インダストリー ジャイアントII 日本語版

Text by Sluta
27th Feb. 2004

 

レビューコンテストという性質上,forGamer編集部では最低限の校正しか行っていません。ご了承ください

 

一風変わったパズル感覚の経営シミュレーション

 「そうだ,この快感はテトリスで感じたものと同じだ」と得心した。無造作な状態で落ちてきたモノをうまく形を変えて,しかるべき場所にきっちりと落とし込んでやると,綺麗にさばけて高得点をはじき出す。一段ずつ消していくのは楽だが,四段いっぺんに消すにはそれなりに緻密な計算がいる。だがそれがうまくスパッと決まると,非常に気持ちのいいものだ。

 「インダストリージャイアントII 日本語版」(以下,IGII)は,プレイヤーが経営者となり,原材料の収集/加工から製品の運搬/販売までを一手に担うタイプの経営シミュレーションゲームだ。
 例えば農場で小麦を栽培し,それを工場でパンに加工する。そしてそれを鉄道やトラックなどで都市へと輸送し,お店で販売して利益をあげる,といった具合である。扱える製品の数は非常に多く,食品から家電まで計150種類にも及ぶ。
 なお,IGII本体は2002年末に発売されているが,2003年11月14日には拡張パックにあたる作品「インダストリージャイアントII 〜未来産業革命〜」(以下,拡張パック)が発売されている。本稿は基本的にはIGII本体に触れたレビューだが,最後に拡張パックについても言及したい。


「倉庫」を間に介することにより,物の流れが分かりやすい

建物が黄色くなっている部分がこの販売店の商圏。緑色になっている倉庫は,販売店の集配可能範囲にあることを示している

 ゲームを始めると,マップ上には都市が点在しているほか,石油や鉄鉱石などの資源が配置されている。これらをうまく利用して事業を営んでいくわけだが,まずは,どの製品を生産/販売するかを決めるのが肝要。ここではワインを例として,一連の流れを見てみよう。
 ワインは,ブドウとガラス(瓶)を組み合わせることで生産される。ブドウはブドウ園で栽培することで得られ,ガラスは石英砂を採取し,それを工場で加工することで得られる。フローチャートでまとめるとこうなる。

 なおそれぞれの矢印の部分は,必ず倉庫を経由する必要があるというのが特徴的だ。つまり,収穫されたブドウは一旦倉庫に収められ,醸造所は倉庫にあるブドウとガラスを引き取って,ワインとして吐き出す。倉庫には集配可能な範囲というものが設定されており(実際には10マス四方ほど),その範囲にある各施設に対して物資を集配できるわけである。
 そして,この矢印を挟む二つの施設の場所が遠く離れていると,倉庫の集配可能範囲内に収まらないため,「輸送」が必要になってくる。例えば醸造所と食料雑貨店との間に距離がある場合,「醸造所→倉庫→食料雑貨店」というように物資を流すのは無理なため,「醸造所→倉庫→(輸送手段)→倉庫→食料雑貨店」とする必要があるわけだ。必ず間に倉庫を通さなければならないのは面倒に感じるかもしれないが,物資の流れが見た目ではっきりと分かるという大きな利点がある。

 輸送については後述するとして,先にどのように製品が販売されるか見ておこう。販売店は6マス四方の商圏を持っており,この範囲に住んでいる都市の住民に対して製品を販売できる
 その製品に対してどのくらい需要があるのかというのはあらかじめ決まっており,ワインなら,1万人あたり春3・夏3・秋3・冬3となっている。商圏に1万人の住民がいる販売店ならば,1か月あたり3ユニットのワインが売れる,という具合だ。ただしこれは標準価格で販売した場合の話で,プレイヤーは任意で価格を標準価格の50%〜150%の間で変更でき,価格の変更に伴って需要は増減する。


輸送手段の特性を見極めてうまくつかいこなせ

 輸送手段は"鉄道" "トラック" "船舶" "航空機"の4種類が用意されている。どれも,(集配可能範囲内の)倉庫にある物資をターミナルで積み込み,目的地のターミナルで物資を降ろし,倉庫に物資を収める,という仕組みだ。輸送コストは運んだ量には関係なく,「移動した距離×基本コスト」で計算される。仕組みは4種ともに同じだが,実際に運用するにあたってはそれぞれの個性を見極めてうまく使う必要がある。

高スコアを重ねていくと,プレイヤー個人の豪邸を建設できる

(1)鉄道
自分で線路を敷き,その上に車両を走らせる。ポイント設定ができるため,ほかの輸送手段よりも細かい経路の調整がきくのが強み。トラックよりは積み下ろしに時間がかかるので,中距離〜長距離向け。

(2)トラック
自分で道路の建設もできるが,既存の道路を使うことも可能。トラックはターミナル間の最短距離を走行し,途中経路の指定はできない。最大で一度に2ユニットしか運べないが,そのぶん小回りはきく。しかし,一般道では住民の車と一緒に走行しなければならないため,走行速度に制限がかかったり,詰まりやすくなったりするのが弱点

(3)船舶
港と港の間の海上を移動する。一度に運べる量が多く,相対的に輸送コストは安めである。水面の多いマップでは主役になるが,湾や河川のマップだとついつい経路が迂回しがちになるため,使い方が難しい。

(4)航空機
1928年から使用可能。航空機の利点は,なんといっても空を飛ぶためにすべての地形を無視できるところにあり,山や河川の多いマップでは活躍する。空港建設には広大な土地が必要。離着陸に時間がかかるため,長距離向け。

 これらの特徴に加えて,時代が進むにつれて新車両が登場してくるので,年代によって各輸送手段の意義や有利不利が大きく異なる。これもIGIIの大きなポイントといえるだろう。次のセクションでは,IGIIの舞台設定についてみてみよう。


中盤以降は別の楽しみが……。時代の変化にうまく適応していこう

 IGIIの舞台は,1900〜1980年の近現代。扱える製品や使える車両は,実際の時代の流れに沿ったものになっている。
 1900年時点では扱える製品の数はあまり多くなく,輸送手段も貧弱だが,年月が進むにつれてバラエティが増してくる。製品はより加工工程が多く複雑なものが登場し,車両はより積載量や速度/コストが改善されたものが登場してくる。面白いのは,新製品が既存の製品に取って代わることがあることだ
 分かりやすいのはテレビ。白黒テレビは1928年から製造可能で,しばらくは家電製品の中心ともいえる存在だが,1962年にカラーテレビが登場すると,白黒テレビの需要はがた落ちになり,数年後には0になってしまう。それまで白黒テレビを製造していたプレイヤーは1962年の時点で素早く対応し,生産ラインをカラーテレビ(あるいはほかの製品)に切り替えなければならない。
 同じようなことが,冷蔵庫や芝刈り機,電話などにもいえる。また工具と電動工具のように,新製品が登場しても,需要が少し落ちるものの,その後も旧製品の販売を継続できるといったものもあり,奥が深い。

 車両の場合はもっとダイナミックに考える必要がある。同じ数の物資を輸送するのでも,1900年と1980年では効率的な輸送方法がまったく異なるのだ
 序盤は鉄道が陸上輸送の主役だが,やがてトラックの使い勝手が良くなってきて,1970年ぐらいで1ユニットあたりの運送コストが逆転する。航空機もだんだんとコストが安くなってくるので,ある時期からは鉄道+船舶で輸送するよりも航空機一本で運んだほうが安上がりになるかもしれない。そこはプレイヤー自身の見極めが鍵となる。
 また,鉄道やトラックは頻繁に新しい機種が登場するので,いつ既存の車両を新型にアップグレードするかも難しい問題だ

 よく経営シミュレーションのジャンルでは「序盤は面白いが,一旦会社が成長してしまって安定した利益を出すようになると,あとは同じことの繰り返しでダレてしまい,緊張感がなくなる」といわれる。IGIIもこの問題を完全にクリアできてはいない。
 しかし,時代に伴う需要の変化や輸送システムの進化をシビアに取り込んでいることにより,中盤以降の"中だるみ"を防止しているという点は,本作品の最も評価したい部分である。生産ラインの大幅な組み換えや,輸送手段の再編成は,大企業であればこそ大胆に実施できるものだからだ。


ビジュアルな情報が豊富で,プレイヤーに親切な設計

 ゲームの中身についての記述が長くなってしまったが,ゲームモードや環境面についても触れておこう。
 ゲームモードは,"チュートリアル" "キャンペーン" "エンドレス" "マルチプレイ"の4種類。チュートリアルは三つの短いミッションで構成され,ゲームの基本的な流れを習得できる。
 キャンペーンモードは初級/中級/上級に分かれており,それぞれ5ミッション程度が収録されている。キャンペーンの目標は,一定の売り上げや企業価値の達成のほか,特定の物資の輸送や都市の需要の充足などさまざま。とくに上級はやり応えがある。
 エンドレスモードは好きなマップやオプションで自由にプレイできるモード。最大3人のCOMプレイヤーを混ぜてプレイすることもできる。
 マルチプレイモードでは,最大4人での対戦ができる。サポートされている接続方法は,GameSpyを介したインターネット対戦と,ローカルLAN。TCP/IP接続はサポートされていないので要注意。またCOMプレイヤーのみと対戦するマルチプレイモードもあり,これは対人戦の練習にもってこいだ。形式としてはエンドレスモードと同じだが,COMのAIに違いがあるようである。

 グラフィックスは2Dのクォータビュー形式。視点の回転は行えないが,15段階で切り替わるズームイン/アウトはスムースで,とても便利
 マップ上の視覚情報が豊富という点では非常に親切で,倉庫に収められている物資がひと目で分かるほか,工場で生産中の製品や,鉄道で輸送中の製品がアイコンで表示される。月ごとにかかったコストが赤字で,売り上げは緑字でポップアップして表示される点も分かりやすい。


腰を据えて取り組む価値があるゲーム

COMプレイヤーのAIは,それぞれが個性を持っている。AIの積極性はかなりのもので,なかなか手強い

 IGIIは,純粋に経営ゲームとしての一面を見ようとすると,不満な点もある。
 まず,何を運んでも輸送費が一定であることだ。石油を加工するとプラスチックが生産されるが,石油をそのまま運ぶのと,プラスチックに加工してから運ぶのとでは,プラスチックのほうが輸送費が安いと考えられる。しかしIGIIでは輸送する物資によってコストが変化しないので,どちらも差がないのだ。
 また,輸送コストは車両が走った距離のみに応じてかかるため,満載で走っても空っぽで走ってもコストに差が出ない。言い換えれば,貨物の積み込み/積み降ろしコストという概念がないのだ。「輸送」が大きな比重を占める作品であるだけに,この点はかなり気になった。
 製品の「品質」というものがいっさい考慮されない点も残念。製品をライバル社と差別化する要素は価格しかないことになるが,価格も標準価格の50%が下限のため,これにも限界がある。結果的に売るものが同じとなると,あとプレイヤーができるのは,ひたすら経費節減のみということになる

 ただし,それらをゲームを分かりやすくするためのデフォルメと割り切って,経営要素の入ったパズル的なゲームとしてみると,IGIIは非常によくできていると思う。ゲームシステムがすっきりと簡明で,見えないデータや変なランダム要素がほとんどないため,非常に戦略が立てやすい。
 しっかりと計画を立て,綿密に考えてプレイすると,ダイレクトに良い業績となって跳ね返ってきてくれるのだ。コツが分かってくると,マップを眺めているうちに効率的な物資の流れがイメージとして出来上がってくる。とはいっても道筋が限定されているわけではなく,自由度も高い。
 簡単なマップで黒字化すること自体はさほど難しくなく,全体的な難度はむしろ低めだと思うが,やりこめばやりこむほど,工夫する余地が多く発見できる。シミュレーションゲーム初心者から上級者まで広くお勧めできる作品だ。


最後に:拡張パックはマストアイテムか?

 最後に,拡張パック「未来産業革命」について触れておこう。
 拡張パックは,本編のIGIIにキャンペーン,マップ,新製品,新車両を追加するデータ集。1980〜2020年にスポットが当てられているが,それ以前の時代の新製品も多数追加されている。例を挙げると,宝石,コーヒー,ガソリン,MP3プレイヤー,ハイビジョンテレビ,ホームシアターなどだ。
 新車両としては,新たな輸送手段としてヘリコプターが加わったのが大きい。航空機に比べて小回りがきくため,とても使いやすい。また「海外の港」という施設が新たに加わり,ここでは特定の製品の輸入や輸出が行えるようになった。さらに,マップエディタも追加されている
 拡張パックでは,いくつかの操作性の改善も行われている。いくつか箇条書き挙げると,

  • 倉庫に受け入れる製品の割合を,パーセンテージではなく領域数で割り当てることができるようになった
  • 倉庫と各種施設の間の物資のやり取りを許可するか否かを直接指定できるようになった
  • 既存の農場をアップグレードして,耕地を増やすことができるようになった
  • 同種類の店舗の同製品の価格が一括で変更できるようになった
  • 壊れた車両を自動で交換できるようになった

など。
 これらの新機能は必須というわけではなく,ゲーム自体の楽しさとは直接関係がないように思うが,慣れてしまうと手放せない便利な機能ばかり。IGII本体だけでも十分なボリュームはあるものの,拡張パックも併せて購入して損はないだろう。

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■メーカー:メディアクエスト
■問い合わせ先:メディアクエスト TEL 03(5805)3629
■価格:6800円
■動作環境:Windows 98/Me/2000/XP,PentiumIII/350MHz以上(PentiumIII/500MHz以上を推奨),メモリ Windows 98/Me:64MB以上,Windows 2000:128MB以上,Windows XP:256MB以上
,空きHDD容量 430MB以上,16MB以上のメモリを搭載したビデオカード(32MB以上を推奨),DirectX 8.0a以降
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