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西川善司の3DGE:PS4もXbox Oneもマイチェンで対応必至!? 突然の4K Blu-ray規格登場がテレビやディスプレイに革命をもたらす可能性を探る
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印刷2015/02/21 00:00

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西川善司の3DGE:PS4もXbox Oneもマイチェンで対応必至!? 突然の4K Blu-ray規格登場がテレビやディスプレイに革命をもたらす可能性を探る

CES 2015の会場となったLas Vegas Convention Center
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 2015年1月に米国ラスベガスで開催された世界最大級の家電ショウ,2015 International CES(以下,CES 2015)では,さまざまな製品や技術が発表されたが,その場で,ゲームとは一見無関係そうでありながら,間接的にはかなり気になる技術が1つ,パナソニックから発表された。

 それは,「4K Blu-ray」(4Kブルーレイ)こと「ULTRA HD BLU-RAY」(※)規格の具体化だ。

※2015年10月23日追記
発表当時は全部大文字でしたが,その後,「Ultra-HD Blu-ray」表記に落ち着きました。本稿では当時の表記のママにしてあります。

 ゲームファンからすると,それを聞いても,「自分,別にDVD-Videoで十分なんで」とか「そもそも4K Blu-rayがゲームに関係してくると思えないんですけど」と思うかもしれない。そう思う気持ちも分かるが,「4K Blu-rayの規格が定まったことで,今後発売になるテレビ(やディスプレイ)の表示周りに仕様が盛り込まれる可能性が高い」ということになると,「ちょっとは関係あるかも」と思うのではなかろうか。まさに,「間接的にはかなり気になる」技術なのである。

 では,ULTRA HD BLU-RAYとは何であり,何が起ころうとしているのか。順を追って説明していこう。


4K Blu-ray規格化の背景


 4Kテレビ製品や4Kディスプレイ製品界隈が相当に盛り上がっているのは,4Gamer読者も実感していることだろう。
 この冬,4Kテレビや4Kディスプレイを買ったという人もいるかもしれない。一方で,4Kに関してやや批判的な目線の人だと,「4Kコンテンツってほとんどないじゃん」という意見を持っているかと思う。

2014年に発売された4Kテレビで,4Kチューナーを内蔵するものは,少なくとも国内だと東芝のレグザZ10Xシリーズしかない
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 2014年6月からCSデジタル放送で「チャンネル4K」と呼ばれる4K放送局――試験放送という位置づけのため,現在のところ視聴料無料――が立ち上がったが,ハードルは相応に高い。市販されている4Kテレビのほとんどが4Kチューナーを内蔵していないため,4K放送を見るためには,4Kテレビとは別に4K対応チューナーを購入し,124/128度CSアンテナを立てて,さらに「スカパー!プレミアム」に加入する必要がある。4Kチューナーを内蔵していないのに“4Kテレビ”とはこれいかに,といった感じだが,現状はそうなのだ。

 「ネット配信が4Kコンテンツ供給の本命」という見る向きもあるが,4K映像の伝送には,最低でも20Mbps前後,理想的には40Mbps以上の安定したビットレートが必要になるため,実はこのアイデアも実現のハードルは意外に高い。とくに,国土の広い北米や,欧州の国々では,ここまでのハイビットレートで安定的な通信速度を確保するのは難しいのだ。
 そのため,「店頭に並べられるような,4K対応の光ディスクが結局,一番現実的なんじゃないか」ということで,4K Blu-rayの規格化が数年前より動き出した。結果として,暫定的な仕様がパナソニックなどの手によって昨年末に策定され,CES 2015におけるお披露目となったのであった。


4K Blu-ray=ULTRA HD BLU-RAY


CES 2015のパナソニックブースで公開されたUHD BLU-RAYプレーヤー試作機。会期中は実際に「ディスクに記録された,H.265圧縮の4K映像」を読み出して表示するデモが行われていた
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 冒頭でも述べたが,「4K Blu-ray」はあくまで俗称であり,正式名称はULTRA HD BLU-RAY(以下,UHD BLU-RAY)である。海外では「4K解像度」のことを「Ultra HD」と呼称することが多いので,この名称が採用されたようだ。
 将来的には規格を8K(≒7680×4320ドット)にまで拡張することも検討中とのことだが,今のところUHD BLU-RAYは「4K映像コンテンツを記録するためのBlu-ray Disc規格」という位置づけになっている。8Kは,世界視点では必要論と不要論で意見が分かれていたりして,正直,不透明な部分も多いので,下手に風呂敷を広げすぎないほうがいいという判断があったのかもしれない。
 ちなみに,日本のNHKは8K必要論陣営側の最先鋒。なので,日本ではNHK主導によって8Kへどんどん進んでいく可能性もある。

 さて,4Gamerはオーディオ&ビジュアル(AV)系メディアではないが,話を進めるうえで避けられない話題なので,ここでUHD BLU-RAYの規格について触れておきたい。
 UHD BLU-RAYには,「Blu-ray」という表記が付いているものの,結論から言えば「Blu-ray技術を用いた新しい光ディスクの規格」である。なので,UHD BLU-RAYディスクは,既存のBlu-ray再生機器と基本的に互換性がない。

 確認しておくと,現行のBlu-ray Videoディスクは,1層25GB,2層50GBのBlu-ray ROMメディアである。
 これに対し,UHD BLU-RAYでも,現行Blu-ray ROMの2層50GBメディアは引き継がれたが,それとは別に,4K長編映画などを収録するため,2層66GBと3層100GBのメディアも規格化された。
 2層66GBと3層100GBメディアの場合,1層あたりの容量は33GBとなるので,現行のBlu-rayにおける1層25GBのメディアと,物理構造が異なるというのは簡単に想像できると思うが,継承して採用された2層50GBのメディアはともかく,新たに規格化された1層あたり33GBのメディアは,ほとんどのBlu-ray再生機器では,読み出すことすらできなくなるのだ。

 ここで,AV機器に詳しい読者のなかには,「3層100GBって,BDレコーダで採用されたBDXL規格のことでは?」と思った人もいるだろう。実際,UHD BLU-RAY規格で採用された「1層あたり33GBのメディア」は,BDXL規格に準じたものとなる。そのため,BDXL規格に対応したBlu-rayドライブであれば,UHD BLU-RAYに記録されたデータの読み出しを行えるかもしれない。

従来型のBlu-rayと,3層式UHD BLU-RAYとの間にある,メディア構造の違い。実のところ,この図は,UHD BLU-RAYのところを「BDXL」に書き換えてもそのまま通用する
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 しかし,だから解決,という話にはならない。読み出せたところで,4K映像の復号(デコード)はできない可能性が高いからである。

 UHD BLU-RAYでは,映像圧縮コーデックに新規格のH.265(High Efficiency Video Coding,以下 HEVC)を採用した。
 H.265は,現行のBlu-rayで採用されているH.264(MPEG4-AVC)から見た次世代コーデックで,「H.264圧縮時と同等の画質を半分のビットレートで実現すること」を目標に開発されたものだ。

H.265(HEVC)では,動き予測処理単位の可変サイズ対応化や,予測フレーム生成自体の高品位化による実フレームとの相違情報量の低減などの工夫が盛り込まれている。写真はCEATEC 2012における三菱電機ブースのパネルから
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 現行のBlu-ray再生機器にH.265デコーダを搭載するものはほとんどない。そのため,仮にBDXL規格対応ドライブが搭載されているBlu-ray機器でも,UHD BLU-RAYの4K映像再生はまずもって不可能ということになる。

UHD BLU-RAYの仕様概要。1層あたり33GBのROMメディア規格が新設され,最大3層100GBメディアまでが用意される。映像コーデックはH.265(HEVC)を標準採用とした。図中「HEVC 10bit」の「10bit」部分は後ほど説明したい
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 UHD BLU-RAYに記録される4K映像は,2層50GBメディアで80Mbps前後,2層66GBメディア,3層100GBメディアでは100Mbps以上となり,最大128Mbps記録されるという。Blu-rayドライブの等倍速は36Mbpsなので,128Mbpsのデータ読み出しを可能にするためには,最低でも4倍速(144Mbps)程度の速度を持つドライブが必要になるわけだ。

 ちなみに,UHD BLU-RAYでは立体視への対応が見送られた。これには,「3層100GBでも4Kで立体視対応の映像を記録すると,容量や伝送速度不足となるケースが考えられる」「平面視時と比べて2倍の負荷に対応できるH.265デコーダを,少なくとも直近では,現実的な価格で用意できない」(≒立体視だけのために2基のH.265デコーダを搭載することは現実的でない)といった理由があるとされている。


HDRと広色域に対応したUHD BLU-RAYが映像規格を変えていく!?


 ここまでをまとめると,「UHD BLU-RAYは,4K映像を,BDXL規格に準じたROMディスクにH.265で圧縮記録したもの」ということになる。

 そんなUHD BLU-RAYだが,実のところ,その特徴は,収録可能な映像解像度をフルHD(1920×1080ピクセル)の縦横2倍ずつの4K(3840×2160ピクセル)化しただけではない。ハイダイナミックレンジ(High Dynamic Range,以下 HDR)記録に対応し,さらに広色域に対応することもアピールされている。

 実はここが,今後のテレビやディスプレイの規格に影響を及ぼすかもしれない部分なのである。

 理解している読者も多いと思うが,念のために説明しておくと,今日(こんにち)の映像信号では,ディスプレイ装置の元祖であるブラウン管(CRT)が実用化されたときに取り決められた仕様に縛られている部分が多くある。
 その1つが「輝度ダイナミックレンジ」だ。

 ブラウン管時代,最も明るい輝度は100nit――nitはcd/m2とも書くが,最近はnitで記するケースが多いので本稿もこれに従う――と仮定される。

 一方の現実世界だと,強烈な明るさと漆黒の暗さが同居しているのはご存じのとおり。前出のnit(輝度)と単位は異なるのだが,実測ルミナンス値(照度)で最大の明るさは1兆ルミナンスを超えるとされる。
 要するに,「現実世界を撮影して100nitの輝度ダイナミックレンジで表現する」などということは,どだい無理な話なのだ。

視覚細胞である円錐体と桿状体が感じられる輝度ダイナミックレンジと,各数値表現でカバーできるダイナミックレンジの比較
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 ここまでの話で,そんなバカなと思った人はいると思う。現在,数百nitの輝度スペックを持つテレビやディスプレイ製品は普通に存在するからだ。
 ただ,そうした製品の場合でも,映像信号はあくまでも100nit相当までの輝度ダイナミックレンジを基準に表現されている。その輝度ダイナミックレンジ対して,メーカーが独自の推測アルゴリズムによる逆ガンマ補正を行い,算術的に数百nitの輝度ダイナミックレンジへ割り当てているに過ぎないのである。この点は非常に誤解しやすいところなので,押さえておいてほしい。

パナソニックが公開した資料より,現在のテレビおよびディスプレイにおける映像表示の仕組み。現実世界は1万nitsを遙かに超える超高輝度なハイダイナミックレンジな世界(左)だ。その現実世界をカメラで撮影するときには,ガンマ補正をかけ,超高輝度部を100nitsの輝度範囲にまで圧縮している(中央)。撮影時のガンマ補正はカメラメーカーによって異なる点に留意したい。一般的なテレビおよびディスプレイ製品では,こうして撮影された「最大輝度100nitにまで圧縮された映像」を,各社のアルゴリズムで,当該製品が表現できるコントラスト比にまで復元,拡張して表示している(右)。これは必ずしも,撮影結果の正確な復元ではない
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 というわけで,現行の映像撮影伝送システムでは,撮影段階や伝送段階において,当該映像が不自然に見えないよう,強烈な明暗分布からなる現実世界の輝度ダイナミックレンジを,人間の視覚特性に合わせながら最大100nitの輝度ダイナミックレンジにまで圧縮している。
 長らく,この「100nitにまで圧縮されてしまう輝度ダイナミックレンジ問題」は,民生向けの映像機器においては手つかずの要素だった。それがUHD BLU-RAYでは,最大1万nitまで記録できるよう,輝度ダイナミックレンジが拡張されることになったのだ。

 この,輝度ダイナミックレンジが最大1万nitとなる新しい映像規格はHDRと呼ばれることが確定している。合わせて,従来の最大輝度100nitからなる輝度ダイナミックレンジは,「スタンダードダイナミックレンジ」(Standard Dynamic Range,SDR)と呼ばれることになるようだ。ゲームグラフィックスの世界では,従来方式をSDRと呼んだり,「ローダイナミックレンジ」(LDR)と呼んだりと,ややブレているが,過去との互換性を重んじる映像技術の世界では,あまりポジティブな意味にならない「ロー」(Low)は避ける統一判断がなされたという理解でいいだろう。

CES 2015のパナソニックブースで行われた,UHD BLU-RAYに記録されたHDR映像表現とSDR映像表現を対比させた状態で視聴できるデモ。写真でも,HDRのほうが現実世界に近いコントラスト感を実現できているのを確認できる
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 CES 2015におけるパナソニックおよびソニーのブースでは,最大輝度1万nitのHDR映像表現を,それぞれのHDR対応4K試作テレビで表示するデモを行っていた。それらの映像を筆者も見る機会に恵まれたが,太陽の逆光表現の眩しさはもちろんのこと,ネオンサインや炎のような自発光マテリアルは,リアル感が相当に増していた印象だ。何気ない自然を映した映像でも,明部に圧倒的なコントラスト感が宿ることになるため,「窓から屋外を見ている」ような錯覚に陥ることもあったほどだ。

 ちなみに,この「現実世界における1兆ルミナンス超の輝度ダイナミックレンジを最大1万nitの映像信号に圧縮する過程おいては,人間の感覚メカニズムの法則である「ウェーバーの法則」に基づいて算出された「Optical-Electro Transfer Function」(オプティカル-エレクトロトランスファーファンクション,光電気伝達関数。以下 OETF)が用いられる。OETFは,聞き慣れたディスプレイ用語で言うところの「ガンマ関数」(=ガンマカーブ)のことだ。

 ウェーバーの法則とは,「物理量的な変化量と人間の感覚としての変化量の対比には一定の法則がある」という,認知心理学および精神物理学の法則のこと。たとえば人間の視覚においては,輝度が「100から110」になった変化と「1000から1100」になった変化が同等量変化したとして感じられる。輝度値で見れば,前者が+10,後者が+100なので,明らかに異なる変化量なのだが,人間は絶対変化量ではなく,「10%増しになったこと」のほうを同程度の変化量と認識するというのが,この法則のポイントである。

 いま挙げた例だと,「ウェーバー比は10%」といった表現をしたりするのだが,UHD BLU-RAY規格では,最大輝度1万nitのダイナミックレンジをウェーバー比1%で表現することに落ち着き,これを実現するため,輝度や色信号は10bitで表現することが決定した。
 従来のBlu-rayでは,色や輝度の表現を8bitで表現していたが,UHD BLU-RAYではHDR対応に伴って10bitへ拡張されるのだ。前出の図版で「HEVC 10bit」という記載があったのを覚えている人もいるだろうが,この「10bit」の部分はまさにこのことを言っているわけだ。

 なお,UHD BLU-RAYでは「輝度ダイナミックレンジ」(≒コントラスト)だけでなく,同時に,色再現性の面でも大きな拡張が施されることも決定している。具体的には,現実世界に存在する物体色のほぼすべてを記録したデータベース「SOCS」(Standard Object Color Spectra)をカバーできる「ITU-R BT.2020」の色域規格に対応することとなった(※)ので,この点は付記しておきたい。

色域を比較した図。PCの世界で一般的なsRGBと比べるとITU-R BT.2020は非常に広色域なのが分かる
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※ITU-R BT.2020は,国際放送連合(ITU)が定めた,4Kおよび8K向けの映像規格で,色だけの規格ではない。ここでは,「UHD BLU-RAYは,ITU-R BT.2020で規格化された色域に対応する」という意味である。

 広色域の規格というと,ソニーが提唱し,HDMI 1.3に組み込まれた「x.v.Color」が思い起こされるが,こちらは有効値16〜240の8bit色差信号CbCrに対し,0〜15や241〜255の値にも適切な色を割り当てるという,いかにも拡張仕様然とした規格だった。それに対してITU-R BT.2020の色域では,色差信号のメカニズム和そのままを継承しつつ,カバーする色域自体を広げた規格となるので,x.v.Colorよりも取り扱いはシンプルなものとなる。

 UHD BLU-RAYにおけるH.265が10bit深度を採用するのには,もちろんHDR対応のための側面も大きいが,広色域をカバーしつつ,階調割れを起こさないための色深度拡張に対する配慮もあると思われる。

※表画像をクリックすると,英語スライド資料を表示します
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 UHD BLU-RAYは,3D Blu-rayの時と同じように,パナソニックがリーダーシップを取って規格化を進めてきたわけだが,多メーカーが競合となる規格を出したりしていないのか,気になる人もいるだろう。
 その点だが,一言でまとめるなら心配ご無用。2000年代前半に起きた「HD DVD対Blu-ray」のようなフォーマット戦争が起きる心配はまずなく,UHD BLU-RAY世代においては,“無血”での各メーカー協調路線が見えている。

UHD BLU-RAYの普及に向けて,UHD Allianceが発足した。参画企業は増えていく見込みが示されている
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 実際,UHD BLU-RAY規格の策定を含む総括的な4Kコンテンツ推進業界団体が「UHD Alliance」として発足済み。立ち上げ時点では,映画業界からは20th Century Fox(20世紀フォックス)とThe Walt Disney(ディズニー),Warner Bros. Entertainment(ワーナーブラザーズ),配信業界からはDIRECTVとNetflix,基本技術企業からはDolby LaboratoriesとTechnicolor,テレビメーカーからはパナソニックとソニービジュアルプロダクツのほか,シャープとLG Electronics,Samsung Electronicsの計12社が参加している。また,今後,参加メーカーの数は増えていく見込みとのことだ。


拡張されるHDMI 2.0。ゲーム映像への応用も?


 前述したように,UHD BLU-RAYは,記録される映像の解像度を上げるだけでなく,映像信号規格を大きく拡張するので,現行の4Kテレビでは対応できない。そのためメーカーは,UHD BLU-RAY機器の準備だけでなく,新映像規格に対応した製品を準備する必要がある。具体的にはHDRとITU-R BT.2020色域に対応したテレビ製品やディスプレイ製品が必要になってくる。

 では,その伝送経路はどうなるのかというと,もちろん家電の世界なので,ここにはHDMIを用いることになる。

 現行最新のHDMI 2.0では4K/60Hz(=60fps)伝送に対応したので,HDMI 2.0を使うことになるだろう……というのは誰にも想像できると思う。しかし,現行のHDMI 2.0では,HDRとITU-R BT.2020色域の伝送には対応していない。

 「ということは,HDRとITU-R BT.2020色域に対応した新HDMI規格が登場する?」と思った人もいるだろう。半分正解である。
 というのも,HDMI 2.0規格の「拡張仕様」として,HDRとITU-R BT.2020色域への対応を行うことが決定しているのだ。なら「HDMI 2.1」でもよかったとは思うのだが,「バージョン番号が更新される」となると,「業界多方面に対する調整と議論が必要になる」「HDRとITU-R BT.2020色域への対応だけならばHDMI 2.0規格の仕組みを拡張するだけで技術的には対応可能という目処がついた」という複合的な理由から,今回のようなお茶の濁し方になったのだった。これまでの命名規則に従えば“HDMI 2.0a”といった感じになるのではないかと思われるが,詳細はまだ分かっていない。

 というわけで,本稿ではこの拡張版HDMI 2.0を仮に「HDMI 2.0改」と呼ぶことにするが,2015年以降に発売されるテレビ製品やディスプレイ製品には,HDRとITU-R BT.2020色域に対応したHDMI 2.0改に対応したものも出てくると思われる。
 UHD BLU-RAYに記録される映像はフルHD(1920×1080ピクセル)でもよいことになっているので,映像コンテンツとしては,HDRとITU-R BT.2020色域に対応したフルHD解像度の映像もHDMI 2.0改では許容されるはずだ。逆にいうと,フルHD解像度のテレビ製品やディスプレイ製品でHDMI 2.0改に対応したものが出てくることもありうる。

 さあ,やっとゲームの話だ。
 現在,PCはもちろんのこと,PlayStation 4(以下,PS4)やXbox One世代の3Dゲームでは,多くが内部的にはHDR次元でのレンダリングを行っている。なので,これをHDR次元のままHDMI 2.0改で伝送できれば,新しいゲーム映像表現も実現できるはずなのである。

CES 2015のパナソニックブースにおけるHDRコンテンツ表示デモより。右がHDR対応のパナソニック製4Kテレビ試作機での表示だ。こうした逆光表現はHDR効果が分かりやすい。なお,念のため付記しておくと,HDR表現とITU-R BT.2020を利用するのに,対応テレビやディスプレイを除けば,追加機器は必要ない。3D立体視のときのようなメガネなどは不要だ
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 現在のゲーム映像表現では,たとえば洞窟の中で懐中電灯に照らされる足元の明るさと,洞窟の先に見える「たいまつ」の明るさがほぼ同じだったりすることがあるが,これはグラフィックスエンジン内部でHDRレンダリングしていても,表示段階でSDR化することにより,明部の輝度レンジが圧縮される弊害からくるものだ。それに対し,HDR映像をネイティブ表示できるテレビやディスプレイが出てくれば,このあたりの表現力は一気に高まることになる。

 ITU-R BT.2020色域も同様で,実写を基にした映像以上に色表現の自由度の高いゲーム映像(=CG)であれば,圧倒的な広色域表現も効果的に活用できるはず。これまで以上に鮮やかな草花が繁る風景や,見たこともないほど艶やかなスポーツカーが走るレースシーンといった表現も可能になることだろう。

CES 2015のソニーブースにあったHDRコンテンツ表示デモより。左がHDR対応のソニー製4Kテレビ試作機での表示だ。HDR映像は,明暗差が現実世界に近い見え方になるため,平面的な映像であっても立体感を感じるのが特徴である
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 UHD BLU-RAYとともに規格化されたHDRとITU-R BT.2020色域は色差色表現系の規格であり,現在のところ,このHDMI 2.0改がRGB色表現系でどうHDRや広色域を実装するのかは,よく分かっていない。しかし,ゲーム映像の場合,必ずしもRGBで出力しなければならないわけではないので,ゲーム側がUHD BLU-RAYに倣う形式でゲーム映像を出力すれば,HDRとITU-R BT.2020色域に準拠した映像表現は行えるはずだ。

 ちなみに,従来製品との互換性はどうかというと,テレビやディスプレイ側が4K/60Hz伝送に対応したHDMI 2.0入力端子を持ち,4K対応の著作権保護機構であるHDCP 2.2に対応していれば,UHD BLU-RAYの映像はちゃんと4K解像度で映る。
 もちろん,HDR表現はSDR表現に圧縮され,ITU-R BT.2020による広色域表現はsRGB相当に減色されるが,「見られない」という事態には陥らない。

UHD BLU-RAYと,2014年以前の4Kテレビとの互換性相関図。HDR映像は,HDR未対応テレビではSDRにコントラスト圧縮されて表示されることになる
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マイチェン版PS4&Xbox OneはUHD BLU-RAYに対応するか


 かつて,現行型Blu-rayが「次世代DVD戦争」でHD DVDに勝ち,さらに現在の立場まで普及できた背景には,PlayStation 3(以下,PS3)の存在があったと言われている。

 PS3はリリース当時,ゲーム機でありながらも「最も優れたBlu-rayプレイヤー」として高評価を獲得し,PS3が発売された次の年となる2007年から数年の間は,Dolby LaboratriesやDTSといったデジタルシアター技術供給企業のデモルームにまでPS3が置かれていたのは,業界関係者の間では有名な話だ。事実,筆者自身もそれを目の当たりにしたことがある。
 Blu-ray Discの黎明期には,インタレースのフルHDコンテンツが多かったのだが,PS3のBlu-ray再生機能は,そういったコンテンツのプログレッシブ化処理品質が非常に高かったので,それが評価されたのだと思う。

 では,2015年1月時点における現行版のPS4やXbox Oneは,UHD BLU-RAY再生を行い,HDR&ITU-R BT.2020対応映像を出力できるのだろうか。

 大前提として,現行型のPS4やXbox Oneに搭載されているBlu-rayドライブはBDXL規格には対応していない。要するに1層あたりの容量が33GBとなるUHD BLU-RAYメディアを読み出せないので,“素”の状態におけるでのUHD BLU-RAY対応は絶望的だ。

三菱電機が2012年に公開した,FermiコアベースのGPUでソフトウェア実装しているリアルタイムH.265デコーダのデモ
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 では,USB接続のBDXL対応ドライブを接続しての対応はどうだろう? データは外付けドライブで読み出してH.265デコードはゲーム機側でソフトウェア処理をさせる実装形態の可能性はどうか。
 H.265デコード自体は,PS4やXbox OneのGPU性能があれば,GPGPU処理によるデコードは可能だろう。2012年,三菱電機はFermi世代のNVIDIA製GPUを用いてソフトウェア実装したリアルタイムH.265デコーダを公開した実績もあったりする。

 ただそれでも,現行のPS4とXbox OneでUHD BLU-RAYを再生するのは難しいかもしれない。
 というのも,UHD BLU-RAYの4K映像を出力するためには,前述のとおり,出力元となるゲーム機側のHDMI端子が4K/60Hz伝送に対応したHDMI 2.0規格に準拠し,4K対応の著作権保護機構であるHDCP 2.2に対応している必要があるためだ。現行のPS4およびXbox OneのHDMI端子はHDMI 1.4,HDCP 1.4規格までの対応となるため,条件を満たしていない。

 それでは,これまでのゲーム機の歴史でもたびたび発売されてきたマイナーチェンジ版――ほとんどの場合は小型化,低コスト化がなされるわけだが――のPS4やXbox Oneが出てくるとしたら,UHD BLU-RAYやHDR,ITU-R BT.2020色域への対応は果たされるのだろうか。

 この点について,AV業界側の期待は,PS3のときと同様に大きい。
 CES 2015において筆者は,「PS4やXbox Oneがマイナーチェンジするときには,UHD BLU-RAY,もしくはHDMI 2.0改への対応が行われるだろう。……というか対応してくれないと困る(笑)」という話を,複数メーカーの,複数の業界関係者から聞いた。
 クラウドファーストを高らかに宣言したMicrosoftはともかく,映画会社(=Sony Pictures Entertainment)とテレビメーカー(=ソニービジュアルプロダクツ)を持つソニーグループが,4Kコンテンツの普及や4Kテレビの販売拡大を狙って,PS4で新機能への対応を仕掛けてくるのは自然の流れだともいえるだろう。

 コスト的な話をすると,まず,BDXL対応ドライブ自体は,それほど大きなコストアップにはつながらない。というのも,BDXL対応ドライブは基本的に,現行世代の技術であり,すでにBDレコーダー製品でも採用が始まっている“枯れた”存在だからだ。
 H.265コーデック対応ビデオプロセッサのほうだが,現行のPS4およびXbox Oneに採用されているAMD製APU内にはH.264のデコードとエンコードに対応するビデオプロセッサが統合されており,しかもこれはモジュールになっている。なので,H.265対応のものへ置き換えるにあたってのコスト的なハードルは決して高くない。
 付け加えると,H.265コーデックはH.264ベースの拡張仕様のようなものなので,従来のH.264対応を維持した形での置き換えも難しくはないはずである。
 もちろん,前述のとおり,GPU性能を生かしたソフトウェア処理になる可能性もある。

TongaベースのGPUを統合するAMDの次世代APU,Carrizo。H.265のデコードをサポートする
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 また,H.265対応には時代のニーズもある。家電業界ではH.265対応の加速化が進んでおり,実際,4KテレビのH.265デコーダ搭載例は増えてきた。また,H.265記録可能な4K対応カメラも発売予定となっている。
 PC側でもH.265環境の整備は始まっており,すでに人気のソフトウェアプレイヤー「PowerDVD 14」はH.265に対応済み。定番エンコードソフト「TMPGEnc Video Mastering Works 6」もH.265への対応を完了している。プロセッサ側の対応はやや遅れ気味だが,AMDの次世代APU「Carrizo」(カリーゾ,開発コードネーム)ではH.265のデコード対応が発表済みだ。

NVIDIAのTegra X1はすでにH.265のデコードとエンコードに対応済み
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 スマートフォンやタブレットなどに採用される組み込み機器向けプロセッサも,最新のものはほぼすべてがH.265デコーダを統合しており,なかにはH.265エンコーダを搭載するものもある。4Gamer読者に身近な存在を挙げるなら,NVIDIAの「Tegra X1」がまさにその代表例となる。

 最近では,映像コンテンツのネット配信が急速に普及しつつあるが,このストリーミング映像にH.265を採用していく動きも見られる。とくに欧米市場では,日本だと考えられないほどに「ネット配信されるビデオストリーミングの受信用セットトップボックス」としてゲーム機が活躍していることから,H.265への対応は何よりも優先度が高いとさえ言えるかもしれない。


マイチェン版PS4とXbox Oneはいつ出る? どうなる?


 さて,気になるマイナーチェンジ版PS4とXbox Oneの登場時期だが,これについては諸説がある。
 たとえば,欧州の著名なゲームメディアであるEurogamerは,「Smaller, cheaper, cooler Xbox One processor in development」という記事のなかで,マイナーチェンジ版PS4とXbox Oneが,いずれも20nmプロセス技術に基づいて製造されるAPUを採用し,「これまでのゲーム機の歴史的な常識よりも早く」スリム版として登場するのではないかと報じている。

 一方で,筆者が話を聞いた半導体関係者のなかには「マイナーチェンジ版のPS4とXbox Oneでは,省電力効果とシュリンク率の低い20nmプロセス技術をスキップし,熟成の進んだ28nmのHPP(High Performance Plus)プロセスを採用して時間を稼ぎながら,20nmの先にある16nmプロセス世代で一気にシュリンクさせるはずだ」と述べる人もいた。

 では,H.265やHDR,ITU-R BT.2020色域に対応するであろうマイナーチェンジ版PS4およびXbox Oneでは,「ゲーム機としての性能強化」が行われることがあるのか。

 このあたりは何とも言えない。
 ただ,現行のPS4およびXbox Oneで統合されるGPUにおける演算ユニット「Graphics Core Next Compute Unit」(以下,CU)の数が,GPUコアのフルスペック比で2基ずつ少ないことは,押さえておく必要があるだろう。PS4の場合,表向きのスペックだとCU数は18基だが,採用している「Pitcairn」(ピトケアン)コアのフルスペックは20基。同様にXbox Oneも表向きのCU数は12基だが,採用する「Bonaire」(ボネア)コアのフルスペックだと14基だ。
 現在はAPUの歩留まり率を確保するために2基分の不良を見越しているわけだが,製造技術の熟成が進み,マイナーチェンジ版のAPUでこれら2基を有効化できるようになれば,(動作クロックに変更がないなら)PS4で約11%,Xbox Oneで約17%の性能向上が期待できることになる。


事態が動くとすれば6月のE3 2015か


 というわけで,4K Blu-ray(=UHD BLU-RAY)の話に始まり,新しい映像規格技術の話へ到達,最後にはPS4とXbox Oneのマイナーチェンジにまで波及するという,大冒険な記事となった。
 難しい話はさておくとしても,2015年以降,映像関連の機器に大きな動きがありそうだということは分かってもらえたのではないかと思う。

 ユーザーとしては,テレビやディスプレイの買いどき,場合によってはゲーム機の買いどきについても,アンテナを張っていく必要があるかもしれない。
 テレビやディスプレイ,とくに4K対応製品はHDRとITU-R BT.2020色域に対応したHDMI 2.0改対応の製品がどんどん増えていくはず。また,確証はないものの,ゲーム機もマイナーチェンジの可能性が高まるはずだ。新規格や新要素に興味がないなら,そうした新製品の登場に伴い,型落ち品として一気に価格が下がる従来規格対応製品を待つというのも面白いだろう。

 ゲーム機に関していえば,何か発表があるなら,6月のE3 2015あたりではなかろうか。そこで動きがあれば,年末の動向を占うことができるはずだ。

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