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| 最大で1万6000人にものぼる多数のユニット同士の激突は迫力満点だ |
RONの話題性があまりに大きかったために,影の薄くなってしまったACであるが,ゲームの質においてはまったく劣らない。本稿では,時折RONとの比較を交えながら,ACの魅力を余すところなく紹介していこう。
ACは,8000ユニットという大きなスケールが人気を博した「コサックス」の続編である。基本となる描画エンジンこそほぼ同じものを使っているものの,ゲームデザインそのものに根本からメスを入れているため,大きく毛色の異なる作品となっている。
ゲームの舞台は,コサックスのヨーロッパに対してACはアメリカ大陸。コロンブスがアメリカ大陸を発見した1492年から,ナポレオンの時代が終焉する1813年までの,約300年に渡るアメリカ大陸の歴史がテーマである。登場する勢力は全部で12勢力。四つのヨーロッパ系国家(スペイン,イギリス,フランス,アメリカ)と,八つのアメリカ原住民(インカ,マヤ,アステカ,イロコイ,ヒューロン,デラウェア,スー,プエブロ)である。もちろん,これら12勢力すべてをシングルプレイ/マルチプレイ共にプレイすることができる。なお,これらは大別して七つのグループに分けることができ,それらのグループ間で,内政の基本や登場するユニットの枠組みが根本から違うので,それぞれのプレイ感は非常に個性的だ。この点が,合計18国が登場しながら基本部分はすべて共通のRONと大きく異なる部分である。
ゲームモードは,コサックスのそれをほぼ踏襲している。シングルプレイでは,キャンペーンが八つで合計42ミッション。スペインの南米征服や,アメリカ独立戦争などがテーマである。このほかにシングルミッションが九つ付いている。当然ランダムマップモードもあり,地形,初期資源,マップの広さ等を自由に設定できるほか,プレイヤー自身とCOMプレイヤーを混ぜてのチーム戦も自由に設定可能だ。
マルチプレイは,ランダムマップを人間プレイヤー同士で戦う「デスマッチ」,歴史上の有名な会戦を再現しており,1対1で戦う「歴史上の戦い」の2種類がある。コサックス時代から存在した,Gamespyを利用した公式ロビーも強化されており,とくに,ロビー上で行われたすべての記録された対戦カードのリプレイは,誰でも自由に見ることができるのは便利だ。
それでは,肝心のゲームシステムについて解説していこう。マップ上にある資源を集め,それを使って軍隊を育成し,敵を倒すために戦うというRTSの基本に変わりはない。ではどこがACらしいのか? それは,戦闘自体のリアリティをとことん追求していることだ。それは,"士気の概念"と"銃の特性"の二つに集約できる。
(1)士気の概念
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| 士気は戦闘の状況によって刻々と変化する。士気が低下したユニットは戦場から逃げ出してしまう |
これが存在することが,コサックスとACの決定的な違いであるといっていい。士気の概念を一言でいうならば,「戦場の諸状況によって士気が低下したユニットは,パニックになってその場から逃げ出す」ということだ。
まず,パニックになって逃げ出す引き金となる要素は,下記の4種類がある。
そして各ユニットには,それぞれこの四つの要素が発動する確率がパーセントで設定されている。例えば,銃撃で近くの味方が死んだ場合,イギリスの槍兵は1.5%の確率でパニックになる,などである。ただし,これは初期設定で与えられた数値なので,戦場の状況によってこの数値が上下する。これが士気の上昇/下降である。士気が上がればそのユニットは逃げ出しにくくなり,下げれば逃げ出しやすくなるというわけ。
士気に影響を及ぼす要素はいくつもある。士気を上げる方向に働く要素としては,敵に多くの損害を与える,多くの戦闘を経験する,陣形を組む,陣形の規模が大きい,自軍の軍事施設が近くにある,などがある。反対に,士気を下げる要素としては,自軍に多大な損害を出す,司令官ユニットが倒される,飢餓が起こる,自軍の軍事施設が破壊される,などがある。
この士気のシステムにより,少数で多数を征したり,統率の取れた軍隊がそうでない軍隊を軽く撃退したりといったことが可能になっていて,大きく戦術性が増している。ただ物量を揃えて突っ込ませるだけではあっという間に散り散りになって逃げ帰ってきてしまうのだ。大量のユニットが登場しながら,単なる物量ゲーになっていないゆえんである。
そして以下が重要な点なのだが,この士気の概念はほぼ完全に数値化されており,情報ウインドウでプレイヤーがいつでも状況を参照可能になっているのだ。よって,士気をコントロールするときに,確固たるデータをもとに的確な判断を下せる。士気の概念が存在するRTSはACが初ではないが,ゲームシステムとして論理的に組み込まれており,数値データ化されているのは,ACが初ではないだろうか。非常に完成度が高いシステムで,筆者のような"やり込み派"としては,その点をとくに高く評価したい。
(2)銃の特性
ACでは,銃の特性がリアルに再現されている。まず,弾道がばらつくので,近距離から撃てば標的に当たりやすいし遠距離なら当たりにくい。与えるダメージも距離に対応し,近距離なら一発で殺傷するほどの大ダメージを与えられる。さらに,リロード(再装填)は静止中でないと行えず,味方など狙った標的以外にも弾が当たることがある。こうした特性をうまく使うことにより,引きつけて撃つ,交互に撃つといった複雑な戦術が採れる。
RONでは敵の軍隊の中にいる特定のユニット(例えば補給車)を銃で直接狙うということが可能だ。しかし,ACでは銃は標的以外にも当たるので,Aというユニットの前にBというユニットがいた場合,Bを無視してAに直接弾を当てることはできない。Bが弾を受けてしまうからだ。
また,RONでは味方の後ろからでも射撃することができるが,ACでは弾が味方にも当たるので,それはできない(味方を巻き込む可能性があっても射撃を許可するかは個別にオン/オフができる)。よって,個別のユニットの位置が非常に重要になっている。陣形を組めば,そこをうまくコントロールしやすくなるわけだ。
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| 使いやすいマップエディタが付属。通常のゲーム画面と似た操作で気軽にマップが作れる。地形のテンプレートも豊富に用意 |
こういった銃の特殊性があることによって何がゲーム性に一番変化を与えているかを端的に述べるなら,それは「後退が有効である」ということに尽きると思う。普通,後退する場合といったら,いったん撤退することを意味するだろう。普通は攻めている以上は前進あるのみである。しかしACの場合は,銃兵を二段構えにする→まず一列めが撃つ→下がってリロード作業を行う→二列めが前進して撃つ,ということや,突撃しようとしたところ,敵の銃兵が前に出てきたのでいったん下がる(距離が離れればダメージを軽減することができるから。そのまま突撃すると一斉射撃されて致命的なダメージを受ける),といった高度な戦術が必要かつ有効になっているのである。
では,ゲーム全体としての出来,バランスはどうだろうか。
壁は存在しないが,建物内部からの攻撃が強力なため,やや防御側有利のバランスになっている。コサックスのように少数の兵士で荒らすということは困難になった。代わりに,大規模の軍隊で一気に攻勢をかける有効性が増しており,大軍同士の激突という,コサックスエンジンの醍醐味を味わえる展開になることが多いのは良い。ただし,建物単体としての能力が高すぎて,前線に一つ建てられた騎兵育成所が拠点維持に大活躍するなどという,少々奇妙な状況も起こりがちになっている。とくに原住民は建物の建築速度が速いため,いわゆる「建物で押す」戦術が有効で,そのあたりのゲームバランスには少々不満も残る。建物を作れる場所の制限などが欲しかったところだ。
とはいえ,1万6000ユニットにものぼる大軍同士の激突は壮観の一言。士気の要素により,合戦描写もかなりリアルになっている。コサックスからさらに磨きを増した,独特のグラフィックスの美しさ/描きこみ具合も必見で,ビジュアル面でも非常に見応えのあるものになっている。
なお,バランスについて一言。RONに限らず「ウォークラフト」や「コマンド&コンカー」を見ても分かるとおり,本流のRTSは勢力間の強さバランスを非常に大切にしている。これは,RTSが競技性の高い対戦ゲームとして受け入れられているという事情があると思うが,ACはこれをかなりの部分で諦めている。勢力間には大きな個性の開きがあり,人口にせよ,資源を採集する能力にせよ,勢力間でかなりの開きがある。何より強さがばらばらで,例えばアステカ対スペインなら,同程度の実力の者同士で戦ったらアステカが勝つのはほぼ不可能といってよい。
その代わりに,ACは出来る限りで歴史的なリアリティを大切にしている。大砲を所持するのはヨーロッパ系国家のみ,南米のマヤやインカには騎兵が存在しない,北米の諸勢力は鉱山を掘ることができない,などである。
こうした史実的なバランスとゲームバランスを両立するのは難しいが,ACはゲーム性に最大限に配慮しつつ,史実性に妥協していない。こうした意味で,ACはヒストリカルRTSとしても高く評価されるべきであると思う。
最後に日本語版について言及しておきたい。ACの日本語版は非常に丁寧な日本語化が行われており,ゲーム中に登場するテキストデータはすべて違和感なく自然に日本語化してあるのみならず,68ページに渡るマニュアルも日本語化されている。公式サイトもあり,情報交換用の掲示板やリプレイ用の掲示板も備えている。ゲームそのものの出来もいいが,ローカライズの質も良い。デモ版(「こちら」)をやってみて気に入ったのであれば,ぜひとも"買い"の一本だ。
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| 操作画面は,通常モードと4倍ズームモードの2種類がある。双方の操作体系は共通で,切り替えもスムースなので操作性は良い | 史実に忠実なキャンペーンは,詳細な解説付きで,ちょっとした歴史学習ソフトとしても使える | ランダムマップの設定画面。COMの国や難易度を自由に設定できる |
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