Will Rock

Will Rock

Text by 奥谷海人

 往年の「DOOM」を思わせる狂気的な敵の出現数で話題になった「Serious Sam」に,ライバルが登場する「Will Rock」は,先月開催されたGDC 2003にて,ATI社のRadeon 9800用の展示デモとして初公開されたものだ。軽快にして爽快なゲームプレイを持つ一人称視点のシューティングゲームで,舞台もエジプトなどの古代をテーマにしている。

プロメテウス神に乗り移られたウィル・ロックが,古代ギリシャを快進撃

 ここ最近,お手頃な価格帯と高性能なグラフィックスを兼ね備えたゲームが東欧諸国で開発されることが増えてきた。UBI Soft社から6月に発売が予定されている「Will Rock」も,そんな新作ソフトの一つだ。開発しているのは,ロシアの新鋭開発者を集めたSaber Interactive社で,最近のFPSには珍しい独自のゲームエンジンSaber3D Engineを引っ下げての登場となる。2003年2月の時点ですでにβテストの段階に入っているので,公表されている6月リリースは間違いないと予想される。
 このWill Rock,かなりの部分で「Serious Sam」とダブる部分があるのだが,実際Saber Interactive社の面々も,そのことは認めているようだ。Serious Samのゲーム性も「DOOM」のような軽快な動きとの類似性を指摘されていたわけだし,そもそもすべてのFPSはDOOM(Wolfenstein 3Dともいえるが)を原点にしているともいえるのだから,Will Rockが似ているからといって,それだけで否定してしまうのはもったいないのである。可能性はまだ未知数といったところだが,少しプレイしてみたところ,FPSファンを楽しませるには十分な作りになっていたので,ここで詳しく紹介してみよう。

 Will Rockとは,本名をウィルフォード・ロックウェル(Willford Rockwell:だからWill Rockなのだ)という22歳の考古学専攻の大学生の愛称だ。ヘッドストロング博士の助手の1人として,ギリシャで発生した地震によって露出した"失われたオリンポスへの扉"を調査することになったのだが,その扉から飛び出してきたカルト集団によって博士が殺害され,博士に随行していた娘のエマが扉の中に誘拐されてしまう。エマを,ギリシャの全能の神ゼウスの新妻として捧げるためだ
 ウィルも応戦はしてみるものの,射撃が下手なため,周囲の遺跡ばかりに当たってしまう。反対に,彼自身がカルト集団の凶弾に倒れてしまう有様。ところが,彼の射撃センスのなさが幸いしてか,誤射の一つが大理石像に命中し,その中に閉じ込められていたプロメテウスの魂を放出してしまうことになるのだ。このプロメテウスの魂がウィルの体に乗り移り,エマを救出するというウィルのミッションと,プロメテウスのゼウスに対する長年の鬱積とが重なり半神半人となったウィルが,その扉に飛び込んでいくのであった。
 これがWill Rockのストーリーなのだが,これまで知られていた「著名な考古学者を祖父に持つ,妻に頭の上がらないの元会計士」という設定は大きく見直されたようだ。ストーリー自体は一般的なFPSと同じくゲームにはそれほど影響のあるものではなく,いったんゲームが始まると,ウィルの姿を見る機会はエンディングまでなさそうだ。ギリシャだけでなく古代中国やロシアにも舞台が移り,全部で12のミッションをこなしていくこととなる。残念ながら,中国やロシアのミッションに関する情報は,現在のところは明らかにできないということだ。

東欧の妙技(!?)の,軽快なアクションとモンスターの多さが魅力

 扉の向こうの世界に君臨するギリシャ神は,人間に対して良い感情を持っていない。ローマ帝国がギリシャを侵略したときに,神々をオリンポスの神殿に閉じ込めてしまったからだ。Serious Samが古代エジプトを舞台にしていたように,Will Rockは古代ギリシャを舞台にしており,襲い来る敵もミノタウルスやケンタウルス,ハーピーやスケルトンといった神話に登場するようなモンスターたちだ。
 Will Rockのゲームスタート当初はいきなりミノタウルスが襲いかかってくるのだが,ウィルが初期装備で所持しているのは9mmのハンドガンとショベルのみ。これで何とかやりくりしながら,マップ上に散らばる他の武器を拾っていく。古代ギリシャになぜショットガンやマシンガンが落ちているのかは説明されていないが,クロスボウや手榴弾,地雷なども用意されている。ほかの兵器も興味深いものが多く,敵を石化して崩してしまうメデューサガン,敵が風船のように肥大して破裂するアシッドガン,小型の核爆弾を噴射して半径6mの周囲は丸ごと溶解するアトミックガンなどもある。これらの武器は,全部で11種類と最近のFPSにしては少なめだが,それぞれがまったく違った効果を持っている。アシッドガンのような,敵が死ぬ前に形状を変化させていくアニメーションは非常に面白い。

 Seriuous Samがそうであるように,Will Rockもまた,モンスターの多さという物量作戦でプレイする者を魅了する。かなりのスピードでキャラクターが移動するのも,Serious Samを連想させる。ミノタウルスは強力な敵として設定されており,なんと死んだ後にはその肉片から小型のミノタウルスが現れて襲いかかってくるようになっている。1匹のモンスターと戦っていたはずなのに,いつのまにか数が増えているのだ。ケンタウルスも,武器の槍でプレイヤーを放り投げるという技を持っている。
 ほかにも,ダイナマイトのように火が付いた尻尾を持って突進してくる自爆ネズミなど(Devastationのように)最近の流行も取り入れているし,敵の姿もないのにダメージを受けていると思ったら,空中に舞うハーピーが火の玉で攻撃していたなど,周囲の環境を良く観察しておく必要がある。さらには,ときおり設置されている巨像にも注意が必要で,アトラスの像が放り投げる大きな地球儀のダメージはかなりキツい。

 Will Rockのレベルは屋内外のものが適度に設置されていて,アリーナの中でハーピーやカルト教団と戦った後に,地下の通路を通ってミノタウルスを蹴散らしながら神殿へと進むという流れとなる。適度なパズル的要素も用意されており,ドアを開けるためのスイッチを探して,一つ一つ建物の中を探しまわったりもすることも
 ゲーム後半になると,トロイの木馬があるユニークなレベルが登場するものの,レベルデザイン自体がそれほど特殊なものであるとは感じられなかった。ただし,床や壁が崩れて別のエリアに侵入できるようになったり,高所へ移動できるトランポリンがあったりと,奥行きや上下への広がりを感じさせるような作りになっているのは好感が持てる。惜しむらくは,そのために頻繁に発生するローディングの多さだ。しかし良心的な解釈をすれば,激しい戦いと戦いの間のインターミッションとも取れるので,ローディング時間の存在が悪いとは一概にはいえないのかもしれない。このローディングによってマップを分けると,12ミッションの中に45種類くらいのマップが用意されていることになる

高性能のグラフィックがウリで,欧米では安価で販売される

 Will Rockで注目すべき点の一つが,Serious Samのグラフィックをもう1段階押し上げたようなグラフィックの美しさだ。アメリカ産のFPSのようなゴシック風味の暗さはなく,カリッとした明るさと色彩の鮮やかさは,日本人にはウケが良いと思う。ギリシャは地中海気候の乾燥地帯であるためか,各レベルにそれほど樹木や雑草が設置されているわけではないようだが,その分すべてのテクスチャにはバンプマッピングが施されており,壁や岩にあるデコボコの質感が見事に表現されている。パーティクル効果を使って爆発や煙を表現もうまく描写していて,さすがDirectX 9.0をサポートした次世代のグラフィックカードのデモとして使用されるだけのことはある
 すでに,武器の効果としてキャラクターモデルが肥大したり解けたりとモーフィングするのは記載したが,これはWill Rock自慢の最新技術の一つだ。オブジェクトも破壊できるものが多く,リアルタイムで破壊されるのも見どころ。リアルタイムということは,つまりアニメーションで事前に設定されたものではなく,被弾する方向などによって随時異なる破壊になるということである。モンスターの数が多いためにモデルのディテールを欠いているということもなく,アトラスやサイクロプスのような巨大な敵に遭遇することもある。
 インタフェースは,ミニマムな作りで視界を遮ることはない。ダメージを受けていると,手に持つ銃に付着する血の量も変化するという芸の細かさで,HUDを確認するまでもなくキャラクターのヘルスが把握できるようになっていた。

 マルチプレイヤーモードでは,デスマッチやチーム戦,キャプチャー・ザ・フラッグに加えて,ロケットアリーナが用意されている。そのほかに,トレジャーハントと呼ばれる新しいゲームモードも考案されており,これはマップ上に散らばる財宝の破片を集めて周り,より多くの財宝を集めたチームが勝利するというもので,財宝を持って自陣営に戻る途中の敵を狙い撃ちすることもできる。
 シングルプレイヤーモードでのプレイ時間も決して短くなく,ボリュームとしては十分に満足できるレベルのゲームに仕上がっているが,アメリカでは29.99ドルという"バリューソフト"と呼ばれる低価格ゲームジャンルでの販売となる。バリューソフトといえば,以前はグラフィックスやゲーム性といった面では評価が低かったジャンルだが,Will Rockは,技術的にもアメリカで制作される一般的なゲームソフトに十分対抗できるものに仕上がっている。最終的にはゲームとしてどれだけまとまっているかで,人気や評価が決まってくるだろう。

 何かとSerious Samと比較されてしまうことも多いWill Rockだが,パズルの存在やグラフィックスの向上,そしてマルチプレイヤーモードの面白さで多くのファンを獲得できそうだ。UBI社では,自社のオンラインゲームサービスUbi.comの拡大を進めており,マルチプレイヤーの対戦相手を探すのにも苦労することはないだろう。最近PCゲーム界で大きな存在感を示し始めたロシア生まれのWill Rockは,果たして「This Game Will Rock!」(このゲームは凄いぜ!)と,ファンに親しまれることになるだろうか?


*本記事の内容は製品版では変更される可能性もあります。ご了承ください。

(C)2003 SABER INTERACTIVE/UBI SOFT ENTERTAINMENT. All Rights Reserved. Developed by Saber Interactive, Inc. Will Rock, the Will Rock logo, the Saber Interactive name, the Saber Interactive logo, the Saber3D Engine name and the Saber3D Engine logo are either registered trademarks or trademarks of Saber Interactive, Inc. in the United States and/or other countries. Ubi Soft and the Ubi Soft logo are trademarks of Ubi Soft Entertainment in the U.S. and/or other countries.