
Text by 奥谷海人
ECTS 2003が事実上の初公開となった「Gangland」は,シシリア島からアメリカに渡った4人のマフィアの兄弟が,その命や縄張りをかけてしのぎを削り合うという,暗黒街をテーマにしたリアルタイム制のシミュレーションゲームだ。
何百人ものキャラクターに話しかけたり,仲間として雇い入れるなどRPGの要素も多分に含み,暴力的,性的な描写も含まれるなど,まさにストラテジー界の「GTA」「Postal」といえそうなゲームとなっている。
家族を殺した兄を追って,パラダイスシティでギャング団を組織
「Gangland」は,デンマークのMediaMobsters社が手掛ける処女作品。販売は,ペンシルバニア州をベースにするWhiptail
Interactive社によって行われるが,この会社も昨年末に設立されたばかり。アメリカでは,すでに「Postal 2」の販売代理店としての実績があり,本作が第2作目のプロデュースとなるわけだ。
「Gangland」のシングルプレイモードでは,マリオという5人兄弟の一人でプレイすることになる。マリオたち兄弟はマフィアのボスでもある祖父の元で育ち,家族のつながりを大切にするラテン系のファミリア(イタリア語の家族の意。ギャングの仲間という意味にも使われる)だった。しかし,年長のロマーノ,アンジェロ,ソニーの三人は,成長するに連れて島の退屈な生活に欲求不満を募らせ,やがていさかいから四男坊のチコを殺害しアメリカへと逃亡してしまう。これに激怒した祖父は,アメリカで自分たちの勢力を拡大し始めた三人に対し,末弟のマリオを送り込むのである。
アメリカのパラダイスシティ(シカゴのような架空の都市)に到着したマリオは,叔父ヴィンセントの庇護を受けつつ自分の勢力を拡大し,仲の良かったチコの仇を打つことになるのだ。
プレイヤーは,まず手持ちの資金を使って,酒場のように一般的なビジネスを手掛けて,ギャングとしての裏の顔をカモフラージュする。店の規模や出店数が増えるに従って資金繰りが向上し,雇用できる部下も増えていくというように,このゲームでは,これら酒,衣料品,貴金属品などが資源として扱われており,うまくコントロールしなければならない経営シミュレーションゲーム的な要素も兼ね備えている。ビジネスが拡大していくに連れて,カジノや売春宿など,真っ当にギャングらしい(?)施設の経営ができるようになり,次第に街での勢力範囲も広がっていく。
全体的に見れば箱庭系の経営シミュレーションゲームのようだが,さらに「Gangland」には"イベントエンジン"という特殊なプログラムが実装されており,ミッションは次々とランダムに生成される。このためアクション性も豊富になっており,最大で十人による攻撃チームを結成しては,敵勢力との縄張り争いを繰り広げるのだ。もっとも,これらのミッションはプレイヤーの好みによって選択でき,すべてをこなさずともペナルティはない。ミッションには,敵の店を襲って弱体化させるようなものから,密造酒を入手して顧客に売りつけるというようなものがある。
"チャレンジ"ミッションを達成して,勢力範囲を拡大していこう
「Gangland」では,ランダムに発生するイベントばかりではない。シングルプレイでは,特定のボスキャラクターを排除する「Challenge」や,縄張りを確保する「Conquest」などの,"チャレンジ"と呼ばれるミッションが用意されており,いくつかの条件を達成することで,新しいキャラクターが20人以上も使用できるようになっていく。これら新キャラクターは,成長するときに自分なりにカスタマイズしていくことで,プレイヤーのファミリアの中核として力を発揮してくれ,ゲーム中でプレイヤーが束ねるユニットは,最終的には50人程度の規模になるとのことだ。
「Gangland」の舞台であるパラダイスシティに用意されたマップは26種類で,6つのエリアを構成している。各マップには最大で800人のNPCが徘徊しており,イベント用に会話ができるキャラクターや雇用できるキャラクターは,全体では500人ほどいるなど,生き生きとした都市生活が再現されている。当初は,自分のボスでもある叔父のヴィンセントからミッションをもらうが,街を歩いていると「向こうの街の奴らに言いがかりをつけられたので,痛めつけてくれ」などというミッションを,NPCからもらうことになる。
プレイヤーは,最初はパラダイスシティの一角にあるリトルイタリーからプレイし始め,やがては叔父のカルテルを乗っ取ってほかの地域に進出していく。いつ,どのような戦法で敵と戦うか,どのような商売を広げていくか,地元警察に賄賂を贈るべきか,といったさまざまなことを決定しなければならないため,店舗経営などは,かなりの部分を自動で行える仕組みになっている。プレイヤーは,その分戦闘に集中できるというわけだ。
ユニットには様々な種類が用意されており,バウンサー(いわゆるチンピラ)やスナイパーはもちろん,能力の高いボディガードや敵へのダメージが高い重装兵,至近距離での攻撃に向いたビッグブラザー,ビルもろとも爆破するボマー,さらにはステルス能力に秀でたニンジャや殺傷能力の高いヤクザまでが登場する。それぞれのユニットが,中国や日本,ロシア,コロンビア,黒人,そしてユダヤ系など,ゲームプレイには直接介入してこない人種別の国際マフィアと協力することで使用できるようになり,彼らとどのようにコネクションを付けるかでプレイヤーの配下で働くユニットのタイプも異なってくるのだ。それぞれのNPCが思考ルーチンを持っているので,戦闘は電柱や机など身を隠すオブジェクトの多い地域を選んでおくのが得策だろう。どんなに敵の数が少なくても,障害物のないオープンエリアで戦いを挑んでいては,ユニットへの被害が多くなりすぎるのだ。
戦闘場面は,ヨーロッパの開発元らしくシビアに作られており,物陰に隠れていたほうが武器のリロードもしやすいし,メディキットで体力を治癒することもできる。
子供を立派なユニットへ成長させ,一家の基盤を強固にする
「Gangland」で使用できる武器は,鉄鋲のついたバットからドラム式弾装のマシンガンまでさまざまなものが武器ショップに用意されており,キャラクターの得意な分野に合わせて装備することが可能だ。
メインキャラクターが大きなダメージを受けた場合は,近くの教会に逃げ込めば,そこで祈りを捧げることで体力を回復させることが可能になっている。
乗り物としてキャデラックやクライスラー,タクシー,トラックなどの車があり,それぞれ耐久力が違う。これで敵地へ突っ込んだり,ドライブバイ(ギャング映画などでよく見られる,標的のそばに車で近づいて銃撃をし,そのまま逃走する行為)に利用することができるのだ。プレイヤーがコントロールできるユニット数は限られているため,敵の弱点をついて小人数での波状攻撃で敵勢力を撃破。少しずつ勢力を広げていくプレイスタイルになると考えられる。そのため,ダメージを吸収してくれる車の利用価値はかなり高いはずだ。
こうして,敵勢力を弱体化させ,近辺のビジネスを乗っ取ったりNPCからゆすりたかりを行っては,敵や市民からの知名度を上げていく。どの店のどの店主も恐喝したり傘下に入れることができるし,毎月の十分な謝礼を渡さない者には制裁を加えても良い。銀行強盗はもちろん,レストランや博物館など,どこでも思い通りにしてしまえる。警察署長に賄賂を贈って事件をもみ消すなど,高度なテクニックを擁するほど,ポイントが高くなるのはいうまでもないだろう。
ギャングのメンバーが,通常のRTSのようなユニットではなく個々の人間であるという解釈からか,経験値の上昇によって強力になっていくというRPGとして楽しめるのも興味深いところ。経験値は,コンバット(スタミナ,命中精度,移動速度の三系統),ビジネスセンス,そしてリーダーシップの3種に振り分けていく。マリオのランクが上がれば,さらに多くのユニットを配下として使えるようになってくる。
ところで「Gangland」には,まるで「シムピープル」のような要素があるのは特筆しておくべきところだ。プレイヤーは,巨大化していくファミリアの結束を高めるために,結婚して子供を作るのである。もっとも,このあたりのラテン系の情熱はさらりと省略されていて,妻となる女性を選んで裏部屋に連れていくと,次の瞬間には赤子を抱いて出てきてしまう。成長すると子供もメンバーとして戦ってくれるが,やはりヘルス値や装備は十分ケアしておきたいところだ。
子供には3タイプあって,戦闘に長けた"エンフォーサー",経営手腕を如何なく発揮する"ロイヤー",そして人心掌握に長けたグラマーの"セダクトレス"(女性キャラ)となっている。どのタイプの子供が生まれるかはランダムなものの,知性レベルの高い妻からはロイヤーが生まれるなど,妻の能力が大いに子供に影響しているようだ。
しかし妻や子供は,敵から狙われる可能性も高く,ボディーガードをつけるなどして常に護衛させておく必要がある。特に,子供は成長すると強力な助っ人になってくれるので,敵に抹殺されないよう育てていかなければならない。こうして,一家の基盤を揺るぎないものへとしていくのだ。
マルチプレイモードでは8人までのデスマッチやチーム対戦が用意されていて,マリオばかりでなくロマーノ,アンジェロ,そしてソニーとしてもプレイが可能になる。成長して強力なユニットになるのを防ぐため,各プレイヤーは敵の子供を暗殺しようと刺客を送り込むはずで,ゲームの決め手の選択が複雑化されていることは好感が持てる。
「Gangland」は,アメリカやイギリスなどの英語圏で2004年4月の発売となる。殺人,賄賂,買収,爆破,暗殺,ゆすり,たかり,売春宿経営,カジノ経営など犯罪のオンパレードで,究極のギャングゲームといえそうだが,ギャングゲームとしては「GTA」が,悪趣味・残酷という点では「Postal」が抜きん出ている。はたしてこの二作品を上回るほどの悪名を得ることはできるのか興味深いところだ。
*ゲーム画面はすべて開発中のものです。また,本記事の内容は製品版では変更される可能性もあります。ご了承ください。
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