「Trinity:The Shutter Effect」

Text by 奥谷海人

※記事中のScreenshotsは,すべて開発中のものです。ご了承ください。

 「Trinity:The Shutter Effect」は,アクション中にスローモーション効果が発生するという,最新鋭のFPSゲームだ。人間をミュータント化させる伝染病の蔓延したニューオリンズで,謎の男ナイトストーカーが活躍する。シングルプレイヤー専用ゲームではあるものの,続編の多くなったFPSジャンルに,またまた刺客が登場した!?

■近未来のニューオリンズを舞台にした新作FPS

 1999年に香港が中国に返還されて以来,香港アクション映画界の多くの人材がハリウッドに流出した。その成果が映画「グリーン・デスティニー」であり「マトリックス」であるわけだが,ゲームでその影響が感じられる作品といえば,アクションシーンでスローモーションによる特殊ムーブが効果的に使われた「Max Payne」や「Bloodrayne」などが挙げられる。
 このたびActivisionが発表した作品「Trinity:The Shutter Effect」は,そんな特殊な仕様を盛り込んだFPSゲームとなる。「Return to Castle Wolfenstein」で底力を見せつけたGray Matter Studios社が開発しており,やはり「QuakeIII:Team Arena」の改良版(Wolfensteinと同じもの)を使って制作されている。
 Gray Matter Studios社は,以前から「QuakeII:The Reckoning」や「Kingpin」などの作品でFPSを開発してきたので,このジャンルとQuakeエンジンにかけては相当精通した開発部隊だと考えていいだろう。

 Trinityは,2013年という近未来のニューオリンズが舞台となる。街を突然襲ったモーフ・シンドロームと呼ばれる伝染病によって多くの人命が犠牲となり,また生き残った人々もミュータント化してしまうという非常事態が発生する。
 手に追えなくなった政府は,専門技術をもつと称するシルマラ(Silmara Corp)という超巨大企業に事態の収拾を委ねた。
 プレイヤーの役どころは,この事件を別ルートで解決しようする私的組織に雇われた"ナイトストーカー"(NightStalker)で,ミュータントやシルマラなどによるさまざまな敵の妨害を退けながら,モーフ・シンドロームの真相を探っていく。プレイヤー自身は,ケアテイカー(Caretaker)と呼ばれる,謎の黒幕の指令を受けて行動することになる。
 ニューオリンズといえば,ハイチの移民や文化が流れ込み,アフリカの原始宗教とキリスト教が合成されたような,ブードゥー教などの影響も色濃く受けている地域。そのミステリアスな雰囲気は,アメリカでも非常に特殊な都市風景といえるだろう。元々はフランスの植民地だったこともあり,赤レンガにパティオのついたコロニアル風の建築物が,独特の風情となっている。


 Trinityが,この都市の背景をどのように扱うのかは未発表なものの,ナイトストーカーは,「Deus Ex」のキャラクターのような形で,バイオ・オーギュメンテーション(Bio-Augumentation)と呼ばれる肉体改造をゲーム中に行えるようになっている。これにより,跳躍力から特殊視力などの身体機能が飛躍的に向上していくのだ。
 実際にどのような能力が備えられるのかは,ゲームをプレイする過程で公開されていくもののようだが,デフォルトでも壁を通して敵の位置を確認できる視力を備えている。また細かい部分では,ヘルス値の最大値が,通常の100ではなく150となっているのが面白い。あくまでも数字的なまやかしとはいえ,プレイヤーキャラクターの超人性を物語るには充分なトリックである。
 ナイトストーカーは,Bloodrayneがそうであったように,最新鋭の生化学よって改造されたスーパーヒューマンであるという設定で,彼自身の過去の記憶は一切消されている。そのため,ゲームのストーリーは疫病の根源を食い止める方法を見つけ出すということ以外にも,自分の過去を解き明かしていくという部分にも焦点が当てられている。あまり新鮮味のある設定ではないにせよ,さまざまなゲームの良い部分を摘み取って,より精巧なものに消化しようという意欲がうかがえる。


■映画「マトリックス」のような,弾丸をも回避する"フラッシュタイム"を採用

 Trinityのゲームデモを見ていると,かなりのアクションシーンが盛り込まれた内容になっているようだ。
 どういう理由からか,プレイヤーに襲いかかってくるのはおそらくシルマラ社の私設の特殊警察隊と思われる人間達で,激しく銃を撃ち合う場面が多そうだ。かと思えば,薄暗い町並みを敵に見つからないよう忍び歩いたり,跳躍力を生かして屋根から屋根へと跳び移ったり,普通では行けないような高い場所にあるドアにジャンプしたりするなど,さまざまなプレイスタイルが楽しめるようになっている。
 バイオ・アーギュメンテーションは自動的には行われず,特定のキーコンボを押すことによって発動される。跳躍に限っていえば,ジャンプキーを2度押すことで行われるという,「Unreal Tournament 2003」の手法を採用している。もっとも,これらのアーギュメンテーションは,一定のエネルギーを消費してしまうようになっているので,ゲーム中に何度も使ってはいられないようだ。

 Trinityの目玉は,やはりアクションシーンで発生するスローモーションだろう。これは,このゲームではフラッシュタイム(もしくはフラッシュパワー)と呼ばれているシステムで,Max Payneより,さらにマトリックス風のカッコ良さが楽しめる。
 フラッシュタイムが発生すると,実際に弾丸が周囲の空気を押し退けながら迫ってくるが確認できるほどになり,このパワーが作動中にキャラクターを移動させ,弾丸を避けることも可能。相手を銃で狙いやすくなるなど,第一人称のカメラ視点で楽しめる限りのことが許されている。このフラッシュパワーは,物語が始まる以前にシルマラ社から失踪した科学者の発明によるものらしく,バイオ・アーギュメンテーションと併用して利用することもできるとのことだ。
 開発者達が,ただの銃撃戦にならないよう心掛けていると思われる仕様もある。プレイヤーキャラクターのヘルス値が消耗した場合,一般的なFPSのようにマップに点在するヘルスパックを活用するのではなく,自分自身で「治癒」するという能力を使わなければならないのだ。
 このためプレイヤーは,どこで自分のヘルス値を回復するのかを常に頭に入れ,こっそりと前方を偵察しては周囲の敵の人数を予想するなどの戦術を採る必要が出てくる。30秒ほどかかる治癒の作業の間は,銃器を操ることができないのだ。戦闘中にヘルス値が危機的な状態になったとしても,逃げるのに成功しない限り,途中で治癒を試みるのは無謀な作業になるだろう。


 Trinityでは,ショットガン,マシンガン,スナイパーライフル,そしてグレネードランチャーなど,現代とはそれほど変わらない銃器が用意されている。そのほかにも,レーザーライフルや液体窒素ガンなどの近未来的なものも登場し,武器の数はかなり多いようだ。ただし,プレイヤーが一度に保有できる武器は五つまでに限定されているため,その後使用しないと判断した武器は,ミッション途中でドロップしていかなければならないようになっている。
 ゲームのインタフェースは,視界部分にディスプレイが映り出されるヘッドマウントを想定しているらしく,武器の種類や動作も確認しやすい。新しい局面などでは,ケアテイカーによるビデオ通信が上部に表示され,的確な指示を受けるようになっている。
 敵の思考ルーチンはWolfensteinの後継らしく,プレイヤーが満足するに十分なレベルだ。特定の武器に耐性のあるものも登場し,プレイヤーの手に持つ武器によって異なる対応をしてくるようだ。プレイヤーがバイオ・アーギュメンテーションの威力を発揮したときには,それを見てただ呆然とするような驚きや畏怖心のような表現も行われている。
 ゲームが進むに連れてプレイヤーの超人力に対応してくる,"エージェント・スミス"風の敵も出てくるかもしれない。

 フラッシュタイムを採用しているためか,Trinityはシングルプレイヤー専用FPSとなる模様。最近では,マルチプレイヤーモードをサポートしないFPSが大ヒットすることが少ないのが心配される点ではあるが,MODツールなどの公開により,オンラインコミュニティへのアピールは行う方針のようだ。
 今ハヤリのマトリックス風の世界観やアクションをFPSゲームに採り入れた「Trinity:The Shatter Effect」は,現在のところアメリカで2004年の発売とだけ発表されている。フラッシュタイムを,スタイルだけではなくゲームプレイに取り込んでいる部分は非常に評価でき,Activisionの「DOOM III」に続くFPSブランドとなる可能性もある。