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三國志VIII
Text by Siro
18th Jun.2001
 コーエーの2大看板といえば,何はともあれ"信長の野望"と"三國志"だろう。中には"アンジェリーク"と"遙かなる時空の中で"とか,"提督の決断"と"ランペルール"とかいう人もいるだろうが,私の中では(いや,世間一般の認識としても),やはり「信長の野望と」「三國志」が2大タイトルなのだ。
 昨年「信長の野望 嵐世記」が発売されたので,今年の冬あたりには「三國志VIII」かなぁ……などと悠長に構えていたら,いつの間にやら6月29日が発売日らしい。新作が出るごとにマニアックになっていく三國志シリーズだが,今回はいったいどんなシステムで楽しませてくれるのだろうか? 先日β版が入手できたので,隅々まで見られたわけではないが,ファーストインプレッション的レビュー記事を書いてみた。

吾未見剛者

クリックすると拡大します  三國志VIIIは,簡単にいってしまうと三國志VIIシステムのバージョンアップ版だ。こう言い切ってしまうと興味をなくす人がいるかもしれないが,ちょっと待った,最後までこの駄文につきあってほしい。きっと聞いても損はない。
 なぜならこの新作は,登場する全武将でプレイ可能なあのシステムを継承しながらも,システムを徹底的にブラッシュアップさせているのだ。やや未熟だった感のある,前作の"一人の武将の視点から三國志をプレイする"というコーエーの試みは,さらに完成度を上げて帰ってきたのだ。

 いきなり話は変わるが。
 それなりのファンなら,三國志シリーズをプレイしているときに「使える武将」とか「こいつは使えない」などと各自それなりに武将の評価をしているのではないだろうか? 好きや嫌いはともかくとして,その中には「常に第一線で活躍できる超一流の武将」がいるはずだ。では,超一流の武将というのはどんな武将なのだろうか?
 個人的には"能力値が100を越える可能性のある武将"はその候補に挙げてもいいと考えている。関羽は性能の高い武具を与えれば武力が100を越えるだろうし,諸葛亮は春秋などのアイテムで知力が100を越える。これが私の超一流の武将の必要条件だった。
 しかし,その考えが通用しなかったのが前作"VII"だった。プレイヤーがどんな武将を選んでも,経験を積んで訓練を続けることで,能力値が武力100,知力100,政治100,魅力100,アイテムを与えればすべての能力が100オーバーの化け物のような武将が比較的簡単にできるシステムだったのだ。

 このようなシステムでは,どうしても有利にプレイしたいという気持ちが働いて結局訓練を繰り返し,知力,政治が100を越える張飛や,武力100の劉禅なんていう武将になってしまい,"何か違う"と葛藤しながら釈然としないプレイを繰り返していた。

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道千乘之國,敬事而信,節用而愛人,使民以時

クリックすると拡大します  武将の全能力値が100を超え,能力値的にはまったく欠点のない武将でプレイするのは,外交,内政,軍事とすべてにおいて活躍が保証されているということであり,また,一般の武将でゲームを始めてもすぐに太守や軍師,ひいては君主といった国の運営に関わることができる立場にすぐになれるため,ゲームのプレイアビリティを考えれば評価はできる。

 しかし,三國志VIIをプレイし続けるにつれ,このシステムは「三國志演義」の世界観を破壊しているように感じ始めた(当たり前なのだが)。三國志が好きでこのゲームを始めた人間にとっては,張飛は手のつけられない暴れん坊であってほしいし,諸葛亮はあくまで知を持って戦う管仲,楽毅に比する名軍師であってほしいのだ。張飛でプレイして,郭嘉や呂蒙と知を競いたいわけでもなく,諸葛亮で呂布と一騎打ちを演じたいわけでもないのだ。
 確かにゲームを始めたころは面白かった。法正が関羽と一騎打ちの末勝利を収めたり,張昭が夏侯惇率いる軍に兵力差をものともせずに突撃をかけ,負傷を追わせて撃退するなんていう展開がざらにあり,意外な,そして原作ファンからすれば邪道ともいえる面白さがあった。
 これだけ面白いのなら全武将でプレイしてみたいなと思っていたのだが,何人かの武将でプレイしていくうちにだんだんとつまらなくなっていった。理由は簡単だ。どの武将でプレイしてもすべての能力値がまんべんなく高いので,文官でプレイしても武官でプレイしても同じプレイになってしまうのだ。そして10数人の武将でプレイした後は,もう三國志VIIで遊ぶことはなくなってしまっていた。

 せめて武将の能力値に上限に上限を設けるか,訓練に対する回数制限などのペナルティを設けるか。もしくは能力値の上昇は経験のみで得られるようにすればいいのにと考えていたものだ。しかし,さすがはコーエー。訓練という,いわば武将のレベルアップに対する喜びを残しつつ,世界観を損なわないシステムをプレイヤーに提案してきた。

 それが3か月に1度行われる”評定”の存在だ。
 評定では,各地の軍事や内政の基本方針が定められ,その方針に従って開発や軍事増強が行われる。プレイヤーの担当する武将は,開墾,治安といった要望は出せるが,どれを担当するかは君主,太守が決定する(君主,太守になれば逆に決定を下す立場になる)。仕事には目標値(開墾なら30ポイントのアップ,治安なら15ポイントのアップなど)があり,次の評定までにある程度の実績を上げていないと"ボス"から注意されてしまう。そんな状況が続けば,ついには解雇されてしまうのだ。

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割り振られた仕事をきちんとこなせば,太守や君主にほめられるが……   さぼっていると,怒られてしまう
 逆に,優秀な成績を上げれば勲功ポイントが高まり,九品官から一品官まである階級を徐々に駆け上っていくことになる。階級が上がれば俸給も増え,しかも提案が100%採用される「特権」を手に入れることのできるのだ。また,太守はその国にいる武将の中で最も階級の高いものが選ばれるようで,命令を下す立場に立ちたければ,まずその国で地道に身分を上げていくしかないのだ。
 このシステムのおかげで,適当に内政を行いながら訓練でどんどんと能力値を上げていくというプレイが難しくなった。しかも今回は能力値だけでなく,突撃や火矢といった戦場で役立つ戦法もレベルで表されるようになり,これも訓練で向上させられるのだ。とにかくやらねばならないことが多すぎて,とても毎ターン訓練を行うということができなくなっている。

 中庸を旨とし,すべてをそれなりにこなしていくのか。それとも出世を目指して黙々と内政に励むのか。一朝事あらばすぐに戦働きができるよう武力や戦法を鍛えるのか。それともまた別の道を歩むのか。それはプレイヤーが決定するのだ。
 しかし,そんないかにも"三國志ゲーム"な一面のほかにも,もう一つの楽しみ方がある。

有朋自遠方来,不亦楽乎

 別の道。
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ときどきこんな町娘が出て来て仕事のじゃまをするのだが……
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名前付きの彼女の頼みを聞いてあげると
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このような展開になる
 それは,人間関係を深めるというプレイ方法だ。一人の武将として生きていくには君主や同僚はもちろんのこと,他国の高名な武将とも交友関係を築いていかなければならない。今は乱世なのだ。明日をも知れない状況ならできるだけ多くの頼りになる友がいたほうがいいに決まっている。しかも,有能で全幅の信頼を置ける友ならばいうことはない。無能な君主を見限って友のために立ち上がり,友のために死す。そんな状況を再現してくれるのが,今回追加された「人間関係」だ。

 これは,親しい順に「敬愛」「信頼」「好感」「知己」「無視」と5段階あり,会話を重ねることでアップしていくというもの。また訪ねた先に別の武将が来て新たな関係が生まれることもある。また敬愛の関係にある武将とは,桃園結義の劉備,関羽,張飛のように義兄弟の契りも結べる。義兄弟は決して裏切ることはなく,志半ばにして倒れてしまってもその志を引き継いでくれる頼りになる者たちなのだ。
 義兄弟は3人まで持つことができるので,諸葛亮ならば,徐庶,周瑜,郭嘉と「軍師の契り」を目指してもいいし,張飛,呂布,馬超で「武闘派3兄弟」を作ることもできる。

 頼りになる義兄弟がいれば,その逆も然り。出世を競い合う間柄の「好敵手」,義兄弟や君主をプレイヤーの武将に殺されたために命をつけ狙ってくる「仇敵」なんて奴もいる。捕虜を得ても自分の配下にならないから切り捨てるなどというプレイをしていると,実はその武将が呂布の義兄弟で呂布に命を狙われる羽目に……などという展開も起こり得るのだ。

 また,内政画面で町をぶらぶらしていると,どこかで見たことがあるような名前の娘が出てくることがある。娘はたいてい困っているのだが,その娘の悩みを解消すると彼女と結婚するチャンスが与えられる。なんと貂蝉や江東の二喬と結婚することもできるようだ(ちなみに結婚したからといってオルドコマンドが出ることはない)。
 曹操の義兄弟に夏侯惇,夏侯淵。好敵手は劉備で,江東の二喬の妹と結婚し,仇敵は周瑜で……と,この"人間関係"をシステム化したことで,かなり想像の幅が広がることになり,また新たな楽しみ方ができそうだ(好敵手が曹豹なんていうのはちょっと勘弁してほしいが)。

謹權量,審法度,修廢官,四方之政行焉

 内政のところで書いたが,勲功の目安となる九つの品官とは別に,太守や軍師,王や皇帝といった身分ももちろんある。あくまで王として漢王朝の再興を目指すもよし,皇帝となり中華に新たな王朝を建てるのを目指してもよい。それが本来の楽しみなのだが,VIIIではそれ以外の方法でもかなり楽しめそうなシステムだと思われる。

 今回は新たに軍団長という立場が新たに加わった。これはある一定の地域すべての運営権を君主から委任されるもので,多少は君主の意向を気にしなければならないものの,ほぼ小国の君主と同じだと考えればいいだろう。
 軍団は第一から第八までの8軍団が作成可能。君主の立場からしてみれば,多大な権力を委譲することになる軍団長には,やはり信頼できる部下を任命するだろう。ゲーム中では,義兄弟の武将を任命したり,勲功の高い武将を任命したりすることになる。また,VIIIでは懐かしのマルチプレイ(ネットワーク対戦のマルチプレイではなく,複数のプレイヤーが武将を操る昔ながらの方法)が復活している。これも,軍団長という身分が追加されたからこその復活であろう。なぜなら,君主と軍団長にはコマンドの違いがそれほどないため,君主ではないプレイヤーが不満を感じることはなく,君主と軍団長という立場でともに中華統一とするというプレイスタイルが可能になったからだ。

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 何度も三國志をプレイしているユーザーなら,八つの軍団を抱えるような大国になってしまうと,何も考えずあとは物量作戦で押し切っていれば中華統一が果たせるのでは? と思うかもしれない。
 確かにこれまでの三國志では,小国のうちは軍事・内政すべてに力を入れ,いつ他国から攻められるかどきどきしながらプレイするが,3分の1程度の国を支配するようになると,単に徴兵をして敵国に攻め込むだけのゲームになってしまい,後半はどれほどワクワクしながらプレイしているわけではなかったというのが正直なところ。

 しかし三國志VIIIは,ダレがちな中盤以降も気持ちを切り替えなければいけないだろう。それが「反△△連合」の存在だ。袁紹を盟主に曹操,孫堅らの諸侯が董卓と戦ったあの状況が再現されるのだ。
 たとえば,プレイヤーの勢力が突出して大きくなると,その他の諸侯が同盟を結んで一斉に攻め込んでくるのだ。連合に参加している各国はどんなに遠い戦場でも必ず援軍を送るので,最後まで気の抜けないプレイが楽しめる。また,小国は逆にこの連合を利用することで領土を拡張することができる。実に素晴らしいシステムだ。

知者不惑,仁者不憂,勇者不懼

クリックすると拡大します クリックすると拡大します  シナリオは,黄巾の乱が起こる184年から,諸葛亮の没する234年まで51本が収録されている。ほぼすべての年代でプレイできるというわけだ。加えて,"赤壁の戦い"や"官渡の戦い"を再現できる推薦シナリオなどを加えると,合計70本近いシナリオが用意されている。曹嵩が殺された年の曹操をプレイしたいと思えば193年を選べばいいし,曹操に破れ劉表の元で髀肉の嘆を託つ劉備をプレイしたければ201年ころのシナリオを選択すればいい。
 登場する武将は全部で654人,このうち607人の武将でプレイでき,しかも柔軟なプレイシステムと豊富なシナリオが揃っている。これらが相まってプレイヤーの数だけ楽しみ方があるといってももはや言いすぎではないだろう。

 「王佐の才」を発揮するもよし,「乱世の姦雄」になるもよし,「万夫不当」を目指してもいい。中華のすべての宝や,傾城傾国の美女を手にするこを夢見ることも,また逆に隠遁して高名な人物と交友を結ぶことのみを楽しみにするのもいいだろう。三國志VIIIでは武将の運命を握っているのはプレイヤー自身なのだ。
 三國志VIIIは,三國志好きにはたまらない1本となるだろう。ここまで三國志の世界にどっぷりと浸れるのだから。

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■発売元:コーエー
■価格: 1万1800円
■問い合わせ先:コーエー 電045-561-6861
■動作環境:Windows 9x/Me/2000,MMX Pentium/200MHz以上(PentiumII/333MHz以上推奨),メモリ64MB以上(128MB以上推奨),空きHDD容量400MB以上
forGamer.net専用体験版(134MB)

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