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蒼い海のトリスティア 〜発明工房奮闘記〜

Text by Kira
30th Jun. 2003

※レビューコンテストという性質上,forGamer編集部では最低限の校正しか行っていません。ご了承ください

 

工画堂スタジオより街発展アドベンチャーゲームが登場!

 「パワードール」シリーズや「RASETSU〜羅刹〜」シリーズなどの硬派なストラテジーゲームと,「パルフェ」シリーズなどの可愛らしい世界観を押し出したゲームの両路線を進む工画堂スタジオから,可愛い路線の新作「蒼い海のトリスティア 〜発明工房奮闘記〜」が発売された。
 「蒼い海のトリスティア」は同社の開拓シミュレーションゲーム「火星計画」シリーズを制作した「くまさんちーむ」が手がける「街発展アドベンチャーゲーム」だ。ゲームの舞台は,10年ほど前に突然起きたドラゴンの襲撃ですっかり寂れてしまった海洋都市トリスティア。街の復興に行き詰まってしまったトリスティアの人々は,いくつもの滅びかけた都市を蘇らせたという伝説の発明工房士プロスペロ・フランカにトリスティア再建を依頼する。しかし,トリスティアにやってきたのはその孫娘ナノカ・フランカであった。プレイヤーはこの新米発明工房士「ナノカ」となり,相棒のクールな犬型ロボット「スツーカ」と共にトリスティアの復興を目指すことになる。

海洋都市トリスティア ナノカとスツーカ

 

街の復興を担う技術革新

プロスペロ発明工房

 トリスティアに辿り着いたナノカだが,プロスペロ本人ではなかったためにトリスティアの人々に見放されてしまう。しかしナノカの才能を見抜いた司祭レイグレットが後見人となることで工房を構えることができるようになり,そこで次々と発明品を誕生させていくのである。
 トリスティアは,ドラゴン襲撃前は自ら移動ができる島であったようだ。華やかなりし頃は島ごと行商あるいは貿易に出ることで栄えていたのだと推測される。しかし現在のトリスティアはドラゴン襲撃による損傷で移動ができない状態にあり,当面は顧客を島の外から呼べるようにならなくてはならないのである。そのためのトリスティア特産品を発明することがナノカのお仕事ということになる
 発明品は「食物」「雑貨」「機械」「書物」と多岐に渡っている。ナノカには行政上の判断も委ねられており,飲食店のメニューから公共施設の建設計画まで発明しなければならない。ナノカの発明は非常に広義のものであるといえるだろう。発明品は各商店にパテントとして売りこむことで,街の観光・商業・工業・工芸を発展させることができるのである。人気商品を抱える人気店が登場すればその周辺の人通りが多くなり,近隣の店舗の売上が向上するような効果も期待できる。そのため,発明品を売りこむときは,発明品のジャンルと売りこみペースのほか,地理的な配分も考慮する必要がある。
 また,ナノカの発明品の一つとして扱われる公共施設建設計画書は,売りこむ代わりにトリスティア市庁舎に提出することで実施される。しかし,計画を実行するには復興資金が必要で,ナノカの計画に必要な資金が無ければ計画書は提出することができないのである。復興資金は街の収入に応じて増えるもので,街の収入は店舗の種類と数に応じて増えることになっている。そのため,公共施設建設の進度も基本的にナノカの発明品にかかっているのである。

トリスティア港 発展後のトリスティア港。店舗だけでなく,人通りが多くなっているのが一目瞭然。画面左上にある建造物は公共施設の健康センター

 

可愛らしい世界観だけに終わらない本格仕様のシミュレーション

 「蒼い海のトリスティア」は「街発展アドベンチャーゲーム」とあるように,アドベンチャーパートとシミュレーションパートがミックスされたハイブリッドゲームである。ただし,キャラクターの魅力を打ち出したゲームにありがちな「アドベンチャーがメインでシミュレーションは難度が低いおまけ」といったようなことはなく,シビアなマネジメント要素を備えている。
 ナノカに与えられた期限は,トリスティアにやってきた3月1日から翌年の2月28日までの1年間で,1か月は28日で数えられる。ゲームはターンで進行し,1日に朝・昼・夜の3ターンがある。ナノカが発明品を売りこむまでには,大まかに「アイテム研究 → アイテム制作 → アイテム売りこみ」という手順を踏むことになる。

店舗にはレベルがあり,レベルが低いとアイテムを購入してもらえない

 ナノカはまずアイテムの研究をするわけだが,ここで求めているものは「新アイテムの作り方」で,雑貨や機械の場合でもお構いなしにレシピと呼ばれている。そう,ナノカの発明とは料理のようにレシピを完成させることなのである
 アイテム研究を実行すると,まず1ターン進む。1ターンで新アイテムのレシピが完成するとは限らず,その難度は研究対象(材料)によって異なるうえ,そのときによって進み具合も変わるのである。ここでレシピを完成させることで,初めて新しいアイテムの制作が行えるようになり,時には一つの材料を研究していて複数のレシピを完成させることもある。
 制作が可能になったアイテムには制作期間が設けてあり,最低でおよそ1日はかかることになっている。つまり,アイテムの制作コマンドを実行すると,最低でも3ターン進むことになる。また,各アイテムには制作の成功率も設けてあり,制作そのものが失敗に終わることもある。しかし,制作するごとに成功率は上がるので,制作を重ねれば100%になる。
 そしてアイテムの制作に成功することで,ようやくそのアイテムを各店舗に売りこむことができる。この売りこみはアイテムそのものの販売ではなく,アイテムのレシピと見本品を売るようなもので,新商品のパテントの売りこみに相当する。そのため,一度アイテムを売った店舗には同じアイテムを売ることはできない。ちなみに売りこみにはターンは使用されないが,実際にマップを移動して,店舗を一つずつ訪れて売りこみを行うので多少手間のかかる作業といえるだろう。
 アイテムの研究には材料と研究費,アイテムの制作には材料と制作費がターンのほかに必要になるので,研究の進み具合が遅かったり,制作の失敗が続いたりすれば当然ナノカの財政は圧迫されてくるのである。研究も制作も常に懐具合を気にしながら行う必要がある。

 

発明が新たな発明を呼ぶ! アイテムのコンビネーション

制作には,同じように制作アイテムの一つであるゴキマインが必要

 ゲームに登場するアイテムは200種類以上に及び,単なる材料ではなく一つの製品であるアイテムが,ほかのアイテムを制作するのに必要な材料として用いられるようなこともある
 例えば,ゲームの序盤にナノカがネズミ退治アイテムを制作しなければならなくなるイベントが存在する。ネズミ退治アイテムのレシピを完成させるためにはゴキマインというゴキブリ退治アイテムを研究しなければならないのだが,このゴキマインはトリスティアのお店ではまだ売られていないので,研究しようにも入手できないのである。しかしゴキマインのレシピはストーリー上すでに完成させているので,このような場合は,まず購入した火薬+ゴキマインのレシピでゴキマインの制作をする。そしてその自家製ゴキマインを研究することで,ラットバスターというネズミ退治アイテムのレシピを完成させるというパターンになるわけだ。
 こうしたケースのアイテム制作はゲームが進むにつれてより複雑になり,目的のアイテムを制作するために2重3重の研究・制作が必要になってくる。しかしこの複雑さこそが新アイテムの開発にパズル的な面白さを持たせているのである。制作の目的だったアイテムが,いざ制作してみたらさらに研究対象とすることが可能で,予想外のレシピが登場するようなこともある。

制作アイテム一覧

 

研究に刺激を与えるテンポの良いストーリー展開

 ところで,新アイテムのレシピはナノカの工房で発明されるだけでなく,上記のゴキマインのようにアドベンチャーパートでイベントとして入手できることもある。材料の調達も同じで,お店からの購入や自前ばかりでなく,アドベンチャーパートで拾ったり発掘したりすることで入手することもある。当然アドベンチャーパートでしか入手できないレシピや材料が存在し,ストーリーの選択によっては入手できなくなったりする
 アドベンチャーパートでは,やがて主要人物からアイテム制作を依頼されるようにもなる。依頼には,依頼人がレシピを持参し,アイテム研究を行わずに制作だけを頼まれる場合と,顧客のニーズに合わせて研究から取り掛かる場合がある。依頼には期限があり,シミュレーションパートで実際にその日までに研究・制作を成功させなければならない。期日以内に依頼されたアイテムが完成すると,今度は依頼主にアイテムを届けにいくストーリーが始まる。
 ちなみに脇役からのストーリー展開が伴わない依頼も存在し,こちらはシミュレーションパートの最中に頻繁に来るようになる。
 依頼において注意するべきことは,依頼の来たアイテムが,期限までに制作可能であるか見極めることだ。材料,資金,制作期間だけでなく,制作に必要な機械が用意できないということもある。この場合は素直に断るしかない。
 アドベンチャーパートは,分量としてはかなりのものになる。しかし,イベントのほとんどがシミュレーションパートに影響を与える内容であるといっても過言ではない。そのため,プレイヤーがシミュレーションパートに多少の飽きを感じてくる頃にアドベンチャーパートに切り替わると,非常に良い刺激にもなるのである。

アドベンチャーパートで発見された材料は,シミュレーションパートで研究ができるようになる

 

世界観も楽しめる良質シミュレーションゲーム!

 この「蒼い海のトリスティア」は「街発展アドベンチャーゲーム」と名付けられているが,ゲームの一番の魅力はアドベンチャーパートがシミュレーションパートを引き立てていることだろう
 先にも述べたが,本作のように二つの要素が盛り込まれたタイプのゲームは,片方の要素の完成度が低いことや,二つの要素の関連付けが不自然なことも多い。しかし,本作では街を発展させるシミュレーションがアイテム研究の面白さなどで高い完成度を実現している一方で,アドベンチャーパートはシミュレーションパートに影響に与える形でストーリーを展開させ,シミュレーションにちゃんと関連しているのである。
 もちろん,ナノカの天真爛漫な性格がトリスティアを元気付けていく様子や,ユニークなネーミングで夢のあるアイテムが登場する明るい世界観にも十分魅力が感じられることだろう。
 ゲーム自体は超高難度というわけではないので,可愛らしいゲーム画面を眺めながら肩肘を張らずに遊ぶことができる。しかし,あくまでシミュレーションゲームである。無計画な攻略ではクリアはできないだろう。

アドベンチャーパートでの制作依頼 シミュレーションパートでの制作依頼 依頼の内容と期限は確認が可能である
突如店舗が一気に工事中になることがある。この状態では売りこみは行えない ステータスは随時閲覧可能だが,3か月経過するとナノカのコメントがもらえる 復興資金は街の収入に応じて増加する。公共施設はいわばトリスティア復興度の象徴である

 

「蒼い海のトリスティア 〜発明工房奮闘記〜」公式サイト

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