前編 3/3
Text by トライゼット 西川 善司
より細かな設定に挑戦する
ここからは,前段までで解説した設定項目よりも,より高度な……というか細かい設定を行うセクションだ。なお使用しているPC環境によっては,なんの効果もない設定がある点に留意していただきたい。
Options
PureDevice〜ハードウェアT&Lの高速モード
ハードウェアT&Lを高速モードで活用する設定。チェック・オンにすると高速モードになるが,大して速くはならない。
Hardware VP〜ハードウェアT&Lを使うか
Hardware Vertex Processingの略。ハードウェアT&Lを活用するかどうかの設定。チェック・オンで活用する設定になる。前出のPureDeviceとペアで効く項目だ。
Wait For Vsync〜垂直同期を待つか
画面描画を垂直帰線期間内に実行させるかどうかの設定。
ビデオカードはある決められた一定周期(リフレッシュレート)で映像を出力している。逆にいえば,表示していない期間もあるということだ。これを垂直帰線期間という。
このチェックをオンにすると,ゲーム画面描画を表示していない垂直帰線期間が始まったときから開始するようになる。結果,画面表示のブレが軽減されて見やすくなる。ただし,リフレッシュレートが高すぎたり,GPU性能が追いつかない場合,この設定では描画が間に合わないこともある。ゲームが遅いと感じたら外してみよう。
Depth Pass〜Zバッファの活用
シーン内の深度情報(Zバッファ情報)をレンダリングに使用するかどうかの設定。
TR6における深度情報の活用は,後述するさまざまな特殊効果の実現と密接な関わりがあるので,チェック・オンして有効にしたい。
Use Cg Compiler〜Cgコンパイラの活用
シェーダプログラムをCg Compilerを使って生成するかどうかの設定。チェック・オンで使用する設定になる。
GeForceFX系GPUで効果が高いはずなのだが,TR6のシェーダプログラムがそれほど複雑でないこともあってか,目に見えるほどの高速化はない。気持ちの問題という感じだ。
なおCg CompilerをPCにインストールしていなければ,このチェックボックスは不活性化されている。Cg CompilerはNVIDIAの開発者向けサイトより入手可能だ。「こちら」のCg
Compilerをダウンロードしてインストールしてみよう。
Vertex Shader〜プログラマブル頂点シェーダの活用
ジオメトリ処理にプログラマブル頂点シェーダを使用するかどうかの設定。DirectX 8世代以降のGPUユーザーは,オンにして使用する設定にするべき。
Pixel Shader1.0/1.4/2.0〜プログラマブルピクセルシェーダの活用
プログラマブルピクセルシェーダを使用するかどうかの設定。どのバージョンを使用するかを細かく設定できる。詳しくは,前出の項目「Default」の解説を参照のこと。
ちなみに,なぜかこちらのほうのプログラマブルピクセルシェーダのバージョン表記が1.0になってしまっているが,1.1の間違いだと思われる(1.0は表向きには欠番扱い)。
Query
Direct3DのQueryクラスのことか,それともTR6のプログラム実行ファイルに対してのコマンドライン指定に関することなのか,よく分からない。実際,これをオンにしてもオフにしてもゲーム画面に大きな変化はない。デバッグ用オプションか?
Bumpmaps〜バンプマッピングの活用
バンプマッピング表現を使用するか否かの設定。チェック・オンで活用する設定になる。
バンプマッピングとは,よくいわれる表現で解説すると「ポリゴンに凹凸を貼り付ける技術」ということになる。が,実際には「凹凸があるかのような陰影処理を行っている」だけ。……すなわち「凹凸があるように見える」だけであり,実際に凹凸が出来るわけではない。最近では「法線マップ」という呼び方も定着しつつある。
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バンプマッピングあり。正確には環境バンプマッピング。コンクリートの地面の細かい凹凸がバンプマップで表現されている。雨で濡れた感じを環境マッピング(映り込み)で表現している |
バンプマッピングなしで環境マップだけになると,コンクリートが一面水浸しのようなビジュアルになってしまう |
Skin〜スキニング処理の有無
スキニング処理を活用するか否かの設定。チェック・オンで活用する設定になる。
キャラクターの関節が曲がったりした場合,その関節付近の外皮ポリゴンの頂点が破綻しておかしな形になってしまうことがある。スキニングとは,指定されたバランスで頂点同士を融合させたり変位させる処理(頂点ブレンディング)を行い,この破綻を回避して自然に見せる処理系のこと。オンにしておいて損はない項目だ。
Fog〜フォグ(霧)表現の有無
遠景描画に霧,霞を組み合わせることで,「空気遠近」的な効果を出すフォグ処理を活用するかどうかの設定。好みでオフにしてもいいと思うが,歴代のトゥームレイダーの雰囲気を味わいたいならばオンにしておくべきか。
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フォグ無しの「パリの貧民街」の朝のシーン |
フォグ有りの「パリの貧民街」。早朝という雰囲気がよく出ている |
FMV〜ゲーム中のムービーの再生方式の設定
FMV(Full Motion Video)にまつわる設定。TR6におけるFMVとは,要はゲームにたびたび挿入されるプリレンダーのムービーシーンのこと。
ここをチェックすることで,以下の三つの中からFMVの再生方式を選択できる。すべてチェックした場合は,利用可能なものから自動的に手法を選択して利用される。
なお再生される映像は,インストールフォルダ(デフォルトでは「C:\Program Files\EIDOS\トゥームレイダー 美しき逃亡者\Data\FMV」)にMPEG1ファイルとして格納されている。
VMR9
VMRとは,Video Mixing Rendererの略。VMR9は,DirectX 9のVMRのこと。ここをチェックするとゲーム中のムービーがVMR9フィルタ経由で再生されるようになる。
VMR9フィルタではGPUの3Dエンジン内でムービーがレンダリングされるようになるので,再生映像に対し,GPUのさまざまな3Dグラフィックス機能を利用した効果が付けられるようになる……のだが,TR6においては無関係。見た目に違いはない。
Overlay Mixer
DirectX 7以前の主流テクノロジであったオーバーレイ・ミキサー・フィルタを用いて映像再生を行う,互換性が高い方式。
具体的には,映像再生専用のビデオオーバーレイサーフェースに映像をレンダリングし,これをメイン画面へカラー・キー合成する形で表示する。GPUの3Dエンジンは関与しない,DirectDrawによる2Dベースの映像表示形式だ。
やや古めのビデオカードや,VMR9でおかしくなったら,"これのみ"をチェック・オンにするといい。
Texture Renderer
映像再生に,映像をテクスチャに生成して表示するテクスチャ・レンダラ・フィルタを活用する。
Overlay Mixerがだめなときに使ってみるとよい……ということのようだ。
見た目で違いがすぐに分かるテクスチャにまつわる設定
テクスチャの取り扱いに関する設定を行うのがここ。結構見た目が違ってくるので,調整のし甲斐がある。
Textures〜テクスチャ
Filter Room/Filter Object/Filter Env/Filter Actors/Filter Bump〜テクスチャフィルタリング手法の選択
テクスチャのフィルタリング手法を設定するところ。TR6では描画オブジェクト別にテクスチャフィルタリングの種類を設定可能。
具体的には,
Filter Room |
壁や床のテクスチャ |
Filter Object |
小道具や大道具などの静的オブジェクトのテクスチャ |
Filter Env |
環境マップ(映り込みテクスチャ) |
Filter Actors |
人間や動物などの,変位や移動する動的なキャラクタに対するテクスチャ |
Filter Bump |
バンプマッピング用の法線マップ |
といった種別が設定され,それぞれに個別のフィルタリング手法が設定できる。ここまで細かくプレイヤーに設定を解放する3Dゲームは珍しい。
ちなみに,テクスチャフィルタリングとはテクスチャ貼り付け時に発生する格子ノイズ(ジャギーといってもいいかもしれない)を軽減する目的で利用される。
設定できる手法としては,
[最良] |
Anisotropic(異方性) |
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Trilinear(トライリニア) |
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Bilinear(バイリニア) |
[最速] |
None(なし) |
といったものがある。
「None」はフィルタリング無しで,格子ノイズが顕わになるが,GPUの負荷が最も少ない。「Bilinear」は周辺テクセルとの平均色で補間する手法。格子感は軽減されるが全体的にピンボケ的な感じに見える。「Trilinear」は「Bilinear」処理に加え,MIP−MAPと呼ばれる遠景オブジェクト用に高品位に生成した縮小テクスチャからのテクセルを吟味したうえで,より精度の高いフィルタリングを行うもの。
「Bilinear」の2次元的処理に対し,「Trilinear」は3次元的な演算になるので,「Bilinear」よりもずいぶんピンぼけ感が軽減されるが,視点から急な角度の付いたテクスチャなどではまだまだボケみが強く出る。
これに対し「Anisotropic」(異方性≒処理様式がインタラクティヴに切り替わる)は,視線とテクスチャを貼り付けるポリゴンの傾き関係等も吟味し,その都度最適なテクセル処理を行う。GPUに対しては結構な負荷がかかるが,その分効果は絶大だ。下画面にその違いを示したので見てほしい。
TR6を含め,最近のPCゲームはテクスチャ解像度が高くなっているので,異方性フィルタリングの効果は高い。高速GPUを持っているならば,ぜひともこれで設定したいところだ。
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「Trilinear」フィルタリング適用時の画面。きつい角度で奥に見えるカーテンの模様に注目。模様がはっきりしないもやっとした感じになっている。ちなみに「Bilinear」では,奥だけでなく,手前からピンぼけ感が漂ってしまう |
「Ansotropic」フィルタリング適用時の画面。カーテンの模様が手前から奥まで美しく縮小されて見える。それでいてゴチャゴチャした感じや,ピンぼけ感も少ない |
Quality Room/Quality Actors〜テクスチャ品質の選択
テクスチャ品質の設定で,
[最良] |
High(高) |
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Average(平均的) |
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Low(低) |
の3種類が選べる。
「Quality Room」は,背景や静的オブジェクトのテクスチャ品質を設定する項目。「Quality Actors」は,人物などの動くキャラクタのテクスチャ品質を設定する項目だ。Highが最良ケースで,最も美しい画面が得られるがその分ビデオメモリを多く消費する。
単にテクスチャのディテールの問題だけでなく,ポリゴンに適用するマルチテクスチャリング数の上限もこの設定項目で決定づけられる点に注意したい。
例えば"Low"設定では,一部のライトマップ処理が省略され,ラジオシティ(相互反射)ライクな柔らかな光と影の演出が省略されてしまう(下図参照)。
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Room,Actors共に"LOW"設定にした例。床の絨毯の模様のディテールが"High"設定に比べて大ざっぱになっているのがよく分かる |
Room,Actors共に"High"設定にした例。テクスチャの品質だけでなく,床のテーブルの影,左奥の本棚の影も"Low"設定時には省略されていたことが分かる。こうした陰影はライトマップで実現されており,"High"設定でないと省略されてしまう |
Format RGB/Format ARGB〜テクスチャ・フォーマットの選択
TR6のグラフィックスエンジンが用いる内部テクスチャフォーマットを規定する設定。
「Format RGB」では透明度要素を持たないテクスチャのフォーマットを,「Format ARGB」では透明度(αチャンネル)要素を持つテクスチャのフォーマットを設定する。
設定出来るフォーマットは,いずれの設定項目においても
Compressed DXT1
Compressed DXT3
Compressed DXT5
32bit A8R8G8B8
32bit X8R8G8B8
16bit X1R5G5B5
などが選択可能(GPUによって多少の差異有り)。
Compressed DXT1/3/5は,テクスチャ圧縮フォーマットのこと。テクスチャデータを数分の1に圧縮した状態でビデオメモリに格納できるので,1シーンあたりに膨大なテクスチャを適用する最近のPC
3Dゲームでは積極的に活用されている。
DXTnは不可逆圧縮アルゴリズムなので,圧縮されたテクスチャは画質が劣化することになるが,1テクセルがレンダリング結果の1ピクセルに対応することがごくまれな3Dグラフィックスにおいては,ほとんど無視できるレベルとされている。
DXT1/3/5は,圧縮するテクスチャの種別(αチャネルの有り無しや,その精度)によって使い分けなければならず,うかつに変更すると画面描画がおかしくなる。
通常はデフォルト設定である,
Format RGB→Compressed DXT1
Format ARGB→Compressed DXT3
のままにしておけばよい。
ドライバの不具合などでDXTnが正常に動作しない場合などでは,項目「Format RGB」に対してはXで始まる形式(例:X8R8G8B8など)を,項目「Format
ARGB」に対してはAで始まる形式(例:A8R8G8B8など)を選択するといいだろう。
後編へ続く
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