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「シド・ミード展 PROGRESSIONS TYO 2019」内覧会レポート。未来的な機能美と物語性にあふれた作品の数々は今見ても新しい
「ブレードランナー」「トロン」「2010年」「ショート・サーキット」「∀ガンダム」などの作品で知られるシド・ミード氏の活動から150点が展示される同展の内覧会の模様をレポートしよう。
「シド・ミード展 PROGRESSIONS TYO 2019」は,日本では23年ぶりとなるシド・ミード氏の個展だ。ミード氏についてはもはや説明不要かもしれないが,未来的なデザインを提示することから“ビジュアル・フューチャリスト”“フューチャリスト・デザイナー”などと呼ばれることもある工業デザイナーだ。1933年生まれの氏が手がけてきたデザインは,2019年の現在から見てもなお未来的。「ブレードランナー」「トロン」「2010年」「ショート・サーキット」など,さまざまな作品で活躍しており,それらが後に与えた影響の大きさは計り知れない。「サイバータンク」「テラフォーミング」「A列車で行こう5」といった日本製ゲームや,「∀ガンダム」「YAMATO2520」などのアニメ作品にも関わっており,日本にもファンは多い。
今回の原画展は,「PROGRESSIONS」「The Movie Art」「TYO Special」「Memories Of The Future」の4セクションからなっている。内覧会では,キュレーターである松井博司氏によるプレスツアーも行われ,氏の解説のもとで作品を観賞できた。
「PROGRESSIONS」には,活動初期から現在までのミード氏自薦作品50点が展示されている。ソニーのMSX機「HiTBiT」のCMで使われた「City On A Megabeam」など,ある年齢層以上の人には懐かしく感じられるイラストも多い。
氏のイラストの特徴は,未来的かつ機能美に溢れたメカが登場しつつ,ある種の物語性が感じられるところにある。国際スポーツフェアのキーアート「Running of six Drgxx」では,6体のメカによるレースに人々が熱狂する姿が描かれている。観客の手を良く見るとモバイル端末的なデバイスが握られていて,松井氏はこうした部分にも注目してほしいと話していた。1983年にして現在のモバイル事情を予言しているようにも見え,興味深い。
「The Movie Art」は,文字通りに映画関連の展示。「ブレードランナー」のスピナーやデッカードのセダン,「2010年」のアレクセイ・レオーノフ号,「ショート・サーキット」のナンバー・ファイブ,「エイリアン2」のスラコ号に関する沢山のスケッチなど,映画を見た人の印象に残るデザインが並ぶ。
特に「ブレードランナー」は,氏のデザインワークがその後に続くサイバーパンクものの世界観を定義した感があるため,このジャンルが好きな人は必見だろう。また,「機動戦士ガンダム」のハリウッド映画化計画が持ち上がったときに描かれた「Zak’s Attack Gundam World」といった珍品もあるため,こちらにも注目だ。
アニメファンにとっての目玉となるのが「TYO Special」。こちらは「∀ガンダム」と「YAMATO2520」がフィーチャーされている。
ガンダム20周年記念作品として制作された「∀ガンダム」では,それまでになかったモビルスーツのデザインを生み出すため,ミード氏に白羽の矢が立ったが,氏のデザインがあまりに斬新だったため,富野由悠季氏をはじめとする日本側スタッフが困惑した……というエピソードが有名だ。
ここでは「∀ガンダム」「ターンX」「スモー」「フラット」「ウォドム(イラストの題は『ディアナカウンター』)」「バンディット」のデザインが展示されている。日本で考えるキャラクターものとしてのメカデザインと,ロボット兵器としての機能性を追及したミード氏のデザイン,そのすれ違いを予習したうえでデザイン画を見ると,より一層趣深いだろう。
なお,コーナーの壁面には∀ガンダムとターンXのイラストがあしらわれ,フォトスポットとなっている。特にターンXは,イラストのサイズが大きいため,“運用を続けながらパーツをかき集めて修理を繰り返し,アシンメトリー(左右非対称)になった”というデザインコンセプトが一目で理解できる。
「YAMATO2520」は「宇宙戦艦ヤマト」から300年後の世界を舞台としたアニメ。ミード氏は「YAMATO」のデザインを手がけた。会場には,CADによるYAMATOの設計図やイラスト,カラーボードなどが展示されている。壁面いっぱいに拡大されたYAMATOの設計図は迫力満点。ヤマトお馴染みの「艦長席が昇降する」ギミックも踏襲されており,男の子ならたまらないものがある。
「Memories Of The Future」のコーナーでは,松井氏がコレクションからさまざまなイラストをピックアップしている。ヘビ型のメカに乗っての探索行を描く「Jungle Crawler」は,制作段階の鉛筆画とトレース画,マーカー画と完成品が展示されている。特に制作段階についてはなかなか見られる機会がないため,意義深いといえるだろう。
内覧会では,展示会スタートを記念し,プロデューサーの渡辺 繁氏と植田益朗氏,そして松井氏によるミニトークショーも行われた。もともとは植田氏の発案でスタートしたもので,話を持ちかけられた渡辺氏は「パンドラの箱を開けるようなもので,凄く大変だぞ」と警告したものの,植田氏の熱意がまさってプロジェクトが動き始めたのだという。
今回の展示は質・量ともに充実しており,松井氏曰く,これだけのものが一堂に会することはなかなかないのだとか。植田氏は,会場で聞ける音声ガイドについての秘話も明かした。これは「∀ガンダム」の主役であるロラン・セアックを演じた朴 璐美さんによるガイドなのだが,朴さんにとってロランは初めての主役で思い入れもあるだけに,ロランの声で音声ガイドを務める気満々だったという。しかし,「∀ガンダム」の展覧会ではないということから,朴さんの希望は叶わなかったのだとのことだ。
最後に植田氏は「ミード氏への愛情でここまでこぎつけることができました。ぜひとも,生の絵が持つ迫力を感じて欲しいです。ミード氏も楽しみにしていたので,氏が住むロサンゼルスへ思いを届けたい。みなさんも,シド・ミード氏の名前にちなんで4度(シド),見るど(ミード)と4回は来てほしいです」と熱く語った。
氏の関わったゲームに関する展示はないものの,機能美溢れるデザインと独特の世界観は2019年の今なお新しい。特に絵を描く人であれば,大きな刺激となるはずだ。
「シド・ミード展 PROGRESSIONS TYO 2019」
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