが多いほど維持費が高いなど,RTSの根本的な問題を解決するような点が多数盛り込まれていて,インタフェースもほぼ完成の域になり,"さすがはBlizzard"という作品に仕上がりつつありますよね。

Bill:
 (二コリとうなづく)

4GN:
−−でも,いままであなたがたが出しているゲームはアクションRPGとRTSだけです。それほどまでに"高い完成度"を誇る会社だし,なにか「まったく新しいプロジェクト」というものは存在しないのですか? 昔はWarcraft Adventureなどもありましたが,最近はWorld of Warcraftぐらいしか表に出てこないのですが,それにしてもRPGですし。

Bill:
 我々は,一介の小さな開発会社に過ぎないので,そういった余裕はなかなかありません。また,RPGとRTSしか作らないのではなく,たまたま開発チームが作りたいのがRPGとRTSだったというだけです。今後についてもまったく不明です。チームがRTSが作りたいといえばそれを作るし,まったく違ったものを作りたいといえば,それを作ります。そういう会社なのです。

4GN:
−−拡張パックの可能性は存在しますか?

Bill:
 拡張パックというものは「ユーザーが何を求めているのか」というものを考慮して作るわけですから,本体もない現在では,まだ何もいえません(笑)。ただまぁ,もちろん"やらない"というつもりもなく,すべては製品発売後,という感じでしょうか。

4GN:
−−ところでウチの韓国スタッフから聞いたのですが,明日13日はアジアプレスツアーの2国め,韓国ですよね?

Bill:
 そうです,そうです(強くうなづく)

4GN:
−−なにやらソウル市内の体育館を借り切って,一般ユーザーを含めた数千人規模でのイベントも行うらしいですね。ある種異様ともいえる熱狂で迎えられる韓国は,Blizzardにとってはちょっと特殊な国ですか?

Bill:
 詳しいですねぇ。韓国には……なんというか……とても驚かされました。我々も相当ビックリしているというのが,正直なところです。なんでStarcraftがあんなに売れたのか,実は我々自身にもよく分かりません(笑)。もちろん韓国だけが重要なマーケットであるというわけではないですが,アメリカ以外で爆発的売れ行きを誇ったのが韓国であるというのは,まごうことなき真実ですね。すごくたくさんのファンが待っててくれますし,個人的には行くのがとても楽しみな国です。

4GN:
−−隣国である我々日本は,本数勝負になっちゃうとまだまだかなわないわけですが,Blizzardから見た日本市場の可能性というのはどんな感じですか?

Bill:
 非常に大いなる可能性を秘めてますよね。なんていうとお世辞だと思われそうなので(笑),説明しておきます。
 日本のPC普及率というのはかなり高いほうですし,ゲーマーの数からいったら,とても大きい市場が眠っているといえるでしょう。実は昨晩もちょうど「腕のいい開発会社はどこだ?」という話でみなで盛り上がっていたんですけど,名前を挙げるとこ挙げるとこ,みんな日本の開発会社なんです。こと話がコンシューマに及ぶと,日本以外で思いつく開発会社は一つもなかったですね。改めてあれにはびっくりしました。やはり日本はゲームの先進国であるのです。


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