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パナソニックのFFXIV推奨サウンドバー「SC-HTB01」で,スクエニのサウンドチームは何を監修したのか。祖堅正慶氏ら両社のキーパーソンに話を聞く
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印刷2019/02/28 12:30

インタビュー

パナソニックのFFXIV推奨サウンドバー「SC-HTB01」で,スクエニのサウンドチームは何を監修したのか。祖堅正慶氏ら両社のキーパーソンに話を聞く

 2019年1月25日,パナソニックがサウンドバーの新製品「SC-HTB01」を発売した。「ファイナルファンタジーXIV」(PC / Mac / PlayStation 4,以下 FFXIV)の推奨認定を取得しているだけでなく,スクウェア・エニックスのFFXIVサウンドチームが音づくりの監修を行っているという製品だ。

SC-HTB01。パナソニックは「シアターバー」と呼んでいるが,一般に言うサウンドバーの新製品である
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 SC-HTB01は40mm径のフルレンジスピーカー2基,14mm径のトゥイーター2基,低域の再生能力を高めるための80mm径サブウーファ1基と80mm径パッシブラジエータ2基を,サウンドバーとしてはかなり小振りな公称430(W)×130(D)×52(H)mmの筐体に詰め込んだ,2.1ch構成の製品である。
 3Dサウンド技術としてはDolby Laboratories(以下,Dolby)の「Dolby Atmos」およびDTSの「DTS:X」「DTS Virtual:X」に対応する。

 そんなSC-HTB01だが,スクウェア・エニックスとパナソニックの協力で,いったいどんな製品に仕上がっているのだろうか。今回はスクウェア・エニックスの祖堅正慶(そけんまさよし)氏と絹谷 剛(きぬやごう)氏,パナソニックの岡﨑暢丈(おかざきのぶたけ)氏と滝澤拓斗(たきざわたくと)氏,秋本正仁(あきもとまさひと)氏に話を聞くことができたので,その内容をお伝えしたい。

左から順にスクウェア・エニックスの絹谷 剛氏,祖堅正慶氏,パナソニック アプライアンス社の岡﨑暢丈氏,滝澤拓斗氏,秋本正仁氏
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パナソニックが「FFXIV推奨サウンドバー」を世に出すまで


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まずは,SC-HTB01へどのように関わっているのか,順に聞かせてください。

祖堅正慶氏(スクウェア・エニックス サウンドディレクター)。これまでにロード オブ ヴァーミリオンシリーズやナナシ ノ ゲエムシリーズなど,数多くのゲームサウンド制作に携わる。FFXIVでは作曲,効果音など,音に関わるすべてを担当している
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祖堅正慶氏:
 スクウェア・エニックスの祖堅と申します。FFXIVでサウンドディレクターをやらせてもらっています。
 今回のアライアンスでは,パナソニックさんのほうから「なかなか面白いサウンドバーができたからゲームでも活かせないか」というお話を頂戴しまして,一度試聴会を開いたんですね。
 その結果として,「ゲームに特化するのであれば,ちょっとチューンナップが必要なんじゃないか」というお話をさせていただいて,「僕達が担当しているFFXIVに最適な音楽空間の再現は可能ですか」と伺ったところ,「ではその実現を中心にいろいろやっていきましょう」というお話になりまして,一緒に開発をさせていただく運びとなりました。

絹谷 剛氏:
 スクウェア・エニックスの絹谷と申します。FFXIVでは効果音を担当しておりまして,今回は効果音側の視点で,祖堅と一緒にサウンドバーの検証であったり,プリセットについて設定を煮詰めていったりというところで携わらせてもらっています。

岡﨑暢丈氏(パナソニック アプライアンス社 ホームエンターテインメント事業部 ビジュアル・ネットワークビジネスユニット 商品技術部 ハード設計三課 係長)
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岡﨑暢丈氏:
 パナソニックの岡﨑と申します。SC-HTB01の開発リーダーを務めております。
 以前に(Blu-rayレコーダー製品である)ディーガのオプション品という扱いで,「ディーガスピーカー」という,テレビの下に置いて使うスピーカーを出させていただいたことがあるのですが,実際に購入された方の中にはPC用ディスプレイの下に置いて使っている方もいらっしゃったんですね。
 それで「PC用途での訴求はできないか」というのを企画段階から社内で話しているなかで,eスポーツの盛り上がりがありまして,「ゲームは確かに可能性があるよね。ゲームに向いたスピーカーもやりたいよね」という方向に進んでいきました。

4Gamer:
 ただ,パナソニックさんってこれまであまりゲーム向けの製品は作ってきませんでしたよね。

岡﨑暢丈氏:
 そうなんです。私達(パナソニック アプライアンス社)は「ゲーム向けの機器」を作ったことありません。ですので,「ゲームの機能を盛り込むために何をしたらいいのか」から考えていたんですが,あるとき,スクウェア・エニックスさんとお会いする機会があって,まさにそれが開発のスタートになった感じです。

滝澤拓斗氏(パナソニック アプライアンス社 ホームエンターテインメント事業部 ビジュアル・ネットワークビジネスユニット 商品技術部 外装設計二課 主任技師)
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滝澤拓斗氏:
 パナソニックの滝澤と申します。私は音響設定を担当しておりまして,SC-HTB01で言いますと,「スピーカーの構成をどうするか」といったところから,筐体の設計,音のチューニング周りまで担当しております。
 スクウェア・エニックスさんとのコラボにあたっては,先ほど祖堅さんがおっしゃった試聴会や,サンプルのやり取りなどを通して,お二人を含むサウンドチームの皆さんから頂戴したコメントを基にした音の調整を行うというところも私が担当しています。

秋本正仁氏:
 パナソニックの秋本です。私は岡﨑,滝澤の技術メンバーとは少し違う立場から今回のプロジェクトに関わっております。たとえば,SC-HTB01に「ゲーム」モードを実装するとして,そこに市場性はあるのか? という疑問を呈されたとき,(会社に対して)「あります」と担保したり,もう1人のスタッフと一緒に,いろいろなところを回りながら,スクウェア・エニックスさんを紹介いただくまで話を持って行ったりというところで関わっています。

4Gamer:
 ちなみに,開発のスタート自体はいつ頃だったんでしょうか。

岡﨑暢丈氏:
 実際に開発がスタートしたのは2017年の秋くらいからですね。もともとディーガスピーカー(という基礎)もありましたから,そこに3Dサラウンド関係の技術を入れることで,PC用途も含めて何かできないかというのがスタート地点です。

4Gamer:
 先ほどのお話からすると,その時点ではまだゲームのゲの字もなかった?

岡﨑暢丈氏:
 ありませんでした。
 ただ,開発途上においてDolby AtmosやDTS:Xといった最新のサラウンド技術が規格化されて,それがソフトウェア実装されつつあるタイミングだったので,「そういったのを全部詰め込んで高機能なものを作れば,何か訴求できるんじゃないか」というのはありましたね。

4Gamer:
 「ゲーム」というのはどういう文脈で出てきたんでしょう。

岡﨑暢丈氏:
 まさにDolby Atmosを導入するところで,Dolbyさんと情報交換をしていく中で,でしたね。「ゲームでもDolby Atmos対応のものが出てきてますよ」「最近はサラウンドに力を入れているゲーム開発会社さんが増えてきましたよ」といった話を聞いて,それならゲーム(市場)に向けて製品を出せたらいいな,と。

4Gamer:
 それで秋本さん達が動いたと。

岡﨑暢丈氏:
 そうなります。最初にスクウェア・エニックスさんと打ち合わせさせていただいたのが2018年の春ですね。

秋本正仁氏:
 なので,そこから今日まで1年は経っていない,くらいです。

4Gamer:
 ただ,先ほど岡﨑さんはeスポーツのお話をされていましたよね。そうであればeスポーツ系タイトルに向けた最適化を真っ先に考えるのが普通ではないかと思ってしまうのですが,そこであえてFFXIVだったのはどういう理由なのでしょうか。

岡﨑暢丈氏:
 そもそも,(スクウェア・エニックスに話を持っていく以前の段階で)サラウンドに関する技術をお持ちのDolbyさんとはいろいろお話しをさせていただいていたんです。
 その中で,あるときスクウェア・エニックスさんとお話しする機会をいただけたので,試作機をお見せして,「こういった技術があるんですけどどうでしょう」と提案差し上げたという。

秋本正仁氏(パナソニック アプライアンス社 コンシューマーマーケティングジャパン本部 AVC商品部 ホームエンターテインメント・メディア商品課 主務)
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秋本正仁氏:
 そのときに祖堅さん達から「ゲームに適した音づくり」について教えていただいたんです。しかも「これこれこういう音づくりができるのであればFFXIVの推奨認定もできますよ」というお話しまでいただけたんですね。言うまでもなくファイナルファンタジーはビッグコンテンツですから,我々としてはお断りする理由など一切ないわけです。

 ですので,FFXIVありきというのではなく,SC-HTB01でゲームに向いた音づくりをしようとしていたところで,スクウェア・エニックスさんから本当にありがたいご提案をいただいた,というのが経緯になります。

4Gamer:
 それで「試聴会」があったとのことですが,スクウェア・エニックスさんとしてのファーストインプレッションはどんな感じだったんでしょうか。

祖堅正慶氏:
 まず,サウンドバーってもっと大きいイメージだったんですけど,すごくコンパクトにまとまっているなと。
 しかも(外部のサブウーファなしに重低音も出力できるよう)ベースマネージメントも入っていて,これ1個で全部いけますっていうところは,昨今のゲームシーンに対しても,すごく最適化できているというのが第一印象でした。

 ホームシアターってなると,導入部分でどうしても「あれをつないでこれをつないで」とか「リアスピーカーを結線しなきゃ。でも置き場所がない」とか,いろいろな問題が出てくるものなんですが,(SC-HTB01は)そこをクリアできているじゃないですか。

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4Gamer:
 HDMI入力が前提のサウンドバーだと,確かに接続は非常にシンプルで済みますよね。

祖堅正慶氏:
 ええ。で,さらに言うと,以前,ゲームはリビングで遊ぶものだったのに対し,現在はパーソナルな環境で遊ぶ時代というか,オンラインでつながって大人数で遊ぶ時代になっていますから,ゲームをプレイする環境自体も昔とは違うわけですね。なので最近のトレンドとしては,個人にとって最高の映像空間や音響空間に没頭してプレイしたいという考えが主流になってきています。

 このとき,昔ながらのホームシアターシステムだと巨大すぎて,パーソナライズ化がすごく難しかったんですが,SC-HTB01であればパーソナルな空間の中でコンパクトに設置できて,接続も簡単に行える。ゲームを前提とした場合に,ゲーマーがとっつきやすいハードウェアだと思うんですよ。

4Gamer:
 一方で,これをどうゲームに最適化するかというのが課題になったと思いますが,試聴会の時点で方向性は見えていたんですか。

祖堅正慶氏:
 試聴会の時点で「ゲームモードを実装したい」というお話自体はいただきましたけれど,最初に聞いたのはスタンダードな,「Dolby Atmosはこう聞こえます」という設定でした。試聴用の音源も持ってきていただきましたが,ゲーム機をつないだときにどう聞こえるか,といったところまでは,その時点では突っ込んでテストできていませんね。

4Gamer:
 となると,実際に方向性が見えたのはその後ですか。

祖堅正慶氏:
 ええ。僕達としてはゲームを動かしたときに「空間がどれくらい広がるのか」というのが最大の関心事項でした。そこで,パナソニックさんから試作機をお借りしたり,実際に来社いただいてお話をしたりしながら,「僕達の考えている空間設計とは若干ズレていますから,そこを補正していきましょう」ということになった次第です。
 SC-HTB01の筐体が得意としている「空間の表現の仕方」に,僕達の側でどうアプローチすればいいのかなっていうところを,そこから密に進めていった感じですね。

4Gamer:
 SC-HTB01ではゲームモードとして3つのプリセットがありますね。FFXIVに最適化した「RPGモード」と,FPSやTPS向けの「FPSモード」,そして「ボイス強調モード」の3つですが,それが協力の成果だと。

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祖堅正慶氏:
 そもそも,1つのモードですべてのゲームに対応できるかと言えば,そんなことないじゃないですか。
 僕達はFFXIVの開発者ですが,同時にゲーマーです。そしてゲーマーとしては「1つのゲームモード」では全然足りない。最低でもあと2つ,合計3つくらいはモードを追加させてくれないかとお願いしました。
 パナソニックさんからは「そんなに要ります?」「1つにはならないものですか」などというコメントもいただきましたが(笑)。

岡﨑暢丈氏:
 (笑)。
 正直にお話ししますが,我々としては本当に,「ゲームモードっていうモード」を作るところまでしか決めていなかったんです。そこで祖堅さん達とお話しをさせていただいて,「いや1つじゃ無理ですよ。ゲームっていろいろなジャンルがあるんですから」と伺って。

4Gamer:
 RPGとFPSって全然別物ですしねえ。

祖堅正慶氏:
 そうなんです。僕達ゲーマーはたぶんそれを言われなくても知っているんです。だけども,(ハードウェア)メーカーさんだと,ゲームは1個でいいんじゃないっていう意見のほうが当たり前だったりします。
 でも,そうじゃないですよっていう,ここはもう文化の違いを乗り越えるところが始まりでしたね。

4Gamer:
 初期の,「Dolby Surroundでゲームだ!」って言い始めた頃とかは,ただひたすら残響音だけ大きくて,これでどうしろっていうのはありましたよね。

絹谷 剛氏:
 まあ,(大多数の製品では)いまも状況はあんまり変わってないですが(笑)。

祖堅正慶氏:
 いままで「ミュージックモード」「シネマモード」ぐらいしかなかったところに「ゲームモード」が加わる。しかもそのゲームモードが適当な感じではなく,しっかりと特性に違いがあるというのはゲーマーにとってすごく分かりやすいことだと思うので,そこはかなり無理くり(笑),お願いしたところですね。

岡﨑暢丈氏:
 幸いにして,素地になるスピーカーの性能はかなりレベルの高いものになっていますが,それを「どう作り込むか」というのが重要なんです。弊社の中でも誰がアレンジするかによって大きく変わってくるくらいですが,そこに祖堅さんや絹谷さんに入っていただいて,ゲームに適した音づくりを実現してくことになった次第ですね。

4Gamer:
 最小限,RPGモードとFPSモードの2つあればなんとかなりそうに思うのですが,そこをあえて「3つ」とした理由は何でしょうか。

祖堅正慶氏:
 RPGモードは音に包まれる。FPSは音の情報を拾う。それとは別に,昨今はキャラクターもののゲームがすごく多くなっています。弊社もそういうタイトルを多く開発していますし。
 あと,スマートフォンでゲームをプレイする人もたくさんいらっしゃいますので,Bluetoothでつないだときにボイスを明瞭に聞き取れるモードはやっぱり必要だろうということで,提案させていただきました。

4Gamer:
 そういう経緯だったんですね。となると,一部のAVアンプなどでシアターモードとは別に用意されているアニメーションモードみたいなものに近い感じでしょうか,ボイス強調モードは。

祖堅正慶氏:
 そうですね。ですのでアニメを観るときにボイス強調モードを使うっていうのも全然アリだと思います。


明確に方向性の異なる,3つのゲームモード


4Gamer:
 ではここからは,実際にどのように最適化できているのか,デモを交えて聞かせていただければと思います。

絹谷 剛氏(スクウェア・エニックス サウンドデザイン担当)。FFXIVのサウンドデザインを担当する。別途モバイルプラットフォーム向けタイトルにおいてサウンドディレクターやサウンドデザイナーを務める傍ら,教育機関やゲームイベントなどでの講演も行っている
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絹谷 剛氏:
 まず環境音の話をさせていただくと,晴れたシーンでは,前から後ろから木々のざわめきが聞こえます。ポイントポイントに環境音を配置して,それがプレイヤーキャラクターを取り囲む表現を行っているわけですね。

4Gamer:
 はい。

絹谷 剛氏:
 (FFXIVのようなMMORPGを)長時間プレイするにあたって,没入感という部分を自分達はすごく大事に考えています。現実ではないこの世界の中にいるかのように錯覚させる,それを「没入感」と呼んでいますが,(SC-HTB01の)RPGモードでは,その没入感の部分をどれだけフォローできるかという部分に重点を置いて調整しています。

4Gamer:
 音に包まれるような没入感というのは,サウンドバーやAVアンプの宣伝文句でよく出てきますよね。そのときはおおむねシアターモード的な動作モードが前提になりますが,それとRPGモードの違いはどこでしょう。

絹谷 剛氏:
 そもそも,映画とゲームの間には決定的な違いがあります。映画であれば決められたタイムラインで盛り上がったり静かになったりしますが,ゲームというのは常にインタラクティブなものなので,プレイ次第ではうるさい状態が続いたり,逆に環境音の中でずーっと放置されたりもするわけです。
 そういった状況に対応できるというか,周波数的なことで言えば,極端な高音や低音といった,長時間聞いているとストレスに感じてしまう部分を意図的に低減して,プレイヤーが何時間も続けてゲームをしてもそんなにストレスにならないよう気を付けて調整しています。

滝澤拓斗氏:
 スピーカーの具体的なチューニングからお話しすると,200Hz以下の低域で(シアターモードとは)違いを設けています。あと,8kHz以上の高域をなだらかに――ロールオフとまではいきませんが――していますね。ここはスクウェア・エニックスさんとかなり細かいところまで調整させていただいているので,一言ではなかなか説明しにくいですが。

祖堅正慶氏:
 補足すると,RPGモードは環境音の広がりがすごく出るように味付けしていますね。
 僕たちのゲーム側のサウンドドライバはPCでもPS4でも同じものを使っていまして,実直にマルチチャネルのソースを普通にディスクリートで,PCMで流している感じなんです。それをどうダウンミックスするかっていうのは,HDMIで接続された機器側で起こることなので。

4Gamer:
 はい。

祖堅正慶氏:
 今回(のデモで)はPS4につないでいるので7.1chのストリームが出ていますが,PCの場合ですと接続先の音響機器が2chなのか,5.1chなのか,7.1chなのかをOS側で判定できるので,ゲームの起動時に,2chだったら僕達のサウンドドライバ側でダウンミックスしてそれを2ch信号としてOSに渡して,OS側からは2ch信号を送るという挙動になっているんですね。
 Windows側のダウンミックス機能がFFXIVにはあまり適していなかったためにこういう対策をしているんですが,それくらいこだわって音響設計しています。

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 その点,SC-HTB01の場合は,ディスクリート(のマルチチャネル)で送って,なおかつバーチャルサラウンド化にあたって僕達の求めるダウンミックスまでやっていただいたっていうイメージになります。

4Gamer:
 確かにそうなりますね。

祖堅正慶氏:
 環境音もサラウンドですべて作ってあるので,ディスクリート(チャネル)ごとに違う音がずっと流れるようになってます。ゲームなので,タイムラインベースで語れないわけです。

 それと,今プレイヤーキャラクターが広い空間にいるのか狭い空間にいるのかっていう「エアーの成分」をFFXIVではふんだんに取り入れています。そのエアーの成分が広いか狭いかで,いま閉所にいるのか開けたところにいるのかをサウンドで表現しているんですが,それを再現できるよう,パナソニックさんにはチューンしてもらっています。

4Gamer:
 そこは係数設定とか,そんな感じで追い込んでいった感じですか。

滝澤拓斗氏:
 そうですね。「最初は全然ダメだったけども,1回変えたらかなりよくなった」ということは多かったです。

祖堅正慶氏:
 いま思えば,けっこうワガママ言っちゃった気はします。「ちょっとこれじゃダメです」みたいのをかなり繰り返したので,嫌われたかなって(笑)。

4Gamer:
 そういうところはFFXIVのサウンド制作にあたってずっとこだわってきた部分だと思いますが,今回のSC-HTB01における到達度というのはどれくらいだと思いますか。

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祖堅正慶氏:
 毎回毎回,その時点が完成形だと考えているので,「いまある最新技術」を活かしたものとしては100点だと思います。これを契機にして,未来に向けてどんどん没入感が増すようにしていければいいですよね。
 そもそも,現実ではない世界で3Dをどう表現するかという話になると,スピーカーの数を増やせば増やすほどいいわけですけど,いまこうして1台ぽんと置けば,これだけ音に包まれる環境を再現できるというのは,正直,SC-HTB01以外にはちょっと見当たらないと思います。

4Gamer:
 確かに音を聞いてみると,(ミドルクラス以下の)サウンドバーやPC用のいわゆるマルチメディアスピーカーにありがちな,ガリガリした嫌な音はしませんね。耳に優しく,かといって音がふんわりしすぎるきらいもない。「キリッとしていて定位も把握しやすく,それでいて聴き疲れしにくい」印象があります。
 意外なのは,けっこう耳の後ろまで音が回ることです。高域を少し抑えてあるんだろうというのはある程度予想できていましたが,その割に耳の後ろ、正面から120度近くまで来るんですよね。良い意味でサウンドバーっぽくない。海外のサウンドバーはもっとプレゼンス(※)ゴリゴリですよ。

※2kHz〜4kHz付近の,音の存在感を左右する帯域。ここの強さが適切だと,ぱりっとした,心地よい音に聞こえる。逆に強すぎたり弱すぎたりすると,とたんに不快になる。

祖堅正慶氏:
 そういうモードもありますよ。ミュージックモードがまさにそんな感じです。

4Gamer:
 確かにそういうモードも必要ですよね。選べるのが重要だと。
 さて,次にFPSモードですが,これはFFXIVと同じようなやり方でチューンしたんでしょうか。要するに,「具体的なゲームタイトルがあって,それに最適化するようなチューンを行ったのか」という意味ですが。

祖堅正慶氏:
 言っちゃっていいのかな。(主に)「Call of Duty: Black Ops 4」(以下,BO4)でやってました(笑)。

4Gamer:
 BO4は,FPSの中ではやや残響の多い,リッチなサウンドのタイトルですよね。基本的には1本に絞ったということですか。

祖堅正慶氏:
 いや,そうでもないです。「Overwatch」とかでも(調整は)やっていますね。

4Gamer:
 それらのタイトルをチョイスした理由というのは何でしょう。

祖堅正慶氏:
 僕達は会社でFFXIVを作ったり遊んだりしていますが,自宅に帰ると,FFXIVだけでなく,FPSをプレイすることも多いんですね,しかも同僚と。そういうときに,「こういった音だったら情報が拾いやすいよね」っていうのは割と常日頃から話題に挙がっているんです。

4Gamer:
 ああ,主に自宅でプレイしているタイトルだったわけですか。

祖堅正慶氏:
 ご存じのように,僕達はヘッドセットでもかなりの数をFFXIVの推奨周辺機器にさせていただいていますが,そのヘッドセットを使って,「これはこういうところが弱いから(FPSでは)難しいよね」とか「これはここが(FPS向けで)いいよね」という話にはよくなるんですよ。そういうノウハウは今回のFPSモードにも活きているんじゃないかなと思います。

4Gamer:
 とはいえ,耳のすぐ近くで音が鳴るヘッドセットやヘッドフォンに対し,サウンドバーは一定の距離の先から音が聞こえるわけで,音の定位情報を取得するにあたってかなり不利ではないかなとも思います。
 そのあたりのチューニングと到達点について聞かせてください。

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祖堅正慶氏:
 ゲームプレイをキャプチャして「この足音が聞こえるようにするためには,どういうチューンナップをすればいいんだろうか」っていうのを議論したりとか……。けっこう真面目にやってたね(笑)。

絹谷 剛氏:
 FPSで勝つために必要な音の情報って,ある程度限られてくると思うんですね,銃声か足音かみたいな。

4Gamer:
 ええ。

絹谷 剛氏:
 ですので,そのあたりの周波数に着目したというのが最初のアプローチでした。
 あとは,敵が右にいるのか,左にいるのか,前なのか後ろなのかという定位情報も勝つための重要な要素ですから,それを拾うため,RPGモードと比べると擬似的なサラウンドの成分は低減させたりしています。FPSプレイヤーさんは2chステレオに慣れていると思うので,そこに寄せていきました。

4Gamer:
 バーチャルサラウンドを有効化してFPSやTPSをプレイすると,フロントとリアの正面側が弱くなるような感じがあると思うんですが,そのあたりの調整はどうされたんでしょうか。

祖堅正慶氏:
 RPGモードだと前後はけっこう気にしたんですが,FPSモードでは,「視覚情報と音情報のうち,定位で最適な情報はどれか」という取捨選択をして,前後定位よりも左右定位のほうを優先したんです。どちらかというと,「定位感+足音の周波数」にフォーカスしたイメージですね。どの方向から足音がやってくるか,どの方向から銃が撃たれているかっていう。

4Gamer:
 ほう。

祖堅正慶氏:
 最終的に僕たちが行き着いたところは,FPSで索敵するとき(の行動)なんですよ。
 索敵するときって,もちろん音情報も聞きますけど,それでも敵を視認した場合は(撃つためにカメラを動かして)画面の中央に敵を持っていきますよね。敵の姿が見えない状態からエイムして敵を画面の中央に持ってくる以上,プレイヤーは「画面を振る操作」を必ず行う。そこに僕達は気付いたんです。

 つまり,FPSをプレイしていて,敵がどこにいるのか探すときに最も重要な情報は,敵が正面に来たと伝えられるものだということです。なので,敵が画面中央にいるとき,その音が最もダイナミックに伝わるよう,そこ(のチューニング)をお願いしました。

4Gamer:
 フロントチャネルの定位ということですか?

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祖堅正慶氏:
 どちらかというと,(左右のスピーカーで作る仮想的なセンター定位である)ファントムになるのかな。
 要は,画面を振ったとき,中央にある低域の音が大きく聞こえるようにしているということです。

4Gamer:
 全方位の音場を把握するのとは逆の発想なんですね。センター定位がしっかり聞こえればいいという。

祖堅正慶氏:
 キャプチャしたプレイ映像を見るとカメラを振っているんですよ。それで敵の位置を把握しているケースが非常に多かったので,FPSモードではそこを重視させてもらいました。もちろん,左右の定位も大事なんですけど。

4Gamer:
 最終的なエイムではセンターの定位こそが重要だってことですね。かなり画期的な解釈に聞こえます。

祖堅正慶氏:
 最終的に「ここにいる」っていう情報が結構ダイナミックに聞こえてくる感じになりました。

4Gamer:
 滝澤さんに伺いますが,そういうチューニングってこれまでしたことないですよね?

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滝澤拓斗氏:
 ないですないです(笑)。
 最初は「定位がはっきりすればいいんだろう」と,短絡的に低域も残響も落としてみていたんですが,試してみたら全然ダメで。最終的に,いま祖堅さんがお話しになったアイデアを入れてチューニングすることになりました。

祖堅正慶氏:
 「実際のゲームプレイをキャプチャして分析する」というのを通じて,音に対して自分達がアプローチできていなかった部分が見えたというのはありますね。

4Gamer:
 確かに,FPSを使ってサラウンドのテストをしようとすると,音源を斜め後ろ45度とか,特定の角度において,それがキチンと聞こえるかみたいなテストをしがちですよね。

祖堅正慶氏:
 そうそう。でもそれって,実際にゲームをプレイするときにはあんまり関係ないんですよ。撃つときは絶対にエイムするので。
 「どこにいる?」ってときにはやっぱりカメラを向けるんですよ。そのとき「ここにいる」というのがより分かるチューニングのほうが大事なんじゃないかと。

4Gamer:
 それは非常に面白いお話ですね。

祖堅正慶氏:
 ゲーマーの意見(笑)。

絹谷 剛氏:
 実際,サラウンドヘッドフォン(やヘッドセット)と謳われる製品で,バーチャルサラウンドの機能を使えるものは多くあると思うんですけど,FPSでそれを使ってる人ってかなり少ないと思うんですよ。

4Gamer:
 そうですね。最初は面白がっても,慣れてくるとステレオに戻るというか。

絹谷 剛氏:
 理由は簡単で,バーチャルサラウンドを有効にすると,音がぼやけるだけってのが本当に多いんです。やっぱり僕らもプレイヤーですから,そうはしたくないな,もっとくっきり定位を掴めるようにしたいなっていうのはありました。

祖堅正慶氏:
 ありがちなのが,ステレオだとすぐそこの左右で鳴っていたのが,サラウンドを有効にした途端にちょっと離れたところにいっちゃうってやつです。それだと音の情報拾えないじゃんみたいな。

4Gamer:
 いままでのFFXIV推奨ヘッドセットだとそのあたりはクリアできているんでしょうか。

祖堅正慶氏:
 というか,FPSモードを実装したこと自体,今回が初めてですよ(笑)。

4Gamer:
 ああ,そうでした(笑)。従来の推奨ヘッドセットではFFXIVのゲーム世界を表現できるけれども,今回のSC-HTB01はFPSモードで別の方向にも一歩踏み出せているということですね。

祖堅正慶氏:
 そうです。

4Gamer:
 ちなみに,FFXIVのサウンドチームとして,非FFXIVものの最適化や意見出しを求められることってそうないと思うのですが,その点はいかがですか。

祖堅正慶氏:
 そうですね。少なくともFPSに向けてチューンするというのは初めてかもしれません。アライアンス製品自体はかなり扱わせていただきましたけど,いまお話ししたとおり,FFXIV以外でもいけるようにっていうのは記憶にありません。

4Gamer:
 聞けば聞くほど,3モードでいきましょうってことになったのは大ファインプレーですね。

祖堅正慶氏:
 まぁ……迷惑をかけただけかもしれないけど(笑)。

岡﨑暢丈氏:
 いえいえ,こちらこそ工数をかけさせてしまって申し訳ありません(笑)。

4Gamer:
 最後のボイス強調モードは,いかにも日本的なゲーム向けという印象ですが,そのポイントはどんな感じでしょうか。

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祖堅正慶氏:
 ボイス強調モードは,これもまた一歩踏み込んだ内容なんですけど,キャラクターボイスを主としたゲームというか,日本ならではの,声が主役のゲームに向けたモードです。
 PCでもPS4でも,スマートフォンでもそういうゲームはたくさん出ていますので,多数出ているそれらに最適化したモードも必要じゃないかという提案をさせていただいて,実現した経緯があります。

4Gamer:
 どういう方向の調整を行っているのでしょう。基本的にボイスの帯域を持ち上げているという感じですか。

祖堅正慶氏:
 そうですね。それにプラス,気持ちよく声が聞こえるようにっていう感じです。「強調する」というより,ゲームはどうしても長時間プレイすることが多いですから,声を長時間聞き続けても疲れにくくなるような,そういう感じだと捉えていただければと思います。

滝澤拓斗氏:
 我々としては,「ボイス強調モード」と聞くと,ニュース番組のためのモードですとか,高齢者の方でも声を聞き取りやすくするモードみたいなものを想像してしまうんですが(笑),「気持ちよくボイスを聞ける」ことを狙うという大まかな方針は一緒なんですけれども,最終的な仕上がりはずいぶんと違うものになりましたね。

4Gamer:
 それはやはりFPSモードと同様に,センターのファントムにフォーカスしたチューニングなのでしょうか。

祖堅正慶氏:
 LCR(※Left, Center, Rightの略。左右とセンターで構成されるフロントスピーカーのことを指す)を弄るというよりは,周波数的な調整を多くやっていますね。

4Gamer:
 以上,3モードについて伺いましたが,総じて,非常に実用的な印象を受けます。
 ヘッドセットやヘッドフォンのメーカーだと,どうしてもワウサウンド(Wow sound,米国市場で人気の派手な音)が欲しくなっちゃうじゃないですか。この残響は頼むからやめてくれと言ってもなかなか聞いてもらえない。
 そうかと思えば,「敵を認識したいんでしょ? じゃあプレゼンスをドカンと上げようよ」って,それ耳が痛いんですけど,みたいな方向に行ってしまったり。

 その点,今回のチューニングは,説明を聞けば聞くほど世界初な感じがします。

祖堅正慶氏:
 ゲーマーの意見を全面的に取り入れてくださった,パナソニックさんの度量の大きさゆえでしょうか(笑)。

岡﨑暢丈氏:
 音の作り方とか調整の技術を持ったうえで,良くも悪くも(「ゲーム」に対して)僕らはまっさらの状態だった,そういう意味では本当によい出会いだったように思います。
 というか,こんなに細かくご指導いただけるとは僕らも思ってなかったんですよ。本当にすごく勉強になりまして,とても大きな財産になっていますね。


何かのバリエーションモデルではなく,新規開発となるSC-HTB01。遅延は「問題なし」


4Gamer:
 ここからは少し,SC-HTB01というハードウェアそのもののお話しを聞かせていただければと思います。
 パナソニックさんはそれこそかなり初期の段階でDTS Headphone:X対応を謳うヘッドフォンを出されたりとかしていましたから,ことゲームに関して言えば,たとえばDTS Headphone:X 2.0対応のデコーダとヘッドフォンの組み合わせを出す,みたいなこともできたと思うんです。なぜ最終的にサウンドバーということになったのでしょうか。

画像集 No.016のサムネイル画像 / パナソニックのFFXIV推奨サウンドバー「SC-HTB01」で,スクエニのサウンドチームは何を監修したのか。祖堅正慶氏ら両社のキーパーソンに話を聞く

岡﨑暢丈氏:
 1つは,長時間ヘッドフォンを付けたままでは疲れるというご意見を頂戴していたということ。もう1つは,今回採用することになったDolby Atmosベースとなる(最新世代の)バーチャル3Dサラウンド技術が,まだヘッドフォンには対応していなかったことですね。この2つが大きな理由です。
 こういう状況にあって,他社がゲームの世界で実現できていないところを開拓していくべきだ,という。

4Gamer:
 分かります。

岡﨑暢丈氏:
 あと,もちろんヘッドフォン(やヘッドセット)を装着して,パーソナルな空間でゲームをプレイするというのもいいんですが,それでもやはり,何人かで同じ場所に集まってプレイしたり,あるいは1人でプレイするにしても,条件が揃っている環境ではしっかり大きな音を出したりというのは,ゲームの遊び方としてあると思うんです。また,実際にそうされている方もたくさんいらっしゃると思いますので,そういったところで独自性を発揮できればと考えています。

4Gamer:
 そうなると,主なターゲット層は,ふだんテレビのスピーカーから音を出しながらゲームをプレイしている人達,といったところになりますか。

岡﨑暢丈氏:
 基本的にはそうなります。

4Gamer:
 そのハードウェア……というかスピーカー部分ですが,これはパナソニックさんが従来からお持ちの技術に基づくものということでいいでしょうか。

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岡﨑暢丈氏:
 そうですね。スピーカーのコンセプト自体は我々がもともと持っていた「低音から高音までしっかり出る」というところに依っています。それをあくまでも軸としつつ,ソフトウェア的なところをどう作り込むかというのが新しいチャレンジになった次第です。

4Gamer:
 あらためて確認ですが,左右それぞれフルレンジとトゥイーターで,そこにサブウーファを組み合わせた2.1ch構成ですよね。

岡﨑暢丈氏:
 ええ。今回は(Dolby Atmosなどといった)立体音響を採用しているわけですが,高さ方向の音作りをするうえでは「高音がしっかり出る」っていうのがかなり大事になっています。そこで,いわゆるハイレゾ帯域までカバーできるトゥイーターを搭載することで,高さ方向の音で自然さを出せるようにした次第です。

4Gamer:
 バーチャルサラウンドは高周波がきちんと出ないと使い物にならないですし。

岡﨑暢丈氏:
 そのとおりで,かなり違和感のある音になってしまうことがあります。その点SC-HTB01ではしっかり高音が出ますので,自然に感じていただけるはずです。

4Gamer:
 サウンドバー製品だと,それこそ左右でトゥイーターを複数用意して,これはフロント用,これはリア用,これはハイト用なんてことをやったりしますよね。今回,SC-HTB01でスピーカーの数を絞ってきたのは,やはり筐体サイズありきだからということですか。

滝澤拓斗氏:
 はい。テレビやPC用ディスプレイの下など,どこにでも置けるコンパクトサイズを優先した結果です。

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岡﨑暢丈氏:
 あと,そういう(追加のスピーカーなしに)高さを伴ったバーチャルサラウンド空間を作れる技術としてはDolbyさんやDTSさんからリリースされたものがありますから,そうした最新のフォーマットを活用することにより,2.1chでも従来からある(上向きのイネーブルドスピーカーがないと,高さを伴うバーチャルサラウンドを実現しにくいという)技術的な制約をクリアできているというのもあります。

秋本正仁氏:
 開発を進めている途中で,ちょうど2.1chで3Dサラウンドを実現できる規格が立ち上がって,それをソフトウェアとして実装もできるようになったことが,SC-HTB01という製品につながったというイメージですね。

4Gamer:
 実機を見ると,サブウーファが上を向いたアップファイアリング配置になっていますが,この理由を聞かせてください。

滝澤拓斗氏:
 底面に向けるダウンファイアリングを採用すると,設置した面にある素材や形状の影響を受けやすいというのがあります。その点,SC-HTB01では筐体側の天板に向けて音をいったん出力してからリスナー側に出すという方式を採用しているので,置き場所の影響を受けづらくなっていますね。

4Gamer:
 ちなみにこのサブウーファでどれくらい下の帯域まで出るんでしょうか。

滝澤拓斗氏:
 50Hzくらいまで十分に出ますね。この筐体サイズでも豊かな低音が出るように(振動板を用意して低音を増強する)パッシブラジエータ方式を採用しています。

岡﨑暢丈氏:
 サブウーファについて一点付け足すと,SC-HTB01ではサブウーファが本体中央配置になっているというのが特徴です。これが全体の安定感というか,音の広がる「芯」の部分を支える役割を担っていまして,しっかりしたセンター定位を実現するのに活躍しています。

4Gamer:
 話が前後しますが,スピーカーを除く,SC-HTB01というハードウェア全体のコンセプトについても,もう少し踏み込んで説明いただけますか。

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滝澤拓斗氏:
 音という観点では,いま岡﨑がお伝えしたとおり,低域から高域までフラットに出せて,(さまざまなソフトウェア的な作り込みに堪える)「素地」となるというところにこだわっていますね。

 たとえば筐体の天板ですが,これ,ただの樹脂じゃなくて,繊維で強化したような強い樹脂にしてあるんですね。これは一にも二にも歪みのない音を実現するためなんですが,そういう作り込みには相当に時間とコストをかけています。

4Gamer:
 まずはフラットに音を出せるようにしてからだ,ということですね。

滝澤拓斗氏:
 そういうことです。そのうえで,それこそDolby AtmosやDTS:Xといった新しいフォーマットに対応すべく,チップメーカーさんと相当に密なやり取りをしています。
 実のところ,チップも従来製品の流用ではなく,ほぼ新規の開発に近いくらいのものに仕上がってますね。それに対して,スクウェア・エニックスさんのご指摘に基づくいろいろな調整を入れているというわけです。

4Gamer:
 最新世代のバーチャルサラウンドの技術に対応しようとすれば演算性能が必要になり,ひいてはチップが大きくなって,コストも上がっていくかと思うんですけど,SC-HTB01においてはそのコストがかなりかかっていると。

滝澤拓斗氏:
 非常にお金がかかってます(笑)。

岡﨑暢丈氏:
 もう1つお伝えしておくと,そもそもの出力性能を上げるため,(ベースとなったディーガスピーカーは実用最大合計出力値が)40Wだったのを,SC-HTB01では80Wに引き上げました。
 合わせて電源や音を出すアンプなどを変更して,大きな音を出せる余裕を持たせていますね。結果としてこの余裕が,音が艷やかに聞こえるというところにつながったと自負しています。

4Gamer:
 余裕を持たせるための特徴として,アナログ段には何かありますか。

岡﨑暢丈氏:
 もちろんACアダプターの容量を大きくしましたというのはありますが,あと,当然ですが電圧を上げて,出力段のアンプを最新の,高効率のデジタルアンプに変更しています。発熱が小さく,大きな放熱機構が必要ない部品で構成しまして,これは筐体サイズの小型化に貢献していますね。

4Gamer:
 オーディオ製品ですと,よく「最上位モデルにあった○○という技術がついにこのクラスの価格帯にも!」的な話が多いですよね。ただ,いま伺っている感じですと,SC-HTB01では上位モデル譲りというのではなく,あれやこれやと新規開発したように聞こえますが,その理解でいいですか。

岡﨑暢丈氏:
 はい。当社としてDolby AtmosやDTS:Xによる3Dサラウンドサウンドに取り組むのは今回が初めてですので,一新して作り直しています。

4Gamer:
 となると,今後「SC-HTB01譲り」の機能を搭載する製品が出てきそうですね。まさにこれがスタートといった感じで。

岡﨑暢丈氏:
 おっしゃるとおり,これが新しいスタートです。

4Gamer:
 あと,ゲーム用途という前提では非常に重要なのが,Dolby AtmosやDTS:Xなどの処理遅延です。そこは何か手当てをされていますか。

岡﨑暢丈氏:
 私達もそこはかなり意識的にケアをしてきましたが,幸いにして,スクウェア・エニックスさんからは「このレベルならまったく問題ありません」とお話をいただきました。
 フォーマット次第で若干の幅がありますから,完璧ですと言い切りはしませんが,かなり遅延の小さな作りにはなっています。少なくとも,いろいろ評価に出しているなかで,遅延が大きいというご指摘を受けたことはないですね。

祖堅正慶氏:
 遅延は僕らももちろんチェックしましたけど,大丈夫だと思います。
 正直に言うと,初期には気になって指摘しました。「ちょっと応答速度が遅くないですか」って(笑)。

絹谷 剛氏:
 そうでしたね,かなり早い段階で。

画像集 No.021のサムネイル画像 / パナソニックのFFXIV推奨サウンドバー「SC-HTB01」で,スクエニのサウンドチームは何を監修したのか。祖堅正慶氏ら両社のキーパーソンに話を聞く
岡﨑暢丈氏:
 とくにバーチャル3Dサラウンドは(ただ)実装しただけではどうしても遅延が出やすくなります。(そこは早い段階で対策したので)実際にどのレベルかというのは,ぜひ体感してみてください。

絹谷 剛氏:
 遅延は(出ていると)実感できちゃって,いろいろつらくなりますからね。

祖堅正慶氏:
 液晶パネルの応答速度が5msとかいう時代ですから,音だけどかっと遅れていると本当に厳しい。でも(SC-HTB01は)問題ないです。

4Gamer:
 もう1つ,PC用ディスプレイの下に置くという前提ですと,気になるのはどの程度のニアフィールドまで対応するのかです。

滝澤拓斗氏:
 ニアフィールドとして検証しているのは60〜80cmくらいですね。それくらいであれば,普通に机に置いて聞いていただく場合でも,それはそれで(もう少し離れて聞くのと比べて)違ったサラウンド感があり,面白いかなと考えています。

4Gamer:
 ただ,23〜24インチクラスのPC用ディスプレイですと,人によっては画面から40〜50cmというのも珍しくないですよね。その距離はどう想定していますか。

滝澤拓斗氏:
 率直に申し上げて,保証はしていません。耳と(スピーカーと)の角度がちょっと広がりすぎてしまうかなとは思います。
 ただ,聞けるかと言えば聞けるでしょう。(サラウンド感が)大幅に崩れてしまうというほどではないはずです。

4Gamer:
 距離感のイメージとしては,ディスプレイとゆったり正対して,ゲームパッドを持ってプレイする,って感じですよね。最短60cm以上ということは。

滝澤拓斗氏:
 そうですね。

4Gamer:
 ところで,HDMIのパススルー出力はHDR対応ですか?

岡﨑暢丈氏:
 対応です。HDR10+まではありませんが。

4Gamer:
 よかった。安心しました。


スクウェア・エニックスとパナソニックの協業,第2弾製品はヘッドフォン?


4Gamer:
 最後にいくつか気になることを確認させてください。
 これは祖堅さんと絹谷さんへの質問ですが,そもそもの話として,2.1chのバーチャルサラウンドで,移動する効果音を100%再現するのはかなり難しいと思うんですけれども,そのあたりはゲームプログラムやサウンドドライバ側で対策しているのでしょうか。

画像集 No.022のサムネイル画像 / パナソニックのFFXIV推奨サウンドバー「SC-HTB01」で,スクエニのサウンドチームは何を監修したのか。祖堅正慶氏ら両社のキーパーソンに話を聞く
祖堅正慶氏:
 常に研究は続けていまして,いろいろなアプローチを試みています。
 たとえばちょっと前にバイノーラルが流行しましたが,個々の発音に対してバイノーラルを仕組んで,ヘッドフォンから再生したときに臨場感が出るようにできないかっていう研究とかもやってます。

4Gamer:
 結果はどうだったんでしょう。

祖堅正慶氏:
 発音1つ1つにバイノーラルの計算式を入れて,3D空間をバイノーラルで表現すること自体は可能です。いまこの(デモ機が表示している)画面で効果音がいくつ発音されているかというと,何もしていない状態で50くらいです。これがバトルコンテンツになると,200〜300の音が次から次へと呼ばれては消え,呼ばれては消えという感じになります。

4Gamer:
 お話を聞くだけで“重そう”ですね。

祖堅正慶氏:
 そうなんです。技術的には可能ですが,音の1つ1つにバイノーラル係数を入れてしまうと処理負荷はけっこう高くなりますから,グラフィックス関連のリソースにCPUパワーのほとんどを持っていかれる現状,サウンドにそこまでの仕組みは入れられないんですよ。入れたいのはやまやまですけど(笑)。
 ただ逆に言うと,(システムの性能が上がれば)表現できる範囲は広げられると思います。

4Gamer:
 各社のサラウンド技術についてはいかがでしょう。

祖堅正慶氏:
 DTS Headphone:XやDolby Atmosなどの研究も絶えることなく続けています。「3D空間で近づけば音が大きくなり,遠くなれば減衰する」と一口に言っても,その減衰カーブ自体も,巨大な対象物と小さい対象物で全然違うわけじゃないですか。それも1個1個に対して設定するということを僕達はしていますので,本当にやろうと思ったらこのリソースを使ってどんなサラウンド空間の研究もできる状態にはなっています。

 現状,効果音だけで10万ファイルくらいFFXIVには実装されていて,かなりの個数が日々アップデートされてPS4の容量をどんどん蝕んでいってる状況ですけど(笑)。音に関して言えば,ここまでリソースの詰まったゲームってこの世に存在するのかなっていうくらい細かくは作っていると思うので,まぁそういったサラウンド関連はまだまだやれることはあるはずですね。

4Gamer:
 最後の質問です。祖堅さんのほうから,次があるとして,パナソニックさんに期待することはありますか。

祖堅正慶氏:
 次はぜひヘッドフォンを(笑)。

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一同:
 (笑)。

祖堅正慶氏:
 SC-HTB01で聞こえている感じが,そのままヘッドフォンになるといいなって思いますね。やっぱりゲーマーはヘッドフォン(やヘッドセット)でプレイすることが多々ありますから。
 環境の問題もあって,いつも大きな音を出せる人というのもかなり限られているでしょうし。

4Gamer:
 パナソニックさんにプレッシャーがかかったところで(笑),本日はありがとうございました。

インタビューを行ったのは1月28日。終了後,祖堅氏はデモ機にサインを残していった
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パナソニックのSC-HTB01製品情報ページ

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