メダル オブ オナー アライド アサルト リロード

Text by Kawamura
16th Dec.2002


■遊び尽くした「メダル オブ オナー」に追加ミッションをリロード!

「ニンジャ・ウォーリアーズ」の最終面よろしく大佐を徹底的に追い詰めるステージ。哀れ,ベランダからまっ逆さまに落ちていく

 「メダル オブ オナー アライド アサルト」(以下,MoHAA)というと,まさしく2002年は(少なくともFPS野郎にとっては)MoHAAの年であった。2002年2月に鳴り物入りで登場し,見事に期待以上の完成度を見せてくれたMoHAA。第二次世界大戦における連合軍兵士の戦闘を取り扱った,一人称視点シューティングの本作品。すさまじい銃撃にさらされるオマハビーチの上陸ステージ(まさにあの映画の再現)などが人々の心をつかみ,コアなファン以外のユーザーにFPSをアピールするうえでも大きな貢献を果たした。

 そしてこのたび発売されたのは,MoHAA追加パックの「リロード」(原題:Spearhead)。本作は第501パラシュート歩兵連隊に所属する軍曹の視点で,D-DAYからベルリン陥落までを足早に再現している。原題の「Spearhead」は"先鋒"という意味であり,この作品が先鋒としての過酷極まりない戦いを描いたものであることを示唆している。実際,ミッション2の冒頭では「どうやら俺達はめちゃくちゃ前に突出してしまっているようだぞ!」といったようなことを告げられる。だからといって味方のところまで引き返すのかというと,とんでもない,ど真ん中のFPSである本作には常に前にしか道は開かれていないのである
 そして邦題の「リロード」とは"再装填"の意味であり,発売から9か月以上経過したMoHAAに,"興奮"と"感動"と"撃ち甲斐のあるドイツ兵"を再装填される意味が込められているに違いない。そして我々ソルジャー達は,誰もが再び弾を込め戦場に舞い戻ることを渇望していたはずだ。

ツヤツヤテカテカした描画技術がもてはやされる3Dグラフィックスだが,MoHAAは相変わらず泥臭い戦場描写まっしぐらだ 抹殺命令が下されたヒルデブラント大佐。バイクで颯爽と逃げ去るシーンが格好いい。ちなみにこのバイクに轢かれると即死する BoBを観て真っ先に体験したいと思うのは,このシーン。これだけ大量のパラシュート兵とどうして出会えないのか不思議に思ったり

■オーバーロード作戦を戦ったもう一人の兵士が主人公

優れたAIと挙動は相変わらず。敵の心が「殺してやる!」よりも「死にたくない!」だというのが伝わってくるのだ。殺すけど

 MoHAAを語る上で欠かせない映画が「プライベート・ライアン」なら,「リロード」を語る上で欠かせないのが「バンド・オブ・ブラザーズ」(以下,BoB)だ。これはスティーブン・スピルバーグとトム・ハンクス共同指揮のもと2001年に作られたTVドラマシリーズで,第101空挺師団の視点からノルマンディ上陸作戦にアプローチした作品である。全10話,総制作費150億円というのは伊達ではなく,いくら有料放送とはいえテレビ番組がこんな第一級映画並みの演出でいいのだろうかと不安になった。
 そう,まさに「リロード」がこのTVドラマに焦点を当てて制作されたことは疑いない(もしかしたら逆かもしれないが)。この絶対に欠かせない作品を筆者はうっかり欠かしていたため,一度仕上げたこのレビューは「BoB見て出直してこーい!」と突っ返された経歴を持つ。
 うーん,それにしてもBoBは実に面白かったなぁ。BoBの主役はE中隊と呼ばれる精鋭達だ。彼らは実在した空挺部隊であり,101空挺師団第506パラシュート歩兵連隊の中でも際立ったエリートだった。BoBで彼らの活躍を見ておけば,「リロード」がますます面白くなること請け合いである。ちなみに「プライベート・ライアン」のライアン二等兵も101空挺師団のどこかのパラシュート歩兵連隊所属(当時の101空挺師団の連隊には501,502,506があったらしい)だが,彼のモデルとなった実在の人物が第501パラシュート歩兵連隊にいたという。「リロード」の主人公ジャック・バーンズ軍曹が所属する,第501パラシュート歩兵連隊である。ライアンも501だったりして。
 前作の主人公マイク・パウエル中尉はOSSに所属し特殊任務にも従事したが,今回のジャック・バーンズ軍曹はひたすら最前線で撃って撃って撃ちまくる男。キャンペーンも全編が戦闘ミッションで,現地にて合流したイギリス軍やソビエト軍と強攻作戦を展開していく。面白いのは,イギリス軍の極低コスト銃ステンガンや,ソビエト軍のドラムマガジンが頼もしいPPSHなどといった新兵器(←MoHAAシリーズでは初登場,という意味)が登場することだ。同じサブマシンガンやライフルでも,それぞれそれなりに個性が発揮されているあたりがファンをニヤリとさせてくれる。また今回はマノン嬢の姿もなく,完全な男性オンリーのゲームとなっている
 そのほか小さな変更点としては,ほとんどの銃器のセカンダリ攻撃でグリップアタックが使用可能になっていること,体を傾けながら(覗き見しながら)移動ができなくなったこと,携帯式MG42が登場したことなどが挙げられる。いずれもパッチ並みの小さな変更点だ。「リロード」は,あくまで追加データパックなのである。

ノルマンディで最も劇的な活躍を見せたといわれる英国第6空挺師団。赤いベレーからもわかるエリートフォースだが,人使いが荒い スモーク弾は,殺傷力はないが防御効果は絶大。だがシングルプレイではその存在を忘れてしまいがち。使ってあげよう ミッション2の一シーン。マニアックなゲルリッヒ砲で,次々と現れる敵戦車を蜂の巣にする。威力は弱いわ,揺れるわでもう大変

あわや崖からまっ逆さま,というシーン。隣のバイクは調子に乗って追いかけてきたドイツ兵。このままダイブして木っ端微塵になる クリスマスイブの惨劇(中央上に注目)。そういえばイブの夜における連合軍とドイツ兵の交流を描いた悲しい映画があったなぁ


■さらなるアイデアが満載! 高密度の3ミッション

 3ミッション9ステージからなる新たなキャンペーンは,短いとはいえ実に濃厚だ。前作では凝りに凝った見せ場といえるようなシーンがここぞというタイミングで待ち構えていたが,今回はそういった見せ場ばかりつなぎ合わせたような内容となっている。おかげで全体を通じてあまり緩急がなく,初心者お断りの息つく暇もない戦いが繰り広げられる。

激しい砲撃の合間を縫って陣地を駆け巡るシーン。その手法は前作のオマハと似ている。ここで倒れている大尉というのがクセ者だ
■ミッション1 ノルマンディ

 1944年6月6日,D-DAY。「リロード」の目玉シーンは,ゲーム開始直後からいきなり始まる。第501パラシュート歩兵部隊の役目は,約1万メートルもの上空から敵地に侵入することだ。ゲームはまさしく上空約1万メートルからスタートし,プレイヤー扮するジャック・バーンズ軍曹はただちに空へと放り出されるのである。この時点からすでにマウスによる視点操作が利くのでキョロキョロ見回してみると,足下には大型輸送機がゆったりと進み,周囲には自分と同じ哀れな空挺兵達がなすすべもなく落下に身を任せている。はるか眼下に広がる大地からは激しい対空砲火が幾筋も上がり(もちろん上空の我々に向けて),さっきまで足下にいた輸送機が目の前で炎に包まれていく。わぁきれい。
 パラシュート降下は海岸からの上陸よりも容易に奥地へ侵入できる半面,最初から集結も補給もままならないというやっかいな危険性を孕んでいる。BoBでは主人公の一行が集結地点に到達したとき9割が行方不明だと告げられるが,「リロード」のバーンズ軍曹は案の定,行方不明側の9割に入ってしまったようだ。たった一人のバーンズ軍曹が着任する最初の任務は,対空砲を探し出して破壊することである。つい先ほどまで稲妻のごとき砲火を吐き出していた元凶に,さっそく逆襲のチャンスが訪れる。なんというか実に無駄のない脚本である。その後プレイヤーはイギリス軍と合流し,川を越えて奥へ奥へと進んでいく。全体的に,爆薬でいろいろなものを爆破させられるミッションだ。リー・エンティールド銃やステンmkIIといったイギリスの兵器が登場する。

■ミッション2 バストーニュ

 いきなり話は飛んで1944年12月24日のクリスマスイブ,いわゆるアルデンヌの森とよばれるベルギーの最激戦区。この壮絶な戦車戦が行なわれた地で,雪の中を駆け回ることになる。バーンズ軍曹は,前作MoHAAで有名になった6連装のロケット砲"ネーベルウェルファー"相手にトンプソンで突撃を強いられたり,トラックの護送と称して装甲車の貧弱な対戦車銃で何輌もの敵戦車を相手させられたりと,相変わらず恵まれない歩兵生活を送ることになる。たび重なる砲撃の豪雨の中,蛸壺(塹壕)から蛸壺へと飛び移りつつ衛生兵を探し回るステージが見どころだ。このあと暗闇の中から大量のドイツ兵が防衛ラインへと押し寄せてくるシーンに移り,対空砲で敵攻撃機を撃墜するラストまで大きなイベントの連続だ(セーブ/ロード機能を考えないなら,どう考えてもこのシーンが最も難しい)。「プライベート・ライアン」でも大活躍した,粘着爆弾で戦車に挑むシーンもある。

■ミッション3 ベルリン

 やる気のないソ連兵と,最後のベルリン攻略に挑む。ここでは狙撃兵に脅えながら,たった一人で瓦解したベルリンを徘徊することになる。とにかく最初から最後まで戦車づくめのミッション。中でもステージ丸ごとT-34に乗っての強行脱出というラストステージが圧巻で,行く手を阻む敵戦闘車両の壁を突破していかなければならない。T-34といえば大型ドラムマガジンのDTMマシンガンが有名だが,ここでは戦車砲とDTMマシンガンを上手に切り替えて立ち回る必要がある。というのも,このステージはパンツァーファウストをカマしてくるドイツ兵が戦車と同じくらい強敵だからである。最後は大多数が押し寄せる大戦車戦が待ち受けている。それほど長いミッションではなく,前作の基地脱出より難度的にもはるかにラクだといえる。

こちらの防衛ラインにドイツ兵が殺到する。敵が一人でも突破した時点で終わりなので虐殺の限りを尽くせ。戦車も押し寄せてくる ミッション2の最終関門。「手動の対空砲なんて当たりゃーしないんだなぁ」と実感する。何往復かのあと,爆弾を投下される


■マルチプレイは新旧マップを新鮮な気持ちで

ソ連の偵察部隊と共に迎えるベルリンの朝。もう今日にもドイツは陥落しようという日だが,軍曹は一人でベルリンに潜入させられる

 シングルプレイでは"全編新ミッション"という目に見えた新要素があるものの,マルチプレイは一見小さな追加要素に見える。だが実は,全体的なプレイ感覚の変化という形で顕著に現れている。その最たるものはスモーク弾の存在だ。有色の煙をモクモクと吐き出すこの手榴弾は,半径数メートルの視界を遮るだけのものである。にも関わらず,過去のものも含めてあらゆるステージの戦術地図は塗り替えられてしまったようである。
 今回新たに加わった12のマルチプレイ用ステージは,通常のものが8マップとマルチミッション用が4マップ。もちろん前作のマップはすべて流用可能だし,マルチミッション用のマップもほかのゲームモードで遊べる。オブジェクティブマッチに新マップはないが,スモーク弾などの新兵器が使えるので新たな気持ちで遊び直してみるといいだろう。
 連合軍は,シングルでも登場するイギリス軍とソ連軍の兵器が使用可能になっているのが何より嬉しい。枢軸軍はデモ版で姿を見せたグレネード付きライフル"ゲベールグレナート"が,Ver2.11パッチでようやく使用可能になった(デモ版のみのリリースといわれていた新マップ"マルタ"もVer2.11パッチで追加されている)。
 マルチプレイの目玉は,なんといってもマルチミッションだ。これはオブジェクティブマッチの機能を大幅に向上させたもので,各ステージに用意された四つのオブジェクティブ(目標)を制覇するのが目的。連合軍と枢軸軍の目標は対になっている。例えば一方がどこかの扉を開けてレバーを操作し,総統の肖像画に落書きして,何かを破壊すれば勝利だとする。もう一方はその扉を閉め,レバーを戻し,落書きを消し,何かを守り通した時点で勝利となるわけだ。またそれぞれのチームには主目標とは別に第5の目標,"相手の復活地点の破壊"が設けられている。これを達成すると相手チームのプレイヤーは二度と復活できなくなり,苦しい戦いを強いられることになる。マルチミッションはスタンドプレイでの勝利がほぼ不可能なため,チームワークがモロに試される。せっかく面白いのに,少人数ではゲームにならないのが残念。

野戦テキストにも載っているという粘着爆弾。軍曹は靴下を何足も履いているらしく,何台もの車両をこれで血祭りにあげる 「リロード」では各種固定砲座の数が多い。「プライベート・ライアン」では,これを手で投げていた気がする。絶対にやりたくないな T-34でベルリンから突破。問題は,どうしてドイツの首都にソ連の鬼戦車T-34があるかだ。えーと。なんであったんだっけ……?


■今後もリロードし続けるのか!? それとも……

ジオン軍にも多大な影響を与えたと思われる,ソビエトの7.62mm DTM機関銃。重くて不評だったが,T-34に取り付けてから評価された

 突然話は変わるが,これまで戦争映画における恐怖とは,"闇のちょっと向こうに死が待っているかもしれない"類のもので,ホラー映画とさほど違いがなかった。しかし「プライベート・ライアン」の出現で,戦争映画事情は劇的に変化してしまったのだ。弾幕の隙間にかろうじて"生"が残されているという,絶え間ない恐怖こそが新たな戦争映画のスタイルであり,ただちにこれをゲームで追体験したいと思うのはゲーマーの性(さが)なのである。よって赤や緑の光線が飛び交うハイテク戦闘を再現したSF FPSよりも,変わり映えのしないローテクな銃ばかり再現した泥臭い第二次世界大戦FPSのほうが支持されてしまうのは,仕方がないのだ。我々は追体験の手段として,FPSを利用しているのである。
 そのような理由から,純シューティングとしてのゲーム性よりも過剰なほどのデコレーションが目玉となっているMoHAA。デコレーションによる面白さなど錯覚だ! という硬派シューターもいるかもしれないが,少なくとも今年は純粋なゲーム性で勝負したFPSのほとんどがMoHAAに屈する形となっている(少なくともセールスでは)。
 つい最近までは最新ビデオカードの性能を余さずチェックするベンチマークソフトとしても使われてきた「QUAKE3」も,もはや旧式の観は否めない。よくもまぁここまで,ってほどQUAKE3エンジンを使いこなしたMoHAAも,この先何年も同じエンジンでやっていくわけにはいかないだろう。恐らく来年あたりには超大物FPSの続編がズラリと出揃い,供給されるFPSエンジンも入れ替えの時期に差しかかるのではなかろうか。今後も我々のハートをガッチリキャッチする戦争映画が制作されるだろう。そのとき,次に登場するのがMoHAAの「2」となるのか追加パックとなるかは分からないが,ぜひ今後も我々の欲望に応えて進化し続けてもらいたい。

後ろからガンガン撃たれていると思ったら,かわいそうに頭上に爆弾が。近代で,ここまで徹底的に首都を破壊された国も珍しい 「リロード」は戦車のオンパレード。第二次世界大戦といったら戦車の戦争というくらい。次回作ではぜひ戦闘機にも乗りたい


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■発売元:エレクトロニック・アーツ・スクウェア
■価格:3980円
■動作環境:Windows 98/2000/Me/XP,Pentium II/450MHz以上,メモリ128MB以上,HDD空き容量1.3GB以上
マルチプレイデモ版

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