アドバンスド大戦略2001

Text by 駒沢丈治
21st Dec.2001

もう一つの「大戦略」シリーズ

迫真のオープニングムービー

 "大戦略シリーズ"といえばターン制シミュレーションゲームの定番であると同時に,システムソフト(現システムソフト・アルファー)の看板シリーズ。しかし実はもう一つ,セガブランドでリリースされているシリーズ群がある。それが「アドバンスド大戦略」シリーズだ。
 1991年にメガドライブ用として発売された"アドバンスド大戦略"は,従来の大戦略のシステムを継承しつつ,優れたゲーム性と迫力ある戦闘シーンで多くのシミュレーションゲーマーたちを魅了した作品だ。本サイトの読者なら,プレイした人も多いのではないだろうか。その後もサターン用などでリリースされていたが,そのシリーズはついにはWindowsにも進出したのだ。
 すでにWindows用として「アドバンスド大戦略98」とその続編4本が発売されているので,今回登場した「アドバンスド大戦略2001」(以下AD2001)はシリーズ6作めとなる。

ドイツ第三帝国の興亡をシミュレーションゲーム化

ヘックスで構成されたビューマップ。ユニットの向きも,戦いの結果に反映される

 本作の舞台となるのは,第二次世界大戦当時のヨーロッパ。ナチス率いるドイツ第三帝国がベルサイユ条約を破棄して再軍備を始める1930年代初頭から,崩壊・降伏の道をたどる1945年までを,120本ものシナリオで構成した作品だ
 プレイヤーはドイツ軍の軍団長として部隊を指揮し,東西両戦線で連合軍と戦う。ソ連との不可侵条約を破ってなだれ込む「バルバロッサ作戦」や,それに続く「レニングラード攻囲戦」。ロンメル機甲師団が繰り広げる「エル・アラメインの戦い」,連合軍の大規模な空挺作戦「マーケット・ガーデン作戦」などを,ドイツ軍の立場で"思う存分"プレイできるというわけだ。
 AD2001最大の魅力は,実はここにあるのではないかと筆者は思う。いささか危険な表現ではあるが,シミュレーションゲーマーにとってのドイツ軍は,魅力的な軍隊だ。なにせ第二次世界大戦当時のドイツ軍は,まぎれもなく世界最強にして最先端の軍隊だった。パンターやティーガーに比べれば,アメリカのM4シャーマンなどブリキのオモチャに等しい。世界初のロケット戦闘機Me163Bコメートやジェット戦闘機ハインケルHe280の,うっとりするほど美しいフォルム。巨大な列車砲やV2ロケット,Uボート,88ミリ野戦砲などが映画に出てくると,危険な胸のときめきを感じた少年も多いに違いない。そのドイツ軍を指揮してアメリカ軍やソ連軍を蹴散らし,次々と最新兵器を繰り出せるところがAD2001ならではの醍醐味だろう。
 基本的には史実に沿ってシナリオ化されているが,架空のシナリオも多数用意されている。実際には負けてしまった戦いを勝つことによって,あるいは引き分けに持ち込んだり大敗を避けることによって,その後の展開が変わることもあるのだ。
 大勝利を続ければ,架空戦記小説さながらに「米本土上陸」も夢ではない。プレイヤーの戦い方次第で「もう一つの歴史」を作る"if"が楽しめるところもまた,このゲームならではの楽しみだ。

前作との変更部分は?

 プレイは,戦場を真上から見下ろした恒例の"ビューマップ"で行う。ドイツ軍(プレイヤー)と連合軍(コンピュータ)がターンごとにユニットを動かし,射程内に入った敵軍のユニットと戦う。マップは六角形のマス目(ヘックス)で区切られ,その地形によって,移動速度や防御力などが変わる……と,要するに,基本的な部分はシステムソフトの「大戦略」とほとんど同じだ(言い替えればボードゲームのウォーシミュレーションとも同じだ)。連合軍が支配する街を占領したり壊滅的な打撃を与えることによって降伏させることができれば,ドイツ軍の勝利となる。

 と,そこまで説明しただけでは,まだ前作「98II」との違いが分からない。AD2001で面白いのは,各ユニットに"向き"があるということ。敵軍に対して正面を向いているか,それとも背後をさらしているかでダメージが変わるし,砲塔が回転できないユニットは背後からの攻撃に反撃することができない。また,味方を含めてゲーム中に登場する司令官には,「攻撃的」「歩兵部隊重視」「拠点防御軽視」といった個性が設定されていて,それによって戦い方が変わるのだ。敵司令官の行動を読み,先手を打って部隊を配備したり,こちらの戦術を決めることができるというわけだ(そうしなければ勝てないのだが)。
 またゲームには時間の流れがあり,朝→昼→夕方→夜→深夜といった具合に明るさが変わるところもユニークだ。もちろん単に画面が変わるだけでなく,戦い方にも変更を余儀なくされる。夜間は地上部隊の移動速度が半減するだけでなく,夜間のみ敵軍の横をすり抜けて移動できる専門のユニット(夜間戦闘機など)をどう使うかが重要になってくるのだ。

第二次世界大戦当時のヨーロッパが舞台 120ものシナリオで,歴史を忠実に再現 兵器の開発と量産化も戦略のカギだ 登場する兵器は全部で2200種類にも及ぶ

兵器にもこだわりを感じる

 兵器がまたすごい。昔からこの「アドバンスド」のシリーズはスゴイのだが,本作に登場する兵器は,枢軸軍・連合軍合わせて2200種類に及ぶという。筆者はこの手の話にはかなり詳しいつもりなのだが,名前も知らない兵器がゾロゾロ登場してくるのにはまいった。
 もちろん最初からすべての兵器が生産できるわけではなく,ベースとなる兵器から新しいものを開発し,それを制式化しなければ生産(量産化)することができない。戦車や自走砲,歩兵,戦闘機,艦船など多岐に渡る兵器の中からどれを優先して開発するか,そして,いつどの段階で制式化するかは,プレイヤーの判断次第。特定の兵器を突出して開発するという手もあるし,全体にバランスよく開発する手もあるだろう。ゲーム終盤までを見渡したマスタープランが必要になるわけで,大いに悩むところでもある。

 とりあえず筆者のおススメは,なんといっても機甲師団の充実だ。軟弱な戦車はドイツ陸軍に似合わない。トラクターを改造した軽戦車では話にならないので,まず中戦車の開発に予算を割きたい。しかるのちに行うは,ルフトバッフェの強化。アメリカ軍の戦略爆撃に備えて,高々度でも十分な性能を発揮する迎撃機を開発→量産化しよう。地上戦が中心なので,海軍はUボートに任せればよいと思うが,あえて違う道を選ぶのも手かもしれない。筆者は試していないが,もしドイツ海軍がグラーフ・ツェッペリン級の空母数隻を保有していたら「バトル・オブ・ブリテン」の結果が変わっていた可能性もある。

「兵器図鑑」でユニットを閲覧

ターン制シミュレーションならではの味わい

戦闘シーンで表示される3Dムービー

 期待していたとおり,素晴らしく果てしなく面白いシミュレーションゲームだ。次々と登場する,陸・海・空の新兵器。絶妙な勢力バランスとユニットの配置。個性豊かな指揮官。そして,劣勢に置かれたドイツ軍を率いて戦う,悲壮感と使命感。圧倒的な物量で押し寄せる連合軍を相手に,味方の精鋭が最前線で健気に踏みこたえてくれたりすると,思わず鉄十字勲章を与えてやりたくなる。
 虎の子の機甲師団が防御網を突破し,愚鈍な敵戦車の背後に回りこんで包囲・壊滅させたときの気持ちよさ。ウルフパックを率いて敵船団を急襲したり,ジェット戦闘機部隊で敵の爆撃編隊を叩き落とすときに感じるカタストロフィも,このゲームならではの魅力だろう。
 ビューマップのスケールがやや大きめに感じたが,マウスを使った操作性は良好で,気持ちよくマップをスクロールさせたり,ユニットを動かしたりすることができた。好きなタイミングでセーブ/ロードできるところもいい。もしバランスがキツく感じるのであれば,連合国側のユニット生産や配置を制限したり参謀から的確なアドバイスを受けることもできるので,根っからの「大戦略」ファンはもちろん,こうしたターン制シミュレーションに馴染みがない人でも楽しめるだろう。各シナリオとも"ほどほど"の規模なので,面クリゲーム感覚で楽しめるところもいい。全120ものシナリオをクリアするには相当な時間が必要だが,ある意味戦争映画を楽しむようなつもりで,じっくりとプレイしていただきたい。

本サイトで体験版も公開中

 最後に,ほぼ同じ時期の発売となった「現代大戦略2001 〜海外派兵への道〜」(システムソフト・アルファー)との違いについて説明しておこう。
 主な違いは三つ。
 まず一つは「アドバンスド大戦略2001」がドイツ第三帝国の興亡を扱ったヒストリカルな作品であるのに対して,「現代大戦略2001 〜海外派兵への道〜」は現在の世界状況をベースにした作品であるということ。
 二つめは,前者がキャンペーンシナリオを中心したドラマチックな作品であるのに対して,後者はキャンペーンシナリオを持たずに個々のシナリオをプレイする作品であること。
 三つめは,「アドバンスド大戦略2001」が兵器の開発や生産を含む戦略的な作品であるのに対して,「現代大戦略2001 〜海外派兵への道〜」は現代の戦いを"短期の消耗戦"と位置づけ,兵器の補給や生産ができない……つまり,初期配置された部隊だけで戦うということ。
 どちらもそれぞれ味わい深い戦いを楽しむことができるが,「アドバンスド大戦略2001」のほうはメリハリのあるドラマチックかつエキサイティングな印象,一方「現代大戦略2001 〜海外派兵への道〜」のほうはストイックで,よりボードゲームに近い印象を受けた。壮大な歴史ドラマと戦略レベルでの戦いを楽しみたいのなら前者を,リアルな設定と戦術レベルでの部隊運用を楽しみたいのなら後者をお勧めしたい。

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■発売元:セガ
■価格:9800円
■問い合わせ先:セガ TEL0570-000-354

■動作環境:Windows 9x/Me/2000/XP,Pentium/166MHz以上,メモリ64MB以上,空きHDD容量240MB以上
■Screenshots集:http://www.4gamer.net/shots/shots_adv.html
■デモ版(34.5MB):http://www.4gamer.net/patch/demo/data/adv2001.html

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