O.R.B

●Preview#44
O.R.B.

Text by 奥谷海人

3次元で描かれた宇宙世界で,開拓や戦闘をおこなうRTS

 重力によって生み出される上下感覚のない3次元の宇宙を,そのままゲームの世界に持ち込むのは大仕事だ。思い返せば,それをやってのけたのが1998年に発売されたRelic Entertainmentの「Homeworld」で,前後左右に加えて上下の概念をRTSに導入。発売前に指摘されていた,操作性の困難を克服するために立体マップを採用するなど,様々な試みを加えてスマッシュヒットとなった。その後,Relicと同じカナダをベースにするBarking Dog Studiosが単体でも稼動する「Homeworld:Cataclysm」をリリースしているが,これまでフル3Dの世界を表現しようという他のゲームは登場していなかった。
 今回取り上げる「O.R.B.」は,Homeworldで見せたゲーム性はもちろん,グラフィックスに至るまで非常に似た作品だ。実はこの作品,Homeworldが開発されていた当時から製作が進められており,当時は両ソフトによるスペースコンバット系RTSの一騎討ちになるのではと見込まれていたこともある。その後,どういう経緯からか発売元のStarategy Firstからの情報が途絶えていたが,今年のE3ではプレス向けにβ版も配布されるなど,動きを見せてきている。

 さて,O.R.B.とは,"Off-world Resource Base"の略で,太陽系とは異なる遠い銀河系の果てでの物語となる。その一帯では,以前宇宙を縦横無尽にかけまわっていた大帝国が栄えていたのだが,長い内紛の後に滅亡を向かえ,人々は星単位で散り散りになってしまうとともに,長い歴史の狭間で宇宙帝国の記憶も消失してしまっていた。それから何千年もの後,アルダス星系のマルス星(Malus)では,儀式と戦闘を好むマルス人が興り,スパルタのような社会を形成し宇宙への再進出を果たす。やがて,太陽(アルダス星)とは正反対の方向にもう1つの惑星アリッシア(Alyssia)が存在しているのを発見する。アリッシア人は,マルス人とは異なり平和や科学の発達を重視した文化ではあるが,文明に関していえば同レベルである。しかし,やがてアステロイドベルトの豊富な鉱物資源に眼を付けた両文明は,壮絶な争奪戦争を開始することになる……。
 このような背景のストーリーを持つO.R.B.では,プレイヤーはゲーム開始時にマルス,アリッシア双方から選択してプレイすることが可能になっている。両者を選択する際のストラテジーは異なるものになっており,マルス軍は火力が強く大きな戦艦を製作することが可能なのに対し,アリッシア軍は小さいながらも素早く,武器の命中率が高いながらも,マルスと比べて生産費用がかかるようになっている。特にマルチプレイヤーモードでプレイヤーが勝利するには,この両者の長所と短所をわきまえたプレイが必要だということだろう。

テクノロジーツリーを発達させ,敵の技術を奪い取ることもできる

 Homeworldと同じように,O.R.B.は移動や戦闘などは全て3次元のマップ上で行うことはもちろん,ズームアウトしてより客観的な視点からゲームを眺めたり,クロースアップして1つのユニットを大写しにするということが,マウスホイールを使って簡単にできるようになっている。また,Homeworldと似ているが,チェックしているユニットの視点へとインターフェイス上のボタンをクリックすることによって一瞬で切りかえることも可能だ。Homeworldで多くの人が受けたほどの衝撃は味わえないかも知れないが,前後左右や上下さえも感じられない広大な宇宙を十二分に味わえそうだ。また,インターフェイス上に並列している他のボタンには,マップにグリッドラインを表示して距離や高度の感覚を把握できるようにもなっているあたりは特筆できる。
 面白いのは,他のRTSと比べ,もう1歩踏み込んだ資源のマネージメントである。Off-world Resource Baseというタイトルからもわかるように,プレイヤーがアステロイド上にベースを設置し,そこから造船や技術リサーチに使うための資源を設置するというのはHomeworldと似ているが,アステロイドは宇宙空間をゆっくりと漂っている。そのため,のんびりしていると,これまで開発してきたアステロイドが敵の本陣近くに流れ着いてしまうようなこともあり,ゲームの優劣に大きな影響を与えることになる。このようにゲーム運びの上手さ以外の要因が勝敗を左右するのに眉を吊り上げる人もいるかも知れないが,O.R.B.の独自性は出ていると思う。
 もっとも,移動するアステロイドの上にアウトポストを設置し,そこを基地に仕立ててプレイを続けることもできる。いずれにせよ,アステロイドの1つ1つは大きく,戦闘でもレーダーによる発見の回避や白熱するドッグファイトの舞台として活用できるのは楽しい。しかも,方向感覚が失われやすい宇宙世界では,アステロイドベルトの位置で自分の進行方向を確認できるため,すんなりとプレイを続けていられるような印象だ。

 既存のRTSとの違いはこれだけに留まらない。ゲーム中の技術はテクノロジーツリーを発達させて進歩させていき,プレイヤーの好みによって,攻撃力を強化したり,ユニットの各パーツをアップグレードさせていく。アリッシアンならよりスピーディーな戦闘機を生産したり,マルスなら重装備で強力な武器を搭載した戦艦を作るというような細かいカスタマイズができるわけだ。
 また,敵の船団を拿捕するのに成功し,それが有益な技術で作られた宇宙船であったなら,それをリサーチして自国の技術に活かすことができるという,「X-Com」シリーズのような特徴を持っているのだ。さらには,ゲームのストーリーで登場した古代文明の遺産などもゲームが進行する過程で発見できる可能性もあり,この場合は両文明とは異なる特性のある技術を入手できるチャンスも出てくるというのだ。この古代文明の技術に関しては,ステルス用のデバイスや生物兵器のようなものになるらしい。

スクワッドをリーダーに担当させ,敵や味方の能力を見極めてプレイ

 O.R.B.の中心的な存在となるのは,双方の惑星の軌道上で周回する宇宙ステーションである。ここで,プレイヤーは新技術をリサーチしたり,新しいユニットを生産することになる。両サイドのユニットは,それぞれ20種類程度用意される見込みで,自分の文明用にエンブレムを製作してユニットに反映させるようなこともできる
 それぞれのユニットは,5つのアップグレード可能なパーツに別れており,アーマー,スピード,機動力,火力,生産コストがある。ユニットのタイプとしては,移動可能なユニットでは最も強大で抜群の防御力を誇るのがバトルクルーザーで,小型機を搭載することも可能。攻撃面では,デストロイヤータイプの戦艦が筆頭で,船団の中核的な役割を担うはずだ。ほかにも,戦闘機やエスコートシャトル,敵の船団を生け捕りにするコマンドーなどのタイプもある。
 さて,ユニットは,最大12機までのチームを編成することができるのだが,さらにそれぞれのチームにスクワッドリーダーを立てるというのも興味深い点だ。ミッションからミッションへと継続してプレイさせ,経験値を使ってそれぞれのリーダーに個性を与えていく。これらのリーダーには性格のようなものも用意されていて,ある者は攻撃的な闘争心を持っていたり,別のものは年老いて逃げ腰だったりするのだ。「Warcraft 3」ほどではないにせよ,RTSにロールプレイングゲームの要素をミックスさせたような趣向になっているのである。

 ユニットへのコマンド体系も簡略化されており,かなりの部分をコンピューターに依存できるようになっている。ユニットの到着地点を設定するウェイポイントは,同社が"Smart Waypoint"と呼ぶシステムが設計されていて,場所をクリックすれば移動するだけでなく,設定すれば特定のアステロイドを追いかけながらゆっくりと移動していったりもする。さらに,移動するルートや巡回ポイントを細かく指定することも可能だ。さらに,既存のフォーメーションが複数用意されているにもかかわらず,プレイヤー自身で独自のフォーメーションを製作することもできるのが面白い。
 それだけではない。スクワッドチームには,様々な指令を下すことができ,特定の場所にいたり,特定の武器を装備した敵ユニットだけを狙って攻撃するように命令を与えられる。これは,細かい項目に分かれたチェックボックス形式のリストで指令できるようになっている。このような形で,プレイヤーは攻撃や防御に関しては,かなりの部分コンピューターのAIに依存できるようにもなっているようだ。しかし,現在のβ版の感覚では,まだ遠方を行軍している敵の船団を監視し,充分に近づいたところで先制攻撃で迎え撃ったほうがかなり有利に運べるような気がした。
 例えば,「Conquest」のように同じ場所に陣取って敵と銃撃を交わすだけの戦闘より,相手や味方の攻撃力や防御力,ヘルス値など様々なポイントを見極めながら,さらに敵が3次元の世界でどう動いてくるかを予測しながらユニットを動かしていく楽しさを,O.R.B.は存分に引き出せる可能性を持っているように思えた。

 グラフィックスは非常にきれいで高水準だ。スムーズにプレイするなら1Ghz以上のCPUが必要になりそうだが,それだけの価値のあるダイナミックな宇宙空間が味わえるのは間違いない。
 シングルプレイヤーモードは,キャンペーン制になっているが,今のところはどのようにストーリーが進展していくのかはわかっていない。ただ,マルス,アリッシアの両文明で異なるストーリーに発展していき,途中では未知の文明も登場して大詰めを迎えていくことになるらしい。
 マルチプレイヤーモードは,最大で8人までの対戦がサポートされる予定だ。もっとも,文明は2つしかないため,2人以上の場合はチームに割り振られるようになっている。この場合は,味方のプレイヤー同士で生産と攻撃に別れたり,担当のスクワッドを決定して個別のスクワッドリーダーとして協力し合うようなものになるだろう。開発から5年の歳月を費やし,アメリカでは8月末にリリースされる予定である。

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