ウィザードリィ ニュー エイジ オブ リルガミン

Texr by 朝倉 哲也
10th Sep. 2002

 ウィザードリィシリーズの新作「ウィザードリィ ニュー エイジ オブ リルガミン」が,エレクトロニック・アーツ・スクウェアより発売された。過去の2作品をまとめて Windows対応として発売したものなので完全な新作ではないものの,収録されているゲームはどれも今から10年以上も前に発売されたものなので,10代〜20代のゲーマーなら新鮮に感じられるかもしれない。また,30代以降の年季の入ったゲーマーなら懐かしくプレイすることができるだろう。

2本のゲームが収録されたお買得パック

「Heart of The Maelstrom」の戦闘シーン。スーパーファミコン版のイメージに近い

 まずは,「ウィザードリィ ニュー エイジ オブ リルガミン」に収録されている作品の解説からしていこう。本作に収録されているのは,「Wizardry IV:The Return of Werdna」「Wizardry V:Heart of The Maelstrom」の二つだ。

 「Wizardry IV:The Return of Werdna」は,日本では1988年にPC-98版が発売されたシリーズ第四作。これは1997年に日本でも発売された「Wizardry III:Legacy of Llylgamyn」の続編として登場したもので,ウィザードリィシリーズの第1作でボス敵として登場した,大魔導師 Werdnaを主人公として据えている。
 つまりプレイヤーが第1作で倒した悪の魔法使いWerdnaとなって,今度は逆に冒険者達を敵として闘いながら,自分が封じ込められているダンジョンの奥深くから地上めがけていくという設定となっており,どちらかといえば"外伝"的な要素が強い作品といえるだろう。
 発売された当時は異常なまでに高い難度が話題になったが,それゆえにあまり人気も得られなかったようで,ファミコン/スーパーファミコンへは移植されず,現在はプレイステーション版で復刻され発売されている。ウィザードリィといえば,第1作〜第3作,そして第5作がクローズアップされることが多く,どちらかというと日陰の存在だったといえるだろう。

 「Wizardry V:Heart of The Maelstrom」は,日本では1990年にPC-98版が登場,2年後の1992年には当時の最新鋭コンシューマ機だったスーパーファミコンへと移植されたシリーズ第五作
 内容は前作から一転,プレイヤーが操る6人の冒険者達が世界の破滅を救うべく危険なダンジョンに挑む,正統的なダンジョン探索型RPGへと原点回帰を果たしている。
 本作にはいくつかの大きな特徴がある。一つはストーリーが重視されたことだ。以前までのシリーズでは,ストーリーはあるにはあっても知らなくともいいようなもので,プレイヤーの主眼はキャラクターのレベル上げと,希少アイテム探しに置かれていた。だが本作では,ゲームを進めていくうえでNPCとの関わりが生じてくるために,ストーリーが前面に出てくるようになっている。結果としてアイテム集めやレベル上げを目的としたプレイヤーでも,知らず知らずのうちに,大都市リルガミンを襲った災厄と,その背後に潜んでいる闇との関わりに巻きこまれていくようになっているのだ
 特徴の二つめは,ダンジョンの形が正方形から不定形へと変更されたことだ。4作めまでの基本となっていた20×20マスの正方形の中に収まっていたダンジョンだが,本作よりそのワクを飛び出しフロアごとにすべて違う形をしているため,方眼紙と鉛筆で自分の歩いた跡を辿ってダンジョンのマップを完成させる"マッピング"の作業を,より難しいものにしている。
 そして,レベル上げやアイテム集めに血道を上げるプレイヤーのためにおまけ的に追加されたダンジョンが,三つめの特徴として挙げられる。このダンジョンはストーリー進行とはまったく関係がなく,切り離されたものとして存在している。このダンジョンには,ここにしか登場しないモンスターやゲーム中最強の敵が待っていたりと,かなりのレベルを持ったプレイヤー向けではあるが,その見返りとして素晴らしいアイテムが出る可能性があるという,ウィザードリィファンにとっては夢のような場所だ。多くのプレイヤーがここに挑戦して散っていったことは,言うまでもない。

 そのほかにも新呪文の追加や謎解きの要素なども加えられるなど,第一作から続いてきたシリーズの集大成を見ることができる。余談だが,現在でも中古ゲームショップのスーパーファミコン・コーナーにおいて,本作をよく見かけることがあることからも,広くゲーマーに受け入れられていたことが伺える。

アレンジバージョンの「The Return of Werdna」。敵グラフィックスは末弥氏が描いている アレンジバージョンの「The Return of Werdna」に追加されたオートマップ機能

2種類のバージョンが収録された Wizardry IV

「Heart of The Maelstrom」はNPCとの会話が非常に重要となっている

 さて,「ウィザードリィ ニュー エイジ オブ リルガミン」には上記のような2作品が収められているが,大きな特徴が「Wizardry IV:The Return of Werdna」において,ゲーム発売当時のオリジナルそのままに再現された"クラシックバージョン"と,ゲームシステムを今風にアレンジした"アレンジバージョン"の2種類を選択できることだ。
 クラシックバージョンでは,オリジナルの「Wizardry IV:The Return of Werdna」の難易度をそのまま体験できる。先ほどこのゲームの難度の高さについて述べたが,本当にハンパでない難しさなのだ。
 一例を挙げよう。ゲームがスタートするとプレイヤーである魔導師Werdnaは,2×2マスのごく小さな部屋の中に立っている。そばには仲間となるモンスターを召喚する魔法陣があるきりで,出口が見当たらない。では,どうやってそこから出て行くのか? 実はこれ,「魔方陣でプリーストを召喚し,仲間に加える。その後に敵冒険者との戦闘を"発生"させ,その戦闘時にプリーストが"偶然"に,見えない扉を発見する呪文を唱えて,壁に隠し扉が現れるのを"期待"する」しかないのだ!
 プレイヤーはモンスターにコマンドで戦闘指示することができないので,召喚したモンスターがどのように戦うかは,すべて運任せ。うまく扉発見の呪文を唱えるまで何回でも戦わなければならない。また敵冒険者との戦闘もじっとしていては発生しないため,部屋の中を歩き回って,これまた"偶然"にエンカウントするのを待つしかないのだ。つまりこれらの偶然が重ならないと,プレイヤーはスタートした部屋から一歩も外に出られないという羽目に陥る。
 これだけではない。フロアの3分の2に地雷が仕込まれたレベルとか(当然踏んでみるまで分からない),敵として登場する冒険者によって盗まれてしまうアイテム,フロアのほとんどすべての壁が一歩通行のドア…… 例を挙げればきりがない。
 さすがにこの難しさではマズイと思ったのか,本作ではアレンジバージョンを使うことでモンスターへのコマンド指示が行えるようになったり,オートマッピングが使えたりするなど,かなりプレイしやすくなっている
 悪いことはいわない,「Wizardry IV:The Return of Werdna」は,アレンジバージョンでプレイしてみよう。もちろんゲームで苦労することを厭わない人や,チャレンジ精神旺盛な人は,ぜひクラシックバージョンでのクリアを目指していただきたい。

いつまでも続く緊張感

これが発売当時のモンスターグラフィック。さすがにしょぼいけど案外味がある?

 ウィザードリィシリーズの特徴として,いつまでも果てしなく延々とプレイし続けられることが挙げられる
 大抵のRPGは,エンディングを迎えたところでゲームプレイを中止してしまう。マルチプレイがあるような場合は長く続けたりするが,それでも1年以上もプレイし続けられるゲームというのは,めったにないだろう。
 だが,ウィザードリィは違う。1985年に日本で発売されたシリーズ第一作を未だにプレイしている人が存在するのだ。それは,まるで終わりがないかのごとくレベルアップを続けるキャラクターと,とんでもなく出現確率の低いアイテム,そしてどんな高レベルになろうとも免れられない死への恐怖があるからにほかならない。
 キャラクターのレベルは,経験値さえ溜めればいくらでも上がっていく。ウィザードリィの世界では,レベル100などひよっこなのだ。ベテランWIZフリークは,数百レベルのキャラクターで日夜ダンジョンに潜り続ける。そして,ごく一部のモンスターがゼロに等しい確率で落とす希少なアイテムを入手するのが,彼らの生きがいとなっている。
 通常これだけレベルが高くなると,キャラクターが強くなりすぎて戦闘にまったく緊張感がなくなってしまうものだが,ウィザードリィにはクリティカルヒットによる一撃死が存在するため,気が抜けないのだ。クリティカルヒットが発生すると,たとえヒットポイントが数千あっても一撃で死んでしまうのだ。もちろんRPGのお約束として,死からの復活手段は用意されているが,2度続けて蘇生に失敗すると,そのキャラクターはPCから消去されてしまうのだ("ロストする"と呼ばれる)。蘇生にはランダム性があるので,常にロストの恐怖がプレイヤーには付きまとっており,ゲームの緊張感を保ってくれている。
 とくに本作に収録されている「Wizardry V:Heart of The Maelstrom」には,高レベルキャラクター用のおまけ的なダンジョンも用意されているので,いつまでもいつまでもプレイすることが可能だろう。レベル1でもレベル100でも,毎回の戦闘時にまったく同じような緊張感を味わえるということろが,ウィザードリィの大きな魅力といえる

末弥純&羽田健太郎の黄金コンビ

 忘れてならないのが,ウィザードリィといえば思い浮かぶ,あの迫力あるモンスターグラフィックス(いまにも掴みかかってきそうなグレーターデーモンや,妖艶なサキュバスなど)と,(ファミコン版だけだが)荘厳なテーマミュージック(ファミコンにWIZのカセットを挿して,電源を入れたときのあのBGMは未だに覚えている)だ。そのモンスターグラフィックスを描いた末弥純氏と,音楽を作曲した羽田健太郎氏の黄金コンビが本作でも参加していることは,昔ながらのファンには感涙ものだ
 ゲームを起動した瞬間から流れる,荘厳なテーマミュージックと絵画を思わせる美麗なグラフィックスによって,一気にウィザードリィ・ワールドへとプレイヤーを誘ってくれる。ファミコンでプレイしていた世代には懐かしく,若い人には新鮮に映るのではないだろうか。
 なお嬉しいことに,ワイヤーフレームを使った昔ながらのゲーム画面を選択しても,モンスターを末弥氏の描くものに変更することができる。昔ながらのモンスターグラフィックスでプレイするか,末弥氏の美麗なグラフィックスを楽しむかはお気に召すままだ。

 「ウィザードリィ ニュー エイジ オブ リルガミン」は,昔ウィザードリィをプレイしていたというベテランのゲーマーから,今まで一度もプレイしたことがない若手ゲーマーまで,すべてのRPGファンにお勧めしたい。
 ゲームはグラフィックスや機能がすべてではない。イマジネーションとそれを与えてくれる環境を提供してくれるゲームこそが,良いゲームなのだということを改めて認識させてくれるに違いない。

キャラ作成画面。当時は,高いボーナスポイントが出るまで何時間でも粘るのが普通だった 嬉しいレベルアップの瞬間。しかし能力値は下がることもある サウンドテストでは,ゲーム中に使われている羽田氏の音楽を聞くことができる

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■発売元:エレクトロニック・アーツ・スクウェア
■価格:8980円
■問合せ先:エレクトロニック・アーツ・スクウェア TEL03-5436-6499
■動作環境:Windows 98/Me/XP,Celelon/450MHz以上,メモリ128MB以上,空きHDD容量240MB以上

The Return of Werdna Copyrightc1987 - 2002 by Andrew Greenberg, Inc. and Sir-tech Software, Inc. All logos, Printed graphic designs and printed materials Copyright c1987 - 2002 by Sir-tech software, Inc. All rights reserved. Heart of the Maelstrom Copyright c1988 - 2002 by Sir-tech Software, Inc. All logos, printed graphic designs and printed materials Copyright c1988 - 2002 by Sir-tech Software, Inc. All rights reserved. WIZARDRY is a registered trademark of 1259190 Ontario, Inc. All rights reserved.