Winning Post 6

Text by 水道橋郁夫
20th Dec. 2002

サンデーが死んで,競馬はどうなるんだオイ

 日本の競馬界は今,大変な苦境に立たされている。
 不況により全国各地の地方競馬場が次々と閉鎖していく中,2002年8月には日本史上最高の大種牡馬,サンデーサイレンスが急死。また11月には三冠馬ナリタブライアンらを輩出した名門牧場も自己破産を申請するなど,日本競馬を支えてきた屋台骨が音を立てて崩れ始めている。今後,日本の競馬は一体どうなってしまうのか−−。
 2002年12月13日にコーエーから発売された競馬シミュレーションゲーム「Winning Post6」では,そういった状況も踏まえてか,牧場などの経営面に更なるテコ入れが加えられている。つまりサンデーサイレンス亡きあと,次代の主流血統を模索しながら,牧場や一口馬主クラブをいかに存続させて発展させるかが本作のポイントだ。

牧場再建? 社長の道楽? 7種の馬主タイプから自分を選べ

 「Winning Post」シリーズは,「ダービースタリオン」と肩を並べてきた競馬シミュレーションの双璧である(今は一人勝ち状態だが)。多くの競馬シミュレーションが"競走馬育成"のみに焦点を当てているのに対して,「Winning Post」はあくまで"馬主"のシミュレーション。愛馬をコツコツ育ててレースに出すだけではなく,資金運用や競馬関係者との人脈などといった競馬生産界のあらゆる要素を包括している。現役・歴代競走馬が実名で登場するためコアな競馬マニアはもちろん,馬には疎い経営シミュレーションでも楽しめるという間口の広い作品である。
 同じコーエーの競馬シミュレーションシリーズには"騎手"という職業を体感する「GI JOCKEY」や,"調教師"の視点で競走馬を直に鍛える「Horse Breaker」などがある。これらの礎を築いた「Winning Post」シリーズは,"馬主"としての生活を楽しむ作品。まずは生産馬主として,牧場開設からスタートするのがこのシリーズのセオリーである。
 最新作「6」からは,生産馬主に加えて資産家や社長,中堅牧場の2代目など,選択可能タイプが数パターン用意されている。この馬主タイプの初期設定はいずれも一長一短。資産はあるが牧場施設はないデフォルトタイプを始め,資金は苦しいが最初からある程度牧場施設を持っているタイプ,また変わり種として借金状態からスタートの競馬記者出身タイプや,牧場主としての新規独立タイプなどもある。借金スタートの馬主は一見かなり不利なようにも見えるが,最初からいい調教師や生産牧場との太いパイプを持っていたり,繁殖牝馬や後述する種付け権を所有しているなど,資金面を補うだけのメリットがある。つまり今まで以上に幅広く,千差万別,さまざまな馬主を演じることができるようになったというワケ。もちろん牧場の2代目としてスタートして生産をまったく行なわず,外国産馬の購入だけでプレイを進めることも可能。あくまで運営方針はプレイヤーの思惑次第ということだ。

海外に牧場開設! 新しい血のパイオニアとなるのは君だ

 外国産馬といえば,前作「5」でも生産環境が整う前の主力として相当な利用価値があったものだが,「6」ではなんと外国産馬も自分で生産できるようになった。国内で生産した馬が内国産,外国で生産した馬が外国産に区分される。そう,つまり「6」では,ついに海外の牧場開設が実現したのだ。外国で生産した馬は無理に日本へ輸入せずとも,そのままアメリカやヨーロッパでの現地デビューも可能。種牡馬としてはウォーエンブレムやタニノギムレット,シンボリクリスエスといった最新の面々が追加されたが,その中には海外で供用を始めたばかりの新種牡馬まで入っている。海外に牧場があればそれらに種付けすることも可能で,生産の幅は国内限定だった前作までとは比べものにならない。
 例えば,今年GIで7連勝の世界記録を打ち立てたマイル王のロックオブジブラルタル,北米の重鎮ストームキャットなどへ種付けし,生産した馬を現地でデビューさせた後で日本のジャパンCやマイルCSに参戦させるなど,とにかく海外牧場とはロマンそのもの。さらに今回からは,一口馬主クラブの経営も競走馬だけでなく幼駒や種牡馬,繁殖牝馬の所有が可能になっている。個々の一口募集価格も細かく設定できるようになったため,かつて大樹ファームなどが行なっていた海外自家生産馬の輸入など,より突っ込んだ運営も行なえるようになったといえる。

種牡馬シンジケートで株とマネーを制すべし

 生産面ではさらに,本作から"種牡馬シンジケート""種付け権"という新要素が追加され,種牡馬の価値もより深刻なものへと進展した。シンジケート化の流れや利害などは,現実のそれとまったく同じ仕組み。好成績を残した競走馬が引退し種牡馬となるとき,その種牡馬の購買価格を株に分け,株主が共同で種牡馬を所有するのがシンジケート。大物種牡馬を一人で手にするには巨額の資金が必要となるが,シンジケートなら手にした株の数だけ確実に自分の繁殖牝馬に種付けができる。そのため無駄がなく,仮にその種牡馬が失敗したとしても金銭的ダメージは小さくて済む。
 シンジケートでの一株は,その種牡馬への期待が大きければ大きいほど高値となり,競走馬時代の馬主に支払う全体価格は莫大なものに化ける。馬主にとって競走馬にはレース賞金以外にもこういった旨味があるため,現実のヨーロッパなどでは戦績が傷付かないうちに,例えば2歳にデビューして翌3歳で故障もしていないのに引退させるケースもある。「ブランドイメージを優先させることで競馬そのものをつまらなくしている」と,しばしば批判の声もあがるほどだ。
 これはやや余談になるが,デビュー2戦目で3歳戦最高峰の"英ダービー",3戦目で古馬混合の"キングジョージ",4戦目で秋の頂上戦"凱旋門賞"と,わずか4戦のキャリアで一気に欧州の三大レースを制したラムタラという競走馬。この馬は凱旋門賞後,4戦4勝の身でさっさと引退し,その後日本に輸入されて総額44億円という巨額のシンジケートが組まれた。しかし2002年12月現在,内国産ラムタラ産駒は3世代がデビューしているが,その戦果はGI勝ちどころか重賞勝ちは全部合わせても平地と障害のGIII一つずつしかない。こういった場合はのちにシンジケート自体が解散してしまったり,一株の価値が暴落することになるが,その点は本作でも同じ。そして株の売買は,主にノミネーションセールという場でこれまでのシリーズにもあった競走馬セール同様に行なわれる。不人気馬の株には買い手がつきにくい一方で,結果を出している人気種牡馬はいくら金があっても購入できる機会すら稀少である。このため実際の株式同様人気の上がり下がりを観察し,種付け以外の形で利益を出すといったマネーゲームも楽しめるようになったのだ

とっつきやすくて濃い中身,ビギナーにもマニアにもオススメ

 競馬シミュレーションゲームはシリーズを重ねると,どうしてもある特有の弱点が生じてしまう。それはリアルさを意識してこだわりを重ねた結果,ゲームシステムが難解になってしまうという点だ。とかく競馬ゲームでは「配合理論」というファクターがマニアにとっての愉悦であり,その一方でビギナーにはさっぱり分からない正体不明のものでしかない。シリーズ化が進むと配合理論も複雑化していくため,固定客以外にはますます理解不能な存在になってしまう。
 正直この「Winning Post」シリーズも,その分に漏れないところはある。だが「6」では新配合理論がさらに追加された一方で,ヘルプ機能や牧場長のコメントなどによるサポートが飛躍的に便利な代物となった。たとえば繁殖牝馬に種付けするとき,「親系統ラインブリード」という配合理論が成立していた場合,牧場長が「親系統ラインブリードが成立しています」と,その場で自動的に教えてくれる。そこで用語集をクリックして「親系統ラインブリード」とはなんぞやと調べてみると,「同じ親系統同士の種牡馬と繁殖牝馬を配合させた場合に成立する」と解説が出る。さらには「効果として爆発力のアップが期待できる」「体力や気性に悪影響を与える危険がある」といった長所短所までが明記されている。ビギナーがいきなりこういった理論を使いこなすことは難しいが,何度も目にしているうちに「習うより慣れろ」で,比較的スムーズに実践できるようになっていくだろう。非常に歓迎すべき点だ。
 またデビューした競走馬の能力値(スピードやスタミナなど)は,前作までは騎手や調教師の話を聞いてプレイヤーが自分で「5段階の3」などとパラメータ画面に直接メモしていくシステムだった。今回からはコメントを聞いたあとに現われる「メモ」ボタンを押すことで,自動的にパラメータ画面にそれが反映されるようになっている。このあたりのユーザーインタフェースは,従来のほかの競馬シミュレーションゲームとは比較にならないほど優秀である。ビギナーだけに限らないが,これから競馬ゲームをやってみようと考えている人がいたとしたら,まず最初にお勧めしたいのがこの「Winning Post6」だ。暗いニュースばかりで未来が見えない現在の競馬界。まずは「Winning Post6」を通じて次代の競馬界を覗いてみてはいかが?

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■発売元:コーエー
■価格:1万1800円
■問い合わせ先:ユーザーサポート TEL 045-561-6861
■動作環境:Windows 98/Me/2000/XP,PentiumII/333MHz以上(PentiumIII/700MHz以上推奨),メモリ128MB以上(推奨256MB以上),空きHDD容量800MB以上,ビデオメモリ16MB以上のビデオカード(推奨32MB以上)

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キャラクターデザイン (c)かどた ひろし