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ゲームの手法をメンタルヘルスケアや予防医療に採り入れた事例が紹介された「ゲーミファイ・ネットワーク 第6回勉強会」をレポート
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印刷2019/06/21 14:49

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ゲームの手法をメンタルヘルスケアや予防医療に採り入れた事例が紹介された「ゲーミファイ・ネットワーク 第6回勉強会」をレポート

 日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)ゲーム教育SIGは2019年6月20日,セミナー「ゲーミファイ・ネットワーク 第6回勉強会」を東京都内で開催した。
 このセミナーでは,HIKARI Lab 代表 清水あやこ氏が,ゲーミフィケーションを取り入れた国内外のヘルスケアの事例や,同社が関わるメンタルヘルスケアゲームを紹介するセッションを行った。

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清水あやこ氏
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 セッションの冒頭では,現在のヘルスケアにおける「予防医療の課題」が説明された。ここでいう予防は3段階あり,それぞれ,予防接種や健康診断など,健康な状態にある人を対象に疾病を未然に防ぐ働きかけを行う「一次予防」,レントゲン検診や発症を抑えるための治療および処置など,疾病の傾向は見られるが症状が顕在化していない時期に行う早期発見・治療を指す「二次予防」,すでに発症した人に回復の兆しが見えた頃に行う再発予防を指す「三次予防」となる。

 例えば一次・二次予防では身体の健康を保つために継続的な運動をしたり,心の健康を保つために瞑想をしたり,また三次予防では施設でリハビリを受けたりといったことが推奨されているが,清水氏はこうした予防行動を続けられる人はなかなかいないと指摘する。

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 その理由は「定期的に身体を動かすのは大変」「自分が病気だと再認識してしまう」「施設内の雰囲気が嫌」などいろいろあるが,清水氏はその最も大きなものを「予防行動がつまらないから」と分析しているとのこと。つまらないからこそ,例えば仕事から疲れ切って帰宅したのち,さらに運動や瞑想をする意欲が湧かない=続かないというわけだ。

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 また医療や福祉,心理の現場では,疾患予防アプリや運動促進アプリなどICTを応用して便利さや精度を上げる技術が日々向上している。しかし単に技術が発展しても,人々の「病気を予防したい」「生活を改善したい」というモチベーションが高まらないことには利用してもらえず,あまり意味がない。
 そこで現在,注目されているのが,人々のモチベーションを高めるゲームの手法である。

 実際,海外ではすでに健康とゲームに関する学術誌や,ヘルスケアで活用されているシリアスゲームが存在する。
 清水氏は,親が離婚した子どものセラピーに使われる「Earthquake in Zipland」や,仮想の癌患者の体内で癌細胞と戦う3Dシューター「Re-Mission」を紹介。とくに後者は,若い癌患者の癌に対する知識や治療法への理解向上に効果が見られたという。

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 会場では,VRを使った恐怖症治療も紹介された。従来の恐怖症治療は,例えば高所恐怖症なら実際に高いところに連れていく,蛇恐怖症なら実際に蛇と対面させることを繰り返して慣らしていく手法が採られていたが,それをVRに置き換えることで治療する側もされる側も負担が減ったとのこと。実際,アメリカのクリニック数か所では,成功率92%という実績を収めたそうだ。

 また心拍数や発汗といったバイオフィードバックで操作する「The Journey to Wild Divine」は,ゲーム内の課題にチャレンジすることで,瞑想や呼吸法などのトレーニングが可能となり,リラクゼーションに役立つという。

 一方,国内では九州大学を中心にリハビリ用ゲームの研究開発が進められている。例えば九州大学病院とバンダイナムコグループのデイサービス「かいかや」が行った,「ワニワニパニック」などのアミューズメント機器を応用したリハビリ用ゲームを用いた検証では,シニアのバランス能力や敏捷性,歩行能力の改善が見られるという結果が得られたとのこと。
 この結果について九州大学病院とかいかやは,「ゲームが面白い」→「運動量が増える」→「繰り返しプレイするので,ゲームがうまくなり,スコアが上がる」→「さらにゲームが面白くなる」→「さらに運動量が増える」→……という好循環が生まれたとの仮説を立てたという。
 この件について清水氏は,「例えば従来のリハビリだと,同じところを行ったり来たりするだけなのでつまらないし,場合によっては苦痛。そこにゲームの手法を応用したことで,楽しんで身体を動かせるようになった」と解説していた。

 また会場では,デイサービス「ラスベガス」も紹介された。ラスベガスは,ゲームの要素を取り入れることにより,介護施設を「仕方なく行く場所」から「どうしても行きたい場所」にするというコンセプトで展開しているとのこと。
 具体的には送迎車を黒塗りにしたり,カジノ風のトレーニングを取り入れたりすることで,格好よさや面白さを前面に打ち出し,シニアの男性が抵抗なく参加できるよう配慮しているという。その結果,ラスベガスにおける1日あたりの機能トレーニング時間は,一般的な介護施設の約1.2倍を記録,また要介護度の改善および維持率や満足度なども高いそうだ。

 そうやってヘルスケアの現場にゲームの手法が採り入れられている状況の中,清水氏が代表を務めるHIKARI Labは,メンタルヘルスケア用スマートフォンゲーム「SPARX」iOS / Android)と「問題のあるシェアハウス」に関わっている。

 「SPARX」は,ニュージーランドの国家プロジェクトとしてオークランド大学の精神科医チームが開発したRPGで,科学的な心理療法である認知行動療法を学ぶことができるという。HIKARI Labは国内の版権を持っており,またローカライズを手がけている。

 その内容は,プレイヤーがヒーローとなり,ネガティブな感情の蔓延している世界を救う過程で,認知行動療法を学んでいくというものだ。
 認知行動療法とは,適応的な考え方を身につけたり,新しい行動を促したりすることによって問題解決を行う心理療法で,平たく言うと何かが起きたときに,考え方や行動を変えることにより,気分を変えてストレスを軽減する手法である。「SPARX」ではそれを7つのレベルに分けており,その中でリラクゼーション法やコミュニケーションスキル,アンガーマネジメントなどストレス軽減のセルフケア手法を,さまざまなキャラクターとのやり取りの中で学べるそうだ。

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 清水氏は「昨今では,とくに10代のメンタルヘルスケアが重要だと言われているが,彼らを医療機関に向かわせるのは非常に難しい。そこで,こうしたゲームを通じてメンタルヘルスケアが広まることに期待したい」と話していた。

世界的な医学雑誌「British Medical Journal」に,「SPARX」の論文が掲載されたことや,各種アワードを受賞したことも紹介された
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 もう1つの「問題のあるシェアハウス」は,人の心理を扱ったノベルゲームで,メンタルヘルスケアにおける一次予防として機能することや,ストレス対処スキルの向上を主な目的としている。
 ゲームでは同性同士も含めた登場人物達の恋愛ストーリーが展開されることに加え,クイズ形式で実生活に役立つヒントや心理にまつわる雑学を得られたり,随時ストレスチェックができたりする。HIKARI Labは本作に監修という形で携わっているとのこと。

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 セッションの最後には,清水氏が改めてヘルスケアとゲームの融合について言及。医療・福祉・心理サイドには,ゲームの手法を採り入れることにより,「より多くの人に予防や治療を促せる」「予防や治療の継続率が上がる」「場合によっては既存の治療法よりも高い効果がある」「利用者が前向きに楽しんで取り組むことができる」といったメリットがあるとした。
 その一方で,ゲーム側にも「新しいビジネスにつながる」「ネガティブに取られがちなゲームや関連企業のイメージを変えられる」「問題意識のあるエンジニアが実力を発揮できる機会となる」といったメリットがあるとまとめ,セッションを締めくくった。
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