ピーター・モリニュー氏が語る「Black & White 2」「GDC 2003」スペシャルレポート #25 - 03/14 15:49

Text by 奥谷海人 Photo by 西川善司


 GDC 2003の最終日となる2003年3月8日,会場内のひと部屋が,ピーター・モリニュー(Peter Molyneux)氏の講演を聴くための人々で埋め尽された。
 前作「Black & White」では制作に5年もの歳月を費やしてしまった反省から,次の「Black & White 2」は,少数ながらも精鋭のプログラマーやデザイナー達によって急ピッチで開発が進められている。現在はまだα版にも達していないようだが,2003年5月にロサンジェルスで開催される予定のE3では,大々的に発表する予定であるという。
 今回のモリニュー氏の講演「The Good or the Bad:A Scecond Chance」は,必ずしも新作の発表ばかりではなかったが,彼の講演内容から分かった,Black & White 2の姿をお伝えしよう。

■エピック・ストーリー
 モリニュー氏は,これまで手がけたゲームではバックグラウンドストーリー以外は深く考慮しなかったためか,「ストーリー性のあるゲーム」としてBlack & Whiteを企画したときに,少し力み過ぎた感がある。その反省から,Black & White 2はもっとストーリー性を重視したエピック(英雄的)なゲームになりそうだ。
 まずゲームのオープニングでは,何千ものキャラクターが戦い合う壮大なシーンから始まる。前作に登場した"3人の歌う修道士"にくっついて流れ着いた先は,血を血で洗うような民族のいがみ合いが行われていたのである。そこで,プレイヤーは再度"神"として,これらの民族を統治していくことになる。
 当然本作でも,プレイヤーはクリーチャーを自分の手足として,民族にさまざまな影響を与えていく。前作以上に自分が悪であるのか,善であるのかという違いをハッキリさせ,プレイヤーの遊び方次第でクリーチャーの見栄えが変化するのはもちろん,周囲の環境も,悪なら暗い雲に覆われて地上には蔓が生い茂り,善であれば明るく花々の咲き誇るといったふうに変化するのだ。

■ユーザーインタフェース
 もう一つ,前作の反省点としてモリニュー氏が語ったのが,「ユーザーインタフェースを画面上から消し去ったのは,私が企画会議で持ち出した案に固執し続けたからであり,アイコンがあっても問題なかった」ということ。
 このため,Black & White 2ではある程度のインタフェースが登場するものと考えられる。実は今回のデモでも1度だけ,画面下部から"インタフェースのようなもの"を引き出したことがあった。それはインターネットエクスプローラーのスタンダードボタンのような複数のアイコンを,もう少しコミカルにした感じのものだったが,この"インタフェースの引き出し"は,前作からの進化として十分にあり得ることだろう。
 このときモリニュー氏が説明したのが,Teaching Interfaceという機能だ。これは,前作では分かりづらかったクリーチャーの成長具合や思考を,目に見える形で表示するというもので,黒(悪)と白(善)の中間である"灰色"の部分をなくそうという意図がある。この機能によって,プレイヤーは自分のクリーチャーが何を考えて行動しているかが理解できるようになるのである。

■ゲームプレイ
 Black & White 2は,前作に比べよりゲーム性を増している。具体的にはシミュレーションゲームとしての部分がより強調されていて,プレイヤーは自分の村を町に変え,さらには都市へと成長させていくのだ。
 町には防壁の要素が加わり,敵との争いでは,戦略的な戦い方も必要となるようだ。このときクリーチャーは,守護神として何千にも及ぶ軍隊を率いて戦うのである。
 クリーチャーの教育も,ゲームの内容に沿って戦略的なものが細かく用意されていることから,プレイヤーの持つ"究極のユニット"としての立場で使用されることになるだろう。

 プレイヤーへの信仰心が,この町の出来映えによって変わってくるのも本作の重要な部分だ。一つのミッションにタイムリミットが設けられるのかは未定だが,最終的にほかの神よりも多くの住民を支配下に置き,人口の60%をコントロールできた時点で勝敗が決まるという。
 シミュレーション性を意識しているのは,モリニュー氏の「親切な神であれば,自分に保護を求めてきた流浪人達に,門を開放することになります。でもそうすれば,違う文化が交じり合い,また経済力も異なるので,一時的に町が衰えることになるのです」という説明からも伺える。これまで以上に,明確な勝利が味わえるようになるようだ。

 Black & White 2では,一つのミッションが一つの大陸に対応しており,すでにクリアした大陸に戻ることができるばかりか,輸出入のルートを構築することも可能になるという。現レベルの資源を使って前のレベルを強化し,さらに現レベルへフィードバックさせるという複雑なインタラクションも考えられるが,そのあたりは依然として未発表のままである。

■グラフィックエンジン
 グラフィックエンジンは,地形を生成するランドスケープエンジンがとくに強化されていて,草木などがさらに緻密に描かれるようになった。
 雲はボリューメトリック(体積)による完全3Dで表現され,非常に存在感のある雲となるようだ。前作にもあったスペル「ファイアーボール」はデモで紹介されていたが,いかにもな魔法風のスペルは減っており,津波や竜巻など,自然災害をベースにしたものが増やされている。また,前作で気になった,カメラの移動に合わせて丘や樹木が飛び出す"ポッピング"と呼ばれる現象も,LoD(レベル・オブ・ディテール)という手法を駆使することで抑えられている。

 クリーチャーは,以前のようなコミカルな風貌から,もっとリアルなものへと変更される予定だ。
 とくに興味深いのが,リアルタイムでの毛皮のレンダリングである。今回のデモでは,体毛がフサフサしている様子や,濡れて重くなっている様子,さらにはそれが渇いてピンピンしている様子などが紹介されていた。これは現在公開されているゲームではほとんど見られない技術であり,視覚的に華やかなものになりそうだ。
 戦争時に放たれる数千,数万単位の弓矢が,クリーチャーの体や屋根に突き刺さる表現も見事である。

■コントロール
 Black & White2では,先述したように数千人の兵士による攻防戦が見物となる。その軍隊をまとめるのが,今回新しく紹介されたスレッド(Thread)というシステムだ。
 これは,100人の兵士を旗で一つのまとまりとし,その旗を縄で繋いでスレッド(数珠繋ぎ)にしていくのだ。こうすれば,プレイヤーは先頭の旗を動かすだけで,すべての軍隊を1度に動かせる。前作にもあったクリーチャーの矯正用の縄(Leash)が,さらに使いやすくなったものだと考えられるだろう。
 このスレッドは,家屋や岩,クリーチャーなどにも接続可能で,護衛やパトロールなどさまざまな用途が考えられる。
 また本作では,カーソルである"神の手"を使って複数の樹木を一度に掴めるようになり,町の生産作業がスピーディとなった。本作の要である柵や防壁も,画面上に線を書くような感じで簡単に設置できるなど,プレイヤーの手間が大幅に省かれているようだ。


 "Black & Whiteシリーズ"は12か月から18か月ごとに新作がリリースされる予定だったが,拡張パックも発売されたことだし,実際のところBlack & White 2の発売は少し遅れることになりそうだ。
 Black & White 2は,クリーチャーやスペルが減り,民族もエジプト,ギリシャ,ノース,日本,アステカの5種に固定されるが,前作よりもかなり洗練されたゲームになりそうな気配。モリニュー氏は「前作はメディアの注目度が高すぎた」と話していたが,彼の作品を無視しろというほうが無理というもの。当サイトでも,Black & White 2や彼の新作「The Movie」に限らず,モリニュー氏の動向を今後も追っていくつもりである。


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