Tron 2.0

Tron 2.0

Text by 奥谷海人

 80年代初頭に,30分以上に及ぶCGシークエンスを使用した画期的な映像が観衆を沸かせた,映画「トロン」がゲーム化されている。当時,新しいエンターテイメントとして認知され始めていたコンピューターゲームを題材に扱った内容は,確かにゲーム化するのにピッタリだろう。欧米のゲーマーの間では少しずつ盛り上がりを見せている「Tron 2.0」(以下Tron 2.0)の内容を,ここに詳しくレポートしてみよう。

80年代のカルトヒット映画が,FPSになって帰ってきた

 Tron 2.0は,コンピューターの中へと取り込まれたプレイヤーが,父親の消息を探してデジタルの世界を冒険するFPSである。もちろん,題材となっているのは,1982年に公開された初の本格的CG映画「トロン」である。この映画がゲーム化されることが決定したのは,2002年が映画公開から20周年ということから(残念ながら開発の遅延によってリリースが延びてしまっているが)。ただし,その出来映えにディズニー本社も感動しているらしく,今年の3月時点で完了していたゲームの開発を,より売り上げの見込める夏にまで遅らせ,さらに細かい部分まで調整を続けているのだというから期待できる
 Tron 2.0を開発しているのは,「No One Lives Forever」シリーズなどでお馴染みのMonolith Productions社で,兄弟会社であるTouchDown Entertainment社(LithTech社より,今年始めに社名変更)の最新ゲームエンジン「Tritonシステム」を使用している。これは,「No One Lives Forever 2」にも利用された「Jupiterエンジン」のグラフィックの強化版で,DirectX9.0の持つプログラマブル・シェイディング 2.0機能にも対応した最新式のものだ。さらには,映画にも登場したライトサイクルと呼ばれる乗り物でのアクションにも注意が払われており,物理エンジンも改良が施されているという。

 タイトルでもあるトロンとは,映画で主人公ケビン・フリンが旅したメインフレームコンピューターのことだ。Master Control Program(MCP)という人工知能が,サイバーワールドばかりか実世界まで掌握しようと,コンピューターの中で行われていたゲーム・グリッドと呼ばれる格闘大会に,ケビンが巻き込まれてしまったのである。
 Tron 2.0の舞台となるのは,その事件から約20年後のことで,トロンプログラムの生みの親でもあるアラン・ブラッドレーが,人間をデジタル化してコンピューターの中に取り込むことを可能にする技術を開発したことに端を発する。その中核的な技術がMa3aと呼ばれる最新の人工知能で,個々の人体のDNA配列を完全に記憶し,取り込みや再生を自在に行えるというものである。おりしも,アランの会社はフューチャー・コントロール・インダストリー(fCon)という大企業に買収されようとしており,fConはこの新技術の獲得に目を光らせていた。fCon社は,データレイス(DataWraiths)と呼ばれるお抱えのハッカー組織を暗躍させ,世界を内側から乗っ取ってしまおうと考えており,アランの旧友JD・ソーンをそそのかしてまでMa3aを悪用することを模索していたのだ。
 私生活では,アランはジェットという名の思春期の息子がいるが,日頃から彼の将来のことなどで口論が絶えない。ジェットは,コンピューターゲームの開発者になりたいという夢を持っているが,父親には理解してもらえないのだ。ところがある日,アランがオフィスの自室で消息を絶ってしまい,この失踪の謎を解くにはコンピューターに潜入しなければならないとジェットは考える。そこで,ジェットはMa3aを使って自らをデジタル化し,トロン内部へと父親捜索の旅を開始するのだ。
 Tron 2.0の導入部分で登場するアランの研究室は,映画のセットをモデリングしたという凝りようで,ゲームエンジンをそのまま使ったムービーとして再現されている。その後は,一人称視点に切り替わってのチュートリアルとなるが,我々ゲーマーにはそれほど馴染みのない世界観が描かれているので,インタフェースや操作法など,ここでしっかりと基本的なノウハウを身につけておきたいところだ。特に,フリスビーのようにプレイヤーキャラクターの手元に返ってくるディスク武器は,ゲームを通して使用頻度が高くなると思われるので,慣れも必要だろう。

グロー効果の蛍光発色で,サイバーワールドを再現

 Ma3aによってデジタル変換されたジェットは,自分のカラーコードとして青色を選択してトロンに進入する。 シングルプレイヤーモードにフィーチャーされた30レベルを通して,プレイヤーキャラクターは青色のスーツを身にまとって冒険することになるのだ。また,映画と同じようにそれぞれのセクション(レベル)も色分けされていて,一応に黒を背景にした配色ながらも視覚的にも飽きが来ないようになっている。インターネットハブであれば,オレンジを基調に様々な色のデータが飛び交っていたり,緑はデータレイスによってウィルスに汚染されているサーバーのカラーコード,紫はゲーム終盤で到達するfCon本社のサーバーといった具合だ。
 Tron 2.0でTritonシステムのグラフィック技術が生きているのが,このレベルやオブジェクトの配色である。DirectX 9.0のプログラマブル・シェイディング機能で可能になったグロー効果が,映画そのままの,もしくはそれ以上の世界を作り出しているのである。グロー効果を単純に言えば,あたかもオブジェクトが自ら光を発しているかのように見せるテクスチャー効果で,カラー蛍光灯のように周囲に淡いハローができるものだ。グロー効果は,元々はNVIDIA社のプログラマによって提供されたものといわれており,Tron 2.0ではそのデジタルな世界観から,キャラクターの輪郭やグリッドラインに至るまでの表現に使われている。また,敵プログラムが破壊される時のパーティクル効果も非常に派手で,四角や線状の破片が飛び散るなどの演出が目を引く。これらの効果のため,使用マシンに必要なスペックは高くなると見られ,最低でもPentiumV世代のCPUに32MB以上のグラフィックカードが必要になるということだ

 このゲームで最もユニークなのが,映画にも登場したライトサイクルを利用したレーシングゲームで,ここは三人称視点へと切り替えられてプレイすることになる。映画でもお馴染みの,黒の背景に赤い壁,灰色のグリッドという殺伐とした雰囲気ではあるものの,ライトサイクルは鮮やか残像を引きながら走っている。このライトサイクルは,インダストリアル・デザイナーの先駆者として世界に名を轟かせるシド・ミード(Sid Mead)氏がデザインしている。元々,SF映画「ブレードランナー」と同時期にTronのライトサイクルを描き上げたミード氏だが,今回採用された3種類の新型ライトサイクルから,彼のビジョンの変遷を感じ取ることもできるだろう。
 プレイヤーは,ライトサイクルの速度をコントロールすることはできない仕組みで,ライトサイクルは常に前進している状態だ。グリッドラインに従って縦もしくは横90度の角度にしか動けないため,一見単純な操作に思えるかも知れないが,迫り来る敵や壁の隙間を高速で通り抜ける場面もあり,実際にはドキドキさせる面白さを備えている。敵のライトサイクルの残像に巻き込まれると,一時的にコントロール不能になって壁に衝突してしまうのだ。この辺りに,通常のFPSとは全く異なるゲームが楽しめるという,Monolith Productions社独特の遊び心が満載されているといえるだろう。彼らの得意な,お笑い系のシーンやパズルも多々含まれているはずだ。
 当初は,グラフィック重視のためにフレームレートへの負担が懸念されており,マルチプレイヤーモードはなくなるという話もあったくらいだが,その後はネットワークコードの最適化も予想外なほど順調に進んだようで,複数のマルチプレイヤーモードが用意される。それぞれの対戦は,映画にもあった"グリッド・ゲーム"という格闘大会に出場するプレイヤーたちの攻防という設定で行われ,アリーナのような形状のステージで対戦することになるのだ。これには上記したライトサイクルを使ったデスマッチやチーム戦になる予定で,インターネットで最大16人までが楽しめる。さらには,観覧席と称してゲームに参加していないユーザーが対戦ゲームを観戦できる仕様にもなっており,スポーツとしてのネットワーク対戦が重視されている。

キャラクターや武器を強化していくサブルーチン・システム

 Tron 2.0で,プレイヤーの行く手を遮るのは,セキュリティ・プログラム,ウィルスに汚染したプログラム,さらにはデータレイスに操られたプログラムやコードたち。中には,画面中を覆うような巨大なプログラムも存在する。我々の知る各種プログラムは,システム内の世界ではすべて人間や動物風モンスターの形状で存在しているという世界観だ。よって,プレイヤーのクエストとは本質的に関係のないプログラムたちも,ゲーム内ではNPCとして登場し,ときには有益な情報源となる。プレイヤーをデジタルに変換したMa3aも,女性キャラクターとしてストーリーに大きく絡んでくるようだ。
 敵プログラムと戦っていく上で重要になるのが,"サブルーチン"と呼ばれるアイテムだ。これは,武器やプレイヤーキャラクターのアップグレード用のアイテムで,キャラクターのレベルがあがるごとにデータツリーと名付けられたゲーム内のファイルから購入することができるものだ。このサブルーチンは,1度入手するとプレイヤーは補填する必要がないが,ここで登場するのが,これまたコンピューター用語の"アクティブ・システム・メモリー"だ。それぞれのレベルには,このメモリ容量の上限が設定されていて,サブルーチンを自分のプログラムに取り入れるごとにメモリスペースを消費していく。サーバーのような大きいスペースなら,メモリーの許容量も大きいが,PDAなら相当限られたシステムメモリーしかないようだ。
 許容量以上のサブルーチンは購入できないため,ゲームを進める戦略によって,どのようなサブルーチンを身に付けるかが決まっていくのだろう。このサブルーチンは,Sneak Enhancerなど,プレイヤーキャラクター自身の能力を向上させるタイプのものもある。また,ゲーム中にはコンプレッサーやデフラグプログラムというアイテムもあり,これを使ってアクティブ・システム・メモリーの空きスペースを増やすことも可能になる。
 さらには,ときおりデータツリーから購入したサブルーチンの中には,破損していたり解読不能なファイルと出会うこともあるようだが,修正プログラムを見つけてプレイヤーの使える状態にしたり,移植プログラムで言語修正するというような局面もある。これらのアイテムを見つけるには,レベル各所を走り回る必要もあるだろう。

 以下,現在公開されている4種類の武器を説明しておく。これらは,初期状態では"プリミティブ"と言われており,ここにサブルーチンを追加することで,複数の用途に利用可能だ。さらに,それぞれのサブルーチンは,アイテムとして入手できるオプティマイザーによって,攻撃力や発射速度を増強できるようになっている。

ディスク

Disk Primitive
 非常に強力な武器で,プレイヤーが飛んで行く方向をコントロールできるだけでなく,フリスビーのように手元に返ってくる。基本的なプログラムであれば1〜2回のヒットで倒すことができるという。さらに,敵の射撃をはね返すのにも使えるようだ。また,壁に当たると回転力が増加し,攻撃のパワーを増強できる。
Disk - Sequencer
 1度に4回までディスクを投げることができるようになる。
Disk - Cluster
 到達地点で複数の破片に分かれて敵にダメージを与える。

ロッド

Rod (P-Rod) Primitive
 ヌンチャクのような至近距離戦用の兵器で,放出されるエネルギー波で敵プログラムをショートさせながらダメージを与える。そのため,アーマーを装着していないプログラムには有効であると言える。
Rod - Suffusion
 エネルギーを放出できるショットガンで,オプティマイザによって長距離にも使える。
Rod - LOL
 スコープ機能も付いたスナイパーガン。

ボール

Ball Primitive
 球形の兵器で,基本形状ではグレネードとして機能し,投射距離や方向をコントロールすることが可能だ。壁に接近した状態であれば,それを接着して時限爆弾をしても利用できる。
Ball - Launcher
 至近距離に爆弾を放射できる。
Ball - Drunken DIMs
 複数の小型爆弾を放射できるが,コントロールは難しい。

メッシュ

Mesh (Blaster) Primitive
 メッシュは,手の平に収まるほどの三角形の兵器で,発射速度の高いマシンガンとして利用できる。元々は,fCon社のデータレイスのために開発された武器らしい。
Mesh - Energy Claw
 敵のエネルギーやヘルスを抽出して自分のものにできる。
Mesh - Prankster Pit
 非常に強力なエネルギーを放出するミサイル兵器。

 Tron 2.0は,前述した通りゲーム自体はほぼ完成しており,細かい部分のバグチェックや最適化が行われている状態らしい。発売は,欧米ではVivendi Universal Games社によって8月末にリリースされる予定だ。権利関係がややこしいが, Monolith Productions社は,ディズニーからTronゲーム化のライセンスを取得したFox Interactive社から開発の委託を受けており,その後にFox Interactive社が,最近では配給会社としての機能を拡大させているVivendi Universal Games社と販売協定を結んだという経緯がある。
 Tron 2.0は,映画のエッセンスをふんだんに使用しているため,ゲームをプレイする前には必ず映画版を見ておくことをオススメする。通常のFPSとは異なる世界観も,他のゲームとの差別化には成功しているとは言え,戦争モノに過食気味なプレイヤーでも十分に楽しめるはずのクオリティだ。

 

Tron 2.0の情報一覧は「こちら」

 

*本記事の内容は製品版では変更される可能性もあります。ご了承ください*

TRON(R) Owned by Cooper Industries, Inc. and used by permission. (C)Disney