2004年2月18日
Text by Gueed

 先ほど「こちら」に掲載したNews編に続き,インタビュー編をお届けしよう。ゲームの話は鳥山氏にじっくりと語ってもらったので,こちらは宣伝プロデューサー小島氏の発言が多めだ。
 ここでは,主にA3のコンセプトや,ちょっぴり変わった運営形態について聞いてみた。また記事の末尾には,業界のアイデアマンとしても有名な小島氏の転職事情についてチラリと書いておいたので,興味のある人はぜひそちらもご覧いただきたい。

【制作プロデューサー】
鳥山主税(とりやま ちから)

前職はWebデザイナーで,「ラグナロクオンライン」のGMとしてガンホーに入社。その後GMリーダー,コンテンツ管理者(Contents Administrator)を経て,テクニカルサービス部ゼネラルマネージャーの堀氏と共に,ローカライズに携わる。ジュノーやアマツなどのアップデート計画に携わった実績のある人だ。
【宣伝プロデューサー】
小島幸博(こじま ゆきひろ)

ソフトハウス「アトラス」での勤務後,ゲーム雑誌やゲームサイトの編集長クラスを歴任してきた生粋の業界人。最近ではゲームオンのMMORPG「ミュー」のプロデューサーも勤めた。「A3」では,宣伝プロデューサーとして,鳥山氏とガッチリタッグを組んで,本作にアイデアマンらしい企画を盛り込んでいく。

■ストーリーを知らなければ,楽しさは50%減(かも)

forGamer.net(以下,4G):
 我々も,公用不可が多い情報の中で何から聞けばいいのか非常に迷うところなのですが,まずは本作のウリになっているストーリーが,ゲームプレイにどう絡んでくるのかを教えていただけますか?
小島氏:
 ストーリーとゲームの絡みを考える上で重要になってくるのは,やはり「キャスティングキャラクター」ですね。すでに公式サイトなどでも彼らの生い立ちや簡単なバックグラウンドを公開中ですが,プレイヤーは,基本的に常に彼らの存在を意識しながらプレイすることになるでしょう。
4G:
 う〜ん,具体的には?
小島氏:
 具体的にですか……(鳥山氏と顔を見合わせながら),正直いうと,その辺りを今の時点で晒してしまうと,ゲームが楽しめなくなってしまうかもしれないんですよ。推理小説でいう「犯人はだれだ?」みたいなノリもありますし。

鳥山氏:
 じゃあこういう風に説明しましょう。
 現状こちらで用意しているストーリーは,全部で五つのエピソードに分かれています。ちなみに話の流れは"エピソード",システムのバージョンは"パート"という呼び方で用意していくつもりです。
 で,最初のエピソード0はキャスティングキャラクター達,つまり現在公開されているストーリーでいえば"伝説の騎士団"が登場する時代。そしてエピソード1以降がプレイヤー達で紡いでいく時代という流れになるんですよ。
 プレイヤーは,公式サイト上でだんだんと公開されていく話やゲーム中のクエストのなかで,キャスティングキャラクター達の関係や過去に何があったかを知ることになります。それこそが,ストーリーを楽しむという部分なんです。それでなくても,公式サイトでのストーリー説明も連載小説形式になっていますし。


小島氏:
 キーワードっぽくいうなら,"年表の穴の開いた箇所を埋めていく"という感じでしょうか。実際,この部分を意識せずにプレイすると,A3の楽しみは50%減ぐらいにはなっちゃうんじゃないかなぁ。いや,もちろんストーリーに関係なくガンガン進んで楽しい人もいるでしょうけど(笑)
 ただ,その部分がほかのMMORPGとA3を差別化している部分だということは認識してもらいたいですね。
4G:
 今のMMORPGのストーリーって,あってないようなものが多いですからねぇ,確かに。
小島氏:
 そういう意味では,A3は"コンシューマ寄り"の楽しみ方を提供できると考えています。ストーリーを追いかけられるという意味では。しかもオンラインゲームだし,プレイヤーも介在できてしまうという。「みんなでロード・オブ・ザ・リング作ろうぜ!」みたいなノリですね。それってなんか楽しそうでしょう?
4G:
 出来るなら確かに面白そうです。ちなみにそのストーリーの中に,本当に"18禁に値するような話"はあるんですか?
小島氏:
 それこそ明かせないのですが,(キャスティングキャラクターの資料を指しながら)たとえば○○は××に△△だったり,その××が□□で△△だったりするんですよ。これはほんとに内緒ですよ。
4G:
 な,なるほど……。


■ユーザーは,「課金されてもいいゲーム」を探しているはず

4G:
 ちょうど"差別化"の話が出たので伺いますが,「A3」は"ガンホーの二作め"という無視できない(?)肩書きをもってますよね。以前CEOの森下氏は「オンラインゲームを複数運営しても,プレイヤー層の衝突はない」とおっしゃってましたが,正直,次期サービス予定の「TANTRA」なんかとは被っちゃうんじゃないのかなぁと思うのですが。
小島氏:
 たしかに現在運営中の「ラグナロクオンライン」(以下,RO)と比べれば,TANTRAはA3に近い雰囲気があるでしょう。でも,そこは"やりよう"だと思うんですよ。
 それが今回の人数制限の厳しい「リミテッドサービス」(クローズドβテスト)や,R-18指定という結論に至った理由でもあります。
 ROのように絵柄が可愛くて,誰でも,それこそ小学生でもログインしているような環境でのゲームはちょっと……という人もいるだろうし,リネージュIIを始めとした,いわゆる"硬派"な討伐系のMMORPGもちょっとなぁという人もいると思います。
 そんな人達のいく場所としてA3があればいいなぁと。こんなのもありますよと。そしてみんながR-18という制限やクレジットカードによる認証をくぐり抜けてくるわけですから,自然と一体感も生まれますよね。
4G:
 リミテッドサービス(クローズドβテスト)の段階でクレジットカードを要するっていうのは,確かに異例でしたね。
小島氏:
 そういう意味で,"本気のプレイヤー"が集まってくれるんじゃないかなと期待しています。ちなみにGueedさんは,実際にどんなMMORPGをプレイしてます?
4G:
 う,なんか逆に聞かれてますね(笑),私はMMORPGはそんなにガンガンやり込んでいるわけではないですが,EverQuestが好きで長くやってます。
小島氏:
 今こんなにいろんなタイトルがあるのに,なぜEverQuestを?
4G:
 う〜んなんというかですね,ほかのMMORPGももちろん気になってさわりだけプレイしてみるのですが,結局やってみたら「あ,これならEverQuestでいいや」と思っちゃうんですよ。基本的に盛り込んである要素は似たようなものだし,それなら歴史もあって洗練されてるEQでいいやと。
小島氏:
 それって,簡単にいうと「課金されるならこのタイトル」っていう感じじゃないですか?
4G:
 たしかにそんな感じですね。自分の中で常に課金されるべき(されてもいい?)タイトルを探しているのは自覚してます。
小島氏:
 ですよね。ゲーマーにとってそこは"セカンドライフ"なわけですから,キチンと遊んでキチンと課金されたいという欲求は必ずあると思うんですよ。もちろんない人もいるでしょうけど,生活の一部にしたい人は必ずいるはず。
 「A3」は練りこんだ世界観と,本気のプレイヤー層によって,その欲求に答えられるようにしたいと考えています。ガンホーの二作めだっていう自負もありますし(笑)

■オンラインゲームの(悪い意味での)常識とマンネリ

4G:
 今回A3では,オープンβテストは行わないとのことですね。現在のMMORPGにおいて,広告効果を前提に当たり前のように繰り返されているこのオープンβテストをなぜやらないのですか?
小島氏:
 それを言われると,「逆になぜやるんですか?」と問いたくなりますね。そもそもオープンβテストそのものが,業界の悪しき習慣だと思っていますし。
4G:
 そうなんですよ。それには激しく同意させてください。そもそもですね,オープンβテストはバイナリファイルの価値を下げるだろうし,最終的な収益が不透明な中でランニングコストだけをかけ続けるのは博打としかいいようがないでしょう。はたから見てもビジネスとして成り立つとは到底思え(筆者しゃべり過ぎのため中略)。
 ただ"宣伝効果"という意味では,やはりタイトルの知名度に影響が出ませんか?
小島氏:
 もちろん,MMORPGの運営で一番重要視するのは"ビジネスとして成り立つか"という部分ですからね。でも実際にそれほど知名度に影響が出るとは思っていません。というより,そろそろこのMMORPG運用モデルを脱却しなければならない時期だと思ってるんですよ。
 韓国や欧米からMMORPGが入ってきて,これまでのようにクローズドβテスト,オープンβテストを経て正式サービスへ,という流れは第1世代,または1.5世代のタイトル(具体的なタイトル名も出た)のものですよね。そして時代はリネージュIIやA3,いわゆる第2世代に流れてきた。ここで同じことをやるのはまったく意味がないし,もう従来のやりかたではダメだということは目に見えてるんですよ。真似するだけじゃダメ。
 そこで,リネージュIIは「βテスト用のパッケージ販売」などをやりましたし,A3でも「リミテッドサービス」と題して,リミテッドサービスキットを用意しました。またリミテッドサービスの参加者以外にはゲームの情報も断片的にしか得られないような配慮もしてあります。
 そうすると,やっぱりちょっと"覗きたく"なると思うんですよ。「A3」ではオープンβテストではなく,こういう惹きつけ方を選んだという感じですかね。
 だって実際には「リミテッドサービスキットをどうやって手に入れるか」というところから,プレイヤーは興味をもってくれるでしょうから。
4G:
 あの厳しい情報規制にはそういう理由があったんですね。話を聞いていると,確かに今までとは手法の異なる運用モデルのようですが,じゃあゲームプレイが始まってからも,なにか"従来のものと意図的に変えていく"要素はあるんですか?
小島氏:
 例えば,季節イベントなどですかね。あれも正直いって「とりあえずやっとこ」みたいなマンネリさも感じなくはないですね。節分には豆撒き,バレンタインデーにはチョコレートといったようなものです。私はそれと同じことをやるつもりはなく,以前携わっていたミューの時でも,「現実に絡めたイベント」(編注:現実世界で雨が降れば,ゲーム内でも雨が降る)など,いろいろな試みをしてきました。
 もちろんイベント自体をやらないかといえば,やることもあると思います。ただ必ずこれまでにはない趣向を盛り込みますよ。まだ言える段階ではないですけどね(笑)

■リミテッドサービスの今後について

4G:
 それでは広報さんが時計をチラチラみているようですし(時計を見るまでもなく,時間は大幅にオーバーしていたが),今後のお話を。とりあえず目の前のリミテッドサービスがどうなるか非常に興味深いのですが,これ,実際には何人ぐらいの参加者を募られるんですか?
小島氏:
 内緒です(笑)。というか数字を出すことに意味が感じられないんですよ。「同時接続者ウン万人!」とか「βテストウン万人!」とかね。
4G:
 でもプレイヤーは,自分のプレイするゲームの参加者数や知名度を知りたいと考えるのでは?
小島氏:
 数字を出さないことのメリットもキチンと考えた結果ですよ。先ほどもいった"覗きたい"という欲求をそそる意味もありますね。だからこれからも,A3では限られた数字しか出さないと思いますよ。
4G:
 徹底してますね。じゃあ数字はおいといて,リミテッドサービスに追加の参加者募集の予定はありますか?
小島氏:
 それは,実のところ"ある"という答えになります。ただし。ただしですよ,リミテッドサービスキットは初回受け付け(2004年2月23日現在募集中)分のプレイヤーしか手に入れられません。それぐらいこの"リミテッドサービスキット"はレアな扱いなんですよ。
4G:
 現実的には,それがないとゲームの世界を覗けないわけですから,興味をもった人なら是が非でも入手したいところですね。
 ところで,βテストの段階でプレイヤーからのフィードバックやガンホー側での仕様確定があると思いますが,本家Actoz Softの支援はキチンと受けられそうですか? 海外産のタイトルだけに,アップデートだのパッチだの,なんだかんだで気になるところなんですが。
小島氏:
 (ニヤリ)←意味深

鳥山氏:
 実はつい先日まで,Actozさんとその辺りの折衝をしてたんですよ。反応は……まぁ良好といっておきましょう。できる限りの支援をしてくれる約束は取り付けてあるのでご安心を。

■両プロデューサーのシンクロ率は400%?

4G:
 では現在は実装レベルのアイデアをバンバン生み出している段階ですね
小島氏:
 そうですね。安心してください,僕と彼(鳥山氏)のシンクロ率は400%ですから(笑)。「ねぇねぇ,こんなのどうかなぁ?」「おお,ちょうど今それ考えてたとこ」みたいなやり取りがしょっちゅうあるんですよ。アイデア面,実装面共にいい仕事ができそうです。
4G:
 じゃあ最後に,A3になんか"カッコイイ"キャッチでもつけてみてくれませんか。
小島氏:
 えーとですね,「Love and Hate」かな。「愛さなければ,憎しみは生まれない」っていう意味です。
4G:
 おお,まさにA3にぴったりな感じ。でも,以前プレス向けの資料にあったのは「Love is Magic」だったような気も……
小島氏:
 ああ,あれはウチの森下の趣味ですね。というか,韓国のそのままだったのを僕がこれに変えました(笑)
4G:
 そうですか(笑) 本日はどうもありがとうございました。

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 と,インタビューはここまで。
 遅くなったし帰ろうかなとも思ったが,せっかく小島氏がいることだし,記事を読んでいる人(とくに「ミュー」のプレイヤーかな)が気になっているであろう,小島氏がA3のプロデューサーになったいきさつについて,チラッと聞いてみた。
 もちろん話せないこともたくさんあるのだろうが,まぁ大体は以下のようないきさつらしい。小島氏いわく,ミューのプレイヤーにはぜひ聞いてほしいとのことだ。

小島氏:
 正確には,私は11月1日の組織変更でミューのプロデューサーから離れています。「監督が代われば映画は変わる」という私の信念でいうと,その時点でミューは私の手から外れたことになりますね。
 で,編集職に戻ろうかなぁどうしようかなぁなんて考えていたんですけど,僕はもともとバーチャルリアリティに興味があってこの業界に入ったわけだし,やっぱりゲームに携わりたいなぁと思ってました。さらにそのとき気になっていたタイトルが三つあって,そこにA3もあったんですよ。そこで,以前から面識のあった森下氏や,テクニカル部ゼネラルマネージャーの堀氏もいるガンホーにいったわけです。それが2003年の12月22日。だからまだガンホーに来て日は浅いんですよ。

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