信長の野望・天下創世

Text by Iwahama
11 th Sep. 2003

 コーエーは,今年で25周年を迎えるそうだ。25年前……1978年といえば,かのアラン・ケイが携帯型PC,というか"携帯がなんとか可能なPC"「ノートテイカー」(※1)を発表した年で……まぁ有り体にいえば,PCという存在に興味があるのは,ごくごく一部のインテリだけだった時代である。
 一般的な企業と比べれば,25年でも"若い"と呼ばれるのだろうが,PCゲームの業界では,かなりの老舗といえよう。その老舗のコーエーが,やはり20年にも渡って作り続けている看板タイトルが,"信長の野望シリーズ"である。

 さて,コーエー創立25周年,信長シリーズ20周年という節目の年に発売される「信長の野望・天下創世」は,コーエーの威信をかけたタイトルであろうことは想像に難くない。また天下創世自体がシリーズの11作めということで,開発陣も"新時代の信長"を意識しているようだ(その根拠は,本作の第一報「こちら」で述べた)。
 では新時代の信長とは,どういうゲームなのか? ……と本作を立ち上げてみると,コーエーのロゴに続いて,非常に懐かしいメロディが聞こえてきた。筆者が昔,自宅に友達を大勢呼んで遊んだ思い出の名作,「信長の野望・全国版」のオープニングテーマが流れたのである!
 これはおそらく,開発陣の"原点回帰"の思いが込められた演出だろう。原点に帰った,新時代の信長。天下創世は,この相反する二つの要素をいかにまとめているのだろうか?

(※1)……ノートテイカーはなんと約22kgもあったという。もちろん,商売にはならなかった。ちなみに信長シリーズが生まれた1983年には,Apple社が「Lisa」を出荷している


原点に帰り,簡素化されたゲームシステム

 信長シリーズのことをまったく知らないという人は少ないとは思うが,簡単に紹介しておこう。
 舞台は,"戦国時代"の日本。応仁の乱(1467〜1477年)をきっかけに,日本中が"麻の如く"乱れた時代のことを指す。この時代,武田信玄,上杉謙信,毛利元就といった群雄(英雄達)が割拠(ある地域に勢力を張ること)して争い合い,最終的には織田信長と,その意志を継いだ豊臣秀吉が天下を太平して,幕を閉じる(※2)。
 本シリーズでは,プレイヤーはこれら群雄の一人となり,天下の統一を目指す。

 さて天下を統一する具体的な手段だが,大きく二つに分けることができる。"富国強兵"(内政)と,"合戦"だ。まぁ細かいことをいえば"外交"や"(部下の)人心掌握"なんて要素もあるが,天下創世では,この後者の二つは比較的簡素化されている。
 ちなみに"簡素化"というのは,天下創世を語るうえで,非常に重要なキーワードである。どうしてもシリーズを重ねるごとにシステムが複雑化してきたわけだが,一部のコアプレイヤーはともかく,このジャンルのゲームに慣れないプレイヤーにとっては,あまりに複雑なシステムは大きなハードルとなっていたのも事実。
 しかし天下創世は,わりかし面倒な作業をせずにプレイできる。後述するが,内政や合戦といったゲームを進めるうえで重要な要素さえ,楽に進められるよう工夫されている。
 このあたりが"原点回帰"なのであろう。

 ちなみに天下創世は,1年を八つの季節(新春,春,梅雨,夏,秋,晩秋,冬,厳冬)に分け,それぞれの季節ごとにターンが回ってくるのだが,自城と金銭の少ない序盤は,なんの命令も出さずにターンを進めることさえ珍しくない。これは,ある意味「本作がいかに楽にプレイできるか」の一つの証拠といえるだろう。

 もちろんこういった簡素化については賛否両論あるだろうが,筆者は大歓迎である。隣国に忍者を忍び込ませるために"忍者衆"におべっかを使ったり,家臣達の勲功がある程度溜まるたびに新しい俸禄を考えたりするのは,正直,面倒だった。
 戦国シミュレーションだのストラテジーだのいっても,ゲームなんだから,誰がプレイしても,それなりの面白さを感じられるべきだと筆者は思う。その点,例え現実味があっても面倒だった作業が減ったことは,"ゲーム"として,"エンタテイメント"として,あるべき姿に戻ったといえるだろう

(※2)……正確には,織田信長が上洛した年以降は"安土・桃山時代"だから,戦国時代は1568年まで

外交はこんな感じ。極めて分かりやすい 配下の忠誠値を上げるための「金銭贈与」のコマンドは,命令回数を消費しない。同じ配下に何度も行えるので,金銭さえあれば,すぐに100にできる

 

内政では,町並みの相性を考えつつ開発し,金をばらまき発展させよう

 プレイヤーのターンになると,政略画面(右の画面参照)が表示される。政略画面は,一つの城とその周囲の"領地"を3Dで表示したもので,複数の領地を持っている場合は,領地単位で内政画面を切り替えて,それぞれに対して指示を出せる。
 この政略画面は3Dで描かれているだけあり,視点をある程度自由に変更できる(※3)。ただ戦闘シーンとは違って,何かが別の何かの影になって見えない,なんてことが少ないので,領地内を東西南北に移動する以外は,視点を変更する必要はないだろう。

 さて,この政略画面から外交から合戦まですべての指示を出すことになるのだが,最も頻繁に行うのは,内政作業だ。
 天下創世における内政作業は,ごくごくシンプルな箱庭ゲームといった感じである

 内政用のコマンドは,「開発」「投資」「治安」「治水」「徴兵」「徴収」「施し」「税率」の八つ。「治安」「治水」「施し」はそれぞれその領地の"治安" "治水" "民忠"の値を上げるもので,「徴兵」と「徴収」は,どちらも半ば無理矢理に,領民から兵士か金銭/兵糧を手に入れるコマンド(民忠が下がる)。(シリーズファンには懐かしい)「税率」は,そのまま,"税率"を変更するコマンドだ。内政で重要なのは,残りの二つ。「開発」と「投資」である。
 「開発」は,領地内の空いた土地に,"農村"や"商人町",果ては"忍の里" "八幡宮"などといった町並みを作る(町並みに応じた金銭/ターン数がかかる)ためのコマンド。町並みは土地の地形(川岸や森など)によって発展具合に差があるうえ,隣り合う町並み同士にも相性がある(公家町と武家町が隣じゃ,確かに問題である)ので,ある程度考えて開発していかないと,いずれ後悔することになるだろう。まぁ後悔したら,邪魔な町並みを「開発」コマンドで"更地"にしてしまえばいいのだが。

 開発された町並みを発展させるコマンドが,「投資」である。これはその名の通り,すでにある町並みに投資(金銭500)して,施設の増加を促すことが可能。一つの町並みの中に,16くらいまで施設が入るので,どんどん投資して,土地を有効利用しよう
 町並みの発展具合に応じて,人口はもちろん,その領土の農業,商業,兵士,日本文化,南蛮文化といった値が変化する。ちなみにその領土にある城は,この五つの値に応じて自動的に発展していくので,より城の守りを固めるためにも,内政は重要になってくるわけだ。

 ちなみに一つの領土に作れる町並みの数は大名家の規模(小さいほうから順に,小大名,大大名,群雄,覇者,天下人の5段階)によって違って,実は筆者が最初プレイしたとき10しか作れず「これは少ないなぁ」と感じていたら,群雄になった途端,一気に20にまで増えた。さらに覇者では30に増え,これは逆に多いと感じてしまった。
 弱小大名だと,どうしても群雄になるまでにかなりの時間がかかるので,もう少し緩やかに増えてもよかったのではないだろうか?

 さて,繰り返すが,内政で重要なのは「開発」と「投資」の二つだけ。ほかのコマンドは,対応する値が下がったときにだけ実行すれば十分だ。天下創世では,かなりお手軽に,箱庭作りの楽しさが味わえるといえるだろう。またこの作業すら面倒ならば,大名の居城がある領地以外は,すべて各城主に委任してしまえばよいのである。
 そのため,天下創世の内政作業に,つらさを感じるプレイヤーは少ないと思われる。まぁ相性などは凝ろうと思えばかなり凝れるので,この作業にはまってしまう人もいるかもしれない。

(※3)……俯瞰する角度の調整,回転,拡大/縮小が可能。わざわざ"ある程度"と書いたのは,俯瞰角度と拡大/縮小の変更幅が狭いため。もうちょっとズームアウトさせてほしかった

政略画面で町人をクリックすると,それぞれの立場に合わせたセリフが吹き出しで表示される。ちなみにズームアウトは,これが限界 「開発」「投資」は,どちらも命令回数を消費する。ちなみに命令回数は,城主の"政治"と"統率"の値の合計によって決まる

 

AIがおバカ? RTS風合戦にはやや問題あり

 政略画面の「軍事」メニューから「攻略」(あるいは「共闘」「決戦」)を選んだ場合,もしくは敵国から攻められた場合に,合戦が発生する。
 合戦システムはRTS風で,ごくごく簡単にいえば,「信長の野望・嵐世記」の戦闘システムの完全3D版である。といっても当然違いはいろいろとあり,グラフィックス以外の最大の違いは,野戦と攻城戦に分かれているところだ
 野戦になるか攻城戦になるかは,攻め込まれた側に選択権がある。敵と味方の兵力差を考えて,野戦に打って出て蹴散らすか,領地内を敵部隊が踏みにじることを覚悟して,籠城するかを選ぶのである。

 野戦は,1対1で戦う3D RTSを想像すれば分かりやすいだろう。一人の武将が騎馬隊や槍隊,鉄砲隊といった1部隊を率いており,プレイヤーはその部隊ごとに移動先や攻撃対象の指示を与えて,勝利を目指す。勝利の条件は,敵の"本陣"を占拠するか,敵総大将を"退却" "潰滅" "内応"のいずれかの状況に持ち込むこと。もちろん同じことを相手にされれば,敗北となる。
 RTSタイプだから瞬間的な判断力と素早いマウス操作が必要と思われるかもしれないが,いつでも進行スピードを変更できるうえ,一時停止も可能なので,じっくり考えて戦うことができる
 通常の野戦では,街道でつながった近くの領地から最大で8部隊を呼び寄せて参加させることができる(ただし他国の領地を飛び越えて呼び寄せるのは不可能)。一つの部隊の兵数は,率いる武将の身分によって違い,800〜2000人。

 攻城戦と野戦を同じフィールドで行う嵐世記とは違い,野戦フィールド上に城はないが,その代わりに存在するのが,前述した本陣と,部隊数に応じて自動的に設置される"砦"だ
 砦は戦略上非常に重要で,自軍の砦(本陣含む)で部隊を休ませることで兵数や士気をある程度回復できる。相手の砦を攻撃して"落とす"ことで占拠でき,占拠した敵軍の砦は,自軍の砦として使用できる。
 また敵軍の砦を占拠すると,自軍の全部隊の士気が向上し,同時に,一時的に攻撃力が高まる"強攻"という状態になる。さらに,武将ごとに持つ「特技」("鼓舞"や"挑発"など,蒼天録の必殺戦術に相当するもの)のいくつかは,砦を落とすことによって初めて発動可能になるようだ。そのため,例えそれまで敗色が濃くとも,一つの砦を落とすことをきっかけに,大逆転することも十分あり得る
 だからプレイヤー側の戦術としては,自軍の砦を守りつつ,まず相手の砦を一つでも落とすことを目指すわけだが,……正直,これにはさほど苦労しない。敵軍AIが,致命的なくらいバカだからである(※4)。これについては,後述する。

 攻城戦にも触れておこう。基本は野戦と同じだが,フィールドが政略画面で登場する領地そのものになっており,守備側には砦がない代わり,城内にある櫓が同じ役目を果たすことになる。
 フィールドが領地ということは,当然敵国に攻め込まれた場合,内政で育て上げた町並みを破壊される恐れがある。大事に育てた街を踏みにじられる心理的苦痛はかなりのもので,できれば攻め込まれても,野戦で片を付けたいところである。
 もちろんこちらが攻め込んだ場合には相手領地の町並みを破壊できる。ただ,城がすぐに落ちそう→その領地を自分のものにできそうなら,未来の自領地を傷つけるのはもったいないだろう。

 ところで天下創世では,野戦でも攻城戦でも,例え大名自らが参加する合戦だとしても,設定次第で,采配をCPUに任せることができる。任せた場合,3Dの戦闘画面は表示されず,すぐに結果だけが表示される。非常に,楽だ
 筆者の場合,実に合戦の9割を,CPUに任せている。よっぽどの痛手がない限り,負けても気にせず続けている。理由は,二つ。一つは,フル3Dで描かれた合戦シーンはそれなりに重く,PCのスペックによってはストレスが溜まるということ。今回天下創世をプレイしたPCのスペックは,Pentium4/1.7GHz,メモリ 512MB,GeForce4 Ti4200といった構成で,まぁそれほどストレスは感じなかったが,それでもときどき,「イヤな重さ」があったのは確か。
 もう一つの理由は,先ほども触れた,合戦AIのダメさである。ちょっとプレイすればすぐ分かるだろうし,また分かるとゲームの魅力が半減してしまうので具体的な戦術は書かないが,コツさえ覚えれば,野戦は実に簡単に勝てる。例え相手の兵力が倍以上でも,勝ててしまう。
 大きな理由はこの二つだが,あと「意外と見にくい」というのも挙げられるだろう。政略画面のところでも書いたが,もう少しズームアウトできればよかったのだが……。

(※4)……フォローしておくと,筆者が遊んだのは,あくまでもマスター直前のバージョンである。製品版で合戦AIが修正されている可能性は十分ある。とはいえ,修正されていない可能性も無視できないので,このレビューでは修正されていないものとして記述していく


あっという間に巨大化していく有力勢力達!

 合戦での敵AIは(現状では)正直ひどいが,では敵勢力達は凄く弱いかというと,もっとマクロな視点で見れば,そうでもない。天下創世の難易度は"初級" "上級"の二つあるのだが,少なくとも上級モードを遊んだ限りでは,筆者がのんびりと内政作業をしていたら,有力大名家がみるみるうちに弱小大名を潰して巨大化していったのだ。気づいたら周りは覇者だらけで,同盟が切れるや否や,大兵力で攻めてくるのである。これは,信長の野望シリーズでは非常に珍しい現象だろう。
 史実と比較すれば,大名家がこのスピードで成長するのは少し異常だが,ゲームとしては,こちらのほうが断然面白い。

 ただ,せっかくのこの敵勢力の強さを台無しにしているのが,合戦AIと,「決戦」システムである。
 いや,決戦システム自体は,非常に良いシステムである。決戦は,大名規模が覇者以上の大名家が,同じく覇者以上の大名家に対して仕掛けられる,特殊な合戦だ
 決戦では,攻撃側,守備側共に,総力を結集して戦うことになる。具体的には,両軍共に城主のみ計12人ずつが出陣して戦う,大規模な野戦だ。城主の身分に関係なく,1部隊が2000人の兵士で構成されるので,2万4000人 vs. 2万4000人の戦闘ということになる
 勝利条件は,通常の野戦と同じ。ただしこのあと籠城戦に移行することなく,勝敗がついた時点で終了となる。
 破れた大名家は,壊滅的な打撃を受ける。領地のほとんどを相手の大名家に召し上げられ,そのうえ,強制的にその大名家に従属することになってしまうのだ。これでは,再起不能ではないものの,当分の間はおとなしくしているしかないだろう。
 まぁ,蒼天録にあった(そして不満が多かった)"総取りシステム"が,より洗練されたものだともいえるだろう。時間をかけずに,大勢力を叩き潰せるのは,非常にありがたい。
 じゃあなぜこの決戦システムが,敵勢力の強さを台無しにしているかというと……やはり簡単に勝ててしまうから。実際筆者は,自分で指揮した決戦は,負けなしである。例え相手の勢力が,こちらよりはるかに強力でも,だ。
 これでは,どれだけ敵対勢力が巨大に成長しようが,恐くもなんともない。致命的といえるだろう。

それでも遊び方を工夫すれば,シリーズ最高傑作になり得る!

 合戦AIに関してずいぶんとけなしてしまったが,実は筆者は,この天下創世を非常に気に入っている。遊び方を工夫すれば,シリーズ最高傑作だといっても過言ではない。
 どう工夫するか? どんな合戦でも,自分で指揮せずにCPUに任せてしまうのだ。これだけで実にテンポが良くなり,かつ大勢力には,こちらも相当に準備しなければ,勝てない。歯がゆいし悔しいが,だからこそ,面白い。

 テンポが良く,システムは簡素で,敵勢力が強いとなれば,筆者はそれこそ全国版の面影を感じてしまう。そこで思ったのが,ぜひ天下創世でもマルチプレイしたいということだ。マルチプレイなら,AIに嘆く必要も少ない。まぁシステムを大幅に変更しなければいけないだろうが,やってやれないことはないはずだ。
 先日同社の「三國志IX パワーアップキット」のレビュー(「こちら」)中で,著者のAsakuraから「パワーアップキット」に関する辛辣な意見があったが,個人的には,天下創世にマルチプレイ機能を付与するパワーアップキットなら,喜んでお金を払うだろう。逆に合戦AIを強化するといった内容ならば,これはある種のバグだと思うので,ぜひ無償で修正していただきたいところだ。

 マスター直前バージョンであるためか,AIを筆頭に不満を感じる部分もあったが,それでも全国版の面影の合間に,未来の信長シリーズを感じ取ることは出来た。いや,CPU(合戦AI)に関しては,すでに修正されているかもしれないし,そうでなくとも比較的早めに修正されるだろう。
 であれば筆者は,しばらく天下創世漬けの日々を送るのも乙だなぁ,と本心から思う。

 

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■発売元:コーエー
■価格:1万1800円
■問い合わせ先:コーエー TEL 045-561-6861
■動作環境:Windows 98/Me/2000/XP,PentiumIII/700MHz以上(PentiumIII/866MHz以上推奨),メモリ 192MB以上(256MB以上推奨),空きHDD容量1.5GB以上,メモリ16MB以上搭載しDirectX 8.1b以上に対応したビデオカード
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