Master of Orion III

Master of Orion III

Text by 奥谷海人

 知る人ぞ知る名作SFストラテジーシリーズの最新作「Master of Orion III」(以下,MoO3)が,間もなくアメリカで発売される。「シド・マイヤーズ アルファケンタウリ」にも通じる宇宙を舞台にした文明拡張ゲームだが,こちらは256個にも及ぶ惑星を開拓して領地化していく陣取りゲームのような要素があり,本作からはなんとリアルタイムでの戦闘もフィーチャーしているのが見どころだ。

銀河で巨大帝国を築き上げる"4Xゲーム"の最新作

 1994年に登場した"Master of Orionシリーズ"は,欧米では「シヴィライゼーション」や「X-Com」と並んで非常に高い評価を受けている。第1作「Master of Orion」は,ミクロマネージメントとマクロマネージメントのバランスが絶妙で,地味なグラフィックスながらもシヴィライゼーションを宇宙に持っていったかのようなゲーム性が受けてヒットしたし,続けて翌年にリリースされた「Master of Magic」では,このシステムを中世ファンタジーに当てはめて成功した。さらに1996年には「Master of Orion II」を出したが,これは現在でも日常的にプレイしている人がいるというほどのロングセラーになっている
 MoO3は,シヴィライゼーションシリーズの宇宙版のようなゲームで,「4Xゲーム」(4Xとは"eXplore=探索" "eXpand=拡張" "eXploit=資源の活用" "eXterminate=根絶"のことで,戦略シミュレーションにはなくてはならない基本要素)の鑑(かがみ)のような作品である。MoO3では,これまでのMaster of Orionシリーズ同様に,プレイヤーがOrion星系の惑星に住む種族のリーダーとなってほかの種族の文明と交戦したり,巧みな外交戦術や商業取り引きを駆使しながら,自分の文明を拡大していくのである。

 このシリーズを最初にデザインしたのは,Microprose社の下請け会社としてゲームを開発していたSimtex社のステファン・バルシア(Stephan Barcia)氏。Microprose社がHASBRO Interactive社に買収されてからは,彼はRetro Studios社を設立してNINTENDO GAMECUBE用のアクションアドベンチャー「Metroid Prime」などを手がけている。Master of Orionシリーズの版権は,その後HASBROのゲーム部門を吸収したInfogrames社に移り,このたびカリフォルニア南部のQuicksilver社が,シリーズ最新作となる「Master of Orion III」の開発を晴れて手がけることになった。
 Quicksilver社は下請けの開発元としての経歴が長く,Activision社の「Shanghai:Second Dynasty」や,Interplay社の「Conquest of the New World」「Invictus」といったストラテジー作品を開発してきた。その中核メンバーは,元々あの「Castles」の制作にも深く関わっていたそうで,戦略ストラテジーの開発に関しては文句のない経歴を持つようだ。実際MoO3の制作では,これまでのシリーズに忠実でありながら,いかに現代風なゲームプレイやグラフィックス面でアピールできるかということを念頭に置いているらしく,ファンにとっても十分に満足のいくクオリティになるはずだ。

リアルタイムになった戦闘シーン

 MoO3では,地球の人間族を含めて8タイプ16種族のエイリアンをプレイヤー種族として選択できる。「Sakkara」や「Meklar」など前作での人気エイリアンに加えて,「Imsais」や「Ithkul」など,新しいものも登場する。各種族のグラフィックスはイチから描き直されて"今風"になっており,またそれぞれの文明がどのような歴史を持ち,惑星における環境がどのように各種族を進化させていったかなどが,こと細かに設定されている。
 本作のマップは非常に大きく,銀河系を模した星系の中に256個もの惑星が用意されている。このため,前作のように各惑星の内政に重点を置いたミクロマネージメントなゲームスタイルから一転して,星を取り合うことで勢力範囲が刻々と変化するダイナミックなゲームスタイルになった。

 さて,MoO3のゲーム開発は,戦闘,外交,生産,リサーチ,謀略,経済といったさまざまな要素が別々に制作され,1年ほど前にすべてを組み合わせてαバージョンを作成したという珍しい行程だったためか,インタフェース関係だけでも160画面という膨大な数になっていた。現在ではその数が半分程度に簡略化されたが,それでもこのゲームの奥深さを物語るには十分な数だろう。
 とはいえ,それだけのものになると煩雑に感じるのも事実だ。だが心配無用。実社会では,国の規模が大きくなるにつれて行政も複雑化し,公務員がリーダー達に成り代わって実質的な仕事を切り盛りしてくれるが, MoO3でも同様に,国家マネージメントをAIに委託することが可能だ。プレイヤーは一つ一つの事項に直接手を下してもいいし,自分の苦手な分野をAIに任せることもできる。各惑星ごとに指示できるので,領土中央や前線に位置する星だけ管理することもできるのだ。文明が巨大化するほどプレイヤーの思惑通りに管理できなくなるというのは,逆にいえばプレイヤーがうまく切り盛りすれば,大国に対して逆転劇を演じられる可能性だってあるということだろう。

 先述の「4X」の中でも一番プレイヤーへのアピールが強いeXterminate(=根絶)について見てみると,MoO3はターン性のストラテジーにしては随分とアクション性が強いと感じる。これはQuicksilver社がActivision社に提供した「Star Trek:Starfleet Command」によく似たシステムを搭載しているためで,少し遊ぶと,バトルシーンはリアルタイムなうえ,戦略性もなかなかのものであるのに気付くはずだ。大規模な戦闘になれば500以上のユニットが飛び交うこともあるが,もちろんこれをAIに任せてしまってもいい。
 惑星外での攻防が終わると地上での戦闘に移るが,こちらのほうは簡略化されていて,ほぼ自動的に進みその結果がニュースとしてプレイヤーに知らされる。地上は惑星ごとに異なる環境によって数地域に分断されており,少しずつ抵抗勢力を制圧していくことも必要だ。

大きく改良された外交モード

 MoO3の外交部分のチューンナップも忘れてはならない。本作では映画「スター・ウォーズ エピソードI ファントム・メナス」で描かれたような議員システムが用意されていて,各種族と政治的な駆け引きを楽しめるようになっている。定例会議で敵背後にある勢力にこびを売って協力関係を築いたり,自分に有利な条約を締結させたり,はたまた気に食わない相手の野望を暴露するというような複雑な外交が行えるのだ。
 各文明との1対1のやり取りは,シヴィライゼーションIIIやAccolade社の古典作品「Star Control II」のようなシステムで,プレイヤーのオファーや友好度によって,相手文明のリーダーの身振りや表情のアニメーションが変化する。肩を怒らせて叫んでいたり,長い触手を振り回していたりと,エイリアンごとの感情表現が用意されているので,そのアニメーションを見極めることも重要だ。プレイヤーのオファーはアドバイザーの意見通りでもいいが,六つ用意された感情モードを巧みに利用して相手と交渉するのも面白い。

 MoO3には約50人のリーダーが登場し,その選択によっては同じ文明でも大きな差が出てきそうだ。リサーチや惑星開発速度が20%向上するというリーダーもいれば,外交オプションが多かったり,攻撃能力が高かったりという対外向きのリーダーもいる。リーダーは文明全体に影響を及ぼす"神"のような存在であるのだが,このゲームの面白いところは,リーダーが実際に惑星にいるユニットの一つであるということだ。つまり謀略を用いて敵のリーダーを暗殺したり,自分の国家に寝返らせたりもできるのである。リーダーはそれぞれのライフスタイルや目的を持っているので,自分のプレイスタイルや文化形態に合わせたリーダーを選ぶのが無難だろう。
 テクノロジーツリーは六つのタイプの学問に分かれており,予算を何パーセントずつ振り分けていくかを決められる。ちなみに六つのタイプとは社会学,数学,物理学,生物学,経済学,燃料学だ。

戦略シムには珍しい,マルチプレイの充実

 ターン制のストラテジーゲームでは,マルチプレイオプションは一般的にコアファンしかプレイしないものだが, MoO3にも対戦モードが用意されている。待ち時間を軽減するためにマルチプレイヤーモードには時間制限があり,その時間はプレイヤー同士の了解によって好きなように設定できる。先述したように,膨大な領地でのマネージメントの負担が巨大文明の足かせになるため,追いつめられたプレイヤーにも逆転のチャンスがあるし,また早くターンを終えたプレイヤーに資金的なボーナスが与えられたり,その反対に長い時間を費やすほど少しずつ国庫から資金が流出していくといった措置が取られ,無駄な時間がかかりがちなターン制マルチプレイをよりスピーディに展開させるための工夫がなされている。

 MoO3で実現されたリアルタイムの惑星外交戦は,これまでのファンにとっては好き嫌いが分かれることになりそうだが,しかも,各ユニットに取り付ける兵器や技術が,ゲームバランスを調整するうえでかなりの足かせになることが予想される。発売されてみないと分からないものの,MoO3のウィークポイントとなることだってあるうるだろう。
 しかし,多くのシミュレーションゲームファンから大きな期待が寄せられているのも事実で,シリーズの名に恥じないだけの評価が得られそうな気配だ。英語圏では近日中に発売される予定だが,現在のところ日本で正式に発売される見通しは立っておらず,輸入版に頼るしかなさそうだ。

 

*本記事の内容は製品版では変更される可能性もあります。ご了承ください。

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