Contract J.A.C.K.

Contract J.A.C.K.

Text by 奥谷海人

 女スパイを主人公に,'70年代風のサイケデリックな世界観で楽しむFPS「No One Lives Forever 2」(ノーワン リブス フォーエバー 2)の拡張パック,「Contract J.A.C.K.」が開発されている。なんと本作でプレイヤーは,これまで敵役だったテロ組織に雇われたジョン・ジャックという暗殺者を操ることになり,武器をぶっ放しまくる痛快アクション劇へと変貌している。
 イタリアを舞台に,第一作よりも以前の世界を描いた本作は,果たしてどのような内容なのか!?

悪の組織に雇われたアンチ・ヒーロー,ジョン・ジャックを待ち受けるものは!?

 「No One Lives Forever」(以下,NOLF)は,ケイト・アーチャーという女性スパイのキャラクターと,開発元のMonolith Productions社の伝統ともいえるコミカルな設定で人気を博した作品だ。「Half-Life」が1998年に築き上げたFPSのスタンダードを突き崩すまでには至らなかったが,シングルプレイヤーモードはストーリーやアイデア,AIの秀逸さでも好評価を得ていた。
 昨年リリースされた「No One Lives Forever 2」(以下,NOLF2)も,DirectX 8.0に対応した美しいグラフィックスと,ストーリーの展開や小技の効いたジョークで,良作の一つに数えられている。

 新しく発表された「Contract J.A.C.K.」(以下,JACK)は,NOLF2の拡張パックという位置付けであり, NOLFより以前の世界を舞台にした外伝的な内容になる
 ただし,本編のソフトを持っている必要はなく,これだけで遊べる仕様になっているのはありがたい。
 今回主人公に抜擢されたのは"ジョン・ジャック"という名の傭兵で,本編でケイト・アーチャーと敵対していたH.A.R.M.という悪の組織に雇われた殺人兵器。どうやら,実名はジョンのほうで,ジャックというのはJ.A.C.K.(Just Another Contract Killer)の略であるらしい。

 知名度の高いケイトが主人公の座から下ろされたのは,"No One Lives Forever"(誰も永遠には生きられない)というタイトルを地で行っているようだが,そもそもケイトはスパイであって兵士ではないのだ。そのため,本編ではおのずとステルス活動が中心になっていた。
 JACKは,よりアクション性を高めたゲーム性になるとのことで,どうやら「Serious Sam」のような痛快アクション劇を念頭に制作されているようだ

 JACKでは,ジョン・ジャックは世界に広がるテロ組織H.A.R.M.の親玉ドミトリ・ヴォルコフに雇われた暗殺マシーンとして, H.A.R.M.を破壊して地位を乗っ取ろうと企むイタリアの巨大犯罪組織「デンジャー・デンジャー」に立ち向かうことになる。
 その首謀者は,武装べスパ集団を操るイル・パッゾだ。前作のようなUNITYとH.A.R.M.という"善vs.悪"ではなく,"悪vs.悪"というゲーム設定からも分かるように, JACKのモラルスタンダードはかなり低い。ケイトがガジェットを多用して難関に立ち向かうのに比べ,ジョン・ジャックは目的を達成するためには手段を選ばず,とにかく銃器のパワーに頼って前進していくのである

NPCの精巧な思考ルーチンを始め,NOLFファンには納得の内容

 ゲームのオープニングは,太陽に向かって漂う小型の宇宙カプセルの中で,ジョン・ジャックが目を覚ます場面から始まる。
 これもヴォルコフ独特の依頼方法なのだろうが,ゲームの導入部分は「どうして自分がここにいるのか」という記憶を辿っていくという手法で,ジョン・ジャック自身を紹介していく。全体的には,本編で見せていた映画「オースティン・パワーズ」のような70年代風の華やかさはなく,もっとダークでシニカルな笑いを秘めた内容になるようだ。

 キャラクターもプレイスタイルも異なるとなると,もはや拡張パックを超えたゲームになりそうな気配だが,クレイグ・ハバード(Craig Hubbard)氏を始めとするMonolith Productions社の面子は相変わらずで,NOLFらしさも十分に備えている。ストーリーにおいても,ヴォルコフを始めとする何人かの主要キャラクターがJACKに関わって来るということだ。
 冒頭シーンの宇宙空間も,NOLF(つまりJACKのあと)で破壊されたヴォルコフの宇宙ステーションを連想させるように,これまでのシリーズとの関連部分が多いはずだ。
 NOLF2では,H.A.R.M.という組織が完全に悪玉ではないということも触れられていたので,本作のストーリーではそのあたりを中心に,謎の組織の実態が解明されていくのではないだろうか。

 JACKのレベルは,全編で10種程度で構成されており,終了までに必要なプレイ時間もそれほど長くはないようだ。
 ギャングのはびこるイタリアを中心に,チェコスロバキアから宇宙までが舞台となり,シリーズで評価の高いスクリプティングによるストーリーの演出力は健在。途中でビルが破壊されて,新たな迂回路を見つけ出さなければならないなど,レベルレイアウトも次から次へとダイナミックに変化していく。これまで以上に,あっと言わせるハチャメチャな展開が楽しめるだろう。

 ゲームをプレイして気づくのは,敵の出現数が2倍近くになっている点だ。しかも彼らは,ただやみ雲にワラワラとプレイヤーに向かってくるのではなく,NOLF2でも見せた敵同士の協力攻撃が秀逸だ
 大幅に改良されたAIにより,突進する仲間への援護射撃や救援要請はもちろんのこと,戦場の変化に逐一対応してくる。NOLF2同様,机から樹木,チューレットといった周囲のオブジェクトの位置や状態を観察するようにもなっており,危険を感じて物陰に隠れたり,プレイヤーが近づくまで隠れていたりという戦略的な動きもする。
 NOLF2との大きな違いは,マップ各所に配置されていたスポーンポイント(敵の発生地点)がなくなったことで,今回からは確実に敵を一掃できるようになっている。これまでのシリーズでは,突然現れた敵に背後から撃たれるなどして,ゲームにとって無駄な死に方も起こり得ただけに,これはプレイヤーの声を反映させた嬉しい変更点だ。

小型ガジェットよりも,ロケット砲などアクション重視のゲームプレイ

 NOLF2のニクい仕様の一つが,ケイトがNPCの近くに忍び寄ると,例えば女忍者が「あした名古屋に買い物に行かない?」などという他愛もない会話を続けていることだった。
 JACKではアクションが主体になったとはいえ,NPC達による世間話は実装される予定で,イタリア語訛りでパスタのゆで方や恋愛について講じている会話を期待できそうだ。そこまで彼らの日常を知ってしまうと,引き金を引きにくくなってしまうものだが,NPCは被弾したときのアニメーションもよく描かれており,腕を撃ち抜かれたときに銃をはじき落とす様子や,西部劇のようにバルコニーから落ちていく様子は何度見ても飽きないほど素晴らしい。

 ジョン・ジャックはスパイではないためか,ケイト・アーチャーのように小型の兵器に頼ることはない。その代わり,前作に登場した武器に加えて,四つの新しい兵器が加わっており, CycloneレーザーライフルやC4チャージなどと呼ばれる強力なものが用意されている。また,いくつかNOLFに登場した武器もカムバックするらしい。
 さらには,これまでにはなかった乗り物も操作できるようになる。機関銃を前面に搭載したスノーモービルなどだ。前述したように,敵も武装したべスパに乗って戦うとのことなので,倒した敵から横取りできたりするのだろうか。

 JACKには,濃密なマルチプレイヤーサポートも用意されている。
 NOLF2では,発売時に搭載していた協力プレイに手を加えたさまざまなオプションがインターネット上で無料公開されたが,JACKでも最近リリースされたばかりのDoomsdayを始め,すべてのゲームモードで遊べるようになっている
 また,非公式ながらも新種のDemolitionモードが制作されているという。マルチプレイヤー専用マップは全部で15種類程度となる見込みだ。

 ところで,これまでは独自開発によるゲームエンジンを保護する目的からか,ほとんどMODコミュニティへの参戦がなかった。しかし「No One Lives Forever 3」が開発されるとすれば,おそらくは同社最新のエンジン技術を使用してくるはずで,未だにクオリティの高いDirectX 8.1バージョンのJupitor開発システムも,ひと段落といったところ。
 そのためか,JACKを機に,MODツールも意欲的に公開する予定になっている。MODを作ってみたいと考えるアマチュア以上プロ以下のゲーマーにとっては,アメリカで30ドル程度で発売されるJACKは,買わない理由が見当たらないくらい魅力的なソフトだ。
 しかも,これだけの魅力がありながら,NOLF2の正規ソフトがコンピューターにインストールされている必要のない,スタンドアローンのプロダクトとして発売されるのである。

 JACKは,発売元のVivendi Universal Games社や開発元のMonolith Productions社にとって,数々のゲーム賞を受賞するほどメディアやコアゲーマーからの評価が高いNOLFシリーズが,なぜ売り上げに結び付いていないのかを調査するために制作されているのだという
 主人公を変えてみたり,ステルスからアクション重視の内容にしたり,さらにはMODツールの公開へと踏み切るのも,そのあたりのマーケティング的な要素が高いのだろう。それだけに,拡張パックの割にはボリューム感のあるソフトになっているのである。
 アメリカでも情報が出始めたばかりとあり,まだ日本での正式なリリースはアナウンスされていないものの,欧米では今年のクリスマスシーズンにも発売される予定だ。こっそり登場するらしいケイト・アーチャーは,どのような形でストーリーに関わってくるのだろうか? 今から楽しみだ。

→当サイトの「Contract J.A.C.K.」のニュース一覧は「こちら」

*本記事の内容は製品版では変更される可能性もあります。ご了承ください。

(C)2003 Monolith Productions, Inc. All rights reserved. Contract J.A.C.K. and Cate Archer are trademarks of Monolith Productions, Inc. Development by Monolith Productions, Inc. Sierra and the Sierra logo are registered trademarks or trademarks of Sierra Entertainment, Inc. No One Lives Forever, Vivendi Universal Games, and the Vivendi Universal Games logo are trademarks of Vivendi Universal Games, Inc. The product contains Jupiter Technology licensed from Touchdown Entertainment, Inc. (c)2003 Touchdown Entertainment, Inc. All rights reserved. Any other trademarks are the property of their respective owners.