Soldner:Secret Wars

Text by 奥谷海人

 「Soldner:Secret Wars」は,近未来を舞台に,シベリアからアラスカにかけての地域で勃発した架空の紛争を描いたシューティングゲームである。
 あまり話題にはなっていないものの,早ければ2004年2月中にもリリースされる予定で,70種類の銃器,60種類の乗り物,そして多くのゲームモードや多彩なオプションが用意された本格的なシミュレーションゲームでもある。
 この2月以降にリリースされるFPSは多いが,その中でどのような奮闘を見せてくれるだろうか。

日本の特殊部隊も登場するミリタリー・シューティング

 「Panzer Elite」などのシミュレーションゲームの開発元であるWing Simulations社が,同社では初となるミリタリー系シューティングゲーム,「Soldner:Secret Wars」(以下,Soldner)を開発している。

 Soldnerは"ソルジャー(soldier)"のスペルミスではなく,ドイツ語の「雇用兵」に由来しているという。本作もほかの期待のFPS達と同様,開発の遅れで発売日が延びてしまっていたが,2004年2月中にはリリースされそうな気配。同じテーマのゲームでは「Battlefield:Vietnam」との発売時期が近く,アーケードライクなBattlefieldシリーズの持ち味とは異なる"リアルさ"で差別化を図っている
 Soldnerの販売はJoWood Productions社が行う予定で,イギリスではBigben Interactive社,アメリカではEncore Software社という新興のパブリッシャに委託されている。そのためか,発売日が近い割に欧米のメディアで露出度が高いとはいえないものの,開発の遅延から玉突き式に発売日が偏ってしまった今春の"FPS戦国期"の中でも,先陣をきってリリースされるソフトになりそうだ。

 Soldnerで舞台となるのは2010年の近未来。シベリアからアラスカまでのベーリング海周辺で起こった地域紛争をテーマに,アメリカ,ロシア,中国,そして日本の特殊部隊が対峙するという内容だ
 唯一のスーパーパワーとなったアメリカへの対抗処置として,ほかの国々は小規模なゲリラ戦法を展開するようになっている。つまり,大量破壊兵器の投入や何万人もの兵士を送り込むことよりも,少数の精鋭兵による神出鬼没な攻撃が戦場の主力となっている。プレイヤーは,これらの国家に雇われた傭兵として,何十種類にも及ぶ武器を手にとって戦場を駆け回ったり,さまざまな搭乗兵器を利用したりして戦っていくのだ

 まぁご存じの通り,日本は海外への自衛隊派遣でも法整備などの問題が山積みなのに,6年後にはベーリング海域に自前の軍隊を送り出すというシチュエーションは奇妙ではある。
 しかし,日本は第二次世界大戦モノのゲームでは"敵国"として扱われる場合が多いだけに,こういう形で登場するのは興味深い。ベーリング海域の地域紛争という設定に現実味があるかないかは別にしても,日本人として非常に気になる内容なのは間違いない。このあたり,日本軍が登場しない「Battlefield:Vietnam」よりも入れ込める要素といえるのではないだろうか。

さまざまなマルチプレイヤーモードで,最大128人でプレイ可能

 何度かBattlefieldシリーズと比較したが,Soldnerのプレイ感はBattlefieldと「Operation Flashpoint」の中間くらいに位置していて,複数の乗り物を操ってマルチプレイヤーモードを楽しむゲーム性と,戦場をリアルに表現したシミュレーション性の両方を兼ね備えている
 マルチプレイヤーモードは32人までのサポートを標準にしており,Linuxを利用したネットワークゲーム専用サーバーを使用すれば,最大で128人が同時にプレイできるように設計されている。
 ゲーム中で描かれているベーリング海域は衛星データを基に再現されており,全体では東西に6500km,南北には3200kmという広大なマップが作成されている。衛星からのデータは軍事的理由によって1ドットにつき1平方kmという大雑把なものしか入手できなかったそうだが,独自のアルゴリズムで地形の起伏を自動的に演算し,フィヨルドなどの込み入った地形でも表現できるようになっているとのことだ。
 さらにだんだんと暗くなっていくといった時間の経過も再現されている。マルチプレイヤーモードでは,広大なマップでヘリコプターやジープを操りながら,部隊(クランやチーム)の生き残りをかけた白熱の戦いが楽しめるのではないだろうか。もちろん,1ゲームで使用するマップの領域は,プレイヤーの人数やゲームモードのタイプによって区画が限定されており,何千kmも自由に行き来できるというわけではない。

 Soldnerのマルチプレイヤーモードは,通常のデスマッチやキャプチャー・ザ・フラッグに加えて,チームデスマッチ,VIP,Hostage Rescue,Assassination,Bomb Runなどが標準で用意されている。個人戦かチーム戦かを選択した後に,Extract(フラッグやNPCなどのオブジェクトを移動させるモード),Destroy(VIPやBomb Runなどの破壊行為),Conquest(片方のチームが複数の地点を占領していくBattlefield 1942で人気となったモード)の三つのオプションを選び,さらにマップや季節,使用兵器の制限などを細かく設定できるようになっている。
 かなり自由にカスタマイズできて,例えばキャプチャー・ザ・フラッグ系のモードでは,オプションで"フラッグ"を"ジープ"に変更しておくことで,旗を背負って走り回る代わりに,敵陣のジープを略奪して自軍の陣地に運転して帰って来るというようなゲームになる。このように細かい設定を加えれば,いろいろな新しいゲームモードが生み出されることになるのではないだろうか。

 Soldnerには,Co-Op(協力モード)も用意されている。一つのマップやキャンペーンを仲間と協力しながら進んでいくのはもちろん,Survivalと呼ばれる,襲来するBOTからの攻撃を耐え抜くゲームも用意される予定だ
 またプレイヤーキャラクターのスキンテクスチャもゲーム内で簡単に変更できるようになっていて,兵士からチンピラ系に至るまでのさまざまな顔グラフィックスや,ユニフォーム,迷彩のパターン,ジャケットからサングラス,バックパック,ブーツといった装備も選択できる。中には,一般市民のような格好も用意されているのが面白い。さらに,キャラクターの入れ墨や服の上のロゴ,乗り物のロゴや文字なども変更可能。
 一般的なFPSでは,スキンの変更は熟練のゲーマーでなければ難しかったが,本作では手軽に好みのキャラクターを作成できるわけだ。とくにこのゲームには第3人称視点でプレイできるオプションもあることから,重宝しそうな機能の一つである。

マップ上の建物も破壊できる,何種類もの銃器や兵器を駆使して戦え

 Soldnerでは,プレイヤーが使用できる武器が70種類,そして戦闘機やジープなどの操作可能な兵器は60種類にも及ぶ。デザートイーグルのようなハンドガンや,対タンク用のロケットランチャーはもちろん,ピストル,マシンガン,サブマシンガン,ライフル,スパイパーガン,手榴弾,ナイフ,バズーカなどのカテゴリから豊富な銃器が登場する。
 車両では,ロシア版のハマーといえるGAZ 3937ヴォトニック,T-80,アベンジャーなどに加えて,戦闘用や輸送用のヘリコプター,そして爆撃機や戦闘機などのラインナップで,中には三菱製のF-1戦闘機など日本製兵器も混じっている。海上兵器はないが,プレイヤーは輸送機からパラシュートで奇襲することも可能である。

 銃器のラインナップは魅力的だが,プレイヤーはすべての武器を一度に使えるのではなく,携帯できる武器用のスロットは五つに限定されている。一つめはデフォルトとなるナイフ,二つめはピストル,三つめはライフル,四つめが手榴弾となっていて,2種類のライフルを装備することはできないようになっているのだ。
 面白いのが五つめのスロットで,ここにはプレイヤーキャラクターのクラスを決めるための特殊アイテムを装着する。具体的には,メディック・キット,爆破物キット,スナイパー・キット,エンジニア・キット,コマンダー・キット,そしてロケットランチャーなどの重火器キットの6パターンになる。
 コマンダー・キットは,専用のPDAで戦場の把握や各メンバーへの連絡が容易になるうえ,同じチームのプレイヤーならどこからでも確認できる,レーザーで攻撃目標や地点をマークできるような機能を持つ。
 プレイヤーが致命的なダメージを受けた場合はヘルス値がゼロになるが,そこで登場するのがメディック兵だ。気を失った状態になってから20秒以内にメディックが治療を開始すれば,そのプレイヤーは完全な状態に回復できる。しかし20秒を超えてしまうと,復活してもヘルス値のMAXが80%になってしまうため,よっぽどの状況でなければ,基地の治療施設か治療用の車両に戻って完全に回復すべきだろう。

 Soldnerで最も注目すべき仕様が,Wing Simulations社の開発メンバーがADS(Advanced Distraction System)と名付けた機能で,マップ上のオブジェクトはほとんど破壊できるようになっている
 ゲームに登場する兵器はもちろんのこと,8階建てのビルでさえ倒壊するし,爆撃機の落とす爆弾や手榴弾が炸裂した後の地形も変化する。実際にゲーム化されるかは公表されていないが,核兵器による攻撃のダメージもシミュレートできるとのことだ
 このシステムは,スナイパーが潜伏していそうな場所を,強力な爆撃によって破壊してしまえる現代戦においては非常に現実味がある。Soldnerでは,ほとんどの建築物の中に入ることができるが,敵の使用する兵器によっては,市街地での戦い方も考慮しなければならないだろう。スナイパーはともかく,むやみに隠れたり待ち伏せするキャンパー型のプレイヤーは減るはずだ。
 スナイパーには相当な負担が課せられているのか,"恐怖"というパラメータも存在している。これは,敵の爆撃が近かったり銃弾が頭をかすめるほどの空間を飛び交ったりしていると恐怖を感じ,スコープを覗く手元が震えてターゲットに照準を絞りにくくなってしまうというもの。
 かといって,Soldnerでは一撃必殺のルールは採用されておらず,頭を貫くスナイピングでも敵を仕留めることはできない。どの程度のダメージになるかは,現在続けられているβテストで調整中とのことだが,このあたりはSoldnerの非現実的な部分と指摘されるかもしれない。

 マルチプレイヤーモードに比重の高いSoldnerではあるが,シングルプレイヤーゲームでは,各国家用のキャンペーンに加えて,ミッションジェネレータも用意されている。これは,複数のBOT兵士を率いるスクワッド型のゲームだ。
 これだけでもボリュームいっぱいなのに,Wing Simulations社では,今後も序々にマップや国家を増やしていって,最終的には地球全土に及ぶ領域をフィーチャーした常時接続型のマルチプレイヤーモードに発展させていくという壮大な計画も持っているらしい
 開発にこれ以上の遅れが出なければ,そろそろデモもリリースされるかもしれない。日本での発売予定は未定ながらも,十分に期待できる作品だ。

Copyright 2003, JoWooD Productions Software AG.