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D3は,次世代3Dゲームグラフィックスの標準となる
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D3では,壁や床などのテクスチャは法線マップ(≒バンプマップ)とペアでマッピングされる。PCゲームではGPUのビデオメモリの大容量化とプログラマブルシェーダ搭載化に伴って,法線マップ貼り付けは一般化しつつある |
ここからは,Huang氏とHollenshead氏の談話から,印象に残ったやりとりを抜粋してお届けしよう。
Jensen Hunag氏(以下JH):NV1(Edge3D)を覚えているだろうか? 私を含めた当時のNVIDIA全社員が,NV1で動作させた「Doom」に夢中になった。続いて「Quake」だ。あれはPC用3Dゲームの歴史を語るうえでは,忘れられないタイトルだろう。リアルタイム3Dグラフィックスの面白さを一般ユーザーに普及させた,一大事象であったと思う。では,D3はどんなインパクトを与えるものになるのだろうか。
Todd Hollenshead氏(以下TH):「Quake3」では,ゲーム側にソフトウェアレンダリングエンジンを搭載しなかったため,3Dビデオカードが必須となった。ソフトウェアレンダリングで成功基盤を築き上げてきた我々にとって,あのときの決断はとても勇気のいるものだったが,結果的にJohn
Carmackの判断は間違っていなかった。Johnという男は,いつも我々よりも先を見ている。D3では,法線マップを当たり前のように使っているし,リアルタイム光源処理とステンシルシャドウボリュームによる影生成もあり,現在の多くのGPUにはかなりつらい処理になるだろう。しかし,これが次世代3Dゲームグラフィックスの標準となるに違いないと思っている。
JH:GPU業界は,32nmプロセスルールに向けて,いわばナノテクノロジーに向かって進化を続けている。3Dゲーム業界もこれと共に進化していく事は間違いないだろうが,その進化の過程で直面する問題などはあるだろうか。
TH:GPU業界が,1秒間あたりのピクセル描画数を増加させていくのに伴うように,3Dゲーム制作においても人員とコストが年々増加する傾向にあり,これが一つの問題となっていると思う。予算の範囲内で,スケジュール通りに制作を完了し,妥当な時期に発売するということが難しくなってきている。我々のような小さいゲームスタジオでさえ,D3は「Quake
2」の2倍にあたる22人で制作しているほどだ。
それと,知的所有権や著作権の問題がある。ブロードバンドの普及のおかげで,ギガバイト単位のデータのネット共有すら現実のものとなっている。ちなみにD3はフルインストールすると3GB以上になるが……(笑)。ソフトウェアビジネスで働いている我々にとって,これは重大な問題だろう。
そして表現の自由についての議論もある。世間では暴力描写を制限するような議論も盛んだが,もはや我が社は,野菜を撃ったりするような子供向けのゲームは作れない(笑)。3Dゲーム業界の進化を止めないためにも,さまざまな内容のゲームコンテンツが,プレイするのに適した人々に正しく行き届くような努力をしなければならないだろう。
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Huang氏も夢中になったという「Doom」(左)と,その続編「Doom 2」(右) |
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Quakeシリーズの系譜。Quakeシリーズは,発表されたその時代の3Dゲームのベンチマーク(標準的存在)となった |
「私は自分の意志でここに来た」Todd Hollenshead氏
ディスカッションの後半は来場者からのQ&Aを挟みつつの進行となった。
【Q】NVIDIAとid Softwareの関係について教えてください
TH:今回私は,ここにギャラをもらってではなく,自分の意志で来ました(笑)。NVIDIAは1996年以来,我々にとって最も重要なパートナーです。John
Carmack氏はNVIDIAのテクニカルアドバイザを務めていますし,我が社のアーティスト,デザイナー,プログラマのすべてがGeForceFX 5900Ultraを使っていることからも明らかでしょう。
では,なぜ我々id Softwareが,GeForceFXシリーズを使うのか?
その理由の第一は,パフォーマンスです。ゲーム開発の世界では「時は金なり」であり,デザイナーがデザインした映像を高速に描けなければならないし,これをリアルタイムで動かしての描画テストもスムースでなければなりません。いかなる状況下でもハイパフォーマンスを提供してくれるGeForceFXシリーズこそ,我々にとってベストな選択なのです。
そして第二に信頼性があげられます。ゲーム開発現場では常に安定動作してくれることも重要です。「何がおかしいのか分からない」という状況が,一番深刻な問題となるからですが,GeforceFXシリーズには,そのような心配がありません。
最後はアクセシビリティ(≒サポート体制)です。NVIDIAは常にオープンで,我々側で生じた問題への対応も,Eメールを送ればすぐに対応してくれます。
JH:ソニーのPlayStation3などは,最新テクノロジの積み込まれたとてつもなく複雑なプロセッサを,ただゲームのためだけに開発して搭載するといいます。3Dグラフィックスのような複雑で高度なテクノロジの発展は,最新のソフトウェア技術と最新のハードウェア技術のコラボレーション無しではなしえないと考えます。その意味において,NVIDIAとid
Softwareの関係というのは,この業界の中の模範的な一例といえないでしょうか。
【Q】開発元は,最新GPUの最新3Dグラフィックステクノロジを使いたいが,多くのPCユーザーにゲームを楽しんでもらいたいがために,ゲーム販売元がそれを抑制するというのが現状だと思うのですが?
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D3より。3Dゲームでもここまで写実的な表現が可能になった。NVIDIAの推進するシネマティック・コンピューティング時代はGeForceFXによって,まさにたった今,幕が開かれたばかりなのだ |
TH:幸運なことにid Softwareにはそういうことはありませんでした。我が社にはJohnがいるし(笑)。ただ,どのビジネスにも,「革命者」と「追従者」というものがいると思います。革命者は成功すれば大きいが,失敗のリスクがつきまといます。追従者は,そういった危険性からは逃れられる代わりに,限られた枠で成功を目指す術を探らねばなりません。
Johnのいる我が社は,まさに前者といえるでしょう(笑)。「Quake 3」では他社に先駆けてハードウェアT&Lに対応しましたが,その後ハードウェアT&Lへの対応は当たり前となりました。誰かが,いつかどこかでブレークスルーを行うのは自然なムーブメントなのだと思います。
JH:さらに1点補足すると,ここにお集まりの皆さんの多くは「赤対緑」(*1)に興味が集中していると思う。車でいうならばフェラーリ対ポルシェとでもいいましょうか。この戦いの中で,John
Carmackのような最高のレーサーの運転によって,最新グラフィックス技術は確かに進化するでしょう。
しかし,すべての消費者がフェラーリやポルシェが欲しいと考えてはいないということも考えてみてください。私が言いたいのは,統合グラフィックスの重要性です。今やグラフィックス統合チップセットは3D機能まで持つようになり,基本的な3Dゲームは動作するようになりました。圧倒的な普及率を誇る,この統合グラフィックス環境で3Dゲームが動けば,3Dゲーム市場がよりいっそう広がることでしょう。追従者の力でも,リアルタイム3Dグラフィックス技術は進化するし,市場は広がることを忘れてはならないと思います。
(*1)赤はATIのイメージカラー,緑はNVIDIAのイメージカラー。近頃のGPU業界では,隠語としてATI対NVIDIAを「赤対緑」と表現することが多い。
【Q】NVIDIAが推進するキーワード「シネマティックコンピューティング」の意味するところはなんでしょう?
JH:高品位なリアルタイム3Dグラフィックスを,みんなのものにすることです。
昔,インターネットは技術者だけのものでした。ところが今はどうでしょう? 老若男女が利用し,映像やニュース配信までが行われる大衆向けメディアとしての地位を確立しています。フルCGアニメは,今でこそ当たり前の表現手段ですが,これは映画「トイストーリー」の前にだって一般人が知らないだけで存在していました。
我々NVIDIAが目指すのもまさにそこで,リアルな3Dグラフィックスを,当たり前の存在にすることなのです。
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