
Text by 奥谷海人
「XIII」
(サーティーン)は,フランスで制作中のFPS。セルシェーディングを生かしたこの作品は,カット割のようなウインドウで第三人称視点での様子が映し出されたり,音が文字で表現されるなどの工夫がなされており,アメコミ風ハードボイルドな雰囲気がほかのFPSとの差別化に成功している。本格的なマルチプレイヤーモードもサポートしており,かなり期待できるタイトルの一つである。
クリスマス商戦の先陣を切って発売されるXIIIは,2003年最後のビッグタイトルになり得るだろうか。
セル・シェーディングを使ったフランス産FPS
トリスカイデカフォビア(Triskaidekaphobia)という言葉を聞いたことのある人は,いったい日本にどれくらいいるだろうか。高所恐怖症やクモ恐怖症と同じ"フォビア"と呼ばれる恐怖症候群の1種であるが,ラテン語でtrisは"3"を,kaiは"&"を,そしてdekaは"10"を意味する。つまりは,"13恐怖症"という医学用語なのである。
この13という数字が,西洋人の宗教観念に基づいているのはいうまでもない。我々日本人の周りにも"死"という言葉に通じる4の数字を見たり聞いたりするだけで,妙に不安な感情を覚える人がいるのと同じことだろう。最後の晩餐に出席していた総数13人(キリストと12人の弟子)の一人が欠けてしまったことに端を発するようだが,やがて12か月という周期とあいまってサタンが13人めの天使として扱われるようになり,13は不吉の象徴として扱われていく。
トリスカイデカフォビアが医学用語になったのは,1911年のこと。それ以前にも,ナポレオンやルーズベルト大統領が執拗に13番を嫌ったことで知られている。近年の欧米では,13号室や13階などの数字は公共施設には避けられているし,1953年の国連では,多数決に必要な奇数人数で選ばれた特別チームが13人だっただけで,大きな問題に発展したこともあるほどだ。「アポロ13」や「13日の金曜日」など,映画の題材として使用されることも多い。
この"13"の宿命を背負った人物が主人公であるゲームが,フランスのUBI Software本社で開発されている。その名も「XIII」(サーティーン)という第一人称視点型のシューティングゲームで,Unreal
Warfareエンジンを使用している。特徴的なのは,「ジェットセットラジオ」や「Auto Modellista」などコンシューマゲームで近年増えてきているセル・シェーディング技術を採用していることだ。
セル・シェーディングは,一般的な3Dゲームと同じ手法でゲーム世界やキャラクターをモデリングしているが,影/照明/ハイライト部分などのグループによって色彩を単一化し,黒線のアウトラインを強調することでセル画アニメ風の平面感を表現する技術。トゥーン・シェーディングとも呼ばれ,サンプリングなどの多さからレンダリングスピードに負担のかかる,最新のビデオカードに依存したシェーディング技術の一つといえる。XIIIは,PCのFPSでは始めてのこの技術が使用されたゲームとなるが,元々フランス国内で有名なコミックが元ネタになっているだけに,非常に違和感のないデキとなっている。
Unreal Warfareエンジンだけあり,マルチプレイヤーモードもフィーチャーされていて,デスマッチ用は13マップ,チームデスマッチで14マップ,キャプチャー・ザ・フラッグは5マップ,サボタージュは3マップと,合計で35マップも用意されている。
とくに目を惹くのがサボタージュで,1チームが数か所に爆弾を設置し破壊するのを,別のチームが阻止するというテロリストもの。爆弾を運んでいる途中は銃を操ることができるが,目的地に設置するのに必要な12秒間はターゲットになりやすく,仲間の援護が必要になる。すでにリリースされているマルチプレイヤーモードでも分かるように,ヘルメットやアーマーの装着の有無で大きな違いが出てくる。
大統領暗殺の嫌疑をかけられ,敵からも仲間からも命を狙われるXIII
XIIIの原作は,1984年にDaugaud社によって発売された大人向けのコミックで,ライターのジャン・バンナム(Jean Van Hamme)氏とアーティストのウィリアム・ヴァンス(William
Vance)氏によってSpilou誌に描き下ろされたのが始まり。
1980年に執筆され,2002年には映画にもなったロバート・ルドラム(Robert
Ludrum)氏の「ボーン・アイデンティティ」とは,記憶喪失の主人公が国際的な陰謀に巻き込まれるという設定が酷似しているが,その後はバンナム氏のイマジネーションで12巻まで続き,フランス限定の販売ながらも計650万冊を売り上げるヒット作になっている。
ゲームのストーリーは,映画「バウンティ・ハンター」と非常に良く似ており,記憶喪失のまま浜辺に打ち上げられた男が,自分の探求をしながらも過去や政府の陰謀を解明していくというものだ。フランスのコミックだが,舞台はアメリカの東海岸になっている。
主人公に残された手がかりは,身体に彫り込まれた「XIII」の入れ墨と,銀行の私書箱にアクセスするためのカギのみ。その私書箱にあった身分証明書から,スティーブ・ロウランドという,秘密機関に属する諜報員であることが分かる。そして,どういう理由からか主人公は,大統領の暗殺に関わったFBIや謎のギャング団"マングース"から狙われるハメに。ここからの青文字部分はゲームの核心にも触れるので,秘密をゲーム内で探っていきたい人は読み飛ばしていただきたい。
プレイヤーのミッションは,自分が誰かを突き止め,自分が狙われている理由を探り,敵の陰謀を暴くことだ。実際,ゲームを始めたときには自分が誰だか分かっていないものの,そのうち身分証明書の人物を自分と思い込むことになる。このスティーブ・ロウランドは,エージェントXIIIとして大統領暗殺に関わった秘密組織のメンバーだったのである。
ところが,実際には主人公はエージェントXIIIではなく,彼の代役として入れ墨を彫られ,記憶まで消されてしまった男なのである。FBIやニューヨーク市警はこの事実を知らないため,大統領の暗殺者として追いかけてくる。この秘密組織には,ほかにもIからXXまでの入れ墨を彫り込まれた19人のエージェントがいるのだが,彼らも主人公がXIIIであると信じて,証拠隠滅のために襲いかかってくるのだ。
大統領暗殺の真相を知る少数のグループも政府内におり,時折主人公を助けてくれる。その中核となるのがアメリカ空軍に属するジョーンズ大尉や上司のキャリングトン大佐で,多くの敵に囲まれて窮地に立たされたときに,救援機を飛ばして救助してくれるのだ。
こうしてストーリーが進むに連れ,プレイヤーは自分の記憶を取り戻していく。ゲーム中では頻繁にフラッシュバックのシーンに突入するのだが,ほかのゲームと違うのは,その世界でプレイヤーが動き回ったりオブジェクトに触ったりできる部分。ゲームの中では現実世界とフラッシュバックが交じり合っているようにも感じられ,非常に興味深い効果を生み出している。
コミック風の演出満載のステルスアクション
XIIIのゲームスタイルは,ステルスを重視したアクションになっていて,各所にスクリプトによるドラマが散りばめられている。「QUAKE」のように重火器をぶっ放しながら敵を粉砕していくのではなく,多くの敵に囲まれればヘルスも相当なダメージを受けるようになっている。ただ,それがゲームのテンポに直結しているのではなく,かなりセンスの良いBGMの流れるアクションシーンは,プレイヤーをワクワクさせてくることは間違いない。
ゲームを開発しているのは,UBI Software社の看板シリーズとしてお馴染みの「Rayman」のチームだが,適度のシリアスさとアクションを織り込んでおり,SFか戦争モノばかりのFPSに新風を吹き込んでいる。
シングルプレイヤーモードは37ミッションというボリュームになっていて,ニュージャージーの海岸やニューヨーク,そしてアパラチア山脈の秘密基地や南アメリカへと展開していく。XIIIで遊んでいて気づくのは,アクションがあるたびに「BAM」や「URRRRRRR!」「PAW」などのアメコミに良く見られる文字が表示される演出が各所に散りばめられていることだろう。
また,新しい敵が曲がり角の向こうからやってくるときなどは,画面左上に別ウインドウが表示されるという,漫画のカット割のような見せ方もユニークだ。敵が崖から落ちたり,スナイピングが成功したときにも画面左上に3コマのウインドウが現れたりするのも面白い。
カット割のアイデアにもいえることだが,敵の位置や進行方向を聴覚を駆使して判別するという,FPSに慣れないプレイヤーには難しいテクニックを回避するための工夫が行われている。例えば壁の向こうで歩いてくる敵の足音を視覚で見せるという手法で,TAP
TAP TAP(タッタッタッという足音の擬音)の文字が,その進行に従って大きくなっていくのである。このため,ゲーム音楽が大きくても邪魔にならないばかりか,1歩間違えばじれったくなるステルスも,軽快に行えるようになっているのだ。
武器は全部で15種類用意されており,至近距離で強力なうえ投げることも可能なナイフを始め,9mmハンドガン,マグナム44,猟銃,ショットガン,海中用のハープーン,クロスボウ,トリプルクロスボウ,ミニガン,ロシア製の"カラシュ"サブマシンガン,M16アサルトライフル,M60サブマシンガン,バズーカ,スナイパーライフル,そして手榴弾が使える。
ステルスで大きな音を立てると周囲の敵に聞こえてしまうので,状況に応じて,武器のタイプを選んでプレイするよう心がけたい。
さらには,椅子やボトル,消火器のような家具やオブジェクトも手に持つことができ,ステルスや窮地のときに役立ちそうだ。デフォルトはこぶしになっているが,背後から襲いかかり,後頭部に一発お見舞いすれば気絶させることもできる。このように,身体の部位ごとにダメージが異なるようになっている。ステルス重視と書いたが,バズーカが使用できることから考えても,場面によってはランボーのように突破してもいいし,裏口を見つけて背後に回ってもいいしと,プレイヤー好みの遊びが楽しめるだろう。
AIも秀逸で,シングルプレイヤー用のミッションでも,ジョーンズ大佐らと同時に進行していくような局面もあるようだ。NPCはドラム缶や木箱の後ろに隠れたり,倒れた仲間から銃弾を補充したりもする。仲間であれば,お互いをカバーしながら進んでいくような気分にさせてくれるはずだ。マルチプレイヤーモードではBOTもサポートしており,先述したサボタージュモードでも,敵や味方が協力しながらプレイすることが可能だ。
XIIIは,マルチプレイヤーデモと,二つのミッションが途中までプレイできるシングルプレイヤーデモ(当サイトの「こちら」でどうぞ)がリリースされているので試してみるといいだろう。もっと遊んでみたいと思わせるゲームになっていて,欧米での11月中旬の発売を控えて期待は高まるばかりだ。ここしばらく西ヨーロッパ産のFPSは芽が出てこなかったが,アートや世界観にもこだわったフレンチテイストのXIIIが,このジャンルを盛り立ててくれるのではないだろうか。
forGamerの情報一覧は「こちら」
*ゲーム画面はすべて開発中のものです。また,本記事の内容は製品版では変更される可能性もあります。ご了承ください。
(C)2001 - 2003 Ubi Soft Entertainment. All Rights
Reserved.


|