サイレントハンターII&デストロイヤーコマンド
限定パック

Text by 虎武須(Kobs)
19th Dec. 2002

 第二次世界大戦では世界中の海域が戦場となり,多くの名海戦が生まれた。そのほとんどは,それ以前の戦艦を中心とした砲撃の打ち合いに終始する艦隊戦ではなく,より機動力の高い航空機が主力となっていた。また物資や人員の輸送手段は海上輸送に委ねられているため,敵の海上での動きを封殺することは戦局を有利に進めるための必須条件だったのだ。
 通常輸送船団には,輸送船だけでなく数隻の駆逐艦が付き護衛にあたる。この輸送船団の潰し合いこそが,このたびメディアクエストから発売された「サイレントハンターII&デストロイヤーコマンド 限定パック」のテーマだ。サイレントハンターII(以下SH2)はドイツ海軍の伝説となったUボートをメインとするもの,デストロイヤーコマンド(以下DC)は,そのUボートの天敵である駆逐艦をメインとしたもの。それぞれ独立したパッケージとして販売されているが,この限定パックではその二つのゲームがセットになり,単体パッケージを別々に買うよりずっとお買い得になっている(1万2800円。なお別々に買うと計1万7960円)。さらに嬉しいことに,SH2とDCでは互いに参加して最大8人までの対戦プレイまでできるのだ
 それでは,限定パックに含まれるそれぞれのゲームについて説明していこう。

サイレントハンターII 完全日本語版

UZOと呼ばれる水上光学測距装置。荒波でも安定した観察が可能

 1981年公開の映画「Uボート」(原題:Das Boot)は,潜水艦という特殊な閉鎖空間で繰り広げられる,緊迫感と焦燥感,そして絶望感に満ちた実に人間臭い映画だった。「ドイツ海軍Uボート要員4万のうち3万が戻らなかった」とはこの映画の冒頭にあった注釈である。それゆえUボートは「鉄の棺」とも呼ばれることもあり,ほぼ決死隊に近いものだったといえるだろう。
 SH2は,そんな過酷なUボートの艦長となって北大西洋におもむき,米英の輸送船や護衛艦を撃破するのが主な目的である。U-57,U-552の艦長を務めたエーリッヒ・トップ元中佐の監修のもと,リアルなUボート戦を再現しているのだ。だからというわけではないだろうが,このゲームは特定のマニア層をターゲットとしたハードな潜水艦シミュレーションゲームに仕上がっている

 しかし期待に満ちてゲームを起動して最初に気付くのは,まるで15年ほど前の8〜16ビットPC全盛期を彷彿とさせるような,実に簡素なタイトル画面だ。これは恐らく第二次大戦中のポスターを模したもので,雰囲気を盛り上げるための工夫だと判断したいが,いささか外してしまっている感は否めない……。
 キャンペーンや単体ミッションではそれぞれ史実に則したミッションを楽しめて,内容も輸送船団の襲撃から艦隊の護衛,さらにはイギリス海軍の潜水艦との対峙などバリエーション豊か。だがいきなりキャンペーンや単体ミッションをプレイしてみようにも,何をしていいのかさっぱり分からない。まずは訓練ミッションをマニュアル片手にこなしていき,Uボートの操縦を会得していくことになる。それをマスターして,初めて実戦に出られるのだ。
 SH2のUボート操作は非常に難しいが,実はSH2最大の魅力はここにあるといっても過言ではない。自由自在にUボートを動かせるようになるには少しばかり時間を要するだろうし,レーダーや聴音機を駆使し,さらには潜望鏡や艦橋での目視による策敵も非常に重要だ。それらをマスターしたあとは,Uボートの華ともいえる魚雷攻撃方法の習得が待ち受けている。これはUボートの醍醐味でありながら,その技術習得はさらに困難だ。当時の魚雷は非誘導魚雷なので,目標の将来位置を予測し,的確な射角や雷速を設定して発射する必要がある。非誘導魚雷を目標に命中させるのは至難の業(わざ)なのだ。

 つまりUボートの操作が完璧になるまでに膨大な時間を割くことになるわけで,この段階でプレイヤーが挫折するようであれば,そのプレイヤーはSH2に低い評価を下すだろうし,苦難を乗り越え立派にUボートを操る艦長となり,対戦で駆逐艦を次々に沈めることができるようになれば,実に奥深い面白いゲームとなりえるだろう。

サイレントハンターという名の通り,音もなく敵を捕捉し,魚雷を撃ち込め! このメニューはちょっと寂しいと思うのは筆者だけだろうか…… Uボートの操舵盤。通常はスライディングコントロールパネルで操舵する 損害状況管制盤。被害状況がひと目で把握できるのだが,ここまで被害を受けるともはや制御不能。死を待つのみである
潜水時の索敵の要ともいうべき聴音装置。これとレーダーを駆使して敵の状況を把握するのだ 潜望鏡深度から魚雷を発射,見事命中! 脅威が残留した状況でうっかり浮上すれば,集中砲火を浴びるのは当然 魚雷の餌食となったアメリカの巡洋艦。沈下を始めている

デストロイヤーコマンド 日本語版

勇壮な護衛艦……だが僚艦とここまで接近するのは非常にまずい

 こちらは,SH2の主役Uボートの天敵となる,駆逐艦が主役となるゲームだ。言い換えればDCはSH2との対戦プレイを主目的に作られたゲームで,海戦ゲームとしては,軍艦の中でも雑魚扱い(ゲームの中では,だ)されがちな駆逐艦だけしかプレイできない珍しいものだといえよう。それゆえ「なんだ,駆逐艦だけか……」と,食指の動かないプレイヤーもいると思うので,駆逐艦について説明しておこう。
 駆逐艦は,装甲に乏しい半面,速力や回頭性といった機動力が最大の魅力の軍艦だ。また大口径砲こそ搭載していないが,代わりにはるかに破壊力の大きい魚雷を搭載しているという特徴も持っている。水面下捜索にも優れており,安価で用途が広くて成果も高い万能艦という,海戦における"目立たぬ主役"だったのだ。とくに潜水艦にとっては,その索敵能力と機動性を生かして,爆雷で攻撃してくる駆逐艦は脅威となっていたわけだ

 そんな万能な駆逐艦を主役にした本作では,輸送船団や主力艦の護衛はもちろん,陸軍の上陸作戦の支援,対潜水艦攻撃などさまざまなミッションが用意されている。プレイヤーはアメリカ海軍駆逐艦の艦長となり,太平洋や北大西洋におもむいてそれらの任務を遂行するのだ。
 先にSH2をプレイしていれば,操作インタフェースが同じなので基本的な操舵に関してはとくにとまどうことはないだろう。むろん駆逐艦ならではの装備も多いのでそれらを把握する必要はあるが,それでもSH2ほど困難ではない。
 SH2のキャンペーンが一つしかないのに対し,DCでは太平洋と北大西洋の二つのキャンペーンが用意されている。太平洋では旧日本帝国海軍を,北大西洋ではドイツ海軍を相手に暴れまわることになる。また単体ミッションも用意されていて,史実に基づいた海戦を体験できる。

 SH2が潜行がメインとなるため視覚に訴えるものに乏しいが,こちらは常に海上を航行し,与えた損傷なども目視できるので,どちらかといえばSH2よりもDCのほうがビジュアル的な爽快感を味わえるだろう。また三次元的な操舵を要求されるSH2に対してDCの二次元的操舵は容易だ。しかし,決してDCが簡単なゲームというわけではない。駆逐艦の大きな役割でもある索敵技術に慣れる必要があるし,魚雷の射撃もSH2同様,至難のわざだからだ。さらに爆雷の技術まで習得する必要がある。

 比較的にプレイしやすいDCだが,面白さの深みという点ではSH2に軍配が上がる,といったところだろうか。もっともこれは主観でしかないのだが。

駆逐艦の操舵室。通常まず使わない画面だ 機関室。エンジンの状況を把握したり,調整を行う その気にさせてくれるオープニングムービーからのひとコマ
レーダー室。今日のレーダーほどの精度はないが,不可欠な装備であることには間違いない 降り注ぐ敵の砲弾。被弾して火災が発生した! かなりまずい状況だ
通信室ではそれまでの交信記録を確認できる。僚艦との情報交換により効率的な攻撃ができる 彼方に見える船団を発見。いち早く敵を見つけ出し,戦闘態勢を整えるのだ 主砲管制室。砲撃を手動で行うのは実に爽快だ。撃ちまくれ!

SH2+DC→限定パック

 少々取っつきにくいと思われがちなこれら2本のゲームだが,いったん慣れてしまえば実に緊迫した海戦を楽しめる。プレイヤーは艦長となって指揮に徹するもよし,さらにクルーの役割まで操作するもよし,という段階的な深みのある面白さを提供している点を評価したい。
 共に3Dグラフィックスを基本としながら,計器類や射撃など艦内の描写は2Dだ。海の描写,とくに波のうねりなどは見事で,見ているだけで船酔いしてしまいそうである。計器類のパネルも緻密な描写で,機械好きにはたまらないだろう。

 この2作を使ったマルチプレイでは,潜水艦vs.駆逐艦(Interop)協力プレイ(Co-op)チーム戦(Team)バトルロワイヤル(Melee)が楽しめる。やはりこの手のゲームは対戦にこそ醍醐味があるので,シングルプレイで操作を覚えたら,ぜひマルチプレイに参加してほしい。AIとは違った,相手が人間ならではの緊迫感を味わえるだろう。なお,日本語版SH2と同DCではサポート範囲外となる,英語版との対戦やUbi.comでの対戦も,筆者がプレイした限りでは問題なく行えたことをお伝えしておこう。Ubi.comなら,ロビーサーバーを介して世界中のプレイヤーと対戦できるのでお勧めだ。接続方法についてはUbi Softのサポートページから「Ubi.com ゲームサービス マルチプレイヤーヘルプガイド」をご参照願いたい。

 さて,SH2とDCのいずれにもいえることだが,どの画面モードにもクルーが登場しないため,非常に無機質な印象を受けた。プレイヤーからの指示に対してクルーからの復唱はあるものの,人間味を感じるどころか,逆に非常に孤独な感じを受けてしまう。また,操作の難しいシミュレータでありながらチュートリアルが用意されていないのはいただけない。訓練ミッションが用意されているとはいえ,"マニュアル片手に"というのはゲーム性を損ねる点だ。慣れてしまえばじっくり遊べる良質のゲームであるがゆえに,入り口でユーザーを遠ざけかねないこれらの点が残念でならない。
 しかしながら第二次世界大戦当時の海戦に興味があるファンにとっては,ゲームならではの簡素な操作にとどめず,リアル指向に徹したのは評価できる。なぜなら操作や戦術的に簡素化された海戦ゲームはすでに数多くあるし,かなりの時間をかけた心理戦を体験できるゲームなどそうそうないからだ。それゆえマニア向けという印象は強いが,こういった作品を望んでいた人は少なからずいるはずだ。
SH2,DC共に本腰を入れて遊ぶゲームとして実に奥の深い作品であり,それぞれ違う立場から海戦を楽しめる,お買い得なパックだといえるだろう。

● 補足(RADEONシリーズでの不具合に関して)

 筆者はビデオカードにATI RADEON8500(ドライバCatalyst2.4)を使用しているのだが,両作品のメニューなどで日本語が表示されない症状に見舞われた。いろいろやっていて気が付いたのだが,筆者の場合,画面のプロパティでDirect3Dタブの"Custom Settings"の項目で"Anisotropic Filtering"と"SMOOTHVISION"の各"Application Preference"のチェックを外すと正常に表示されるようだ(Screenshots参照)。RADEONシリーズを使っていてお困りの人は,ぜひ試してみて欲しい。

あくまでこれは筆者の設定だが,困っているなら試してみる価値あり ubi.comのSH2とDCの共通ロビー。世界中のプレイヤーが集まってくる 正式サポートこそされていないが,ロビープログラムをインストールすると,メニューにもubi.comがしっかり追加される

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■発売元:メディアクエスト
■価格:12800円(限定製品)
■問い合わせ先:ユーザーサポート TEL 03-5805-3629
■動作環境:Windows 98/Me/XP,PentiumII/450MHz以上(PentiumIII/800MHz以上推奨),メモリ128MB以上,空きHDD容量1.5GB以上(単体の場合は各800MB),DirectX8.0a以降に対応したメモリ16MB以上登載したビデオカード

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