メディイーヴァル:トータルウォー
  【日本語マニュアル付英語版】

Text by TAITAI
25th Oct.2002


■舞台を西洋に移した,歴史エンターテインメント大作の続編

ユニットのグラフィックスがより鮮明になり,さらに迫力の増した戦闘シーン

 今回紹介する「メディイーヴァル トータルウォー」は,日本の戦国時代をテーマに"合戦"の迫力と臨場感を見事に表現し,歴史ゲームの新境地を切り開いた「Shogun:Total War」(以下,Shogun)の続編に当たる作品である。特徴だった戦場の圧倒的な臨場感をそのままに,本作では舞台を中世ヨーロッパに移し,百年戦争や十字軍遠征など歴史的事実を基にしたキャンペーンやイベントが用意されている。細かいルールや心憎い演出の数々も前作のファンが再度唸らされるほどの出来栄え。音楽も中世ヨーロッパを感じさせる荘厳な雰囲気を漂わせる曲が多数用意されているなど,歴史ゲームファン泣かせの演出も素晴らしい一本だ。
 開発が海外のデベロッパということもあってか,芸者が暗殺を繰り広げたり,部屋に見慣れぬオブジェクトがあったりと,日本の文化の描写に違和感を感じたShogunに比べると,本作はむしろ正道に戻ったかのような印象さえ受ける。

 さて,この後ろに解説が入るわけだが,まず皆さんが先を読む前に一言いわせて頂きたい。このゲームは"絶対に"買いである,と。
 だから,ここで「うん,そうか」と納得できちゃったユーザーは,ここから先を読まなくてよい……かも。



マップ上に配置される軍団を,侵略/防衛する領土に動かしていく戦略パート。シンプルだが奥の深い戦略が楽しめる 本作では,攻城戦の要素が強化された。投石機のような攻城兵器も登場してくる


■壮大な会戦シーンがさらにスケールアップ。戦場の雰囲気を肌で感じ取れ!

調子に乗って城から出てしまうと,大部隊に包囲されてしまうことがしばしば。かといって下手に城に立て籠もっても,遠くから砲弾や石が飛んでくるのだ……
 Total War(総力戦)という題名が示すとおり,なんといっても本作品の魅力は臨場感溢れる大迫力の戦闘描写に尽きる。フル3Dで表現される広大なフィールドを舞台に,そのフィールドを覆わんばかりの大人数のユニット達が,プレイヤーの指揮の下,整然と隊形を組み戦うのだ。重厚さを感じさせる音楽と共に大軍団が移動し,両陣営が陣を敷いて向かい合う……そんな映画のワンシーンのような状況が,プレイヤーの眼前で繰り広げられる。
 ゲーム自体の設計も非常に良く作り込まれていて,横隊や密集方陣,敵の射撃に対しては散開隊形など,状況と部隊の配置によって取るべき隊形も変化する。士気,疲労,武装度,練度のような細かいパラメータ,高地に布陣すれば強いなどの地勢の影響,実際の戦闘/兵法をモデルにしたという細かいルールの数々も凄いの一言である。映像や音楽だけではなく,ゲーム全体の設計が"合戦"の臨場感を盛り上げるために工夫されているのだ。
 事実,槍兵を前面に押し出しながら,くさび形陣形を取った騎兵隊を敵陣の横腹に突っ込ませ,一気に敵軍を瓦解させていくときなどの至福感たるや,「一人壮大な歴史ロマンの平原へとトリップ」してしまいそうになるほど。いや実際,戦闘パートがこれほどよく作り込まれたゲームは,世界的に見回しても皆無である

 ちょっと余談となるが,中世ヨーロッパ付近の戦いを表現した映画は探してみると案外少ない(ローマなどの古代を扱ったものは多いが)。有名どころではメル・ギブソン主演の「ブレイブハート」,ちょっと古くなるとスペインの英雄の半生を描いた「エル・シド」などがあり,壮観な戦闘シーンが大好きだった筆者などは,主人公の苦悩や人物の関係,展開されるロマンスの行方などはお構いなしに,ひたすら戦闘シーンを眺めたりしていた。……って,こう書くとタダの変質者かもしれないが。
 まぁとにかく,このような映画……いわゆる歴史スペクタクル映画を見てウキウキワクワクしちゃったような経験があるユーザーが絶対的に満足できる作品……それがトータルウォーシリーズなのである。



十字軍遠征などのイベントから分かるように,中東も戦場の舞台として用意されている。ラクダ部隊を指揮し,侵略者達を追い払うのだ 薄く霧がかった橋の向こうには敵の大軍団が。この場合,橋の前に包囲陣を敷き,敵を各個撃破していくのが基本だ


■たかがゲーム,されどゲーム。遊ばせ方に対する配慮があれば……

政略を駆使して欧州の覇権を目指すCampaignsでは,開始する時代を三つの中から選択できる。後の時代になれば,強力な大砲や鉄砲が登場してくるぞ

 さて,ゲームのシステムについてもう少し詳しく触れておこう。
 本作には,イギリス,ドイツ,フランス,あるいはエジプトやトルコなど,列強を治める王の一人に扮して欧州の覇権を争う「Campaign」モードと,与えられた状況と兵力で戦闘それ自体を楽しむ「Custom Batlle」「Historical Battles」「Historical Campaigns」の各モードが用意されている。

 Campaignでは,ボードゲーム調マップを睨みながらの政略結婚や施設の建設などの戦略を推し進め,駒状で表現される軍団の移動を繰り返して,欧州の各地域の制圧を目指していく。戦略マップ上で軍隊同士がぶつかると,3Dで構築されるフィールドを使っての合戦パートへと移行し,その勝者が戦場となった地域の支配権を得るといった具合だ。この辺は,かの有名な「信長の野望」を連想してもらえればよいだろう。ただ,本作における戦略モードは,あくまでも合戦を盛り上げる一つの要素に過ぎず,必要以上の複雑さは持ち合わせていない。いわゆる"データ系"のごちゃごちゃ戦略ゲームではなく,ボードゲームのようなスリム化されたゲームシステムが用意されているのだ。
 前作に比べると,軍団の成長要素が非常に強化されており,各部隊を統率する指揮官に指揮力や忠誠心などといったパラメータが用意され,戦闘を繰り返すと次第に成長していく。ユニットの数も大幅に増え,イギリスのロングボウ兵やスイスのパイク兵のような各国の特徴的なユニットも盛り込まれているなど,歴史的なエッセンスがふんだんに用意されている点も嬉しい部分だろう。

 またHistorical BattlesとHistorical Campaignsでは,先ほど話題にあげた映画ブレイブハートの最後を締めくくる「バノックバーンの戦い」や百年戦争における「アジャンクールの戦い」など,歴史上の有名な会戦の数々を,指揮する王/将軍の立場で体験することができる。「俺だったらこういう作戦をとる!」というような歴史のifを試すこともできるし,逆に史実通りに軍を動かして勝利を収めることも可能なわけだ。
 ただ,難易度を難しくすると史実通りに軍を動かしてもあっさりと敵軍に踏みつぶされてしまうなど,バランス的には歴史ではなく"ゲーム寄り"という感触である。

 またゲームとして一つ残念な要素があるとすれば,マルチプレイの仕様についてだろう。用意されたロビーの使い勝手の悪さは言うまでもなく,マルチプレイの"遊ばせ方"が非常にお粗末なのだ。設定できるルールのどれもがイマイチで,マルチプレイの醍醐味である駆け引きが少ない(高地に布陣して動かないなど),ユニットの選択や配置に時間がかかり,ゲーム開始から戦闘に至るまでのテンポが悪いなどである。
 ユニットの選択などに関しては,カードゲームのように"自分の軍団"をセッティングしておき,それを持ち寄るような形を取れば解消できただろうし,ゲーム中の大味さについても,積極的に軍を動かす意味を用意してやればよかったのではないかと感じる。
 勘違いしないでほしいが,部隊の配置や突撃のタイミングといった戦闘自体のルールは筆舌にしがたいほど良くできている。ただ"それを遊ばせる配慮"に若干の不満があるのである。



歴史上の戦いを体験できるHistorical Campaignsモード。会戦級ボードゲームのキャンペーンのような印象だ ごちゃごちゃして最初はわけが分からないかもしれないが,各ユニットは非常に使い方が限定されている。適材適所で部隊を運用していかないと,すぐに負けてしまうだろう


■歴史フリークなら買い。絶対買い。

なんだかんだでマルチプレイもやっぱり楽しい。味方と連携しながら陣形を整えないと,すぐにやられてしまう。しかし,外人は突撃したがる人が多いような……。かくいう自分は,弓兵でチクチク攻めるのが好みである

 本作は筆者が知る中でも最高峰の歴史ゲームの一つなのだが,もちろん欠点がないわけではない。というのも,前作からの課題の一つであろう操作性/視認性の悪さなどが,ほとんど解消されていないのである。というか,2002年のE3で開発者に会ったときの印象を思い出すと,彼らにはそんなところは眼中に無いような雰囲気だったが……。いや確かに,そんな部分が些細と思えるほど本作の出来は素晴らしいと思う。思うが,だからこそ"誰もが遊びやすい"作品であったら……と考えずにはいられないのだ。
 変な例えかもしれないが,格闘ゲームにしたって,別に格闘ファンが遊んでいたわけではないだろう。それと同じように,歴史ゲームにも誰もが楽しめる"爽快な/単純な楽しさ"があるのではないだろうか。もちろん,一般向けの歴史ゲームとしては「Age of Empires」シリーズなどもあるわけだが,本作のポテンシャルは世界的に見ても屈指のものだと感じている。
 また国内に限っていえば,完全日本語版が発売されなかった点も非常に残念でならない。英語版というだけで敬遠してしまうユーザーが多いことは,周知の事実だからである。 戦争を題材にした作品は数あれど,これほど映像/演出が素晴らしいゲームは他にはない。そんな作品が,一部のプレイヤーにしか遊ばれないだろうという事実が,筆者には非常に口惜しいのだ。

 英語であるという点,比較的マニア向けであるという点などなど,決してハードルは低くない本作だが,歴史ゲームファンを自負するならば,"絶対に"一度は遊んでおいてほしいと思う。それほどまでに,本作における臨場感は素晴らしい出来なのである。



一度乱戦にもつれ込むと,状況を把握するのは困難。優勢な状況でも,後ろに待機している精鋭の予備兵力の投入で一気に戦線が崩れることが多い。兵力を投入するタイミングの駆け引きが,非常に良くできているのだ 訓練された騎兵隊の突撃は,圧倒的な衝撃力を持つ。陣の横腹を突かれたりしたら,まず仕掛けられた部隊が恐慌状態に陥り,そこからほかの部隊が混乱に巻き込まれる……という目も当てられない状況になる。逆に騎兵の突撃の一閃で敵を打ち破ると,爽快このうえない。

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■発売元:サイバーフロント
■価格:8800円
■問い合わせ先:サイバーフロント TEL052-779-6549
■動作環境:Windows 98/Me/XP,PentiumII/350MHz以上,メモリ128MB以上,VRAM16MB以上,空きHDD1.7GB以上

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