シュヴァルツシルトF

Text by大路政志
26th Apr. 2002

定番国産SFSLG「シュヴァルツシルト」シリーズの最新作!

宙域での戦闘とはいえ,事実上の障害物は存在する。進行ルートや迎撃ポイントには,とくに頭をひねりたい

 「シュヴァルツシルトF〜光の邂逅〜」(以下,F)は,伝統ある国産SFシミュレーションであり,工画堂スタジオ作品の大きな柱の一つでもある,「シュヴァルツシルト」シリーズの最新作。極めて豊かなストーリー性と,それゆえに醸される難度の高さをしっかりと受け継ぎながら,「T」「U」「V」「W」「EX」「EX+」「GX」「GXR」「W」「W2」「X」「Z」「N」と発展し続けてきた(「EX」「GX」はDOS専用先行発売版)。その課程で,ゲームシステムやストーリーの見せ方なども大きく変化し続けてきたわけだが,「F」は一体,どのような作品に仕上がっているのだろうか。

ゲーム性とストーリー性の見事な融合

 「F」の舞台は,4025年のシュヴァルツシルト銀河。プレイヤーは,八強国で最も強大とされていたランパート連邦を陥落させたばかりの真王,クレア・ヤングリーフとなって,親征を目的とするミケーネ公国侵攻を開始する。といっても,ゲーム開始時には宙域のほとんどが真王軍の支配下に置かれており,対するミケーネ公国軍の抵抗も予想外のおとなしさなので,親征は達成されたも同然であった。このようにプレイヤー側が圧倒的に優勢な状態で物語はスタ−トするが,ゲームを開始してすぐに目的が達成されるわけではない。いわゆるネタバレになるので詳しくは説明しないが,ミケーネ公国軍(というか八強国)の秘策によって,クレア率いる真王軍は,とんでもない窮地に立たされてしまうのである。
 ゲームは開始直後の圧倒的優勢から,苦しい状況に追い込まれた第二章への一連の流れは,チュートリアルとゲーム導入部をうまく融合させた作りになっている。つまり序盤の圧倒的な優勢状況はゲームに慣れるためのもので,ある意味チュートリアルといってもよく,本来の難易度である第二章から,事実上のゲームスタートなのである。この物語上の仕掛けは地味ではあるが,ゲーム性とストーリー性の融合を古くから模索してきた当シリーズならではの,巧みなやり方であるといえるだろう。

新兵器や新武装の開発は,ゲームを進めるうえで欠かせない要素。どんどん開発して,味方艦隊をカスタマイズしていこう

 

ゲームシステム的にはシンプルだが……

 シリーズとしては最新作にあたり,ゲーム中の年代的には「W2」以降のエピソードにあたる「F」だが,システム的にはごくごくシンプルにまとめられている。まず主人公は,基本的にクレア・ヤングリーフ一人となっており,ストーリー展開も,マルチストーリーというよりは,"シュヴァ銀河"の正史をなぞる感じになっている。また,前作に搭載されていた外交システムもカットされているので,純粋に物語と戦術を楽しむゲームに仕上がっているのだ
 戦術パートでは,自軍と敵軍が交互に行動する,いわゆるターン制が採用されている。制限時間やアクション要素に邪魔されず,データを参照しながら熟考できるのが,ターン制バトルシステムの優れた点であり,「F」にも当然それは当てはまる。しかし,戦場となる宙域に大量の味方艦隊(艦載機も含む)を出撃させてしまうと,すべてのユニットに手作業で指示を出さなければならないため,展開が冗長になる。また,ユニットの行動を完了させるまでの手順もやや面倒くさく,全体的に操作性はイマイチ,という印象を受けた。大規模な戦闘になればなるほど,プレイヤーの負担が増すターン制バトルなのだから,ある程度のオート機能なり,少ないステップ数で行動できる操作系統を搭載してほしかった。

国産SLGファンにはお馴染みの「シュヴァルツシルト」シリーズ。独特のタッチで描かれる登場人物たちと,長年のシリーズ展開によって蓄積された重厚な設定が魅力的な,SFシミュレーションだ

融通の利かない戦術システムだからこそ,手応えのある戦闘が楽しめる

搭載武器がレーザーのみだと,シールドの厚い敵艦にほとんどダメージを与えられないことがある

 システム面のシンプル化が目立つ「F」だが,だからこそ生まれる面白さというものもある。まず,本作に登場する兵器は,最大2種類までの武器しか搭載できない。そして武器には,「レーザー系」「ミサイル系」の2種類が存在し,「対艦」「対空」「対惑星」といった具合に,攻撃対象がきっちりと区別されている。もし搭載武器の設定を誤ると,敵艦載機(要対空)にまったく攻撃できなかったり,シールドの高い敵艦(要ミサイル・一斉攻撃)にダメージを与えられないといった事態が発生するわけだ。
 また,艦載機は8機=1ユニット扱いなのだが,ダメージを与えて機数を減らしても,受ける(与える)ダメージが減少しない点もシビアだ。例えば,8機で80のダメージを与えることができる艦載機が4機に減った場合,与えるダメージも40程度に減少するのが普通だろう。しかし本作では,機数が8でも2でも,敵に与える(敵から受ける)ダメージが変わらないのだ。この仕様のおかげで,筆者は「火力集中・各個撃破」という戦術の基本原則を,改めて意識させられた
 1ユニットあたりの武器搭載数が少なく,武器の役割がキッチリと区別されており,ダメージの蓄積等による兵器の能力変化が発生しない。ある程度SLGをかじっている筆者にとっては,戸惑いを抱かされた要素だった。だが,こうしたシンプルで単純明快なゲームシステムは,初心者にとってはむしろ遊びやすさにつながる要素なのかもしれない。

本作の主人公である真王,クレア・ヤングリーフは,その身に始皇帝の意識を宿している。両者の精神が融合しておらず,完全な「覚醒」とはいえないが,始皇帝がクレアに付与する「経験」は,真王軍の大きな力になっている

「物語性を重視するシリーズファン」ならば絶対に買い

 いろいろと勝手な意見を述べさせてもらったが,筆者はこの手のゲームが嫌いではない。むしろ好きな部類に入るゲームである。ただ,筆者が「シュヴァルツシルト」シリーズのコアなファンではないため,細部の「アラ」が若干多く見えてしまった気がする。
 母艦による艦載機の運用,母艦と最大4隻の僚艦が繰り出すレーザーの「一斉攻撃」,次々に提示される開発プランや,オプションパーツ/武装を用いた兵器のカスタマイズなど,ストーリー性を除外してみても魅力的な要素は用意されている。また,シリーズすべてを遊んでいない筆者でさえ,魅力的な登場人物や背景設定,ゲーム中に見え隠れする歴史の流れなどには,ワクワクさせられる一面もあった。シリーズすべてを通して遊んでみたら,きっとものより大きな充実感や感動を味わうことができるだろう。
「シュヴァルツシルト」シリーズをプレイするとき,ストーリー性を重視する人ならば,「F」は間違いなく「買い」の1本だろう。また,シリーズに詳しくないユーザーでも,ターン制のSFSLGが好きならば,十分オススメできる作品だ。ただし,いきなり「F」をプレイしてもストーリーについていけない可能性があるので,できれば事前にシリーズ作品(「IV」がオススメ)をプレイしておいたほうがいいかもしれない。

戦闘中,オペレーターのアリサ・メリーランドから,プレイヤーにアドバイスが与えられることがある。初心者やマニュアル嫌いにはありがたい 一つの兵器が搭載できる武装は,最大2種類。敵の回避率やシールドの有無,射程距離などを考慮して,使用武器を決定しよう 艦載機は1ユニット8機で構成され,ダメージを受けると機数が減るが,与えるダメージは低下しない。味方ならば頼もしいが,敵の場合はちょっと厄介だ 戦術パートはオーソドックスなターン制バトルで,味方と敵が交互に行動していく。地形や敵ユニットの移動力や射程などを考慮して,味方艦隊を展開させていこう
敵味方を問わず,実に魅力的なキャラクターが多数登場する。グラフィックスだけではなく,彼らの語る言葉にも注目したい クレアから絶対の信頼を受けるモリス・ゴードン。クレアと共に,「IV」にも登場した人物だ

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■発売元:NECインターチャネル
■価格:9800円
■問い合わせ先:NECインターチャネル
  TEL 03-5540-0762
■動作環境:Windows 9x/Me/XP,Pentium/233MHz以上(PentiumII以上推奨),メモリ32MB以上(64MB以上推奨),空きHDD容量50MB以上

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