パンツァークロウ〜鋼鉄の英雄たち〜

パンツァークロウ 〜鋼鉄の英雄たち〜

Text by Kawamura


■東西ヨーロッパ戦線をリアルに再現した「パンツァークロウ」

 第二次世界大戦のブームが続いている中,かなり期待のもてそうなウォーストラテジーが姿を見せた。アイドス・インタラクティブから発売される「パンツァークロウ 鋼鉄の英雄たち」は,ヨーロッパ戦線における戦車戦に焦点を当てた3D RTS。連合軍,ソ連軍,ドイツ軍が登場し,ゲーム内では西部戦線も東部戦線も両方フォローされている。
 第二次世界大戦のRTSというと「サドンストライク」が有名だが,あちらは徹底して細かい2Dグラフィックスが美しい作品。これに対して「パンツァークロウ」は,3Dグラフィックの美しさに徹底している。そんなわけで「パンツァークロウ」に関して最初にいえるのは,とにかく「美しいRTS」だということだ。移動の砂ぼこりや爆発のグラフィックスなど,画面を見ていただければわかるだろうか。

 「パンツァークロウ」には,米独ソあわせて約50種類の兵器が登場する。これら兵器ユニットのディテールに命を削ってこだわった作品なのか,3Dモデルも性能の再現性も実に精密だ。拡大縮小回転機能は,最もマクロな視点では上空から広範囲の俯瞰図,逆にミクロな視点では地上から人の視線に近いカメラとなる。地形グラフィックと兵器ユニットがどちらの視点で見ても完全にマッチしているのはもちろん,地上からの視点でもそれなりに指示を出せるため,どちらでも(もちろん中間視点も含む)お好みの視点で楽しむのがいいだろう。

 シナリオは,6キャンペーン24ミッション+スペシャルミッション(特別任務)が用意されている。6キャンペーンの内容は,まずドイツ軍が1941年バルバロッサ作戦と1944年アルデンヌの作戦,ソ連軍は1941年モスクワの防衛と1943年クルスクの戦い,連合軍は1944年ローマへの道(アンツィオ)と1944年フランスの戦い(ノルマンディ)だ。これに加えてランダム配置で何度も楽しめるスカーミッシュモード,マルチプレイモード(最大8人),マップエディタを収録。実に長く楽しめそうではないですか。
 「パンツァークロウ」は第二次世界大戦モノにしては珍しく生産の概念を含むRTSで,各施設を建設することでユニットを生産し……といった遊び方もできる。だがこれらの要素は主にスカーミッシュとマルチプレイ用のもので,キャンペーンモードは基本的に初期配置と増援のユニットのみで戦うことになる。

 キャンペーンでは史実を基にした有名な戦闘の数々をゲーム化しているが,さすがに大型の作戦をまるごと再現することはできないので,中でもとくに重要な場面がクローズアップされているようだ。制作にあたって,リアリティとプレイアビリティの均衡に腐心していることはゲーム中からもありありと伝わってくる。マニアが最も望む要素のディテールを仔細に作り上げつつ,RTS本来のゲームスタイルは踏襲している。プレイ感覚はリアル系最右翼の「クロースコンバット」シリーズよりは「サドンストライク」に近いといえる。



■第二次世界大戦モノという概念に縛られないRTSとしての作り込み

 プレイヤーは地上部隊を率いて,各ミッションに設けられた目標を一つずつ達成していく。例えば侵攻ミッションなら,最終目標までの各要所がポイントとして定められ,次なる目標地点には敵勢力のマークが表示される。ここを制圧することで自軍のマークに切り替わり,次なる位置に目標マークが表示。目標内容は文章で随時確認することも可能だが,マークのおかげで具体的なポイントを見失うこともなくスムーズに作戦を継続できる。

 直接指揮できるのは地上部隊だけだが,ピンポイント爆撃や絨毯爆撃,砲撃支援の依頼もできる。これがまた,ほかのゲームもこれぐらい使い物になれば……と思うくらい強力なのだ。また偵察機は一定のエリアを常に照らし出し,輸送機で兵員をパラシュート降下させることもできるらしい。しかし航空支援は高射砲というやっかいな兵器をあらかじめ叩き潰しておかなければならないため,偵察は命がけで行なわねばならない。

 美しく表現された地形は,いずれも戦略的に大きな意味合いを持つ。入り組んだ市街戦では射程距離など物の役にも立たず,見晴らしのいいロシアの雪原では砲撃や空爆で壊滅的な打撃を受けかねない。高低差の激しい山道やダムのような人工物など,バリエーションに富んだ戦場が用意されている。でこぼこした山を戦車が強引に乗り越えて敵の裏側に回りこんでいく様を見ると,「やはり3Dにしかできないことがあるな」と思ってしまう。

 また昼夜の概念も大きな影響を持っており,どのマップでも時間は経過する。電柱の影を見ていると,時間をかけて一回りするのだ。視界の悪い状態では世にも恐ろしい遭遇戦となる。車両ユニットは夜間は自動的にライトを点灯するが,これをあえて消すコマンドもある。夜間行動は危険であると共にチャンスでもあるのだ。また"偽装"という要素がある。これは文字通りユニットを偽装して,敵の目を欺くための手段。これが夜間では絶大な効果を発揮する。



■ユニットの一つ一つに目を光らせねばならないディテールの細かさ

 登場する車両ユニットは豊富で,しかも個性や相性は実に顕著だ。戦車は車両攻撃,装甲車は兵員への攻撃,自走砲は施設への砲撃といった具合に効果がハッキリとしている。束になった小戦車がパンターに蹴散らされる様を見ていると,同じ戦車でもドイツの重戦車がいかに強力無比であるか実感できる。しかし対戦車塹壕がこれまた強かったりして,敵の要所にぶち当たるたびに頭を使って突破の糸口を見つけ出さなければならない。ゲームの性質上物量作戦はできないのだが,各兵器の特性を存分に発揮して戦っているなぁという実感があるのだ。

 戦車戦メインと銘打っているが,兵員ユニットの運用は戦車以上に重要となる。とにかく全車両ユニット及び全施設は,中に兵員がいない限り機能しないのだ。このためプレイヤーは戦車の1輌にまで細心の注意を払わなければならない。各ユニットには乗組員一人一人の健康状態が表示され,もし戦車自体の耐久力に余裕があったとしても,中の乗組員が傷ついて戦死した場合はユニットとしての活動を停止する。相手プレイヤーがこの無人と化した戦車に兵員を送り込めば,以後は自軍のユニットとして指示を与えることもできるのだ。この捕獲ユニットは敵陣営に堂々と乗り込み,敵情視察に使える。これはCPU戦ではかなり重要な戦術として使えるだろう。なんせ"見えている"敵ユニットというのは,砲撃の格好の的なのである。この貴重な人員を一度に迅速かつ安全に運べる歩兵輸送車やトラックも,また際立って重要だ。

 ところで兵員ユニットの動きが異様に素早いのは,見ていてちょっと面白いほど。匍匐中の兵員ユニットが蜘蛛のように這い回る。彼らは戦車の砲撃ではなかなか死なないくせに,装甲車両の機銃掃射ではあっという間に真っ赤なシミと化してしまう。また轢死コマンドを実行すれば,戦車は必死になって敵兵を踏みつけてくれる。建物の中に狙撃兵を配置することもできるし,対歩兵塹壕や監視塔はたった2人で大勢の敵兵の進軍を食い止められる。対戦車兵などはティーガー部隊相手にも立派に戦えるため,敵兵をいかに効率よく倒していくかは死活問題なのである。歩兵輸送車が重要な理由も,ここにある。

 無人の弾薬庫や停車している修理車両や弾薬運搬車両,指揮車や工作車といった特殊ユニットも,兵士を送り込むことで活用できるようになる。修理車両はユニットのダメージを完全に修復してしまうので,リアル志向の方々が怒り出しかねないほど有効なユニットだ。しかし拡大視点で見てみると分かるが,クレーンが伸びてユニットに届いてからようやく修理が始まるという凝りようは,リアル志向の方々も思わずにんまり。地雷の埋設と撤去にもそれぞれ異なるユニットが存在するなど,マニアックな部分は多い。
 制作者は第二次世界大戦マニアなのかRTSマニアなのか判断できないほどの絶妙の作り込み,きっと多くのファンをうならせることだろう。