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[GDC 2018]インディーズゲーム制作における大失敗は,どのようにして起こるのか。そしてどう再起すればいいのか
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印刷2018/03/21 00:00

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[GDC 2018]インディーズゲーム制作における大失敗は,どのようにして起こるのか。そしてどう再起すればいいのか

 GDCではなにかと「こんなふうに大成功しました」「これが成功の秘訣です」という話ばかりが語られがちだが,世の中に出回っている(あるいは出回っていることに気づかれもしない)インディーズゲームをよく見ると,サクセスストーリーでは覆い隠せない規模の「失敗」が起こっていることはひと目で分かる。

 GDC 2018で行われた「Failure Workshop」では,そんな失敗をしでかしただけでなく,そこから復活することに成功した2人の開発者が,失敗の原因を分析した。本稿でその模様をレポートしよう。


「ネバーギブアップ」の精神で


Stellar JockeysのHugh Monahan氏
画像集 No.001のサムネイル画像 / [GDC 2018]インディーズゲーム制作における大失敗は,どのようにして起こるのか。そしてどう再起すればいいのか
 最初に登壇したのはStellar JockeysのHugh Monahan氏だ。
 実を言うと,Monahan氏が「失敗」をネタにGDCで登壇したのは,これが初めてではない。GDC 2017で氏は「All Systems No: Learning from the Doomed Launch of 'Brigador'」という講演を行っている。5年の開発期間をかけ,アーリーアクセス版がSteamで95%のpositive ratingを叩き出した「Brigador」は,正式リリースされるや否や,大不評を持って迎えられることになったのである。

 今回,Monahan氏が改めて登壇したのは,「とてつもない失敗」を乗り越えて,2017年6月に「Brigador: Up-Armored Edition」として新バージョンをリローンチし,ここで大きな成功を得て「生き延びた」経験を伝えるためであるという。なかなかドラマチックである。

「Brigador: Up-Armored Edition」
画像集 No.002のサムネイル画像 / [GDC 2018]インディーズゲーム制作における大失敗は,どのようにして起こるのか。そしてどう再起すればいいのか

 Monahan氏は2016年に「Brigador」をリリースしたとき,自分が「燃え尽きていた」と語る。燃え尽きたのにはいくつか理由があるが,基本的には「自業自得で状況を悪化させ,しなくてもいい苦労をした」ことにあるとした。

 以下,具体的に1つずつその「やらかし」を見ていこう。

右がリリース直後の顔。燃え尽きている
画像集 No.003のサムネイル画像 / [GDC 2018]インディーズゲーム制作における大失敗は,どのようにして起こるのか。そしてどう再起すればいいのか

 最初の問題は,「期待」と「現実」のギャップである。
 期待と現実は往々にして乖離するものだが,Monahan氏によれば,「ゲームをリリースするためには,どこかの段階で期待と現実のすり合わせをしなくてはならない。そのとき,期待と現実のギャップが大きければ大きいほど,そこで起こるダメージもまた大きくなる」という。

左が期待,右が現実。ギャップが大きいほどダメージが大きい
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 また,実際の「すり合わせ」においては,期待と現実に加えて,野心が加味される。この3つが“うまくやれる”ことなど滅多にないわけで,プロジェクトを率いる人間としては大いに消耗することになる。
 ただMonahan氏は,このすり合わせにおいて,むやみに期待を下げてしまうと,それはそれで良くないことが起きると指摘する。安易な妥協はゲームの価値そのものを壊してしまうのだ。

 続いての問題は,力の配分ミスである。
 Monahan氏は「Brigadorをローンチする」ことに対して全力を注ぎ,持てる力のすべてをそこで使い果たしてしまったという。結果,ローンチ後に発生した問題に対処できるだけの余力を残せなかったというわけだ。

 3番めの問題は,経験不足である。
 Monahan氏は,「ゲーム開発を続けていくなかで,どうにもうまく行かない時期が必ず訪れるものだ,ということを知らなかった」と語る。
 そのうえで氏は,「仕事には2つのタイプがある」と指摘した。1つは「作品をより良いものにしていくこと」。もう1つは「状況を悪化させるようなことをしないこと」である。

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 Monahan氏の場合,この「うまくいかない時期」において,コミュニティと激しく衝突して(メディアに取り上げられるくらいの大炎上であった)「状況を悪化させること」をしてしまった。「他人を見下し,挑発しまくるというのは,状況を悪化させるタイプの仕事そのものだ」と氏は語る。

 この修羅場を乗り越えたMonahan氏は「ときには時間的にも空間的にも距離をおいて,作品やプロジェクトを遠くから見ることも大事」という知見を得た。そうやって落ち着いた目で作品の状況が理解できれば,正しい判断を下すこともできるようになるのである。

今もネットには炎上の跡が残る
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 そのうえで,失敗から再起する方向性としては,大きくわけて2つがあり得るという。
 1つは「良いところを抜き出して再生させる」,もう1つは「このまま最後まで押し切る」だ。
 ちなみに「Brigador」の場合は,冷静になって分析した結果,「小さなミスが重なっている状態」だったので,比較的迅速に修復し,リローンチでの成功に結び付けられたという。

 Monahan氏は松岡修造氏が「ネバーギブアップ」と叫んでいるスライド(ネットで拾ったと思われる)で講演を終えたが,一度は妙な方向に大炎上した「Brigador」が「Brigador: Up-Armored Edition」として復活したのは,燃え尽きながらも諦めなかったMonahan氏の執があってこそなのかもしれない。


第1が生存,第2が品質,第3が効率


Kitfox GamesのTanya X. Short氏
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 さて,次なる登壇者はKitfox GamesのTanya X. Short氏である。Kitfox Gamesは2017年8月に「The Shrouded Isle」をリリースし,現在「Boyfriend Dungeon」を開発中のインディーズゲームデベロッパだ。
 そんなKitfox Gamesにおいてプロデューサーを務めるTanya X. Short氏が大きな失敗をしでかしたのが,2016年3月にリリースした野心作「Moon Hunters」だ。

 ストーリーの自動生成システムを採用した協力型アクションゲームである本作は,開発が告知されるや否や,大きな注目を集めた。
 有名なゲームメディアがShort氏の「ストーリーの自動生成」理論を掲載し,氏は技術カンファレンスにも登壇した。Kickstarterでは目標金額の4倍を達成して,クラウドファンディングにありがちな“中だるみ”もほとんど発生しないという上出来ぶり。PAXやIGFといったイベントではアワードを獲得し,もはや成功は確約されたも同然だった。

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「約束された成功」の遺跡
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 だが正式にリリースされると,「Moon Hunters」はあっという間に「Bad Game」の烙印を押されてしまった。こうなると連鎖的に,「グラフィックスが駄目」「とにかく駄目」「クソゲー」という評価が並ぶことになる。
 売り上げもこの評価に追随して急落。リリース直後に売り上げが1度跳ねた後,売り上げグラフが地を這うことになってしまったのである。

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まさかの転落
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 ユーザーの不満の原因として最も大きかったのは,オンラインプレイだった。「Moon Hunters」は最大4人でのオンラインプレイが楽しめる協力型ゲームだが,実際にはまともに機能しなかったのだ。

 しかし,それは1つの「目立つ原因」でしかなかったかもしれない。Short氏は「実を言えばアーリーアクセスの段階で,不評の兆候は現れつつあった」と指摘する。アーリーアクセスに参加し,さまざまなバージョンをプレイしてきたファン(つまり,かなり「濃い」ファン)の間から「前回のバージョンはイマイチだったんだけど,今回のバージョンはどうよ?」といった声が生じていたというのだ。

 この失敗の原因について,Short氏は「根本には,とにかく早くリリースしようと焦りすぎたことがある」と語る。となると「なぜそんなに焦ってリリースしたのか」という話になるが,その理由として氏は6つの理由を挙げた。

 1つめ。さまざまな成功を収めたShort氏には,いわゆる「アンチ」も生まれていた。そして「あいつには無理だ」的な悪意に対して「そんなことはない」という証明がしたくて,焦ってしまったという。やんぬるかな,陰湿な悪意が実を結んでしまったパターンである。

 2つめ。1つめの裏返しとして,Short氏にはプロデューサーとしての手腕に自信があったという。「アンチをギャフンと言わせたい」という思いと「私ならできる」という思いが合体する――確かに,あまり良い結果にはなりそうにない。

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 3つめ。当時,開発チームのやる気が低下していたという。そしてShort氏は「自分はチアリーダータイプなので,みんなを応援して励ましたかった」と振り返った。「あなたたちならできる」というやつである。
 ちなみにこの「応援して士気を高める」というやり方について,Short氏は,「駄目なゲームを見て『やったぜ』と思う人はいない」と反省しているという。チームの士気をどんなに高めたところで,クソゲーをリリースしてしまったら,チームの士気など消し飛んでしまうのである。

 4つめ。Short氏は,インディーズゲーム業界の競争の厳しさに対して,敏感になりすぎていたという。早くリリースしないと,似たようなコンセプトを持った作品に“売り抜け”られてしまうかもしれないという懸念は,独自性を大きなセールスポイントとするインディーズゲームとは切っても切れない。

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 5つめ。オンラインモードを過小評価していたこと。Short氏的にはオンラインモードはオマケのようなもので,開発の優先度は低かったという。このため,アーリーアクセスのプレイヤーから「オンラインモードに問題があるのでは」という感想が上がってきていても,解決すべき問題としてのプライオリティは低かった。

 6つめ。ほかの請負仕事が待ち構えていた。売れないと収入にならない自社開発のインディーズゲームに比べ,請負仕事は原則として確実に一定の金になる。スタジオの維持を考えると,「Moon Hunters」はさっさとリリースして,請負仕事に手を回したかったというのが正直なところだったようだ。

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 さて,このようにして残念なローンチとなった「Moon Hunters」だが,評価は徐々に回復していった。大きな転機としては無料DLCの配布があったという(ある意味でBrigadorのリローンチにも通じるものがある)。
 また,ほかのプラットフォーム(PS4やSwitchなど)でリリースするたびに,Steamでの売り上げも伸びるという「ヘイロー効果」が明らかに観測されたそうだ。これもまた,問題点を克服した状況においては,プラスに機能する。

ヘイロー効果による「跳ね」が見える
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 この大きな失敗と,そこからの回復を経て,Short氏は2つのことを学んだという。
 1つは,ゲーム制作は「脱線」することがあり得るということ。これはMonahan氏が示した「ゲーム制作には何もかもうまく行かなくなる時期がある」という知見と一致する。

 もう1つは,スタジオを運営していくにあたっての優先順位がはっきりと理解できた,ということ。それまで彼女は「第1が生存,第2が効率? 第3が品質?」くらいの迷いがあったそうだが,「Moon Hunters」以降は「第1が生存,第2が品質,第3が効率」と断言できるようになったという。


何をやってもうまく行かなくなるときはある


 個人制作であっても,またゲームでなくとも,長期間かけて何かを作ったことがある人であれば,彼らが示した「何もかもうまく行かなくなる時期がある」という言葉には強くうなずけるのではないだろうか。そこにおいて「状況を悪化させないのは大事な仕事」というMonahan氏の言葉は,実に強いアドバイスであるように感じた。

 また,Short氏は「新作となる『Boyfriend Dungeon』は,『Moon Hunters』の失敗を糧にして作っている」と語る。こちらも注目タイトルとなっているだけに,リリースを心待ちにしたいところだ。

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