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「いまはピンとこないかもしれないが,AMDの技術が状況を変える」。AMDでアジア太平洋&日本地域の事業を統括するベネット副社長インタビュー
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印刷2014/03/08 00:00

インタビュー

「いまはピンとこないかもしれないが,AMDの技術が状況を変える」。AMDでアジア太平洋&日本地域の事業を統括するベネット副社長インタビュー

 PCゲーマーにとってのAMDは,あらためて「Radeonの」「APUの」と説明するまでもなくお馴染みのメーカーだが,PlayStation 4とXbox Oneという新世代ゲーム機にセミカスタムAPUが採用されたことで,PCゲームを守備範囲としていないゲーマーの間でも,あらためてその名が知れ渡ることになった。

 ただ,そんなAMDが日本でどんな活動をしていて,何を目指しているのかは,少なくともこの数年もの間,ほとんど語られることがなかった。それだけに,「日本におけるAMD」の今とこれからが気になっている読者もいるのではなかろうか。

David Bennett氏(Corporate Vice President, General Manager - Asia Pacific and Japan, AMD)
画像集#002のサムネイル/「いまはピンとこないかもしれないが,AMDの技術が状況を変える」。AMDでアジア太平洋&日本地域の事業を統括するベネット副社長インタビュー
 今回4Gamerでは,AMDでアジア太平洋および日本(Asia Pacific and Japan,以下 APJ)メガリージョンと位置づけられる地域で事業展開および販売活動を指揮するDavid Bennett(デイビッド・ベネット)氏に,氏の管轄する地域,そして日本におけるビジネス戦略をじっくり聞くことができた。あらかじめお断りしておくと,「Radeonの新しいロードマップ」とか,そういう情報はないのだが,興味深い話が多かったので,今回はその内容を余すところなくお伝えしてみたい。

 ……が,その前に,予備知識を少々。AMDに限らず,外資系企業は一般に,複数の国からなる「リージョン」(region,地域)と,それらを統括するオフィスを本社の下に置いて,さらにその下に,各国の現地法人や現地営業所を置くという,階層型の管理形態を取る。
 そしてAMDの場合,アジアはAPJとGreater China(グレーターチャイナ,中国語圏)という2つのリージョンに分けて管理している。AMDの日本法人たる日本AMDはもちろん,APJの下の組織ということになるわけだ。

 2013年12月上旬にAPJメガリージョン担当副社長に就任したBennett氏は,日本AMDに長く在籍し,日本語も堪能な人物である。今回のインタビューも,95%以上は日本語でやり取りが行われた。その点を踏まえつつ,氏の発言をチェックしてほしいと思う。


日本AMDへの入社から,AMDでのキャリアをスタートさせたBennett氏


4Gamer:
 よろしくお願いします。まずBennettさんの経歴を聞かせていただけますか。

Bennett氏:
 私は2007年12月に,日本AMDへ入社しました。日本AMDにおけるキャリアは,アジア太平洋地域におけるDellやHewlett-Packard(以下,HP)といった企業向けの事業開発がスタートですね。その仕事を2〜3年やっていました。

4Gamer:
 事業開発というのは要するに,PCメーカーにAMDのプロセッサを採用してもらう仕事,ですか。

Bennett氏:
 そうです。当時は日本でも企業向けクライアントPCのビジネスが大きかったため,ノートPCやデスクトップPC,ワークステーショングラフィックスなども手がけました。
 その後,2010年か2011年に,カナダに異動となりました。私はカナダ人なので“戻った”ことになりますね。

4Gamer:
 母国カナダではどんなお仕事を?

画像集#003のサムネイル/「いまはピンとこないかもしれないが,AMDの技術が状況を変える」。AMDでアジア太平洋&日本地域の事業を統括するベネット副社長インタビュー
Bennett氏:
 コンシューマビジネスのジェネラルマネージャーに就任し,カナダのBest Buyなどといった量販店を担当していました。

 そのときはかなり成功しましたね。私が着任した頃,カナダにおけるAMDの市場シェアは20%程度だったのですが,今では45%くらいまでになっています。コンシューマ向けPCの約半分はAMDになったということです。

4Gamer:
 それはすごいですね。何が決め手だったのでしょう。

Bennett氏:
 もともとカナダには旧ATI Technologiesの本社があり,Radeonも国民の間で浸透していました。そして,日本人がそうであるように,カナダ人にもカナダの企業を応援したいという気持ちがあるのです。
 そこで,Radeonのブランドを積極的に活用した,といったところですね。

 その後はオースティンのAMD本社に移り,HP担当のディレクターを務めました。HP向けの全製品,プロセッサやグラフィックスから,組み込みまで全部のセールスを担当する仕事です。
 そして昨年の12月からAPJ(関連記事)。日本AMDに入社した人間としては再び“戻ってきた”ことになりますね。

4Gamer:
 そもそも,カナダの方が日本AMDに入社するというのは珍しいと思うのですが,どういう経緯で入社されたのですか。

Bennett氏:
 日本AMDに入る前は日本で転職コンサルタントをやっていまして,日本AMDはそのときの顧客だったんです。私が紹介して日本AMDに入社した人も,何人もいたりします。その意味では日本AMDとつながりがありました。
 一方で私は子供の頃から,AMDのような技術系の会社で働きたいと思っていました。そこで日本AMDに相談したところ,私にもできそうな仕事があるという話をもらって,それで入社したのです。

4Gamer:
 日本AMDに入社する前から日本に住んでいたわけですか。

Bennett氏:
 はい,その前(※筆者注:転職コンサルタントの前)には香川県で日本とカナダの国際交流の仕事をしたり……。日本で暮らした期間はまとめて8年くらいになりますね。

4Gamer:
 Davidさんの日本語はとても流暢というか,ほとんど完璧ですよね。

Bennett氏:
 いやいや(笑)。

4Gamer:
 日本語は8年かけて学んだ,という理解でいいのでしょうか。

Bennett氏:
 17歳のときに,カナダから日本の高校へ留学したのです。英語を話さない人達に囲まれて10か月,日本語ができないままで過ごすのは大変だと,そのときから日本語の勉強を始めました。
 大学進学後も日本語を専攻をして,大学院では日本の古典文学を……源氏物語とか古今和歌集とかを研究していたんです。まあ,今の仕事にはあまり生かされてないかもしれませんけど(笑)。

4Gamer:
 ほとんどの日本人より日本語に詳しいかもしれませんね(笑)。ちなみにいまはどちらにお住まいなのですか。

Bennett氏:
 いまは(APJメガリージョンの本社機構がある)シンガポールに住んでいます。妻は日本人ですが,妻や子とも一緒にシンガポールですね。
 日本にはだいたい,1か月に一度くらいのペースで来るつもりでいます。APJは日本や韓国,インド,オーストラリア,ニュージーランド,そしてASEAN諸国をカバーしていますが,そのなかでも日本は弊社のフォーカスエリア(筆者注:重点地域)になっていますから,どちらかといえば来日する機会は多くなるでしょう。


コンシューマとチャネルに注力してきた日本市場

これからは別のビジネスも模索する


4Gamer:
 APJというメガリージョンについてですが,比較的最近まで,日本と韓国がセットで1つのリージョンになっていましたよね(関連記事)。それが今回APJの下へ再編されたのは,どういう事情があったのでしょう。

Bennett氏:
 その頃はアジアを離れていたので,私もはっきりと把握できているわけではありませんが,AMDの社内で,大手OEMである東芝とSamsung Electronicsを同じ人物が担当していたのが理由だと聞いています。
 ただ,1つ言えることは,日本の重要性が今回の再編で下がったわけではないということです。2010年より前はそもそもAPJというメガリージョンがあったので,元に戻っただけなんですよ。また,APJにおいて,日本はITが普及しており,ワークステーショングラフィックスでは世界で3番めの市場ですし,組み込み製品の市場も大きい。私個人としては,日本にフォーカスしたいと考えています。

4Gamer:
 いまAPJのなかで,というお話が出ましたが,APJは非常に広い地域をカバーしていますよね。それぞれ文化的,経済的にも相当に違うと思うのですが,どうやってまとめているのですか。

Bennett氏:
 ご指摘のとおり,同じアジアでも市場は国によって大きく違います。
 いまのAMDがAPJという地域をどう見ているかというと,ほかの外資系企業もそうだと思いますが,成熟市場と成長市場という2つに分けています。日本とオーストラリア,ニュージーランドは成熟市場,その他は成長市場です。

4Gamer:
 こう言ってはアレですが,日本とオーストラリア,ニュージーランドが「成熟市場」として同じグループというのは驚きました。

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Bennett氏:
 大きなリテール(※筆者注:量販店)がいくつかあるとか,市場として似ているところがたくさんあるんですよ。
 ただ,オーストラリアやニュージーランドは英語圏ということもあってか,市場はどちらかというと北米に近く,DellやHPの存在が大きい。それに対して日本は地元のOEM企業……ソニーはPC市場から撤退しますが,東芝やNECパーソナルコンピュータ,富士通といった企業が強いという違いがあります。

 なので,成熟市場と成長市場といった,単純な分け方ではなく,APJにおいては,国別に戦略を作らなければなりません。ただ,APJはとにかく国の数が多いので,とくにフォーカスする国というのを設定しています。その1つが先ほどもお話ししましたが日本で,だからこそ日本へやってくるなどして,日本のチームと,日本における戦略を考えているのです。

4Gamer:
 イメージとしては,大枠での成熟あるいは成長市場というものはあるけれども,文化や経済などに合わせて,それぞれ重み付けを分けていくという感じですか。

Bennett氏:
 そうですね。もちろん「成熟市場に共通する戦略」といったものはあります。ただ,じゃあ成熟市場に共通する戦略がそのまま日本に当てはまるかというと,はまりません。たとえば,先ほどもお話したとおり,日本のユーザーはとても地元メーカー志向が強い。あるいはゲームだと,据え置き機よりもモバイルが強いという特徴もありますよね。
 なので,日本においては,「日本だけの戦略」を作らなければ,AMDの成功はないと考えています。それをいま,日本AMDと一緒に検討しているところです。

4Gamer:
 ちなみに成長市場だと,どういった戦略で臨んでいるのでしょう。

Bennett氏:
 成長市場の国々は言葉や文化が違いますが,成長市場として似ている所も多いのです。たとえば,インフラがそれほどないので,OEMベースで市場に入らなければなりません(※筆者注:販売網としての大手量販店が育っていないため,世界規模の大手メーカー経由で,AMD製品の出荷を行う必要があるという意味)。インドやインドネシアなどはよく似た戦略でやっていますね。

4Gamer:
 商習慣はいかがですか。国や地域ごとに相当異なると思うのですけれども,そこに困難はありませんか。

Bennett氏:
 日本は8年くらい住んでいましたからだいたい理解しています。ただ,行ったことがない国や住んだ経験がない国も,もちろんありますからね。
 いまのところ困ったりはしていませんが,ご指摘のとおり,商習慣は各国でずいぶん違うので,現地のリーダーの話をよく聞いて注意深くやっています。

4Gamer:
 APJ各地のチームにおけるリーダーの役割というのはどのようなものなのですか。

自作PC市場向けのAPU「A10-7850K with Radeon R7 Graphics」(関連記事)。Bennett氏が言う「コンポーネント」の一例だ
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Bennett氏:
 基本的に(その国の)ビジネスは,リーダーに,自分のビジネスとしてやってもらっています。
 もちろん,AMDという会社全体で「今後こうやっていきたい」というのはあります。従来の弊社は,一般ユーザー向けPCやコンポーネント(※筆者注:APUやCPU,グラフィックスカードなどのこと)のビジネスを重視していましたが,現在は組み込みや高密度サーバー,企業向けクライアントといった新しいビジネスの開拓を行っていますから,それは国やリージョンにかかわらず動いてもらいます。
 あとは,日本のようにフォーカスしているところだと,私が直接見ることもありますが,基本的に地域ごとの戦略は,5人いるリージョンのリーダーに任せる格好です。

4Gamer:
 5人のリーダーがいるのですね。APJはどういう区分けになっているのでしょう?

Bennett氏:
 日本と韓国,インドが1国1リージョンで,オーストラリアとニュージーランドが1リージョン,そしてASEANと,APJは5つのリージョンに分かれています。リージョンごとにリーダーがいるので5人ですね。

 実際には各リージョンの“上”に,コマーシャル(commercial),コンシューマ(consumer),チャネル(channel)などといった分野――AMDでは「Go To Market」の略で「GTM」と呼んでいるのですが――ごとにリーダーもいます。しかし,基本的にビジネスはリージョンベースとなります。日本の戦略は日本のチームが考えて進めてもらい,GTMがそのサポートをするイメージです。

4Gamer:
 GTMとしていま3つ挙げていただきましたが,その3つですべてですか。

Bennett氏:
 AMDはこれまで3つのGTMでやっていました。コマーシャルというのは企業向けシステム,コンシューマは一般ユーザー向けシステム,チャネルは秋葉原などで買えるコンポーネントのそれぞれビジネスです。そこに1つ,新しく組み込み(Embedded)のGTMを立ち上げて,いま力を入れているところです。

4Gamer:
 つまり,リージョンのリーダーは,それら4つのGTMから,優先順位を決めて動いていく,って感じでしょうか。

Bennett氏:
 そうですね。たとえば,日本では4つすべてが重視されますが,「とくにこれから重視したいところ」はあるわけです。
 ご存じのとおり,日本におけるAMDはこれまで,コンシューマとチャネルに力を入れてきました。Radeonや,ローンチが評判になったKaveriは引き続き大きくアピールしてきます。それに加えて,日本にには組み込みの大きなビジネス機会があるのではないか,今年後半にはコマーシャルの市場が拡大していくのではないかと考えていますので,そこにも集中していきたいと考えています。

4Gamer:
 組み込みですが,具体的にはどういった製品を重視するのでしょう。

Bennett氏:
 たとえば高密度サーバーの分野です,AMDは先に64bit ARMアーキテクチャに基づくサーバー製品(※筆者注:Cortex-A57ベースのサーバー向け高性能SoC,開発コードネーム「Hierofalcon」のこと)を発表しましたし,x86ベースのサーバー向けAPUもやっています。
 まとめると,コンシューマとチャネルはこれまで通り拡大させ,組み込みと企業向けのシステムを新規のビジネスとして推進していくというのが日本における戦略ですね。

4Gamer:
 組み込みの話が出ましたので,ここからは組み込みと,あとセミカスタムAPU市場について聞かせてください。まず,日本における組み込み市場ですが,とくにどの分野を狙っていますか?

Bennett氏:
 どこにフォーカスすべきか,まさにいま戦略を練っているところですが,AMDが何に強いかを考えると,マルチメディアやデジタルサイネージ,ゲームといった,ビジュアルが使える分野や,並列計算の技術が使える分野に集中したほうがいいとは思います。
 いま組み込みは面白い状況にあると思います。x86がローパワーになっている一方,ARMはハイパワーになろうとしています。すでに両方持っている我々はそこで活躍できるのではないでしょうか。

4Gamer:
 組み込み市場ではとくにサポートが重視されます。製品の売りっぱなしではダメで,その後のサポートが必要だというのは,メーカーさんからよく聞く話ですが,そのあたりAMDとして何か方策はありますか。

Bennett氏:
 私も同じような話は聞いているので,サポートは重視していきたいと思っています。日本AMDにはJapan Engineering Lab.(JEL,日本AMDの抱える技術開発部隊)がありますので,そこも活用してサポートしていきたいですね。

PS4のAPU。「Graphics Core Next」世代のRadeon GPUコアと,「Jaguar」マイクロアーキテクチャのCPUコア,GDDR5メモリコントローラを統合した,セミカスタムAPUとなっている(関連記事
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4Gamer:
 一方のセミカスタムAPUはいかがでしょう。AMDのセミカスタムAPUを搭載するPlayStation 4(以下,PS4)が,日本ではつい先日発売になったばかりですけれども。

Bennett氏:
 おっしゃるとおり,セミカスタムAPUでは,すでにPS4,あるいはXbox Oneという成果があります。先ほど述べたように,AMDはハードウェア(※筆者注:最終製品のこと)は作らないわけですが,ハードウェアメーカーがCPUを作りたいということはあります。たとえば,AppleやかつてのSun Microsystemsのように,ハードからCPU,ソフトウェアのエコシステムまですべて作ろうというところはあるわけです。
 このように,ハードウェアメーカーが,自分の会社のIP(Intellectual Property,知的財産)を入れたプロセッサを使いたいとか,今まで存在していないような製品を作るために特殊なプロセッサを使いたいといったことがあれば,AMDはそのお手伝いができます。

4Gamer:
 それは日本でも,ということですよね。

Bennett氏:
 もちろんです。日本にはすでにPS4という成功例がありますが,ほかにも需要はあると思います。とくにグラフィックスの技術を活かしたプレミアムな体験を求める分野を目指していきたいですね。

4Gamer:
 ゲーム機以外では,どういう分野を狙っているのでしょうか。

Bennett氏:
 いまの標準的な製品が適合しないという分野ならどこにでもチャンスはあると思います。CPUを作れる会社は限られていますから,そこにカスタム製品を提供していけるはずです。

4Gamer:
 たとえば自動車産業などですか。

Bennett氏:
 オートモーティブは良い例ですね。その他に印刷分野やデジタルサイネージ,家電製品など幅広い分野がターゲットになると思います。たとえば,顧客が持っているIPをCPUに入れたいとか,我々のCPUやGPUとIPを組み合わせるとかですね。

4Gamer:
 セミカスタムAPUでPS4やXbox One以外に動いている案件はあるのでしょうか?

Bennett氏:
 今のところ発表できるものはないのですが,動いてはいますよ。期待していただいていいと思います。
 また,セミカスタム以外にも,AMDの標準的な製品を顧客の要望に合わせてチューニングして提供したり,ブランドを変えて提供するといったことも行っています。AMDは競合(※筆者注:Intelのこと)とは違い,AMDの名前を入れてくれという要求はせずに,顧客の要望に柔軟に対応します。それもAMDのいいところかもしれません。


PCゲーム市場はこれからがチャンス

RadeonとAPUを武器として,積極的に打って出る


4Gamer:
 ゲームについての話も聞かせてください。いま市場にはゲームPCがあって,PS4がありますね。日本ではまだ発売になっていませんがXbox Oneもあり,すべて,AMDのビジネスの対象となっています。
 PS4やXbox OneのGPU性能は高く,現行世代のAMD製GPUでいえば,低く見積もってもエントリーミドルクラス程度のポテンシャルがあるわけで,となると,「据え置き型ゲーム機が,従来からあるPCゲームの市場を破壊してしまうのではないか」という話が出てきてもおかしくないと思うのですが,この点はどう考えていますか。

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Bennett氏:
 いえ,逆にチャンスだと思いますよ。これまで据え置きゲーム機とPCは別々(のアーキテクチャ)でしたが,今世代で統一されました。ですので,据え置き型ゲーム機向けに最適化されているタイトルを,Mantle APIでPCに持っていけば,PC上で,さらに性能が上がることを期待できます
 ご指摘のように,PS4やXbox Oneの性能は,据え置き型ゲーム機としては高いですが,「AMDのプロセッサが搭載されたゲームPCにすれば,さらに高い性能を期待できる」となれば,ゲームPCを選ぶ人も増えていくのではないでしょうか。

 先にお話ししたとおり,日本では今,モバイルゲームが人気です。しかし,APJ全体を見ると,PCゲームのマーケットが非常に大きくなっています。SteamやOriginなどを見ると,ちょうど10年前のiTunesのようにゲームが買いやすくなっていて,とてもいい状況ではないのかなと思っています。
 ここはAMDとしてというよりは個人的な意見ですが,これからもPCゲーム市場は大きくなるのではないか,と。

4Gamer:
 たとえば,PS4やXbox Oneの価格は,米ドルで400〜500ドルといったラインですよね。とくに成長市場では「APU搭載のゲームPC」と競合しませんか。

Bennett氏:
 私からソニー・コンピュータエンタテインメントやMicrosoftの出荷計画について何か申し上げることはできませんが,事実として,APJに属する成長市場では,PS4やXbox Oneというより,PlayStationやXbox自体が流通していないところがけっこうあります。そして,そういう国ではPCゲームが強いんですね。「最新世代の据え置き型ゲーム機がローンチされていない国でも,PS4やXbox Oneと同じ体験ができる」ということで,むしろこれまで以上にPCゲームが伸びるといったことも期待できると思いますよ。

4Gamer:
 言われてみれば確かにそうですね……。
 ただ,経済系メディアやPC系メディアではよく,「デスクトップPCの市場が小さくなっている」という話題が出てきていますよね。DavidさんはPCゲーム市場,そしてゲームPC市場が大きくなっていくとお話されましたが,「デスクトップPC市場全体が小さくなっていて,しかしゲームPCの市場は拡大している」というのは,APJメガリージョン全体の傾向という理解でいいのでしょうか。

Bennett氏:
 デスクトップPCの市場は,「小さくなっている」というより「安定している」という印象ですね。確かに縮小していた時期はありますが,今はAPJ全体で安定しています。

 デスクトップPCにはコマーシャルとコンシューマがありますが,コンシューマに関して言えば,確かにゲームPC以外は市場が小さくなっています。一方,企業向けは変わらないか,むしろノートPCよりもデスクトップPCが増えています。どういう理由なのかは私もまだ分析できていませんが……。
 いずれにせよ,デスクトップPC市場は,ゲームPCとコマーシャルが伸びていて,ゲーム以外のコンシューマでは縮小しています。APJ全体としては,決して小さくなっていません。

4Gamer:
 PC市場における重要なカギともなるKaveriですが,日本でもローンチは成功したと認識しています。ただ,Kaveriを搭載したPCは,まだ国内の大手PCメーカーからは出ていませんね。今後,どうなるでしょう?

Bennett氏:
 大手メーカーはノートPCにフォーカスしており,そして,まだKaveri搭載のノートPCはありませんから,結果として出ていない,ということです。市場から興味を持たれている以上,OEMメーカーの皆さんも興味を持っていると思います。

4Gamer:
 これはKaveriに限った話ではありませんが,世界展開している大手PCメーカーが,海外ではAMD製プロセッサ搭載のシステムを販売しているのに,日本では出ない,ということがままあります。「欲しいのに買えない」という状況がよく生じていると思うのですが,この理由はどこにありますか。

Bennett氏:
 ご指摘のようなことは確かにあります。これまで持って来れなかったのは,「持ってこようかな」というメーカーさんに対して,AMDとしてどういうサポートができるのかということを明確にしてこなかったのが最大の理由です。
 実は,ここを今期から変えました。なので,今後はご期待いただいて大丈夫だと思います。

4Gamer:
 おお,それは期待してしまいますね。具体的にはどういった対策をとったのでしょう?

画像集#008のサムネイル/「いまはピンとこないかもしれないが,AMDの技術が状況を変える」。AMDでアジア太平洋&日本地域の事業を統括するベネット副社長インタビュー
Bennett氏:
 従来,日本AMDは量販店を重視したマーケティング施策をとっていたのですが,ご想像いただけるとおり,日本のデスクトップPCおよびノートPC市場におけるAMDのシェアは2%ちょっとしかありません。この状況で,量販店の方々に「売ってください,サポートします」とお話ししても,(売るものがない以上)意味がなかった。ですので,今期からは直接,各メーカーさんを支援する形に変えたのです。

 海外のOEMでは,AMD搭載モデルが増えているんですよ。「なぜ今まで日本に出せなかったのか」と,我々としてもつらいところがありました。しかし,おそらく今年から変わるでしょう。

4Gamer:
 5月の連休前くらいには結果が見えてくるのでしょうか。それとも,もう少しかかりそうですか。

Bennett氏:
 文字どおり今期から体勢変更しましたので,効果が出てくるまでにはどうしても2〜3か月はかかると思います。
 ただ,すでにASUSTeK ComputerやHPからは,国内でもデスクトップPCを出してもらっています。今後は,海外で出るKaveriベースのノートPCを,どれくらい日本に持ってこれるか。ここが日本AMDとして努力するポイントになるはずです。

4Gamer:
 現時点での手応えはいかがでしょう。

Bennett氏:
 おかげさまで評価は高いですね。Richlandの頃は,ローンチ時の評価があまり高くなくて,ソフトウェアやドライバのサポートが充実するにつれて評価が上がっていったのですが,製品というのは,ローンチ時の評価が今ひとつだと,あまり……なんですよ。
 それが,KaveriはMantleや純粋なベンチマークの結果など,最初からピュアに性能をお見せできるのが大きな違いです。以前は「ポテンシャルはあるんですよ」と言っても,見せるものがありませんでした。それが,Kaveriにはあるというのが重要です。

4Gamer:
 Kaveriもそうですが,単体GPU版Radeon搭載のノートPCも,海外で発売されている製品が日本では発売されないケースがけっこうありますよね。ゲーマーのなかにはこちらを期待する人も多いと思うのですが。

Bennett氏:
 ですね。Radeonを外付けGPUとして載せているノートPCについても,「積極的に持ってきてください」とお願いしています。
 残念ながらCPUでは,競合のCore i7に対抗できる製品を持っていませんから,トップエンドのゲームPCではハイエンドのRadeonと競合さんのCPUを組み合わせたものになりますが,そういうPCも持ってきてくださいと。いまはOEMメーカー(※筆者注:OEMは「Original Equipment Manufacturing」の略。製品の製造を請け負うメーカー)と話し合って,「もう少し出してください」と言えるようになりました。

4Gamer:
 実際のところ,日本って,ノートPCにおける単体GPUの搭載率が極めて低いですよね。事実上,ゲームPC以外だと単体GPUは搭載されていないようなイメージもありますが。

Bennett氏:
 そのとおり,日本においては単体GPUの搭載率は5%くらいでして,世界で最も低いです。ゲーマー向けノートPC自体が日本ではマイノリティですから,そこを変えられるかどうかというのもカギだと思います。
 ただ,世界で見ると,コマーシャルのPCでも,グラフィックスやOpenCLといったものが重視されるようになってきているんですよ。Mac ProでFireProが採用されたのは,グラフィックスとコンピュートの両方で使えるからというのが理由の1つとしてあります。日本でも,普及の進んでいるノートPCの市場で,企業からAMDのGPUが選ばれるチャンスはあるのではないかと。

4Gamer:
 先ほどから何度か話に出てきているモバイル市場はどうでしょう。とくに日本ではARMベースのスマートフォンやタブレットの市場が伸びていて,そろそろ市場の飽和すら指摘されるほどですが,AMDは現状,この市場に向けたプロセッサを持っていません。この現状をどう認識していますか。

Bennett氏:
 まず言えるのは,x86のAPUはWindowsに向いているということです。タブレットは今のところAndroidが主流ですが,我々のAPUはどうしてもWindows向けになります。
 しかし,Windowsタブレットの市場は徐々に拡大しつつあります。Windowsタブレット用として,我々は「Temash」(※筆者注:タブレット端末および2-in-1向けAMD A-Series SoC)を出していますし,次世代の「Beema」や「Mullins」(※筆者注:いずれも開発コードネーム。Beemaは2-in-1向け,Mullinsは薄型タブレット端末向けのAPU SoC)では,電力効率や性能がさらに向上することになります。現時点では,ここでの市場シェアを大きくしていく計画です。

 もちろん,我々がモバイル向けにARMベースの製品を持っているなら,Androidへ行きたいとも思いますが……。

4Gamer:
 競合はチャレンジしていますよね。

Bennett氏:
 競合は2社とも挑戦していますが,どちらも難しいようですね。

AMDが2014 International CESで披露した,ゲーマー向けタブレットのコンセプトモデル(関連記事
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 AMDは何に強いのかというと,もちろんグラフィックスです。ですから,グラフィックス面でよりよい体験ができる領域に注力していきたいと考えています。
 たとえばWindowsタブレットといっても,色々なソリューションがあります。JAAT(※筆者注:Just Another Android-based Tabletの略。いわゆる“中華タブ”のこと)は中国に行けば何百とありますが,我々はAMDが強いグラフィックスを生かして,プレミアムタブレット,3Dゲームが動作するようなタブレットにフォーカスしています。

こちらはDockPort採用の超小型PC。やはり2014 International CESで披露されたものだ(関連記事
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4Gamer:
 タブレット端末もそうですが,2014 International CESでは,AMDから面白いPCがいくつか紹介されましたよね。「DockPort Extension」(以下,DockPort)を応用した小型デスクトップPCなどもありました。
 AMDはこれまでもコンセプトPCを作ってきましたが,なかなか最終製品としては登場していません。聞くとたいてい,「製品になるかどうかは,OEMが採用するかどうかだ」という答えが返ってきて,そしてこの答えが返ってきた場合はまず間違いなく製品にならない(笑)。今回はどうでしょう。

Bennett氏:
 これまでもコンセプトを出してきましたが,今後は「Discovery Program」(ディスカバリープログラム)を実施する方針に切り替えました。
 ディスカバリープログラムというのは,ただ単にコンセプトを示すのではなく,AMDが実際に作ったコンセプトをOEMやODM(※筆者注:Original Design Manufacturingの略。製造だけでなく,デザインも請け負うこと)のメーカーに持っていって,「AMDのGPUやAPUを使えばこういうことができます」と提案し,製品化に向けた話し合いをするというものだと考えてください。

4Gamer:
 自分達でハードウェアまで作るのではなく,PCなどのメーカーさんと,協調してハードウェア製品に落とし込む,ということですか。

Bennett氏:
 プロセッサメーカーがハードウェアを作るのはとても難しいんですよ。逆も然りで,ハードウェアメーカーがプロセッサを作るのは簡単ではありません。AMDは45年もプロセッサを作ってきましたので,CPUやGPUを作ることはできますが,競合(※筆者注:IntelやNVIDIA)と違い,ハードウェアを出す気はありません。
 これまでは,コンセプトを作ってニュースリリースを出しても,それまでで,OEMやODMとはあまり話をしてこなかったんですね。ディスカバリープログラムはそこが今までと違うところです。今後に期待していてください。

4Gamer:
 とくにDockPort接続の超小型PCは,4Gamer読者の注目も高かったんですよ。製品化が楽しみです。

Bennett氏:
 もちろん,コンセプトがそのまま製品になるかどうかは分かりませんが,個人的にもDockPortにはとても興味を持っています。DockPortがあれば,タブレットPCやノートPCでも,Eyefinityによるマルチディスプレイに対応できたりしますしね。
 昨年標準化を行って,OEMからも扱いやすくなっていますから,ぜひDockPortを使った製品を出してほしいと思っています。

4Gamer:
 今後,ということでは,単体グラフィックスカード市場シェアについても聞かせてください。というのも先日,ある発表会のなかで,競合がグラフィックスカードの市場シェアを8割持っていると明らかにしました。これはつまり,Radeon搭載カードのシェアが2割ということで,海外と比べても極端に低いと思うのですが,そんな現状の認識と,今後に向けた対策があればぜひ。

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Bennett氏:
 過去数年を振り返ると,ゲーム業界における投資額は競合のほうが大きかったと思います。しかし,昨年からAMDはゲーム業界における投資を増やしているので,これからシェアが上がるはずです。
 マーケットはすぐに反応しなかったり,日本市場に特化したタイトルが必要になってくるかもしれませんが,AMDのMantleなどを含めてゲーム分野で進んでいる方向は正しいと思っています。据え置き型ゲーム機の世界では,MantleやTressFX Hair,TrueAudioといった技術への最適化が始まりつつあるので,これが来年,再来年となれば,ますます増えてくることでしょう。そのときに,AMDのGPUを搭載したゲームPCで実行すれば,競合よりも高い性能を発揮できるようになるというのは容易に想像できます。それが,ゲーム市場におけるAMDの価値を高めるはずです。

 いまはピンとこないかもしれませんが,MantleとTressFX Hair,TrueAudioといった技術は,状況を大きく変えます
 たしかに現在,日本におけるAMD製GPUのシェアは低い。しかし,日本でPlayStation 4が受け入れられていくに連れて,日本のゲームデベロッパもAMDに最適化されたゲームを出すようになるでしょう。これは極めて大きなチャンスなのです。

4Gamer:
 ちなみにAPJメガリージョン全体だと,Radeonのシェアはどれくらいですか?

Bennett氏:
 日本より高いですね。先日の調査では36%でした。ハイエンドGPU市場においては40%以上のシェアを持っていますが,メインストリームはギャップがあって少し落ちてしまいました。
 今年は4割以上,さらに5割以上を目指しています。

4Gamer:
 そろそろ時間のようです。今日は長時間ありがとうございました。最後の質問ですが,いまプレイしているゲームはありますか。

Bennett氏:
 個人では「The Last of Us」ですね。子供達とゲームをするときにはWii Uで“スーパーマリオ”をやったりもしています。
 子供は3人いるのですが,一番上の息子とは「FIFA 14 ワールドクラスサッカー」と「NHL 14」をプレイしていますね。NHLは日本だとあまり人気がないと思いますが,カナダ人にとってアイスホッケーはとても重要なんですよ(笑)。



 率直に述べて,過去数年のAMDは,日本において本当に影が薄かった。しかし,インタビュー中にも語られているように,AMDではいま,いろいろなものが変わり,また変わろうとしている。KaveriやRadeonとその関連技術に対するポジティブな評価はもちろんのこと,PS4やXbox Oneに集まる注目が,AMDの存在感を高めているというのは,肌で感じている読者も少なくないのではなかろうか。

 日本をよく知り,日本AMDにも長く在籍したBennett氏が,このタイミングでAPJメガリージョンを率いることになった。しかも,氏は明確に「日本はフォーカスエリア」と述べているわけで,これはAMDファンならずとも期待してしまうところだ。
 氏の発言どおりにことが進めば,今後はAMD製プロセッサ搭載のシステムが市場で増えてくるはず。そしてそれはゲーマーにとっても大いに歓迎すべきことになるだろう。変わるAMDに注目していきたい。(インタビュー:佐々山薫郁,文&構成:米田 聡)

AMD日本語公式Webページ

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