― 特集 ―
ネクソンジャパンCEOデビット・リー氏に聞く 日本市場の特徴とアイテム課金モデル

Text by Kazuhisa/Seal Photo by kiki  

日本市場とアイテム課金の親和性

4Gamer:

 さて,ユーザー寄りの話を続けさせていただいて,次は属性についてです。御社では,メイプルストーリーやマビノギなど,低年齢層や女性にも受けいれられやすいタイトルがサービスされていますが,課金モデルの変更は,これも意識してのことですか?

David K.Lee氏:

 ええ。どの国でも当てはまるのですが,月額課金のタイトルと比べて無料ゲームのプレイヤーは年齢が低くなる傾向があります。カジュアルゲームは,トレンドとなりつつありますし,そこをうまく開拓していくための施策として課金モデルの変更(=無料化)を行いました。
 女性ユーザは,ゲームに対する考え方や接し方が男性とは異なり,コミュニティ性を重視する人が多いようです。女性をターゲットとしたタイトルを開発するなら,ソーシャルネットワークにゲームの要素を加えたものなどが有効でしょうね。

4Gamer:

 市場の動向に合わせた変更だったのですね。4Gamerでのアンケートでは,20台中盤以降と高校生くらいにユーザーの山があるのですが,御社のユーザー層と違いはありますか?

David K.Lee氏:

 そのあたりは,弊社としては課題となるユーザー層になるでしょうね。20台後半にはマビノギのプレイヤー層がマッチしているのですが,16歳あたりの層についてはその前後にピークが来ています。10台前半がメイプルストーリー,10台後半にテイルズウィーバーといった感じで。15歳あたりをターゲットとしたタイトルがない感じですが,あとはほぼ全体がカバーできていると思います。

4Gamer:

 なるほど。若いゲーマー層もつかんでいるのですね。ちなみに素朴な疑問なのですが,アイテム課金モデルは,その層をターゲットとしていてもビジネスとして成立するのですか?

David K.Lee氏:

 ええ,十分成立しますよ。課金ユーザーだけを抜き出すと,さすがに平均年齢が高くなりますから。

4Gamer:

 あ,なるほど。ユーザー層と課金層は完全に別なものなんですね。

David K.Lee氏:

 そうなんですよ。

マビノギ

4Gamer:

 今は誰も彼もがアイテム課金モデルですが,これは日本のマーケットに合っているとお考えですか?

David K.Lee氏:

 ええ,合っていると思います。経済レベルも影響してくるとは思いますが,ユーザ一人あたりの平均課金額が世界で最も高いのが日本なのです。これは,クレジットカード支払いが50%以上を占めるアメリカとは異なり,日本ではプリペイドカードやコンビニ決済など,手軽に決済が行えるのも理由の一つとなっているのではないでしょうか。

4Gamer:

 そういえばそうですね。そこはアイテム課金モデルの重要な一つの要素ですね。ではメーカーから見た場合,アイテム課金モデルのメリットとは具体的にはどのあたりになるんでしょうか。

David K.Lee氏:

 アイテム課金には,二つの大きなメリットがあります。
 一つはマーケティング面。無料プレイというのがなによりも大きな広告効果となりますからね。そしてもう一つは,ユーザーが自分に必要なものを必要な量だけ購入できるという部分です。後者は,ユーザーニーズに柔軟に合わせられるので,日本で最も有効だと思いますよ。

4Gamer:

 しかし,開発段階からアイテム課金モデルを視野にいれていないタイトルでは,移行時のシステム面やゲームバランスの崩壊など問題があるような気がするのですが。

David K.Lee氏:

 システム面の問題はありますね。例えば,マビノギは当初からアイテム課金モデルを視野に入れていたのでスムースに移行できましたが,逆にテイルズウィーバーはバックボーンのアイテム課金システムの構築と開発などで移行は大変困難でした。
 一方ゲームバランス面の問題ですが,実はゲーム内アイテムの販売自体によるコンテンツへの影響はあまりありません。どんなに便利なアイテムを販売したとしても,面白いゲームでなければ長期間のサービスはできませんし,ゲームバランスを考えていないアイテムを販売したとすれば,それはユーザーが敏感に判断して,どんどん離れてしまうでしょう。

4Gamer:


ZerA

 ビジネスモデルとプレイヤー数に相関関係はないということですか?

David K.Lee氏:

 ええ。日本のユーザは,価値のあるものに対してお金を払うことに抵抗があまりないじゃないですか。
 MMORPGは遊ぶのに時間がかかるというイメージがありますよね。それを軽減させてサクサクと遊べるように,入手経験値が増加するアイテムを販売したときに,不公平だという批判が寄せられると思っていました。普通にリリースしたように見えますが,内部的にはドキドキだったのです(笑)。しかし,フタを開けてみたら逆に好評でした。
 もちろん,定額モデルでもビジネスは成立すると思います。ビジネスモデルでゲームの質は決まらないということですね。

4Gamer:

 では,逆にどのようなゲームが,アイテム課金モデルと親和性が高いと思いますか?

David K.Lee氏:

 競馬とかオンラインカードゲームは有効じゃないでしょうか。ただし,どんなジャンルでもゲーム内通貨だけでゲーム内要素の全てができるようにしてしまったり,お金を払わないとゲームが進まないというのは,ユーザーの反感をかってしまうので逆効果です。やり方によると思いますが,今まででも通常どおりに遊べるし,アイテムを購入すればそれが少し楽になるという,ユーザーが選択できる部分の微妙なバランスが必要でしょうね。

日本ユーザのニーズに合わせたサイトの構築

4Gamer:

 時間の取り合いと言われているオンラインゲームにおいて,このうえアイテム課金で“財布”の取り合いにもなりつつあると思っています。そのあたりについてはどのようにお考えですか?

David K.Lee氏:

 実際は時間とお金は繋がっていると思うんですよ。プレイヤーとしては,やはり一番遊んでいるゲームにお金を使いたいですよね。それは昔も今も変わらないと思います。ユーザーが変わってきて,インタラクションも変わってきて,いろんなビジネスモデルが確立してきたので,可能性は広がって今後はもっと多様になると思いますよ。

4Gamer:

 多様なビジネスモデルで思い出しました。ZerAの日本でのリリースはいつ頃になりそうですか? 結構期待している読者も多いんですよ。PVも高いし。

David K.Lee氏:

 それは嬉しいですね。韓国では2月15日からオープンβテストを開始したのですが,まずは韓国で安定したサービスを提供することを目標としています。それから日本や中国での展開に持って行く予定となってます。多国展開は当初から予定に入っていますし,ローカライズの過程も今までのノウハウがあって早く完了すると思うので,その部分の期間は短くなると思いますよ。

4Gamer:


ルニア戦記

 さすがにすぐではなさそうですね。ちょっと残念。

David K.Lee氏:

 まぁそうおっしゃらず(笑)。あと先ほどおっしゃっていたように,韓国では新しいアプローチの課金モデルを採用していこうと考えてます。そういうこともあって,まずは韓国での結果を見てから日本での展開をするという流れになるかと思います。同じ課金モデルを日本で採用するかどうかは,まだ分かりません。
 ほかにも2006年は,Webの展開を着実に,そしてチャレンジの精神で進んでいこうと思います。リリースタイトルも「ZerA」と「ルニア戦記」,「Kart Rider」の3本を予定してますし。

4Gamer:

 ルニアもやるんですね。絵柄から見ても,日本のユーザーに違和感なくマッチする人が多そうな気はしますね。どれも興味深いタイトルなのですが,時間もないようですし,最後に4Gamerの読者に一言お願いします。個々の話は,ぜひまた別な機会に聞かせてください。

David K.Lee氏:

 いろいろなコンテンツ,ジャンル,ビジネスモデルに挑戦してきたのが,ネクソンの歴史です。これからもユーザーさんの意見を積極的に取り入れ,“成すべきこと”の基本に忠実なサービスを提供して,オンラインゲームのリーダーになりたいと思ってます。よろしくお願いします。

4Gamer:

 本日は,どうもありがとうございました。

 日本市場をしっかりと見つめ,またリサーチデータでの数字的な裏づけでの施策は,決して派手ではないものの,着実にユーザーに受け入れられていっているようだ。またポータルサイトに対する考え方や,オンラインゲーム市場でこれからトレンドとなるであろうカジュアルゲームに対しての動き,新作タイトルのローンチ予定などからも,ネクソンジャパンが,堅実に日本市場に合わせて前進していることを伺い知ることができた。マネーゲーム然としてきた「バブル」なオンラインゲームマーケットの中で,こういうメーカーがいてくれることは,素直にありがたいことだと思う。
 とくに,アイテム課金モデルが日本市場に受け入れられやすいというくだりは,今後の日本のオンラインゲームがどのように進んでいくのかというものの暗示のように思える。重い腰を上げて動き出した国内デベロッパーが,どの課金モデルを採用するのか,どのようなタイトルを開発してくるのか,それらも今後のマーケット全体に影響を与えることだろうし,それらも併せて要チェックだ。
 今後オンラインゲーム市場がどの方向に進むことになろうと,長年積み上げてきた大きなノウハウがあるネクソンジャパンの動向には注目していきたい。そう思わせるインタビューだった。

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http://www.4gamer.net/specials/0217_nexon/0217_nexon_002.shtml