「No Man’s Land」

Text by 奥谷海人

※記事中のScreenshotsは,すべて開発中のものです。ご了承ください。

 「No Man's Land」は,先のE3 2003にて,販売元のCDV Software社が大々的にパンフレットを配りまくっていた作品だ。アメリカの開拓史を移民からインディアンまでの視点で描いたRTSで,マルチプレイヤーモードにユニークなものが用意されている。
 大作の陰に,キラリと光る佳作あり?


■アメリカ開拓史を,六つの異なる勢力で体験

 「No Man's Land」は,「サドンストライク」「コサックス」シリーズなど,ヨーロッパ産の手堅いストラテジーゲームを多数排出することで定評のある,CDV Software社の最新作である。そのタイトル名が示すように,舞台となるのが国家としての体裁を持っていなかった植民地時代のアメリカで,プレイヤーは西暦1600年から1900年までの300年間をプレイすることになる。
 開発を手掛けるRelated Designs社は,配給元と同じくドイツを本拠にするメーカーで,設立されたのは1995年のこと。ただしこれまではほとんどノーマークに近く,我々の記憶するところでは,同じアメリカの西部時代をテーマにした「America」というRTSを3年前にリリースしたくらいだ。
 本作は3年ぶりの新作となるわけだが,ズームも可能なグラフィックスエンジンを搭載するなど,大作RTSに負けないほどの開発力を備えるに至っている。メル・ギブソン主演の映画「パトリオット」や,クリント・イーストウッドらによる「マカロニ・ウェスタン」のような作品を下敷きにしているようで,Related Designs社お得意のテーマであることが分かる。

 No Man's Landのシングルプレイヤーモードは,大航海時代から西部開拓時代へと進行していく。六つのストーリーが三つのキャンペーンに分かれており,プレイヤーはそれぞれのストーリーを異なる勢力でプレイすることになる。
 登場する勢力は,新世界を発見したスペイン系征服者と,北アメリカに入植したイギリス人,独立戦争によって自立したアメリカ愛国者,そして新天地を求めて大西部へと進んだ移民の四つに加えて,森林に生息するイロコイ族や草原のアパッチ族と思われる二つのインディアン部族の計六つ。
 また一つのストーリーは10種類程度のミッションで構成されているので,合計では60種近くのマップが用意されている。


 No Man's Landの特徴は,各ストーリーがヒーローユニットを中心に展開していくことで,「スタークラフト」や「エイジ オブ エンパイア」のような形式で進んでいく。このため,300年という時間の流れを細かく描いていくのではなく,各ストーリーが段階的に移行していくのだ。
 アメリカという国を築き上げていくような,いわゆる"帝国建設モノ"のシミュレーションゲームではなく,国として形成されていく過程のイベントをミッションにしたものと考えればいいだろう。
 例えばミッションには,イギリスから渡ってきた人間として無人島に上陸し,街を発展させながら別の島にあるスペイン人の砦を破壊するのが目的というものや,独立戦争で赤と青のユニホームを着たイギリス軍とアメリカ独立軍が列をなして銃を撃ち合うもの,西部の荒ぶれた町を,馬で攻めて来るインディアンから守り抜くというもの,その逆にインディアンの勇者として失った土地を取り返そうと奮闘するものなどがある。必ずしも史実に沿ったものではないにせよ,当時の雰囲気をゲーム的に扱った内容となるようだ。
 それぞれのストーリーにはCGムービーが用意されており,プレイヤーがヒーローユニットとして扱うキャラクターを詳しく紹介してくれる。また,各キャンペーンにはゲームエンジンを使ったインゲームムービーも多数用意されており,ズームアップこそないもののカットを多用した凝った作りになっている。これらのムービーが発生して,ゲーム中に新たな展開へと導かれることもある。


■RTSの定番ゲームだが,ヒーローユニットなどで独自性を強調

 ゲームは通常のRTSと同じように,中央のタウンホールから開拓民を作り出して(男女の指定が可能)は,農耕や,建物の建設や修復に従事させることで進行する。
 リソースは,金,木材,食料の3種類のみと管理しやすくなっている。またタウンホールで新たに作り出した開拓民が,自動的に畑や金鉱で従事してくれるなど,かなりの部分で自動化されているはありがたい。
 徴兵ポストで兵士を生産したり,スカウトを出して黒い霧に覆われた部分を探索したりという操作も,既存のRTSに慣れ親しんでいるプレイヤーには問題ないだろう。
 ユニットや建物は,各時代の雰囲気を最大限に生かすためなのか,各ミッションには数種類しか用意されていない。最近の,多様化したユニットから好きなものを選択するという風潮とは異なる方向性にあり,そのミッションに必要なだけのタイプしか使えないのである。このユニットの少なさは,次々とプレイヤーの勢力が変わっていくシングルプレイヤーモードでは気にならないのだが,マルチプレイヤーモードでは評価の分かれる部分かもしれない。

 ヒーローユニットには,サミュエル・サンダースやドレイクなど,実在した著名人物が用意されている。またこのヒーローユニットは,ストーリーを通して生き抜くことで,経験を積んで新しい戦闘技を学習するようになっているのは面白い特徴といえるだろう。
 インディアンのヒーローユニットは,治癒能力を生かして味方のユニットのヘルス値を回復したり,虫の大群を敵中に送り込んだりといった魔法が使用できる。これは,史実ではインディアンとヨーロッパ勢力の兵力に,大きな差がありすぎたための処置だろう。
 このヒーローユニットのほかにも,スナイパー,魔術師,暗殺者などのエリートユニットも登場するようだ。特定のミッションでは,バウンティハンターを雇って,ミッションでの敵であるお尋ね者を追っかけてもらうというような状況もあるのだという。
 3Dグラフィックスのゲームエンジンも精巧で,気象効果も表現しているためでジメジメした北方沿岸部や砂埃にまみれた荒野の様子もうまく表現されている。ドイツ系の開発会社らしく,大砲が移動したあとにはしばらく車輪跡が残っていたり,建物でも風車の回転といった細部までが描き込まれている。
 さらには,実際にゲームでも大きな役割を担うブリゲート船や列車はもちろん,マップ上に点在しているクマ,バッファロー,プレイリードッグなどの生き物達も登場する。


 No Man's Landは,対戦モードも充実しており,六つのマルチプレイヤーモードが用意される予定だ。
 8人までの,インターネットもしくはLANでの対戦がサポートされ,デスマッチ,チームデスマッチ,キング・オブ・ザ・ヒル,ドミネーション,さらにはアサシネーションで楽しめるほか,この作品オリジナルのものとして,西部の砂漠地帯を貫く線路への攻撃と防御に分かれて戦うレイルロード・チャレンジというモードでも遊べる。これは,参加人数が2人から4人までに限定されている対戦モードだが,通常のRTSのマルチプレイヤーゲームとは異なる雰囲気が一興である。

 No Man's Landは,「RTSの大作」というわけではないにせよ,アメリカの植民地時代という,RTSではあまり見られない歴史のひとコマをテーマにしており,ちょっと異色なゲームとして充分に楽しめる内容に仕上っている。
 日本での発売は正式に発表されていないが,ヨーロッパとアメリカでは8月中に発売される見込みで,ドイツ語版ならば,二つのミッションが楽しめるデモもリリースされたばかりだ。気になる人は,ぜひ試していただきたい。