ENTER THE MATRIX 日本語版

Text by Seal
6th Aug. 2003

 「ENTER THE MATRIX 日本語版」は,映画「マトリックス」(2003年8月現在,続編となる「マトリックス・リローデッド」が公開中)の世界観をモチーフにしたアクションゲームだ。
 簡単にマトリックスの世界観を説明しておこう。近未来,人工知能によりマトリックスと呼ばれるバーチャル世界が構築され,現実の世界では睡眠状態の人々が,そこで擬似生活をしていた。この生活が虚構ということを知る少数の人類と人工知能で制御された機械(マトリックス側)が戦争をしている……というものだ。
 1999年に公開された1作めの「マトリックス」は,サイバー世界と派手なアクションの融合によって,高い評価を受けたのは記憶に新しい。CGをふんだんに使ったアクションシーン,独特のセリフ回しなど,エンターテイメントとしてだけでなく,一つの未来像としても楽しめる作品だ。
 文字通り一世を風靡したウォシャウスキー兄弟(マトリックスの監督)は,映画での続編となる「マトリックス・リローデッド」以外にもいろいろな媒体で仕掛けを施しているのがファンにとって目が離せない部分といえる。
 そのゲーム版が「ENTER THE MATRIX」なのだが,いわゆる「キャラもの」とは思わせない要素がふんだんに取り入れられているのが特徴だ。

簡単な操作で派手なアクションが展開できる

派手なアクションを簡単な操作で行える爽快感が魅力。テンポ良く進むストーリーも見逃せない

 「ENTER THE MATRIX」は,マトリックスの劇中に登場する独特のアクションシーンを再現できるのが魅力の一つ。具体的には,敵の放った銃弾をよけるときにスローモーションとなったり,複数の敵に囲まれたときに空中に浮かび上がって多段の蹴りを繰り出したりというシーンだ。これをゲームで自在に行えるのだから,ファンにとってはたまらない。
 派手なアクションが繰り広げられるということから,操作が煩雑になっているのではないかという懸念が生じるが,本作では非常に簡略化されている。
 基本的な操作は,キーボード(移動)とマウス(攻撃)の併用だが,攻撃については,左クリックでパンチ,右クリックでキック,両ボタンの同時押しで投げ,と3種類しかない。つまり,アクションゲームが得意でない人でも,適当にマウスをクリックしているだけで,劇中での派手なアクションが展開されるというわけだ。これは,攻撃を行ったときに自分と敵との位置関係でどのようなアクションとなるかが細かく設定されているからで,単調にならないことも合わせて,プレイしていて非常に楽しくなる。
 さらにアクションのバリエーションを増やしたいときには,"Focus"(前述のスローモーションなどの動き)を使用する。Focus使用中は自分以外の周囲がゆっくり(=自分は高速動作をしている)となるので,敵の背後に回ったり,怒涛のように押し寄せる銃弾をすべて避けたりということが可能となる。Focusの使用には時間制限が設けられているので,困難な場面に遭遇したときに発動させて,ネオ(映画での主人公)の気分になってクリアするのが非常に楽しいのだ。
 また,Focus中には通常では行えないようなアクションも用意されていて,10メートル近い距離をジャンプしたり,地面と平行に壁を疾走して敵に近づいたりと,10アクション以上が存在する。序盤はうまくFocusを使いこなせないで,あたふたとしてしまうが,中盤以降では気づかないうちにFocusを自在に操れるようになり,マトリックスの世界に没頭している自分に気づくことだろう。

 さて,アクションゲームというからには,やはりゲームオーバーが存在する。それは体力ゲージが0となったとき。しかし本作では,ゲームの"テンポ"を最重要としているらしく,体力ゲージもFocusゲージも時間経過で自動的に回復するようになっている(体力を全回復するアイテムも存在するが,あまり使う場面はない)
 ほかのゲームでよくあるように,体力の自動回復は,移動せずにじっとしている……などと制限が設けられていたりするが,本作では,戦闘中でなければ走っていようが,はしごを上っていようがどんどん回復してしまうのだ。回復速度は0に近ければ近いほど速くなり,例えば倒されそうな場面をぎりぎりでクリアしたあとなどでは,1秒間で半分くらい回復するので,回復待ちでプレイヤーが休憩を強いられるということは非常に少ない。テンポよくさくさくと進めるのも本作の面白い部分といえるだろう。

映画と同様にいろいろな場所にジャックインして目的を遂行する。10種類以上の武器が用意されている 素手での格闘戦では,マウスを適当にクリックしているだけでも華麗な連続技に! 角から向こう側を覗き込んで待ち伏せするというアクションも可能。敵の銃を奪えば簡単に倒せるだろう
床に移りこむ影など,グラフィックス面は非常にクオリティが高い。これは背後から忍び寄って敵に杭を打ち込んだシーンだ ハイウェイでのカーチェイス。モーフィアスを助けるために目的地へ急行するのだ ホバークラフトを操縦する場面では,迫り来るワーム状の敵を振り払いながら,狭い通路を進んでゴールを目指す

映画「マトリックス・リローデッド」と交錯するストーリー

もちろんエージェントスミスも登場する。非常に強いので逃げの一手しかない

 本作は,映画マトリックス・リローデッドと時系列で交錯する部分が多い。これも本作の魅力の一つで,少々ネタばれになってしまうが,実をいうとマトリックス・リローデッドを観たあとにプレイしたほうがストーリー展開を楽しめる。
 本作は,1時間以上にも及ぶムービーシーンが収められていて,アクション→ムービー→アクション……という繰り返しとなる。1日でエンディングまで到達することは難しいので,先に映画を……とお勧めしたわけだ。ほかにも,サイドストーリーをオムニバス形式で詰め込んだ「アニマトリックス」という作品もあり,これもあらかじめ観ておくとゲームを数倍楽しめる。
 そのムービーシーンは,映画と同じ俳優/スタッフによって撮影されているので,映画さながらの迫力がある。さらに公開されていないシーンもあるのでこれを観るだけでもマトリックスファンにはたまらないだろう。

 本作の主人公は,映画にも登場する"ゴースト"と"ナイオビ"の二人。ゲームスタート時にどちらで開始するかが決められるが,どちらでも同じマップ,同じ経路で進んでいくのではなく,「Alone in the Dark 3」のように,同じストーリーラインを違う視点で進んでいくというものだ
 つまり,選ばなかったほうのキャラクターが,選択したほうのキャラクターをサポートしてゲーム中の随所に現れるというシステムだ。このシステムでは,ヒーロー的な孤独感よりも,仲間の存在が身近に感じられて協力して困難に打ち勝つという感じが強くなる。クリアしたあと,もう一方のキャラクターでもプレイできるので一粒で二度おいしいというわけだ。
 また,ゲームならではの面白い特典もある。それは,ほかのコンピュータを"ハック"するというミニゲーム(?)で,仮想OSでコマンドを打ち込むことで,ある要素を見つけるというものだ。ある要素とは,いわゆる裏技で,Focusゲージの回復が速くなったり,刀が武器として使えるようになったりというもの。これもバーチャルな世界を題材にしたマトリックスならではの要素といえるだろう。

 「ENTER THE MATRIX」は,"キャラもの"としてはずば抜けた面白さを秘めている。公開されている"映画版"とは異なるアングルで楽しめるという部分も,非常に評価できる。プレイヤーが分かりづらいと思われるマップでは,ゴール地点を指し示すナビゲータが表示されるなど,基本的にはストーリーを楽しませるための工夫もいくつか見られる。
 しかし,やはりアクションゲームとして見た場合では,マップの単調さや作り込みが甘い部分で評価を下げてしまうだろう。"別のアプローチからマトリックスのストーリーを楽しむためのもの"といってしまっては,少し過言ではあるが,マトリックスワールドに引き込まれてしまっている人には,必ずクリアしてもらいたいタイトルとしてお勧めしたい
 ちなみに,本作はPC版以外にもゲームキューブ版,プレイステーション2版,Xbox版がある。グラフィックス面でこだわるなら,PC版かXbox版がお勧めだ。
 また2003年11月には,映画第3作めとなる「マトリックス・レボリューションズ」の公開が予定されている。いまからマトリックスの世界にどっぷりとはまるのは,遅くないだろう。

Focus中は,さまざまなアクロバットアクションが繰り出せる。この状態でも攻撃可能なので華麗に倒していこう ゲーム後半では,いわゆる"ボスモンスター"との戦いも。投げやFocusを駆使して勝利をつかめ! オラクルの守護者セラフの試練。この戦いに勝たなければオラクルに会うことはできない
映画でも登場したメロビンジアンの迷宮。非常に忠実に再現されているので,ここを訪れたときは感動するだろう コンピュータを操作してハッキングを行うミニゲーム。ここでコマンドを入力するといろいろな裏技が使用可能となる ハッキングで日本刀を使えるようにしてみた。一連の攻撃でほとんどの敵を倒すことができる強力な武器だ

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■発売元:ATARI
■問い合わせ先:インフォグラム ジャパン サポートセンター 052-760-0129
■価格:7800円
■動作環境:Windows98SE/ME/2000/XP,PentiumIII/800MHz以上(Pentium4以上推奨),メモリ128MB以上(256MB以上推奨),空きHDD容量4.3GB以上
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Enter The Matrix video game (C) 2003 Warner Bros. and Atari, Inc. All rights reserved. All other trademarks are the property of their respective owners. Manufactured and Marketed by Atari, Inc. New York, NY.Published in Japan by Infogrames Japan K.K. TM & (C) Warner Bros.
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