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「実験の失敗を恐れてはいけない」。Googleのノア・ファルシュタイン氏が,VR対応ゲームの開発者に7つの心得を伝授
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印刷2016/11/04 14:56

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「実験の失敗を恐れてはいけない」。Googleのノア・ファルシュタイン氏が,VR対応ゲームの開発者に7つの心得を伝授

 北米時間2016年11月2日〜3日,カリフォルニア州サンフランシスコのPark Central Hotelで,ゲーム開発者向けのイベント「Virtual Reality Developers Conference」(VRDC)が開催された。
 ここでは,Googleでチーフゲームデザイナーを務めるノア・ファルシュタイン(Noah Falstein)氏「7 Ways VR Confounds Design Expectations」と題した講演を行い,VR(仮想現実)に対応したゲームの開発者が肝に銘じておくべき7つのポイントについて紹介した。

Googleのチームゲームデザイナー,ノア・ファルシュタイン氏。アメリカのゲーム業界では,かなり知られた人物でもある
画像集 No.001のサムネイル画像 / 「実験の失敗を恐れてはいけない」。Googleのノア・ファルシュタイン氏が,VR対応ゲームの開発者に7つの心得を伝授
 1980年にゲーム業界に入り,「Sinister」(1982年)などのアーケードゲーム機のデザインに関わったファルシュタイン氏。The 3DO CompanyやDreamworks Interactiveなどに在籍した経験もあり,Google入社以前はコンサルタントとして活動していたベテラン業界人だ。
 Lucasfilm Games(旧LucasArts Entertainment)時代には,日本の昔からのゲーマーにもおなじみの「Koronis Rift」(1985年)や「Indiana Jones and the Fate of Atlantis」(1992年)などの開発を手がけており,GDCやVRGCとつながりの深いIGDA(Independent Game Developers Association)の運営にも早くから関わってきた。1997年〜1999年には,IGDAの初代会長に就任している。

 そんなファルシュタイン氏は,上記のように2013年以降,Googleのチーフゲームデザイナーとして活躍している。その頃のGoogleは,「Android Play Studio」という部門を設立し,ゲーム開発やパブリッシングに手を広げる予定だったが,現在のところ同氏は,Googleの新たなプラットフォームである「Daydream」「Tango」に対応したタイトルの企画やアドバイスを総括する立場にあるという。

 ファルシュタイン氏は,「人類は何万年前も昔から焚火を囲んで,過去の偉人や伝説を話したり,アルタミラ壁画からギリシャ演劇などのさまざまな表現をしてきました」と述べ,「これに比べると,私の30年のゲーム業界のキャリアなんて大したことはありません」と講演を始めた。
 ファルシュタイン氏によれば,バーチャルリアリティという言葉は1986年,アメリカのビジュアルアーティストであり,思想家でもあるジャロン・ラニアー(Jaron Lanier)氏によって提唱された言葉であり,それ以前から,人類は長らく仮想現実を体験するために工夫をこらして来たというのだ。

ファルシュタイン氏の代表作でもある「Indiana Jones and the Fate of Atlantis」には,「Maniac Mansion」で培われたカットシーン技法が継承されている
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 人間は,お互いに「リアリティ」を分かち合って,自分だけでは知り得ない経験を共有することで進歩してきたという歴史を持つ。壁画であれ演劇であれ,技術の変化によって表現形式は異なるものの,他人の経験を追体験したいという欲求は常にあり,その技術を探ってきた。VR対応のヘッドマウントディスプレイという新たなメディアは,そうした人類の長い探求における最新の成果というわけだ。

 1988年にリリースされたアドベンチャー,「Maniac Mansion」では,おそらくゲーム初となる「カットシーン」を用い,映画の手法をゲームに応用することに成功した。しかし,従来のメディアの方法論を新たなメディアに応用するのは現実的には難しく,つまり,これまでのゲーム作りの経験が,VRゲーム開発に必ずしも活かせるわけではないのだ。だからこそ,VRやARを長年にわたって研究してきたGoogleのノウハウを,会場に集まったVR対応ゲームの開発者と共有して,認知してほしいというのが,ファルシュタイン氏の講演の骨子となる。
 以下にファルシュタイン氏が挙げた7つのポイントを,紹介された順に並べてみよう。

「Virtual Reality Developers Conference」公式サイト



1.ビジュアル表現


 VR対応ゲームのデザインにおいて,とくに注意を払わなければならないのがグラフィックスだ。「被写界深度」(Depth of Field),「オクルージョン」(Occlusion),「視差」(Parallax),そして「反射」(Reflection)など,重要なグラフィックス手法はさまざまあるが,これらをうまく調整してプロセッサの負担を軽減しないと映像の不具合が発生し,それが「VR酔い」の原因になってしまう。

 ファルシュタイン氏は,少なくともハードウェアの観点からは,こうした問題は解消されつつあるとし,ソフト面では,「Daydream」におけるOSレベルの改良点を紹介した。
 これは,頭を回したときのスピードに画像の表示がついてこれないことで発生する“シャッタリング”の軽減で,Googleの簡易VRデバイス「Cardboard」では,頭の移動を測定するヘッドトラッキングに80ミリ秒ほどかかっていたのでシャッタリングを誘発する大きな理由になっていたが,「Daydream」がサポートする「Android 7.0 Nougat」では20ミリ秒台にまでに減っている。これにより,頭を頻繁に動かしてもカクつくことはなくなったという。

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2.プレゼンス


 ブレゼンスとは,VRデバイスのユーザーが,まるで自分がそこにいるかのような感覚を得られることを意味し,このプレゼンスの大きさがVRの大きな特性でもある。
 ファルシュタイン氏によれば,これは,ValveでVRの研究を行っていた頃のマイケル・アブラッシュ(Michael Abrash)氏が初めて提唱した概念で,アブラッシュ氏が現在,Oculus VRのチーフサイエンティストを務めていることもあり,RiftSteamVR関連の開発者がしばしば,マントラのように唱えるワードでもある。

 このプレゼンスについてアブラッシュ氏は,「新しいメディアが登場したときには,必ずといっていいほど論議されること」とし,しかし,このプレゼンスをことさらに説明する必要はないと述べた。アブラッシュ氏が例に挙げたのが,1947年に公開された映画「Lady in the Lake」で,主人公がその場所にいることを表現するため,映画としては初めて一人称視点が採用された。映画を見た批評家の多くは,その表現を批判したが,その一方で観客はその見慣れない視点をごくあっさり受け入れたという。
 「語りすぎる必要はなく,VRがなんなのかを見せるだけで,ユーザーは理解してくれる」とアブラッシュ氏は言う。


3.じっと見つめること


 ファルシュタイン氏が来場者に見せたのは,ふくろうと若い女性がこちらをじっと見つめているという画像だ。「誰かに見つめられてということは,それがたとえ人間ではないとしても,見つめられている側の心に何らかの感情を起こさせるものです」とファルシュタイン氏は語る。

 そういえば,筆者の知り合いが「サマーレッスン」の体験デモをプレイしたとき,妙な照れを感じて,女の子と目を合わせることができなかったと,笑いながら語っていたが,ファルシュタイン氏も見つめられることで何らかの感情が生まれるのは,脳神経学の観点からも証明されていると述べる。したがって,エミー賞を受賞したVR対応のショートムービー,「Henry」のキャラクター達が,プレイヤーと目線があったときにニコっとほほ笑んだりすることには大きな意味があるという。
 ゲーム開発では,こうした特性を巧みに活用することも必要になるだろう。

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4.没入感


 没入感は,すでに述べられたグラフィックスのリアリティ,自分がその世界の中にいると感じてしまうプレゼンス,そしてキャラクターがこちらをじっと見つめることなどで表現される。ファルシュタイン氏は,じっと見つめることの話を継いで,「とくに,VRは恐怖心と相性が良いようです」とし,得体の知れないものに見られているという感覚から起こる不安感は大きく,VR世界のプレイヤーは,背後から聞こえる音にも敏感に反応するようになるという。

 Googleは,2015年のクリスマスに合わせて360°自由にカメラを動かせる「360 Google Spotlight Story: Special Delivery」というショートムービーを公開した。ヒッチコック監督の「裏窓」と,コメディ映画シリーズ「ピンク・パンサー」をモチーフにしているが,メインストーリーが進行していない場所でも,視線をめぐらせば何かのイベントが起こっており,こうした細かい描写を重ねることでプレイヤーの没入性を高めることもできるとファルシュタイン氏は語った。



5.インタフェース


 Cardboard向けのゲームには標準とすべきコントローラがなかったため,インタフェースのデザインは汎用的にならざるを得なかった,とファルシュタイン氏。コントローラのボタン配列が頭にすっかり入っているコアゲーマーと異なり,カジュアルなゲーマーが操作に手間取らないためにも,インタフェースは重要な要素になるが,「Daydream」向けのコントローラが発表されたこともあって,今後,より機能的な操作が可能になると述べた。

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6.集中


 ファルシュタイン氏は,VR対応ゲームのデザインで念頭に置くべき点として,「自由にいろいろな場所を見られるために,開発者が望むことにプレイヤーが集中してくれない」という問題があるという。
 だからといって,プレイヤーの自由を奪って視点を強制すると,それによってVR酔いが発生する可能性がある。ファルシュタイン氏は「プレイヤーが,こちらの望むことをやらない」という点を理解したうえで,うまくデザインする必要があるとし,光や音を使った誘導を開発者に勧めていた。


7.実験


 隣の部屋からは終了を告げる拍手の音も聞こえてくる中,早口でまとめに入るファルシュタイン氏は,「皆さんはゲーム開発者であると同時に,サイエンティストでもあるのです。1980年代が興味深かったのは,ゲームプラットフォームが多様化して,さまざまな実験ができたからであり,その状況はVRやARが登場してきた現在と非常に似ています。皆さんが実験を繰り返し,その結果をほかの開発者と共有し,何がうまくいったのか,何が失敗したのかを率直に話し合うべきです」と話した。

 そして,「脳神経科学など,ゲーム開発者がこれまで気にしたこともなかったことをしっかり学び,人間がVR世界をどのように体験し,どのようまプロセスが脳内で起きているのかを,我々の手で調べましょう。実験の失敗を恐れてはいけません。VRと格闘し,また来年ここに帰ってきて,その成果をみんなと分かち合いましょう」と講演を締めくくった。

人類の仮想現実への欲求は,長老が焚火を前に伝承を語る時代から続いていると語る,ファルシュタイン氏
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「Virtual Reality Developers Conference」公式サイト

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