― 特集 ―

メーカー vs. 業者。RMTがはらむ問題と可能性をめぐる座談会

Text by Kazuhisa/Guevarista,Photo by kiki 

前へ 1 2 3 4 5 6 7 8  
ゲーム性と深く関わる,RMTの有害度合い

宇田川氏
 あっちゃいけないというか,想定外のものだからじゃないですか?

 

澤氏
 想定外……うん,だからやられても取り締まれないしさ。詐欺が起きても中国人ゴールドファーマーがいっぱい来ても,Botが湧いても取り締まれない。だけど,規約に禁止と謳うことはできる。禁止をやぶったあとどうこうという話じゃなくて,そもそも距離を置くためのものなので。

 

4Gamer
 なるほど。

 

澤氏
 逆にElectronic Artsさんとかに行ったら,話は全然違うと思うんですよ。

 

宇田川氏
 Electronic Artsさんは,どうしてOKなんでしょうね?

 

4Gamer
 OKとは言ってないと思いますが,先ほど来述べてきた論点と逆で,付随して起こることにいちいち介入するのが煩わしいのでは。

 

澤氏
 あとはゲームデータ上,大量のアイテムやゲーム内通貨が発生しても,大丈夫な作りなんでしょう。RMTであろうとあるまいと,ゲーム内で起こる通貨の移動を,問題ないと判断しているからでしょうね。

 

宇田川氏
 ふむふむ。

 

澤氏
 プレイヤー層の年齢とかね。お金の行き来が生じても問題ない,大人なプレイスタイルが存在するというか。

 

4Gamer
 「ウルティマ オンライン」にとって,お金はあまり関係のないものなのかもしれないですし。アイテムもGoldも,さほど重要ではない,ということですかね。聞いてみたことがないので,分からないのですけれども。

 

澤氏
 禁止しているゲーム,していないゲームで,それぞれ特徴がありますよね。それはゲームデザインと関わっているので,禁止しているゲームでは本当にマズいんですよ。言うとマズいのかな,これ(笑)。
 レベル上げの時間を事実上お金で買うとかっていう需要の,発生しやすいゲームデザインというものは存在するし,そういうゲームの運営サイドはそれを分かっているんだよね。RMTみたいなのをなくそうと思ったら本来,RMTが存在し得ない価値観のゲームを作ればいいんだけど,それが作品の形を規定するのもどうなのか。一方でまさにゲームだから「ショートカットしたい」と考えるプレイヤーさんも出てくるし。
 メーカーとしてはそういう構図が分かったうえで,ぶっちゃけた話,プレイヤーから正当にお金を取り続けたいわけで。

 

宇田川氏
 うーん。

 

澤氏
 RMTで強い装備を揃えられて,それで「ゲームが終わっちゃった,もうやらない」というのが,正直恐いというか。あり得ないことではないですし。そういった事柄も含めてRMTを禁止しているんです。
 だからメーカー自身も,お客さんに「なんでRMTを禁止しているんですか」と言われたときに,理路整然と理由を説明しているところは,あまりないと思うんですよ。

 

4Gamer
 それは言えますね。

 

澤氏
 それに答えられる運営に自分はするからいいんだけど。「お客さんがすぐにゲームを終わらせてしまっては,ビジネスにならないから」というのも,談話ベースではしゃべっちゃっていいと思うんですよ。そんなことをいちいち勘ぐられていても,しょうがないというか。

 

4Gamer
 隠したところで,あまり意味ないですしね。

 

澤氏
 そうそう。その意味で我々が守るのはゲームの世界であって,RMTはどうしてもゲームの世界を飛び越えたところでなされることではある。
 まあ「禁止したい」というたった一文ではあるんですが,いろいろな思惑と,それに連鎖して起こる現象があって。禁止にせざるを得ないといったところでしょうか。

新しいマーケットへの挑戦としてRMTを位置付けるなら

4Gamer
 今日の話を総合すると,お互いにお互いの立場を分かったうえで,結局どうしようもないというのが結論になってしまうのでしょうか。

 

澤氏
 そう。「分かり合えない」ということを分かるのが成果。

 

4Gamer
 公序良俗 vs. 現実,責任範囲の問題。サーバー内をどうすべきかは,メーカーが責任を負うことであって,本質的に第三者がどうのこうのと言うべき問題ではない。

 

宇田川氏
 ええ,一番言うべきじゃないのがRMT業者なんですよ。今の話に付け足して言うなら。でも,放っておいてよい問題ではない。

 

澤氏
 まあ,プレイヤーさんの意見を総合すればそうなりますね。「RMT業者が言うな」と。だからこそ,ジーエムエクスチェンジさんの発言が逆にさらにうさんくさくなっちゃってるんですよね。
 こうした機会に話して面白かったのは,ただ「もうかるからやってる」と言うわけじゃなくて,信念的なものをきちんと探そうとしている点ですね。

 

4Gamer
 ほうほう。

 

澤氏
 「ゲームの文化にどう貢献できるか」と考えている点は面白いわけです。ただそこで,Botが,中国人ゴールドファーマーが,といった問題を引き合いに出すんじゃなく,「オンラインゲームは通貨システムも含めて新しい世界なんです。我々はその新しい世界に向けて,正しい取り引きの確立に向けて,チャレンジしているんです」と言っちゃったほうが,うさんくささが消えると思うんですよ,僕は(笑)。

 

一同:(笑)

 

澤氏
 「付随して生じる問題の解決に協力できます」と言ったところで,「規約違反を助長しておいて,何を偉そうに」ってなっちゃうから,これはもう「新しい価値観を創造する,今までにないマーケットなんだ」と言ったほうがいい。

 

宇田川氏
 なるほど……。

 

澤氏
 確かにRMTというアプローチをとるんだけど,そこには正しい取り引きのあり方があってしかるべきだし,「我々はそれを追求するリーディングカンパニーなんだ」と胸を張って言われたほうが,まだ「なるほど」と思えるというか。

 

4Gamer
 いさぎよいですね。

 

澤氏
 それだけの可能性を秘めたマーケットとして――今は禁止というスタンスをとらざるを得ないけど――前向きに考えれば,公式の売買掲示板を設置しよう,そのためにジーエムエクスチェンジさんのノウハウを活用しようとかいう話になって,そこで初めてノウハウが生きてくる。
 今の状況だと正しくつき合えないけど,正しい取り引きの姿を追い求めるという思想があれば,のちのちメーカーが振り向くことがあるかもしれない。
 例えば,現在流行しているアイテム課金方式とメーカーの収益の関係はねじれているのであって,運営コストときれいにつながっていない。運営の対価になっていないから,ゲームサービスの閉め時すら分からないというか。そうした危険性を認識したうえでアイテム課金方式を進めていくなら,プレイヤー同士でやりとりされる分も含めて,流れるお金を増やしていくべきであるという話になる。

 

4Gamer
 なるほど。

 

澤氏
 そうしたところで,いずれ日本のメーカーもRMTをポイント制で公式に取り込んだりすることが,ないとはいえない。そのとき,ノウハウを持っているところと組むのはアリだろうと。
 ただ,現時点では永遠にそっぽを向かざるを得ない。運営側から提言するとすれば……いや,気には喰わないんですけど(笑),新しいマーケットへのチャレンジだと打ち出すとともに――本当にそれがゲーム運営に生きると信じてやられているのであれば――蓄積したノウハウを,いつでもゲームメーカーが頼りにできる形で打ち出してもらうしかない,と思います。
 「ウチの庭で商売しやがって」という範疇を超えてくれないと,どうしようもないですから。

 

4Gamer
 メーカーさんにメリットを与えるか,業界に明確なメリットを与えるか,というわけですね。メーカーさんがRMTをある程度発展的に捉えた場合という,ある意味得がたい見解が得られたところで,今回の座談会を締めさせていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

 鋭い意見対立を含む議論は,合計2時間にもわたった。実体的な「価値」と,ゲームを通して表現される「価値観」の差異や,「他人の庭で商売すること」の問題性,ゲーム運営者とRMT業者の「分かりあえない」関係を,さまざまな実例を挙げて語る澤氏。宇田川氏との議論を通じて,「規約違反を承知のRMT」が抱える問題点の多くは,より明確になったといえよう。
 だが氏は,もしメーカー側がRMTを認めるとしたら,それはより積極的に新しい市場開拓として打ち出され,メーカー側に提案できる要素を持ったときだと語り,RMTを内包したシステムとしての,韓国におけるR.O.H.A.Nのサービスにも関心を寄せる。もちろん,それが引き起こすであろう新たな問題への警戒も込みで,だが。
 必ずしも氏の論点を踏襲しないとしても,例えばレンタルビデオ市場の成立が典型的であるように,我々は新しい物権観念がしばしば表社会の外側から立ち上がることを知っている。社会学者M.ダグラスが説く「創造的逸脱」といったところだ。
 RMTが過渡期的な現象に終わるのか,今後も長く続くのかは分からない。だがそれは少なくとも,一部プレイヤーと仲介業者がゲームメーカーに突きつけた,一つの大きな問いかけである。RMT的な仕組みを内包した(RMTに向かう欲望を引き受ける形の)ゲームデザインというのも一つの答えなら,RMTなぞ必要としないゲームというのも一つの答えだ。どちらに向かうにせよ,すべてのオンラインゲームが“RMTが発生し得る社会”を意識して設計される必要があるのは確かだろう。

 

前へ 1 2 3 4 5 6 7 8  

 

 

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/specials/060426_rmt/060426_rmt_008.shtml