Max Payne 2:The Fall of Max Payne

Text by 奥谷海人

 映画「マトリックス」を思わせるスローモーションでのグラフィックス効果をゲームに取り込み,雨あられと弾丸が降り注ぐ激しいアクションで人気を博したシューティングゲーム「Max Payne」の続編が,2003年10月中にも発売される予定だ。
 「Max Payne 2:The Fall of Max Payne」は,よりダークでムーディな雰囲気を演出し,さまざまな部分で改良された,この秋期待の1作といえるだろう。

バレットタイム・アクションが評判のマックスが再来

 ノルウェーのRemedy Entertainment社が手がけるシリーズ最新作「Max Payne 2:The Fall of Max Payne」の情報が明らかになりつつある。

 前作の「Max Payne」は,実は映画「マトリックス」の公開時にはすでに開発が始まっていたそうである。その後ビジュアル効果アーティストのジョン・ゲータ氏が映画に採り入れた"バレットタイム"という撮影手法を参考に,エフェクト/システムを大幅に強化。結果,ノワールアクションとして大評判になったのはご存じの通りだ。
 また薬莢がパラパラと飛び散るのが描かれていたり,銃器に彫り込まれた文字までが読み取れたりするなど,細部にまでこだわったグラフィックスも素晴らしい作品だった。
 シングルプレイヤー専用ゲームにも関わらず,Max PayneのMax-FXゲームエンジンを使用したMODが10作以上もリリースされ,とくに銃器の代わりに素手で激しく渡り合う「KungFu Edition」は,大きな話題となった。最近では,'80年代にMaxx Payneというリングネームで活躍していたという元プロレスラーから名称の不正使用に関して訴えられたばかりで,このあたりでも話題性(?)は十分といえるだろう。

 さて,第1作は資金面の問題などでスケジュールが遅れてしまったものの,Max Payne 2では販売元のRockstar Games社の強力なサポートの下に順調に開発が進められており,2003年10月中のリリースが予定されている
 前作で妻と子供を殺害され,自分が容疑者になるという罠にはめられたマックス・ペインだが,真犯人への復讐を遂げたあとは麻薬捜査官を辞任退職して,ニューヨーク市警の警部となっていた
 マックスのパートナーはモナ・サックス。前作をプレイしたことのあるプレイヤーなら,エレベーターでマックスに撃たれたのに,死体はどこにもなかったミステリアスな女性キャラクターを覚えているかもしれない。そのときマックスは「最後に何かを読み取った」(Something Clicked for the final time.)という意味深なセリフを残すのだが,Remedyでは当時から新作でのモナの再生を考慮していたのであろうか。

ノワール風の,激しいながらも影を落とした恋愛アクションドラマ

 Max Payne 2のストーリーは,マックスがこのモナと恋に落ちてしまう部分から始まる。マックスの頭髪がグレーになり,目尻のしわもクッキリと判別できるゲーム画像から察する限り,あの事件から相当の歳月が経過してしまっているようだ。前作同様,ゲーム以前に起きていたことの回想シーンが冒頭に用意されているが,結論からいうと,マックスは再び仲間殺しの嫌疑をかけられてしまうことになる。
 実際のところは,モナが殺人の容疑者であるようだが,遅い春の到来に頭がのぼせたマックスは,自分が犯人であると名乗り出てしまうわけだ。一度修羅場を経験したマックスが,女一人のためにここまで逆上できるというのが,彼のイメージから逸脱してしまっているように思えるが,これもストーリーの急旋回へ向けた足がかりなのだろうか。
 対象が,家族愛ではなく恋人への愛に置き換えられているのは,よりノワール風のドラマ性を持たせるための処置なのかもしれない。「落(堕)ちていくマックス」という副題から考えても,彼自身の選択によって事件に巻き込まれていくということも想像できる。いずれにせよ,第1作ですべてを失ったマックスが,今回は愛のためにすべてを放棄するという発想の転換が行われているのは間違いなさそうだ

 ゲームから大きく話題が反れるが,本文中で何度が使用している"ノワール"(noir)とはフランス語で"夜"を表す単語で,'40年代に映画産業において一世風靡したスタイルを指す。
 当時は白黒フィルムとスタジオ限定での音声録音が主流だったということもあるが,戦争や恐慌の暗い影がハリウッドを覆っており,必然的に人間の暗面をさらけ出すタイプの犯罪モノや刑事モノのストーリーが流行った。ほとんどの映画で夜のシーンが強調されていたため,「ノワール映画」というジャンルとして認識されたのである。
 今でも,このジャンルの代表作とされる「深夜の告白」(1944年)や「上海の女」(1948年),「復讐は俺に任せろ」(1953年)といった名作がレンタルできるので,興味を持たれた方はチェックしてみるといいだろう。このノワール映画は現代にも引き継がれており,「ターミネーター」や「セブン」なども影響を受けているとされる。
 ノワール映画では,多くのシーンが夜であったり,影のある個人の心情を描く,ストーリーの前後に独白のセリフが挿入されるなど一種の決まりことがあるが,これそのものをゲームの作風に当てはめるのは難しい。ただ,Max Payne 2がノワールのスタイルに影響を受けているのは開発者も認めるところで,よりムーディでダークな世界観に仕上がっているはずだ。

豊富になったMax Payne 2のアニメーションパターン

 Max Payneシリーズのイカしているところは,やはり3Dゲームの特性たる部分を見事に生かしたバレットタイムの実装にほかならないだろう。普段は主人公キャラクターの背後にカメラを置いた第三人称視点でゲームが進められていくが,アクションが激しくなってくると,カメラが主人公の前方に移動し,映画風のダイナミズムを与える。自分(マックス)というキャラクターが活躍していることを,プレイヤーにしっかりと認識させることを可能にしているのだ。
 またMax Payne 2では,アニメーションのパターンが大幅に増やされている。前作では,何度も見せられるバレットタイムのアニメーションに飽きることもあったという反省から,今回からは主人公キャラクターばかりでなく,敵にも豊富なバレットタイム・アニメーションが加えられるのだ。これは,今回から「Bullet Time 2.0」と命名されている。
 敵キャラクターに"死にぎわ"を演出するデス・アニメーションが用意されたことで,より映画的な演出が図られている。銃を吹き飛ばしながら後方に崩れ落ちるとか,大げさに回転しながら倒れるというような,ジョン・ウー映画のような映像が見られそうである。さらに,キャラクターモデルへの当たり判定が体の部位ベースになったので,被弾した場所や方向によってさまざまな反応を見せるようになった

 グラフィックスエンジンは,前作で使用したMax-FXエンジンを大幅に改良。さらにきめ細かいテクスチャに対応し,いたんだ外壁や雨に塗れる路面も美しく表現している。マックスの着ているレザーのロングジャケットも,かなり質感を増しただけでなく,衣服の動きのシミュレーションが実装されたことにより,動くたびにゆらゆらするようになった。
 ゲーム画面では,明るい部分と暗い部分もクッキリしているが,これは光源とされるオブジェクトからの直接光をイメージする放射性照明法(Radiant Lighting)を用いているからで,影が強調されることによってノワール的な雰囲気が最大限に表現され,路上の水溜りに反射するネオンサインなど,大都市の雰囲気もよく表現されている。パーティクル効果も向上していて,金属質のオブジェクトが弾丸を受けて火花を散らすのが,ロケーションや角度,距離によって異なるという細かさだ。

 Max Payne 2でとくに注目すべき部分は,「Half-Life 2」同様キャラクターに関する技術でもあるという。目や口許は,Half-Life 2のキャラクターに比べて硬い印象を受けるが,現行レベルのゲームとしては,トップレベルであるのは間違いない。とくにMax Payne 2はシングルプレイヤー専用ゲームだから,プレイヤーがキャラクターに感情移入できることが大前提。それゆえ,Rockstar Games社が「Grand Theft Auto 3」で培ったハリウッドとのコネクションを利用して数十人の役者の顔をモデリングしており,セリフに合わせて口の動きもシンクさせているほどだ

細部までチューンナップされたMax-FXエンジン

 キャラクターの思考ルーチンも,特筆すべきだろう。ここ2年の開発で,一番力を入れたのがAIだといわれるほどなのだ。敵キャラクターが前作以上に周囲の状況やオブジェクトに反応するようになっていて,柱やごみ箱などに隠れながら少しずつプレイヤーを追い詰めてくる様子は見事だ。前作のような事前に行動パターンを設定しておくスクリプトによる動きではなく,よりプレイヤーにとっても戦い甲斐のある敵AIになっていると推測できる。
 第1作ではオリジナルだった物理エンジンだが,本作ではHavokハードコアエンジンを採用。これは「Half-Life 2」「Thief 3」「Deus Ex 2」「Mythica」「Painkiller」など次期発売予定の大作でも軒並み使用されている物理表現専用のミドルウェアプログラムで,1998年に登場以来,ゲーム業界でスタンダードとなり始めているのみならず,Shockwaveや「3ds MAX」でお馴染みのDiscreet社の「Plasma」,さらには映画「ソードフィッシュ」で使用されるなどハリウッドにも深く浸透し始めている。
 Havokをライセンスすることによって,コストの高いモーションキャプチャなどへ開発費用を回すことなく,よりキャラクターに人間的な動きを与えたり,被弾や落下,衝突時などにオブジェクトの材質通りの物理効果を発揮できたりするようになる。先に記載した本作でのアニメーションも,Havokの恩恵を多分に受けているのだ。

 Max Payne 2は,前作で繰り返し使用された挿絵風のグラフィックスノベルが,レベルとレベルの間のみに限定されることになった。これは,ゲームの流れが止まってしまうことがあった点を考えると,非常に良い処置である。その代わり,ゲームエンジンを利用したカットシーンを用意することで,プレイヤーへの負担も軽減されているのだ。
 オリジナル作品では短すぎると批判されていたゲーム終了までのプレイ時間も,2倍近くの20数時間と大幅に伸びている。前作のマックス・ペインの顔グラフィックスのモデルであり,オリジナルの脚本を担当したサム・レイク(Sam Lake)氏が今回も書き下ろしているが,その脚本の長さは前作の3倍にも達するという。そもそも前作が短かったのは,余計な部分を切り詰めた結果だといわれているが,このデザイン意図が継承されているのなら,今回もかなりアクションに特化されたゲーム展開が期待できるはずだ。

 Max Payne 2は,今月から始まる大作ラッシュに名を連ねる期待作の一つ。前作のゲームエンジンの改良版であるため,ゲームの必要スペックはそれほど高くはならないと思われる。それでもDirecxX 9.0機能の一部をサポートしており,1GHz相当のCPUと,少なくてもメモリ32MBを搭載したビデオカードくらいは必要になりそうだ
 Max Payne 2は,前作同様シングルプレイヤー専用ゲームとなる予定で,アメリカでは2003年10月15日,ヨーロッパ圏では2003年10月末に発売が予定されている(2003年9月10日現在,日本でのリリースは正式に発表されていない)。欧米での発売日が迫ってきているので,特典でオリジナルTシャツが付いてくるという予約をしておくのもいいかもしれない。

 

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