ゼウス マスター オブ オリンポス 完全日本語版

Text by Gueed
28th Nov.2001

建造物はすべて,古代の雰囲気をそのままに,美しいグラフィックで描かれている

 「ゼウス マスター オブ オリンポス」(以下,ゼウス)は,Impression Gamesが開発を手がけた「シーザー」(日本国内ではイマジニアからの発売),「ファラオ」に続く建国シミュレーションシリーズの第三弾として登場した作品だ。"古代の神話を題材とした箱庭ゲー"と,わりとオーソドックスなテーマとシステムを採用しつつも,タイトル名にもなっているゼウスを始めとする神々が,実際に人々の住む街に降臨して奇 跡を起こすなど,雰囲気のいい凝った演出が光る作品である。本シリーズをまったく知ら ないという人は,箱庭ゲームの王道"シムシティ"をイメージすると分かりやすいだろう。

 2000年10月16日に米国でSierraから先行リリースされたゼウスだが,待望の完全日本語版の発売が決定。日本国内での発売は,「シヴィライゼーション」「SWAT」など,海外で評価の高いタイトルをリリースし続けているサイバーフロントということで,いやがおうにも期待が高まるところだ。


都市の発展は基本を押さえて

災害の抑止は管理塔の仕事。画面は,ずさんな管理で災害発生寸前の様子。このまま放っておくと…… このような火事を招くこともある。建物によっては瞬時に崩壊するものもあるので,管理には常に目を光らせよう

 このゲームは,"都市の発展" "神々の存在" "近隣諸国との外交"という三つの要素で構成されていて,なにもない荒野から都市を発展させていくのが目的。
 街を発展させるには,第一に人を増やすこと。そして,農業(漁業)や工業,商業を駆使して資金を稼ぐことだ。また,街の拡大とともに軍事力を蓄えて近隣諸国の脅威を取り除くことも重要になってくるなど,プレイヤーの仕事は多岐に渡る。
 開始直後は,まず移民を受け入れるための住宅を設置することになるのだが,ここで初心者に一つアドバイス。効率良く都市を発展させるためは,ある程度計算された道路の建設が重要になってくるということを覚えておこう。
 このゲームで住人の数を増やすには住宅の進化が欠かせない要素となるのだが,例えばその住宅に水が足りなかったとしよう。当然,住民は不満を訴えて,そのまま放置しておくとすぐに移民となって街からはなれてしまう。それでは困るので給水所を建設することになるが,実は,給水所を建設しただけでは住宅には水は行き渡らず,その給水所から出動する"水運び人"が住宅の前を通りがかることで,初めて住宅に水が補給されるという仕組みになっているのだ。食料/衣類/文化の伝播についても同じことがいえ,それぞれの担当者の 歩く経路を考えずに街を設計すると,街の進化は停滞してしまうことになるだろう。
 慣れるまではループ状に道を建設して,そのループの構造をできるだけ壊さないように街を設計してみるといいかも。時間が経つにつれて住民の歩行経路のパターンを把握できるようになるので,"通行止め"などを利用した複雑な設計ができるようになるハズだ。
 住民を効率良く受け入れる体制が整った後に肝心になってくるのは,やはり民心。ライフラインの整備はもちろんのこと,衛生や治安の維持がキーポイントになってくる。裏を返せば,序盤ではこのポイントさえしっかり押さえておけばそれほど街の運営がキビシくなることはないともいえるので,自分なりに都市の地図を描くという,箱庭ならではの楽しみはもちろん残っているのでご安心を。

 街に住む住人はコミカルかつリアルに描かれていて,その生活感あふれる様子は,やはり見ていているホノボノする。前作にあった"街を評価する機能"が省略されたのは残念だが,画面右にあるタブを利用して内政の状況をグラフィカルに確認することができるので,箱庭ファン共通の"管理魂"をそそる仕掛けはバッチリだぞ。また,プレイヤーが街におこすアクションに対して,実際に街の状況が変化するまでのレスポンスも良いので,初心者の箱庭プレイヤー育成にはうってつけかもしれない。

右側のタブで確認できる街の魅力は,進化にはかかせない要素 スタジアムでは,日々激しい戦いが繰り広げられる。これも屈強な軍隊を作るためだ 海原での漁も,資源調達の手段の一つ。倉庫とアゴラを効率よく配置したい 少しでも街が気に食わないとすぐに移民となって旅立つ住人たち。でも悪いのは指導者のキミだ

攻略のミソは近隣諸国との協力,そして神の存在も……

キャンペーンには複雑な勢力図を持つものもある。プレイヤーの外交手腕が問われるところだ

 前作と比較して,やや重要度が増したカンジの近隣諸国との外交。
 ゲームが進行するにつれて,近隣諸国とのやりとりを頻繁に行うようになってくる。ゲーム中盤では,街に必要な物資を自力で供給するのが徐々にツラくなってくるのだ。そこで,友好関係を結んでいる都市と貿易を行ったり,同盟を結んだ都市と共にライバル関係にある都市を襲うなどして需要をまかなうわけだ。ミッションの終了条件や,神々を降臨させる条件を満たすためにも外交が必要になったりするので,早めに慣れておきたいポイントでもある。

 さらに忘れてはいけないのは12人のオリュンポスの神の存在。本作の目玉といおうか,建国シミュレーションシリーズのなかで本作を差別化する要素として加わったのであろう,"具現化した神"の存在が面白い。登場する神は,実際の神話にあるエピソードに沿った形でそれぞれの役割を果たすことになるが,神によって街に敵対するものや,友好的なものとさまざま。神は,対象となる神の神殿を右クリックすることで確認できる条件を満たすことで,自都市に降臨させることができる。ミッションをクリアする為に神を利用す るという,ややゾンザイな扱いも否めないが,ゲーム中の小目的として"神を降臨させる"というのは,単調なシミュレーションの中にメリハリをつける意味では,非常に良いシステムではないだろうか。


バックグラウンドを知って面白さ倍増

微妙なトーンだが,本作がかもしだす雰囲気に似合っているのが不思議だ 蛇の頭髪に蛇の下半身。あまりにも有名なモンスターであるメデューサも,もちろん登場する

 古代の神話を題材としているゲーム全般にいえることだが,その神話のバックグラウンドを知っているか否かで,その面白さは大幅に変わってくるのではないだろうか。
 ゼウスはギリシア神話に登場するオリンポスの住人で,ギリシア神話の最高神に位置付けられている……と,ここまでは大抵の人ならばなーんとなく知っていたりするだろう。さらにゼウスは,ハデス,ポセイドンと血を分かつ三兄弟の一人で,それぞれ天空,地の底の冥界,海を支配するというギリシア神話の中でも最大の権力を持つ神という位置づけにある……と,ここまでくると,神話そのものに興味を持っている人や,「セイント星矢」の単行本を読破した人以外は耳にしたことがないかもしれない。
 しかし,ゼウスという人物(?)一人を例に挙げても興味深いエピソードが数多く存在していて,紐解いていくとなかなか面白い。神話の解釈はさまざまあるものの,どの説でも一致しているのが,ゼウスの所業の中でもとりわけ目立つ女性関係に関する記述。すてきな女性を見るとちょっかいを出さずにはいられないゼウスは,ハルマゲドンに備えて(そのあたりがよくわからんが)多くの女性と交わるなどの逸話をもち,彼にまつわる神話のほとんどが浮気に関するものという,いわば"スケベ親父"的な扱いを受けてい ることをご存知だろうか?

 本作は,その神話の背景を知ることでより味わい深いプレイが楽しめると筆者は考える。本作をキッカケに,ネットにころがっている神話の断片をシコシコ探してみるというのも,楽しみ方の一つとして提案しておきたい(ちなみにギリシア神話は,その荘厳かつ壮大なイメージのわりに,やたらと人間くさいエピソードが散りばめられているので親近感があってなかなか読ませる)。


初心者のとっつきは良し。箱庭ファンだと……

宿敵を持つ神は,降臨すると一直線的に向かう。写真はヒドラに立ち向かう勇者ヘラクレス

 本作は10個のキャンペーンで構成されていて,それぞれのキャンペーンの中に設定されている複数のミッションをクリアしていくタイプのゲームだ。大きな目標に向かって漠然とフィールドに放り出されるタイプの同ジャンルのタイトルに比べて,課題が明確になっている分,初心者の上達は早いだろう。さらに親切なチュートリアルも用意されていて,箱庭ゲーの経験がない人もすんなりゲームに入っていけそうだ……と言いたいところだが,日本語化の中途半端さがやや否めない。意味不明な記述になっている部分もあるので, 少し戸惑うところもあるかも。

 しかしシリーズ三作めを数えて――というよりも,この"箱庭"というシステム自体がすでに円熟の域に達している感もあり,楽しさは保障付きといったカンジ。ギリシア神話自体も,小説や映画などで扱われることが多いし,民が必要としているものや,プレイヤーが次にやらなければならないことが直感的に分かりやすいというのは初心者にとってはありがたい。
 では,熟練の箱庭プレイヤーにとってはどうだろうか。正直いって,神々の存在という付加価値はあるものの,そのオーソドックスなプレイスタイルは,やや魅力に欠けるかもしれない。
 ただ,シリーズの集大成をやるつもりで"大作"の気負いを感じることなく気軽にプレイしても,かなり遊べるゲームであることは間違いない。ノートPCでも動作する軽い仕様にもなっているので,肩肘を張らずに遊んでみるのもいいだろう。

大変美しい外観をもつ住宅の進化の最終系。あばら屋がなつかしい 住民を右クリックすると街の様子を知ることができる。少し変な日本語はご愛嬌? ノホホンと牧畜生活。これもまた箱庭やRTSならではの楽しみの一つ お聞かせできないのが残念だが,コイツら結構いい声出してます

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■発売元:サイバーフロント
■価格:9800円
■動作環境:Windows 9x/Me/2000/XP,Pentium/166MHz以上,メモリ:32MB以上,HDD容量:550MB以上

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