いよいよ本格的な講義が開始に 「GDC 2003」スペシャルレポート #6 - 03/07 22:06


Text & Photo by 奥谷海人


 エキスポもオープンする3日目からは,1時間刻みの本格的な講義もスタートする。さすがに,会場の入り口やレジストレーションブースは業界関係者たちで溢れかえっており,講義も場合によっては定員オーバーになることもある。

 まず最初に出席したのが,「Story Summit」というゲームデザイン・トラックの特別コースだ。業界の重鎮でもあるLucasArts Entertainment社のプロジェクト・リーダー,ハル・バーウッド(Hal Barwood)氏らを始め,連戦練磨のゲームデザイナーやスクリプトライターが集まっている。講義の主な内容は,ゲーム用の脚本を書く場合に突き当たる諸問題を解説しながら,ジャンル別にどのような違いを考慮するべきを,それぞれのパネルが自分の立場から語り合う。
 「Star Trek:The Next Generation」などテレビ番組の脚本家としてハリウッドで活躍し,現在ではCyan World社の「MYST ONLINE」やDisney Interactive社のプロジェクトに関わっているリー・シェルダン(Lee Sheldon)氏は,「MMORPGでは,2万種に及ぶセリフを用意する必要があり,それぞれに細心の注意を払うのは不可能に近い」ことを指摘。そこでバーウッド氏が「ストーリーは,プレイヤーがゲームを進めていくためのモーチベーションとして活用されるのが最低条件である」と補足した。プレイヤーは,そもそも全てのセリフを記憶するのではなく,ストーリーの面白さとして脳内に留めておくのだから,細かい部分まで気にする必要はないという楽観論だ。「自らのストーリーを作り上げていくのが文化や歴史で,ゲームの脚本も同じように捕らえるべきだ」という意見もあった。(画像1)

 次は,日本から参加した0600 Design社代表の鶴見六百氏と,SCE制作4部でアシスタントプロデューサーを務める長谷川亮一氏による講義「How to Make Your Game Successful in Japan」を聴講した。これまで,彼らがプロデュースしてきた「クラッシュ・バンディクー」や「スパイロ・ザ・ドラゴン」 「スライ・クーパー」などを実例にして,日本でゲームを成功させるには,どうすべきかを解説した。
 鶴見氏によると,アメリカから日本に輸入されるソフトのキャラクターは,とにかく骨格や瞳孔など細かい部分の描写がリアルすぎて,すでにアニメの浸透によって記号論が発達している日本では受け入れられなくなっている。パソコンゲームにも当てはまるテーマであり,昔から何度も議題に上がっていることではあるが,クラッシュ・バンディクーを始めとする証拠と実例があるだけに,彼らの発言に聞き入る聴講者が多かった。長谷川氏は,最後にアメリカ人と日本人開発者の間でのコミュニケーションは不可欠であるとし,カラオケ親睦会を含めた率直な交流を促した。
 GDC初となる自動翻訳システムにより,鶴見氏の講義内容がリアルタイムで行われたこともあり,レクチャーは非常にスムースに行われていたが,今後はこのような形で日本人の参加が増えることが大いに期待できそうだ。(画像2)

 「Small Worlds:Competitive and Cooperative Structures in Online Worlds」は,Designer Dragonとして知られた元UOゲームデザイナーのラフ・コスター(Raph Koster)氏と,「Meridian 59」からUOへとMMOの長い経歴を誇るリック・ヴォーゲル(Rick Vogel)のGalaxiesコンビによるレクチャーだ。この2人は,オンラインゲームについての講義を始めて足掛け3年にもなり,MMORPGについては業界屈指の知識を持っている。
 この講義では,心理学や社会行動学の分野で知られている様々な論理が,オンライン専用ゲームでのプレイヤーたちの行動に当てはまることを説明し,これらの論理を学ぶことで,オンラインコミュニティの運営に役立てることができると力説した。彼らは,以前からオンラインコミュニティで中心となるギルドの創設者やファンサイトの運営者たちを"ハブ"と呼んでおり,初期βロットの優遇といった優先権を与えるなど,彼らを大切に扱っていくことで,逆にハブを利用してゲームを切り盛りしていく手法を説明。すべてが,「社会ネットワーク科学」という観点から予測できるとした。
 社会ネットワーク科学は,実際に学問として扱われるようになってから5年ほどしか経っていない新しい分野である。コスター氏が用語として使ったGraphセオリーが,実際どのような意味を持っているのかは理解できなかったが,実世界の人間たちは何らかの活動を通して他の人間と繋がっており,さらにその繋がりは,より吸引力のある人へと一方的に向いているのである。それを考慮すると,ハブとなる人さえ押さえていればコミュニティの大半をカバーでき,「オンラインコミュニティの改善は,プレイヤー同士の交流の帯域幅を広げること」という締めくくりの言葉も納得できる。オンライン世界は,実世界の行動心理を反映した,れっきとしたバーチャルワールドなのである。(画像3)

 最後に,映画「ロード・オブ・ザ・リング」を撮ったピーター・ジャクソン監督の元,WETA Digital社でデジタルシステムのアーキテクトを務めたジョン・ラブリー(Jon LaBrie)氏の基調講演も報告しておこう。最初にロード・オブ・ザ・リングの企画が舞い込んだ時には16人だった同社のスタッフも,「二つの塔」の開発に入る頃には350人に増えていたと言い,アーキテクトとしての役目は,全スタッフが無駄のないようなシステムを作り上げることである。この基調講演には,アーティストのアダム・バルデス(Adam Valdez)氏も飛び入り参加することになった。
 映画には,様々なテクニックが使用されたが,2作目に登場したゴーラムには顔だけでも700に及ぶ筋肉のパラメータを設置して細かく動かしたと,ラブリー氏は説明した。実際には,ゴーラムはアンディ・サーキス(Andy Serkis)という役者を使ってモーションキャプチャーされたので,CG映画としては類を見ない生き生きとした動作が実現したのである。元々声優として雇われたサーキス氏は,自ら志願してゴーラムを体当たり演技したのだが,ずんぐりとしたサーキス氏が跳ねたり転がり回る映像が,会場の笑いを誘っていた。
 数千体が登場する壮大な戦闘シーンが好評のロード・オブ・ザ・リングだが,あのCGキャラクターの1つ1つは,エージェントと呼ばれる思考ルーチンが付属したキャラクターモデルで,ゲームのようにそれぞれの状況に合わせて行動していたらしい。混み合った中でモデル同士がぶつかったりするのを避けるためのものだが,性能が良過ぎて戦場から逃げ出してしまうモデルが続出したと言い,それをカバーするのに苦労したというエピソードを披露した。DVD版ではエント(森の住人)の戦闘シーンが増やされるという発表や,3作目のポスターが公開されるなどのオマケもあった。(画像4)


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