ATIが史上最強のグラフィックスアクセラレーター Radeon 9700を発表 - 07/19 17:51

 去る7月17日,アメリカ カリフォルニア州サンフランシスコのフェアモントホテルで行われた発表会で明らかにされた,ATI Radeon 9700の全てをお届けしよう。ちょっと長くはあるが,これさえ読んでおけばRadeon 9700のことは全て分かるだろう。

256ビットメモリーDDRとAGP 8Xを完全サポート

 全く新しいアーキテクチャーを持つRadeon 9700 VPUは,これまでコードネーム"R300"として知られてきたATIの秘蔵っ子だ。DirectX 9.0完全対応の最新グラフイックスカードで,性能的にはGeForce 4 Ti4600を完全に抜き去りそうな気配である。NVIDIAの後継GPU,"NV30" (GeForce 5か?)は,少なくても11月まで発表されない見込みなので,ATIはNVIDIAより半年も速い開発サイクルを達成したことになる。Radeon 8000が登場したときは,NVIDIAが追随するようにDetonator 3ドライバをリリースし,市場における圧倒的な地位を不動にした。PCグラフィックス界の頂点をめぐる2社の争いは,Radeon 9700によりATIの1歩リードとなりそうな雰囲気だ。

 Radeon 9700は,0.15μチップで1億1,000万ものトランジスタを搭載している。また,AGP 8Xに本格対応した初めてのグラフィックスカードで,256ビットDDRメモリーのインターフェイスにバックアップされ,ピーク時には20GB/秒というバンドウィズを引き出せる。
 メモリーインターフェイスは,4つの独立した64ビットのメモリーチャンネルに分かれており,洗練されたシークエンサーによって効率良くデータを読み取ることを可能にしている。
 話によると,Radeon 9700は次世代のメモリー規格といわれる"DDRUテクノロジー"もサポートできるように設計されているようで,この新規格が登場する2003年初頭には,後継カードによって対応されることが見込める。この"DDRUテクノロジー"によって,メモリーのパフォーマンスも50%近く向上するということだ

 また,Radeon 9700は,DirectX 9.0のサポートに伴い,プログラマブルな頂点シェイダーパイプラインを実装している。これはつまり,今までのグラフィックプロセッサーには,頂点(Vertex)という形で後にポリゴンとなる情報が送られ,続いて照明効果などのデータが処理された。これが,DirectX 9.0以降では完全にプログラマブルであることから,処理の順番や性格付け(形状の変化やモデルの見た目)に至るまで,さらに細かいコントロールができるようになる。
 プログラマブルな頂点シェイダーパイプラインを搭載しているグラフィックカードでは,MatroxPaeheliaが先行して発売されたばかりだが,Radeon 9700の強みは,GeForce 4に負けるとも劣らぬトライアングルのセットアップエンジンを持っていることだろう。頂点シェイダーパイプラインも,GeForce 4の2倍となる4つを並列させていることから,トランスフォームレートは3億2500万トライアングル/秒と,GeForce 4 Ti4600が誇っていた1億3,000万トライアングル/秒という性能を,あっさりと超えてしまったのだ。

 AGP 8Xが標準となるには,まだしばらくかかりそうだが,今後のゲームの進化に伴ってテクスチャーのアウトプットが肥大していくのは明白なので,今からサポートしておいても損はないだろう。ウワサでは,id SoftwareのFPSゲーム「DOOM III」は,毎秒80MBものテクスチャーを排出するシーンもあるのだという。「DOOM III」のようなゲームが登場して,初めてAGP 8Xのパフォーマンスが活かされていることになり,今後のゲームソフトのスタンダードであり最低基準のグラフィックカードとなりそうだ。誤解のないように書いておくと,「DOOM III」はid
Softwareの他の作品同様OpenGL で描かれており,DirectXはサポートしていない。
 「DOOM III」といえば,E3の関連記事において,「DOOM III」のデモはRadeon 8500で作動していたと紹介していたが,これは「Radeonの最新型機」と聞いたために早とちりした間違いで,実は,Radeon 9700の試作機を使ってデモが行われていたのだ
 ATIは,ジョン・カーマック(「DOOM III」を製作しているid Softwareの筆頭にして,FPSゲーム界の重鎮ともいえる存在)や,ハードウェアメーカーの3Dlabsとともに,Open GL 2.0の規格調整グループに参入しており,Radeon 9700にもOpen GL 2.0のエクステンションが加わるのだとATI関係者は話している。カーマックは,「DOOM III」をOpen GL 2.0ベースにすることを明らかにしているというのは,以前「ここ」で紹介したとおり。

DirectX 9.0に対応した新次元のグラフィックス

 ATIのRadeon 9700は,DirectX 9.0を正規にサポートしたグラフィックカードとして,初めて"頂点Vertex Shader 2.0",そして"Pixel Shader 2.0"に対応させ,それぞれ"TRUFORM 2.0""SMARTSHADER 2.0"を開発した。どちらも,ソフト開発者が独自の照明モデルやテクスチャー処理をプログラムすることができ,より自由度が高くゲーム製作者の意図に近いグラフィックスを実現できる機能である。
 Vertex Shaderは,これまではDirectX 8.1に至るまでVr. 1.4までアップデートされてきたが,2.0では1つのパスで1024個のインストラクションを実行できるようになった。中でもソフト開発者にとっての魅力は,頂点座標のループやジャンプ,サブルーティンをサポートしたことで,短くても効率的なコードをプログラムできるようになったことだろう。
 Radeon 9700が最も次世代的なのは,ピクセルのレンダリングパイプラインが128ビットになり,しかも8つのパイプラインを持っていることだ。GeForce 4やRadeon 8500は,4つの64ビットパイプラインに過ぎなかったから,大きく飛躍しているのがわかるだろう。しかも,これらのパイプラインは完全に浮動点のデータタイプをサポートしているので,これまでに見たこともないようなグラフィックスを実現している。発表会において公開されたデモでは,水晶玉の周囲をカメラがクルクルまわる一見味気ないものに見えるものの,モヤがかかったかのように全体的ににじんでいる。これまでは現実性を重視してきたグラフィックスが,映画でいえばレンズやフィルターを使って抽象的に見せてしまうような,新しい効果が期待できそうだ。

 Pixel Shader 2.0も,DirectxX8.1までサポートされてきたVr. 1.1と比べ,テクスチャーインプットが6個から16個,カラーインストラクションの最大値が8から64へと膨れ上がったのに加え,データ照準が128ビットに,レンダーターゲットも1つから4つに増えるなどし,1つのパスにつき160種のインスタラクションが実行できるようになった。
 ATIは,発表会で「RenderMonkey」という,3D Studio MaxやRenderManのような,ゲームやCG開発に標準的に使われているソフトの処理をコンパイルし,PCのGPU上で実際に作動させるようなソフトも公開している。このあたりは,160インストラクションという制約によって処理能力がスムーズにはなっていなかったが(0.1fps程度だった),もはやハイレベルなコンピューターグラフィックス作動を個人用のPCでリアルタイムに表示しているというのは驚きに値する。
 128ビットの浮動点カラーは,DirectX 9.0でサポートされた新しい概念で,10:10:10:2のフォーマットにすることで,これまでの"色の常識"を覆す可能性を持っている。浮動点の計算なくしては,RGBはそれぞれ0から255までのバリューしか持てず,1,670万色余りに限定されてしまっていた。しかも,これまでの8:8:8:8フォーマットでは,アルファブレンディングを使用しないゲームなら8ビット分のカラーを無駄にしていたことにもなる。Radeon 9700では,浮動点カラーの10:10:10:2フォーマットをサポートすることで,何億何兆という文字通り無限の色彩を作り出せることになり,さらにリアリスティックなイメージになるだろう。この技術を使えば,例えば窓の光や木洩れ日の露出を高めたりという効果が達成されるようになりそうだ。

 この他,斜めに表示されるポリゴンの端のように,バーテックスラインにおこるジャギーをスムーズにするATIの独自機能"SMOOTHVISION 2.0"では,これまでのスーパーサンプリングではなく,NVIDIAの使っているマルチサンプリング方式にしたことは特筆に値する。マルチサンプリングのほうが,ピクセル単位でZ値(奥行き)を計測して自動演算するため,テクスチャーの解像度に支障をきたすことなく,1シーンの同じ場所をサンプルし直す必要がなくなるのである。また,ATIはHyperZ IIIというZ値のコンプレッション技術も持っており,オブジェクトの後方にある隠れたピクセルは,あらかじめ緒パイプラインに通さないように処理する。そのために,マルチサンプリングを使ったSMOOTHVISION 2.0は,VPUのバンドウィズにそれほど負担をかけることもなく処理できるという。

 気になったのは,今回の発表会にはゲームのデモが1つも展示されていなかったことだ。ご存知のように,"TRUFORM"と"SMARTSHADER"は,NVIDIAの"nFinite FXエンジン"とは異なるアプローチであるため,ゲーム開発者のサポートなくしては成り立たない。DirectX9.0自体も,今秋の正式リリースであるため,年末にリリースが予定されているソフトに関していえば,ほとんどがDirectX 8.1をサポートするに留まるのではないだろうか。実際,現在本格的にサポートすると公言しているのは,「Republic:The Revolution」のElixir Studiosのみだし,依然としてDirectX 8.0の機能を駆使したゲームもほとんど市場に出回っていないことを考えると,AGP 8Xのサポートなども含めて,Radeon 9700がかなり先を走っている印象は受けた。ただし,Radeon 9700の革新的なアーキテクチャーとその性能は,現在最強のグラフィックカードであるのは間違いないだろう。

 ちなみに,Radeon 9700は,複数のVPUを連結して使用できるという,Voodoo世代をワクワクさせるような技術を持っているらしい。本当の話かどうかは確認を取ることはできなかったが,1つのカード上で最大256個までのVPUを搭載できるというのだ! 先頃,Radeon 8500ベースで2つのVPUを搭載した改造グラフィックスカードが,何者かにより海外オークションサイトのeBayに出品されていて話題になったが,この2つの話は今後,我々をビックリさせてくれるような発表に繋がっていくのではないだろうか。
 Radeon 9700は,8月中に市場投入される予定で,価格は399ドルに設定されている。(Okutani)


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