トロピコ 2 〜海賊の島〜 日本語版

Text by 星原昭典
11th Nov. 2003

"海賊の島"を題材とした都市建設シミュレーション

画面は回転のほか拡大/縮小が可能。最大まで引けば島全体を視野に入れることもできる

 Screenshotsから受ける印象の通り,本作「トロピコ 2 〜海賊の島〜 日本語版」は,"箱庭型シミュレーション"と呼ばれるタイプのゲームである。労働者を使ってさまざまな機能を持った建築物を造り,それらが相互にうまく機能するようにバランスをとりながら,より大きな町へと発展させていくことを楽しむのだ。
 前作「トロピコ」は,プレイヤーがカリブ海に浮かぶ島の統治者となり,いくらかあくどいことにも手を染めつつ,町を発展させていくゲームだった。トロピコ2の舞台もカリブの島であることには変わりない。プレイヤーがその島の統治者となるところも同様である。違うのは,その役どころだ。本作でプレイヤーが演じるのはプレジデンテ(大統領)ではなく"海賊王"。悪名高いカリブの海賊どもを略奪に送り出し,さらってきた捕虜達をこきつかい,自らの地位を不動のものにすることがゲームの目的となっている。

 "海賊の島"という一風変わった題材を扱っているために,本作は一般的な都市建築シミュレーションとはさまざまな部分が異なっている。そしてそれこそが本作の面白い部分でもある。いわゆる"箱庭系"の常識が通用しないところを中心に,本作の魅力を紹介していきたい。


金や人足が欲しければ,外から奪ってくるしかない!

 トロピコ2の舞台となる島には,大きく分けて二種類の人間が存在する。海賊と,捕虜だ
 このゲームには,基本的な人権を持った"一般労働者"というのは存在しない。建築したり,資源を採集したりする人間はすべて海賊の捕虜である。捕虜は搾取されるだけの存在なので,無賃で働かせることが可能なうえに,住居を用意してやる必要もない。とりあえずの食事と寝床だけ与えてやって,あとはひたすら働かせるのだ。
 そして海賊だが,彼らは陸にいる間はほとんど生産的な活動をせず,ひたすらに酒を飲み,女を買い,葉巻をふかしつつ博打に興じる荒くれ者たちだ。海賊王であるプレイヤーは,彼らをうまく飼い慣らし,カリブ海沿岸の植民地やヨーロッパからやってくる貿易船を襲わせて,金を手に入れるのだ。

 本作では,狭い島をいくら捕虜に掘り起こさせたところで金は出てこない。友好国に余った生産品を売れるようになるのはゲーム中盤以降なので,とりあえず金が欲しい場合には,海賊達に商船を襲わせて略奪するしかないのだ。つまり,島での生産行為やサービス産業が直接金を生むのではなく,島内の生産の結果は海賊達の活動を支えるために使用し,そしてその海賊が金を運んでくるのである。もちろん金は島を発展させるために使用できる。……これがトロピコ2の大きな枠組みだ。
 またトロピコ2では,島の人口が自然に増えるということはない。特定の国と友好関係にある場合にはその国から捕虜が送られてくる場合もあるが,基本的には,捕虜を増やしたかったら海賊に命じてさらってくるしかない。また特定の機能を持った建築物を作るときには,その仕事に精通した熟練労働者が必要になるのだが,これもさらってくるしかない。島内で働いている捕虜がランクアップしたりはしないのだ。
 コツコツと働かせることで金を稼いだり成長させたりするのではなく,欲しいものは海賊を使って拉致/奪取するのが,このゲームの基本的なスタイルとなっている。そのために,島で行うほぼすべての操作は,「いかにして海賊達を略奪へと送り出すか」に焦点を合わせることになる。

港の周りには海賊どものための娯楽施設を配置。遊んだあとにはしっかり"仕事"をしてもらう 使用できる海賊船は全部で9種類。それぞれに積載量やスピード,得意とする任務が異なる


海賊産業はハイリスク/ハイリターン

 重要なものは海賊に奪ってこさせるしかない。このシステムのため,島の経済の行方はとにかく海賊達の働きにかかっている。ゲーム序盤は労働力を確保するために植民地や貿易港を襲撃させ,中盤以降は船を襲わせて黄金を略奪する。航海の準備のために多少資金が赤字気味になっても,略奪に成功さえすればそれ以上の儲けが期待できるので,海賊はどんどん航海に向かわせたほうがいい
 しかし,稼ぎがいいからといってその船の実力以上の危険が潜む海域に向かわせると,反撃を受けて海賊船が沈められてしまうこともある。船が沈めば収益は0に近くなり,島の経済は大ダメージを受けてしまう。海賊はハイリスク/ハイリターンな産業(?)なのだ
 そのため,手持ちの資金も船数も少ないときに海賊船を略奪へと送り出すときには,ついつい船乗りを送り出すその妻のような心境になる。「無事に帰ってきてね!!」と心から祈りながら出航ボタンを押すのは,なんともどきどきして楽しい。予想以上の成果を挙げて港に帰ってきたときは,非常に嬉しい。船が沈んでしまったときには,……オートセーブの機能を活用したい。とくに建て直しの難しいゲーム序盤のうちは,船を送り出す前に手動でセーブをしておいたほうがいいだろう。

略奪を行う海域を選ぶ。利益率と危険度を計算しつつ最適なところに船を送り込むのだ 多くの資産家の人質をさらってきた。人質は捕虜と違い,身代金と交換することができる


ただの"良い人"では務まらない,海賊王という仕事

 海賊達も捕虜達も,酷使していると不満を持ち始める。海賊達の機嫌を良くするには,彼らの要求を満たしてやれる物資と施設を島に用意すればいい。もちろんメインは"酒"と"女"だ。とくに彼らの女好きは相当なもので,帰港後には娼館がすぐに満員になる。あとは適当な休息をとらせつつ,戦利品の分け前を弾んでやればよい。欲しいものを与えれば大抵は機嫌が良くなってくるので,海賊は単純だ。
 しかし,捕虜のほうは少し勝手が異なる。なんといっても彼らに自由はなく,囚われの身なのである。こちらとしては,生かしておくために必要な食べ物や寝床を与えることはできても,金や自由を与えることはできない。
 そこでどうするか? こちらは海賊王である。"規律"と"恐怖"の力でもって,その欲求を無理矢理押さえ込むのだ。これはとても重要なポイントであり,この仕組みを正しく理解できないと,島の管理はうまくいかなくなってくる。

 箱庭系ゲームをプレイするときには,筆者は大抵"町の住人達に対して良いことをしてあげよう"という姿勢で臨む。現状に不満があれば出来る限り改善してやり,なるべく快適な生活を送れるようにとプレイを進めていく。実際その方向でプレイを進めれば良い結果が返ってくるゲームは多い。
 ところが,トロピコ2をそのような姿勢でプレイしようとすると,遅かれ早かれ行き詰まってしまう。穏健派の支配者として捕虜になるべく恐い思いをさせないようにプレイしていると,そのうち反乱が起こり,怒り狂った捕虜が宮殿へと乱入してきて,こちらは殺されその場でゲームオーバーとなる。この理不尽な最後を何度か繰り返すうちに,プレイヤーはこのゲームが"市長と市民"のゲームではなく,"支配者と被支配者"のゲームであることを知るのだ。
 ヘタな温情は自分の命を奪うことになる。町の真ん中には拷問部屋をぶち立て,道の脇には死体の吊された絞首台を配し,捕虜を恐怖で縛り付けるのが(本作における)支配者としての正しい行動なのだ。教会を建ててやるのは,彼らを救うためではなく,残酷な自分の運命を諦め,受け入れさせるため。自分の宮殿には用心棒を雇い,いつ反乱が起こっても対処できるよう目を光らせておくのが望ましい。
 さらにゲームを進めると,海賊達に対してもこのような態度が有効であることが分かってくる。機嫌を取るばかりでは,やはりいつか無理が生じてしまうのだ。反乱の口火を切りそうな船員を暗殺することに良心の呵責を感じているようでは,海賊王は務まらない。このゲームでは,墓地を作ることで殺した船員を文句の言えないアンデッドとして蘇らせ,永遠に働かせることまでできるのである。
 こういった開き直り方ができると,プレイはよりスムースに進むようになってくる。捕虜は"アメとムチ"を使って服従させ,海賊には欲しいものを与えてやりつつ,その裏で自分は隠し金庫に儲けをザクザクと放り込む……。どうやらトロピコ2の面白さは,優しく有能なマネージャーとしての喜びを感じることにではなく,あくどい独裁者としての楽しみを味わうことにあるようだ。そしてこの楽しさに触れたとき,プレイヤーはこのゲームをやめられなくなってしまうのである。

宮殿の前に用心棒を配置。怒り狂い,海賊王を殺そうと走ってきた捕虜を逆に撃ち殺す 人通りの多い道に恐ろしげな装飾物を立てておく。捕虜の恐怖心を煽る効果がある


豊富なゲームモードと難易度設定を持つ,遊びごたえのある作品

 ゲームモードは,操作を覚えることから初めて,次々と大きな目標をクリアしていく"キャンペーン"のほか,目標や初期条件などがあらかじめ決められた単独の"シナリオ",そしてゲーム期間や島の大きさなどを自由に設定できる"サンドボックス"の計三つがある。まずはキャンペーンを進めてプレイの手順や建物の効果などを覚え,その後に難度を考慮しつつ,それ以外のモードに挑むのがよいだろう
 サンドボックスでは自分の扮する海賊王を16人の中から選択可能だ。それぞれの海賊王は"船長の招集コストが安い" "特定の国との外交関係にボーナスがある"などといった長所と,"大酒のみ" "文字が読めないので戦略知識が少ない"などといった短所を持っている。無論,そのゲームの勝利条件と併せて考えて,より有利な海賊王を選ぶのが普通だろうが,ゲームに熟達してきたらわざと相性の悪い者を選ぶというのも面白そうだ。

 雑誌やWebサイトなどの記事を見ていると,トロピコ2は「南の島に海賊達の楽園を作る底抜けに明るいシミュレーション」といった風に紹介されていることが多いようだ。しかし,これまで説明してきたように,実際には,本作はそこまでひょうきんなゲームではない。確かに舞台は南の島だし,明るくカリビアンな音楽がBGMとして常に流れてはいるが,画面をよく見れば,立っているのは絞首台や恐ろしげな装飾物で,横たわっているのは逃げようとして撃ち殺された捕虜の死体である。とはいえ,過剰に暴力的な表現があるわけでもない。
 このなんとなくのどかな雰囲気と,そうではない題材を組み合わせるセンスから,本作が"大人が遊べるゲーム"として作られているということが分かる。ゲーム内容もかなり手応えのあるものに仕上がっているので,PCゲームのファンであることを自認しつつ,あまりこういったゲームには手を出していないという大人のプレイヤーに,ぜひ試してもらいたいと思う。

キャンペーンのメニュー。一人の海賊の生涯を辿っていくという内容だ サンドボックスモードで自分の扮する海賊を選択。表示される海賊の略歴も興味深い

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■発売元:メディアクエスト
■価格:8980円(11月13日発売予定)
■問い合わせ先:メディアクエストユーザーサポート TEL 03-5805-3629
■動作環境:Windows 98/Me/2000/XP,PentiumIII/500MHz以上(1GHz以上推奨),メモリ 128MB以上(256MB以上推奨),空きHDD容量 1.8GB以上,メモリ16MB以上搭載したビデオカード,DirectX 8.1以降
Screenshots集
ムービー(2分27秒:19.9MB)
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