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Niantic 川島優志氏,エクシヴィ 近藤“GOROman”義仁氏,そして水口哲也氏がVR/AR/MRの展望を語った。「XR Kaigi 2019」基調講演レポート
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印刷2019/12/04 16:32

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Niantic 川島優志氏,エクシヴィ 近藤“GOROman”義仁氏,そして水口哲也氏がVR/AR/MRの展望を語った。「XR Kaigi 2019」基調講演レポート

画像集 No.001のサムネイル画像 / Niantic 川島優志氏,エクシヴィ 近藤“GOROman”義仁氏,そして水口哲也氏がVR/AR/MRの展望を語った。「XR Kaigi 2019」基調講演レポート
 Moguraは2019年12月3日と4日,VR/AR/MR(XR)分野に関心のある開発者・クリエイターを対象としたカンファレンス「XR Kaigi 2019」を東京・秋葉原で開催した。
 この催しは「つながり,共有し,高め合う」を目的に掲げ,XRという新たな領域に挑戦する開発者・クリエイター同士がコミュニケーションを図り,ノウハウを共有し,未来に向けてのモチベーションを業界全体で高めていくことを目的としている。
 本稿では,12月3日に行われた基調講演「ビジョナリートーク:XR作戦会議〜未来に向けて何をすべきか?」をレポートする。

「XR Kaigi 2019」公式サイト


 基調講演は,Niantic アジア・パシフィック オペレーション 副社長 川島優志氏,エクシヴィ 代表取締役 近藤“GOROman”義仁氏,エンハンス CEO 水口哲也氏によるディスカッション形式で進められた。

川島優志氏
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 最初のテーマは「VR/ARは今後どうなっていく? 3人はどう取り組んでいくか?」。川島氏は,Nianticが研究開発に取り組んでいるというARクラウドを使った広範囲の空間認識を紹介し,「今まで以上にコンピュータが世界を取り込むようになり,とても面白い状況になる。Nianticは,そういったものを多くのデベロッパが使えるようにしていく」と語った。

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 近藤氏は,エクシヴィが開発しているVRアニメ制作ツール「AniCast Maker」を紹介。1980年代に台頭したデスクトップミュージック(DTM)により,個人でもさまざまなタイプの音楽を作曲したり演奏したりできるようになったことを引き合いに出し,「僕らはVRを使って,DTMのように個人でアニメ制作ができる環境を作っている。ユーザーはキャストやカメラマン,照明など,さまざまな役割を1人でこなせる」と説明した。また,いずれはオンラインで複数のユーザーによる共同作業を可能にする予定とのこと。

 そして水口氏は現在,主にVRに取り組んでいるが,それはARが普及する未来に向けた活動だと感じているという。「データだけのVRの世界から,実際に存在している世界につながっていく。そこにはすごくたくさんのイノベーションがあり,“体験”の時代が本格化していく」と予測を述べた。
 その発言を受けて川島氏と近藤氏も,「体験を共有できる感覚が増えて,楽しくなる」「過渡期なので,自分達で楽しいものを作っていけることが楽しい」と同意していた。

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近藤“GOROman”義仁氏
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水口哲也氏

 2つめのテーマは「XRの先にある価値は何か?」。近藤氏は,ARグラスが普及した未来が舞台の漫画を紹介した。その内容は,電車の中で女の子がお年寄りに席を譲ったとき,乗り合わせたほかの人達からAR空間を介して可視化された「いいね!」が届くというもので,「いいと思っているのに口に出せない状況でも,ARなら可視化できる。こんな世界になったら楽しい」と語った。

 一方,川島氏はNianticのARに対する考え方を紹介。それによると,同社では世界中にもともと存在するのに見過ごされている素晴らしいものを,見えるようにしてつなげるためにARを使っているという。
 例えば,「Ingress」には神社などのポータルから「エキゾチックマター」という物質が出ているという設定がある。それをスマートフォンアプリを使って検出し,ポータルとポータルをつなげて陣地を拡大していく位置情報ゲームだが,ベテランプレイヤーになると,アプリを介さずとも「ここからエキゾチックマターが出ている」と言い始め,仲間も「確かに」と同意するケースが見られるという。
 これを川島氏は「もともとそこにある現実感,つまりリアリティを感じられるかが大事。ベテランプレイヤーはエキゾチックマターを感じ,それをほかのプレイヤーと共有している。感覚が拡張しただけでなく,自分自身の認識も見つめ直し,新たな発見をしている」と説明する。「XRの先にある価値とは,今までになかった体験をして,世界と自分自身を発見することにあるのではないか」と語った。

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 水口氏は,電車に乗っていると目に飛び込んでくる数々の広告に耐えられなくなったエピソードと,KEIICHI MATSUDA氏が制作した映像「HYPER-REALITY」を引き合いに出して,「AR空間が広告まみれになってはいけない。ARは能力を拡張したり多幸感を覚えたりする方向で考えるべき」という持論を披露。「ARなら,どこにでも広告が置けると考えがちだが,本当にそんな世界がほしいか考えてみてほしい。もしARに広告を出すなら,三捻りくらいしないと通用しない」と語った。
 それを受けて川島氏と近藤氏は,むしろリアル世界の広告を視界から消すノイズキャンセリング機能が必要とされるのではないかと述べている。

 3つめのテーマは「未来は遠い? 近い? 我々はどこまで来たのか?」。水口氏は,まだXRは始まったばかりだとし,「600年前に活版印刷が発明されて情報の時代が始まり,意識革命が起こって世界が発展した。それに匹敵するくらいのことが,これから10年20年のXRで起きる。それが体験の時代」と予測する。
 さらに川島氏が,キーボードやマウスを使った操作やスマホの操作は不自然で不自由なものであり,XRによって空間を使った自然な操作に移行していくだろうと述べると,近藤氏も「人類はそろそろディスプレイの四角いフレームと現行のGUIから脱却すべき」と同意した。
 また川島氏は,水口氏が手がけた「Rez Infinite」用のデバイス「シナスタジア・スーツ」に言及し,「今はまだ無理だが,近い将来にはあのようなスーツを着ることが普通になるかもしれない」とも語っていた。

カメラを介して映し出されるリアル世界をキャラクターが認識し,柵に沿って歩いたり,ドアが開くまで待ったりするという,Nianticのプロジェクトが紹介された
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Appleが2015年に申請した特許の紹介も
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 4つめのテーマは「XR分野で日本が持っている強みはあるのか?」。川島氏は,東京の景色にARでポケモンジムを重ねて表示した動画を披露し,「これをSNSに投稿したところ,世界中から『さすが東京』『やっぱり東京は違う』という反響があった。東京には良くも悪くも,何か不思議なことが起きてもおかしくないというイメージがある。そのイメージは先人が積み重ねてきたものだが,それを良い意味で活かせるのは大きな強み」と語った。

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 近藤氏は,SFやアニメのコンテクストを共有できることを強みとして挙げた。例えば,MRデバイス「HoloLens」を初めて見たとき,近藤氏がアニメ「電脳コイル」の電脳メガネだと指摘したところ,周囲はすぐに理解したという。ちなみに,Niantic代表のジョン・ハンケ氏もサンフランシスコ本社で同様の指摘をしたそうだが,それを理解できたのは川島氏だけだったという。
 また,近藤氏は同じXRを題材にしても,海外の作品ではディストピア的に描かれがちであることに対し,日本ではワクワクする方向で描かれるケースが多いと話していた。

 一方,水口氏は八百万(やおよろず)の考え方のように日本の文化に染みついている要素が,ほかの国や地域の人達から見た魅力の源泉になっているのではないかとの持論を示した。
 さらに,ほかの国では大人になるとアニメや漫画などのコンテンツから卒業する人が大半だが,日本では卒業しなくともいいという雰囲気が年々強くなっていると指摘。「海外から来た体格のいい大人も,日本に来ると可愛いコンテンツに目をキラキラさせる。日本には,何かスイッチを入れる魅力があるのでは」と語っていた。

 5つめのテーマは「3人がVR/AR以外で気になっていることは?」。近藤氏は,もともと新しいガジェットが大好きで,さまざまなクラウドファンディングに投資している。なかでも,最も面白いと感じているのがドローンメーカー・DJIが開発したプログラミング教育用ロボット「RoboMaster S1」とのこと。このロボットを使った動画を公開したところ,DJI本社に招待され,ハッカソン企画を手がけることになり,近藤氏は「VR×ロボットなど,いろいろなものを組み合わせることによって新しく面白いものが生まれる」と述べた。

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 水口氏は,4年前にサーフィンを始めたという。泳げない,潜れない,水が大嫌いだったが,1回くらいはやってみようと思い立ち実行したところ,想像していた以上にボロボロになったのだとか。そこで「これではダメだ」と続けているうち,サーフィンが大好きになったとのこと。今までにない体験をしたことで自分自身にさまざまなスイッチが入って,今後,何かに役立つのではないかという実感があるそうだ。

 一方,川島氏は子育てが気になっており,とくにスマホのようなデバイスをどのタイミングで子どもに与えればいいのかを迷っているとのこと。アメリカで「Generation G」と呼ばれる20歳前後の青少年が,Slackでチャットをしつつ,音楽を聞きつつ,それでも必要な作業をこなしているのを見て,「人間は本当にそんなことができるのか」と驚いたエピソードを披露し,「今の子ども達は,どんな感じになるのだろう」と常々考えているそうだ。
 それを受けて近藤氏は,自身の子どもが3歳のとき,スマートスピーカーに「象は英語で何て言うの?」と問いかけていたのを見て,「この勉強法はすごい」と感じたエピソードを語った。自分にとってスマートスピーカーやAIはデバイスに過ぎないのに,子どもにとっては友達感覚で接するものなのだと気づいたそうで,「そういう人達が未来を作る」とまとめた。

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 6つめのテーマは「2020年はどんな1年になりそうか? 注目のポイントは?」。水口氏はさまざまなことが起きるとしたうえで,「XRの社会実装とその準備段階が並行して展開する。その途中にオリンピックもあるので,何かと忙しい1年になるのでは」と予想する。さらに大阪万博が開催される2025年までにも大きな変化が訪れるだろうと話すと,近藤氏と川島氏はスマホに変わる新しいデバイスの登場や,VRの解像度が高くなることにより,今とはまったく異なる社会になっているかもしれないという見解を語った。

 近藤氏は,2020年を「紙のパラダイム」からの脱却が始まるターニングポイントと予想する。紙のパラダイムは「ファイル」「フォルダ」「カット&ペースト」のように現行のPC用語にも多く使われているが,XRの台頭によって「空間パラダイム」に替わるというのが氏の主張だ。
 また,企業や行政のホームページも紙のパラダイムの産物であり,Tencentが展開しているメッセージアプリ「WeChat」のようにチャットベースのインターフェースに置き換えられ,窓口にアバターが置かれるようになるという予測も示した。

 そして川島氏は2020年,Nianticから新コンテンツがリリースされることを示唆した。また,第5世代モバイル通信システム(5G)が普及することで,今までになかった体験ができるようになるという展望を語り,「オリンピック後の日本は凋落する一方なのではないかと語られるが,実際にはそんなことにならない」「そういうときには,逆に面白いことが起きる。僕自身,いわゆる氷河期世代で日本にまったく就職先がなかったのでアメリカに渡ったし,起業した人もいる」と見解を示した。

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 最後のテーマは「XRの担い手にはどんなことが求められるのか?」。水口氏は,VRやARでは視覚面ばかりが取り上げらがちだが,人間は共感覚的な活動(1つの刺激に対応する感覚が,同時にほかの感覚をも呼び覚ます)をしているため,今後のXRには本能的な部分を含む共感覚的な作り方が求められると指摘。「僕らの中にあるものを引き出し,より豊かに,より幸せにする発想を常に持たなければならない。それがXRの重要なテーマ」と語った。
 それを受けて川島氏も「XRは,つなげたり拡張したり,あるいは共感覚的な方向に向かったりという進化をしていくと可能性が広がる。日常生活では得られない体験は,自分を知ることにもなる」と話していた。

水口氏の手がける「シナスタジアX1 ? 2.44」が紹介された。このシステムはサウンドと光,振動を使って共感覚的体験を提供するもの。体験したCNNのキャスターは映像がないのに,日の出や日没が見えたなどの感想を述べたそうだ
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 近藤氏は,PCの父・アラン・ケイの「未来を予測する最善の方法は,それを発明することだ」という言葉を引用しつつ,「発明することはできるが,それを世界に広めるには大きな壁がある」と指摘。聴講者に「皆さんはXRの担い手として,未来を発明しつつ発信して,世界から『日本ヤベー』と言われるような状況を目指してください」と呼びかけた。 また,「井の中の蛙にならず,常に常識をアップデートする」ことを心がけていると話し,さまざまなイベントやカンファレンスに参加して,さまざまな情報を得て,そこから予測をして未来を勝手に作っていると語った。

 また,川島氏は今回登壇した3名を「ネジが外れている」と表現し,自身が3Dプリンタで作ったARグラスのモックを装着し,さらに帽子とフードを被った状態で交番の前を歩いても怪しまれないかどうかを試したエピソードを披露した。「未来に近いところにいると,周囲から滑稽に思われることもあるが,それを乗り越えて未来は作られてきた」「ネジを外すか外さないか。選択肢が出たときに,外すを選んだほうが楽しい」と説明を加えた。
 さらに近藤氏も「ネジの外れた子を自由にさせるセーフティネットのようなものが学校教育にあると,将来はすごい人材が生まれるかも」と話していた。

 一方,水口氏は複数のテーマをゆっくり同時並行で考える「スローモーションマルチタスク」という手法に言及。今は実現できなくとも細く長く続けることにより,あるタイミングでテクノロジーが追いついたり,時代にハマったりしたときに爆発的に進化する可能性があり,XRにもそうした部分があると捉えているという。
 また,川島氏も「VRは終わった」「ARはまだ現実的ではない」と周囲が言っていても,“約束された未来”に向かってあきらめないことが大事であると強調した。

「XR Kaigi 2019」公式サイト

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